映画撮影機材専門の展示会、CINE GEAR EXPOが、6月5日と6日の2日間、ロサンゼルスのハリウッドの中心地、メルローズ通り沿いにあるパラマウント・スタジオセット内で開催された。Fujifilmがメインスポンサーとなってはいるが、デジタルシネマ化が進む映画業界を象徴するように会場に溢れていたRED ONE カメラ。その周辺機材の充実ぶりなども含め、加速度的な本格的デジタルシネマ時代への突入を思わせる内容をレポートする。
すべては映画人のために…。
映画撮影機材の最新トレンドが一同に介するこの展示会には、毎年日本からも映画制作関係者、特に撮影現場関係者やクレーンなどの特機の関係者の来場も多く見かけるが、今年は新型インフルエンザの関係もあり、渡航制限されている企業も多かったようで、いつもよりは日本人は少ない印象だ。毎年メジャースタジオが場所を持ち回り制で提供して開催(昨年はユニバーサルスタジオ)しているCINE GEAR EXPOだが、昨年までは3日間の展示期間があったが、今年は2日間のみの開催で、しかも初日は夕方16時から21時まで、翌日は10時から夕方17時までという変則的な開催だった。初日夕方から夜にかけての開催というのは、照明機器などのデモンストレーションには有効で、趣向を凝らした展示になっていた。
これまでの開催と大きく変化した点として気になったのが、これまでパナビジョン社とともに最大のブースを構えていたARRI社が今回は未出展だったこと。欧州の企業が1日半の出展のために繰り出すのも大変だということもあるだろうが、主なユーザーが集まるハリウッドでのPRをしないというのも、ご時勢だろうか。また、その市場変化(インドうや東欧などの市場も広がっている)があるのかもしれない。地元であるパナビジョン社も不況の煽りからか出展規模を縮小するなど、少し寂しい限りだ。
逆に元気が良いのはやはりRED。RED Digital Cinema社自体は出展していないものの、その必要が全くないくらい会場中RED ONEカメラで溢れており、数十台はあったのではないだろうか?またキヤノンが5D markⅡに対する映画業界からのラブコールを受け止めるカタチで、今回は販売代理店ではなく企業本体が出展。会場でもREDの次に目立った存在となっており、新たなデジタルシネマ時代を大いに感じさせる会場風景だった。
トレンドの3Dシステムが活況
今回会場で目立ったのがRED ONEを2台組み合わせた3D撮影システム。すでにかなり使用されているようで、会場内でも数セットがそこかしこで見かけられた。アメリカでは3D映画上映がかなり普及している実態もあり、デジタルシネマの1つの柱として、すでに確立されつつあるようだ。その他、小型の民生用HDカメラやCCDヘッドカメラ2台を要した3Dカメラなどもあり、3D市場の需要を物語っていた。3Dの現場モニター環境も、パナソニックの17インチモニターを正面と上に張り合わせ、間に透過ミラーを施したものが一般化している。
3D立体映像も今回の展示の中心である。REDを2台組み合わせたこのセットは、会場中でも数セット見られ、話題を呼んでいた。解説者によれば、2台のREDのフォーカスをコントロールするフォローフォーカスを自在に操るのは結構難しく、3D撮影用のスペシャリストが必要なようだ。ハリウッドを本気にさせている5D mark Ⅱ
もう一つの注目は4月のNABでも話題となっていたキヤノンの35mmフルサイズCMOSセンサーで動画が撮れる一眼レフカメラ 5D markⅡだ。クレーンの先に5D markⅡが取り付けられていたり、SONY F35&F23と並んで同機が機材レンタルショップのバナーに掲示されているのは、1年前では全く考えられなかったこと。今回はさらに周辺機材系が充実してきており、ハリウッドが本気で5D mark Ⅱのポテンシャルを認めていることを証明していた。
5D markⅡは、35mmフルセンサーというボケ味の良さとその画質は他に代え難く、他メーカーの動画撮影可能な一眼レフカメラとは完全に一線を画している存在だ。ハリウッドではすでに、これで映画やテレビドラマを撮ろうという本気度が会場中で窺われたも今年の潮流を象徴している。redrockmaicro社のシネスタイルのセットを始め、セグウェイで移動しながらクレーンヘッドに装着された5DmarkⅡの撮影デモなど、期待値の高さを会場の至るところで感じた。
ハリウッドは何処へ向かうのか?
まさにREDを中核としたデジタルシネマ展示会の様相を見せた今回のCINE GEAR EXPOだが、こうした流れが推進されてくると、撮影現場の条件も色々と変わってくる。デジタルシネマカメラの感度の良さが、照明機材にも変化を起こし、少ない光量でも充分な効果を発揮出来る製品が出て来た。特機も大型のクレーンから、小型のジブまでRED対応製品が出て来ていたりRED専用のコネクターや水中ハウジングなども一気に充実している。また時代性の波に乗り、ソーラーチャージができるバッテリーシステムなどエコロジカルな製品も登場している。
デジタルシネマカメラの急速な普及は、確実にその周辺市場をも拡げつつあり、ハリウッドでも投資撤退や予算削減の余波を受けて、作品制作の効率化、省力化への糸口として、タイミング的にも良かったのかもしれない。フィルムカメラはもとより、フィルム関連の展示がほぼ皆無だった今回、様々な方面でデジタルワークフローの確立が急ピッチで進んでいることを目の当たりにした。
そのほか写真でレポートしていこう。
メジャースタジオ、パラマウントの中のオールド・ニューヨークセットで開催されたCINE GEAR EXPO 2009。やはりハリウッドのスタジオセットの現場感は独特の雰囲気がある。露天での展示会というのも、天候の安定しているカリフォルニアならではの演出だ。
会場中に溢れていたRED ONEカメラ。30台以上は目撃したであろうか?RED Digital Cinema社そのものの出展は無かったものの、すでにハリウッドでの驚異的な普及率を示している、これに対してフィルムカメラは数台しか目撃しなかったことは、改めてデジタルシネマカメラ時代の到来を象徴していた。
入り口付近に掲示されていた機材レンタルショップの広告バナー。SONY F35&F23、Phantom(ハイスピードカメラ)と並んで、キヤノン5D markⅡの写真と名前が並んでいる。一年前には考えられなかったことだ。
映画制作もエコロジー時代に突入?LibertyPak社のバッテリーのソーラーチャージシステム。LITTLE GENNYというペリカン社のケースに入った小型のAC電源に、太陽電池のシートを拡げて充電する。
カメラの高感度化が進む中で、照明用のLEDパネルも進化している。ROSCO社のLITE PADは、アクリル板状のLEDパネルだが、12v電源供給で軽い上に光量も6000kと高い。また厚さ8mmという薄さだが、非常に頑丈な作りで、上で人間が乗って飛び跳ねても大丈夫。
Camcaddieというミニカムコーダー用のハンドル。下部の三脚用のネジ穴にセットするだけなので、一眼レフカメラやデジカメにも装着できる。一見なんでもないような、ただのハンドルだが、ステディカム風に撮影するときなどは、これがあると無いとでは大違い。しかも$60以下と値段も手頃。