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CEDEC 2009はパシフィコ横浜 会議センターに会場を移した。

毎年9月に開催されているゲーム/エンターテインメントの技術カンファレンスイベントCEDEC(CESA DEvelopers Conference、主催=コンピュータエンターテインメント協会(CESA))が今年も9月1~3日の3日間、パシフィコ横浜会議センターで開催された。これまでの10年間は、東京大学(東京都文京区)、日本大学(東京都千代田区)、共立女子大学(東京都世田谷区)のキャンパスを借り、教室や講堂を利用してセッションが行われていたが、今年のCEDEC2009はパシフィコ横浜へと初めて公共施設へと会場を移し11回目の開催となった。キャンパス内に点在する校舎・教室を行き来することなく、1つの建物内で実施されることは、運営面だけでなく参加者にとっても会場移動のしやすいイベントとなった。

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セッションの合間は、会議センター3階ホールの展示ブースコーナーには参加者が溢れた。

会場が会議センター利用となったことで、セッション数は大幅に拡大し、3日間でプログラミング、ビジュアルアーツ、サウンド、ネットワーク、ゲームデザイン、プロデュース、モバイル、ビジネス&マネジメント、アカデミック、ラウンドテーブルなど15項目152セッション(2008年は106セッション)が行われた。セッション数の増加は、開発者向けカンファレンスイベントとして、プログラミングやプロデュースといった部分でのセッションが充実させたことが大きく寄与した。

参加者は、アシスタントディレクター、ディレクター、プロデューサークラスと思われるゲーム/CGプロダクション関係者が多く、昨年までのようにCG業界を志向する学生の姿が少なくなったことが印象的だった。これは、9月上旬の開催ということもあって夏休みの終わりか学期初めに当たってしまったことに加え、学校会場ではなく気軽に立ち寄れるものではなくなったことが大きい。昨年までは、会場提供の学校の学生であれば、無料でセッションの聴講ができる特典などもあり、CG業界を覗いてみたいという学生の受け皿にもなっていたが、今年は会議センター4階で併催されていた「『ゲームのお仕事』業界研究フェア」へと移行を図ったようだ。

セッションへの学生参加が減ったにもかかわらず、各会場は3日間とも参加者で溢れ、会場内で立ち見のケースや入場締め切りというセッションもあった。専門カンファレンス性を高めたことで、業界関係者の関心はより高まっていたと言えるのではないだろうか。

オートデスクが9月2日に終日セッションを実施

CEDECはゲーム/エンターテインメント関連カンファレンスイベントだが、毎年、米国のCGカンファレンス&展示会SIGGRAPH後1カ月ほどで開催されることもあって、出展技術や新製品が国内で見られるイベントとしても関心も高い。今年は、オートデスクが9月2日に311+312会議室を終日利用し、SIGGRAPHで発表となった各製品について、ゲーム制作関連に不可欠な機能を中心に紹介を行っていた。新製品は、9月中旬から10月にかけて出荷されていくが、国内でベータ版を使用した実際のデモが見られるのは初めての機会となった。

筆者が聴講した「Autodesk Softimage 2010 ゲーム開発における優位性」のセッションでは、Softimage 2010の新機能概要を紹介した。ノードベースでエフェクトやツールを作成できるICE(Interactive Creative Environment)機能のほか、新たに統合されたフェイシャルアニメーションツールFaceRobot機能をデモした。ICEは、共有・管理をしやすくするため、バージョン管理機能やコメント機能を搭載した。マルチスレッドにも完全対応することで、コア数に比例したパフォーマンスが得られるようになった。Softimage 2010の大きな機能向上は、FaceRobot機能だ。顔のモーションキャプチャデータに対し、筋肉構造を反映させたソルバを動かすことで表情を作成できるFaceRobotが搭載されたことで、これまで以上に表情豊かなCGキャラクターが作りやすい環境が整ったと言える。

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Softimage 2010ではICE機能がマルチスレッドに完全対応した

Softimage 2010にFaceRobot機能が組み込まれた。

オートデスクはCEDEC 2009でゲーム制作での機能を中心に紹介したが、映像制作面での機能に焦点を当てたイベントを9月30日に実施する予定だ。

SIGGRAPH 2009に出展された技術も解説

「インタラクション技術の最前線 ~タッチインタフェースとその先」としてセッション講演をしたのは独立行政法人 科学技術振興機構の福地健太郎氏。福地氏は、インタラクション部分の研究にこだわる理由として、今後のゲームには新たな体験が必要だと話した。新たな体験に必要な性能向上部分は、解像度や色数、ポリゴン表現、HDR(ハイダイナミックレンジ)画像などグラフィックス表現の向上に必要な技術に限界が見え始めていることから、人間の身体の動きを最大限取り込んでいく入力技術が不可欠だとした。そのうえで、入力技術として、生体センサを利用した感情計測や、AR(Augmented Reality=拡張現実)ブームで加速しそうなビジョン入力、マルチタッチ入力が可能になるとともに大型化・低価格化が進んだタッチインタフェースなどに注目していることを示した。

福地氏は、「Eye of Judgement」や「セカイカメラ」といった動画に組み合わせた拡張現実/複合現実ツールは、日常風景への重ね合わせたりCGキャラクターに頼っていることから現実感に欠けると話し、日常風景に付けるだけでなく現実感を与える工夫が必要だとまとめた。セッション中ではタッチインタフェース関連の研究事例をいくつか紹介したが、SIGGRAPH 2009のEmarging Technologyで発表した「Photoelastic Touch Transparent Rubbery Interface Using an LCD」についても、その原理を解説した。

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科学技術振興機構の福地健太郎氏はSIGGRAPH 2009のEmerging Technologyに出展したPhotoelastic Touchを紹介した。

Photoelastic Touchは、透明なラバーゲル状の物質を使用して顔の起伏を作成し、水平に配置した液晶パネルの顔の3Dモデルの上に配置する。これを液晶上に配置したビデオカメラで撮影している。ビデオカメラには円偏光ガラスが取り付けられており、通常は液晶の映像は見えないという。ラバーゲル上の物質に力が加わった部分で偏光と光弾性効果が生じることで液晶の映像が見えるようになり、押された力と方向が計測できる。これをリアルタイムに3Dモデルに反映させて表情の変化を生み出していた。

リンクスDWはデータ標準化ツールの利点を紹介

「ゲームムービー制作におけるアニメーションデータの管理と活用」として、アニメーション制作段階からデータを標準化する重要性を説いたのは、リンクス・デジワークス(以下リンクスDW)の痴山紘史氏だ。痴山氏は、過去のシリーズで作成した資産、モーションキャプチャデータ、ゲームモーション、手付けアニメーション、編集後アニメーションといったさまざまなアニメーションデータをシームレスに扱う必要が生じていると話し、リンクスDWでは制作タイトルごとに「データの標準化」に取り組んで来たとした。標準化のためには、すべてのデータを標準化したボーンとリグに変換し、階層や名前の違いもこの変換時に吸収できるようにする必要があったという。痴山氏は、この標準化をするための取り組みを紹介した。

標準化は、人間/2足歩行動物/4足歩行動物について標準ボーン構造と標準リグをもったテンプレートファイルを用意し、セットアップツールを使用して半自動的に行っている。セットアップツールに指示される内容を順番に行っていくことで、シーンのセットアップが可能になっている。こうしたセットアップツールを開発したのは、大量のモデルをミスなく、ズレなくモーションキャプチャデータに合わせる必要があったためで、軸の向きやスケールなども調整できるようにすることで、誰でも手軽にセットアップが可能になったという。

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リンクス・デジワークスでは、さまざまなアニメーションを共有化するためのボーン/リグ構造は、自社開発したツールで半自動生成している。こうしたツールと用意して、さまざまなプロジェクトで活用することは、ヒューマンエラーの削減にも寄与している。

痴山氏は、制作の全ての段階で全てのリグ機能が必要ではないとし、リンクスDWでは、全機能版、データ変換用、アニメーション作成/レイアウト用の3種類を同時に生成していると話した。制作のほとんどは、機能限定のものを使用しているようだ。このセットアップツールは、制作に必要な機能を検討しながら2年間をかけて開発してきたという。自動化により、大量の単純作業によるヒューマンエラーをなくすことができ、複数のプロジェクトで使い回すことができる。痴山氏は、この一手間を最初に行うことで、制作段階での大きな余裕を生み出すことができたとメリットを強調した。

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会場のパシフィコ横浜は、今年12月に開催されるSIGGRAPH ASIA 2009の会場でもある。都内からは近いとは言えない会場だが、東急東横線・みなとみらい線の みなとみらい駅からは歩いてすぐだし、JR線桜木町駅からも歩くことができる。都内から幕張メッセ会場に出かけることを考えても、アクセスは悪くないと言える。結果的に、今回CEDEC会場をパシフィコ横浜に移して開催したことは、会場の使い勝手面、セッションの充実度を含めて良い方向に働いたのではないだろうか。現場技術者向けはCEDEC、学生向けは業界研究セミナーと、内容を整理したことでより充実した内容にもなったと言えそうだ。

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