CEDECは昨年から、ゲームタイトルではなくゲーム制作に用いられた技術から開発者の功績を称えるCEDEC AWARDSを実施している。パシフィコ横浜・会議センターのメインホールで9月3日、プログラミング・開発環境、ビジュアルアーツ、ゲームデザイン、サウンド、ネットワークの5部門の受賞者を発表し、今年から新設した賞として8月20日に発表していた特別賞と著述賞も含めて表彰を行った。CEDEC AWARDSは、ゲーム業界における各分野のオーソリティで「CEDEC AWARDSノミネーション委員会」を組織し、委員の推挙に基づいてCEDECアドバイザリーボードで25件を選出。その中から、CEDEC受講申込者による投票とCEDECアドバイザリーボードの投票で最終受賞者を決定した。特別賞、著述賞については、CEDECアドバイザリーボードで討議し決定した。

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■プログラミング・開発環境部門■

プログラミング・開発環境部門は、リアルタイム変形コリジョンと優れた描画表現技術に対し、『ワンダと巨像』(ソニー・コンピュータエンタテインメント)プログラミングチームに贈られた。巨像によじ登り、必死でしがみつくというゲームメカニクスの核となったリアルタイム変形コリジョンの実現技術が新しいゲームデザインに結び付いたことに加え、前作「ICO」以上に空気感を感じさせる描画と、ファーの表現なども実現したことが評価された。

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「『ワンダと巨像』の変形コリジョンは大変で、ディレクター、ゲームデザイン、モーション、コリジョンデザインといった人たちに支えられてできたゲームです。遊ぶ時に、こういった部分もあるんだと見ていただければ、また違った楽しみ方もできるのではないかと思います。今日はありがとうございました」

■ビジュアルアーツ部門■

ビジュアルアーツ部門は、『大神』(カプコン)のアーティスト及びテクニカルアーティストに贈られ、独創的な「墨絵」表現のゲーム応用に対するものだった。発売から数年たっても色褪せた感じを受けない「墨絵」的表現を使用した独創的な映像表現であり、その独特のタッチをトゥーンシェーダーによらない独自の技法で実現し、ゲームにおけるビジュアルワークの存在感と可能性を再認識させたことが受賞につながった。

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「『大神』は2006年に発売させてもらいましたが、この独特な3Dグラフィックは皆様から高い評価をいただき、このように素晴らしい賞を受賞できたことをとても嬉しく思います。『大神』はこれからもいろいろな展開をしていきたいと考えております。変わらぬご声援をお願いいたします。本日はありがとうございました」

■ゲームデザイン部門■

ゲームデザイン部門は、友人同士の協力プレイを活かしたゲームデザインに対し、『モンスターハンターポータブル』(カプコン)の開発チームに贈られた。武器や装備の的確なパラメータバランス、操作の修練、協力プレイ時の声を掛け合っての戦略構築、他プレイヤーからのアドバイスなど、1カ所に集まった友人同士のコミュニケーションの楽しさという要素をゲームデザインとして総合的に高いレベルにまとめ上げたことを評価した。

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「『モンスターハンターポータブル』シリーズはこれまでに3つ出ています。シリーズを経るごとにボリュームが大きくなり調整も大変になってきていますが、チーム内では自分の担当する部分ではないところであっても協力しながら、より良くしていこうと開発を続けています。このような作業のなか、このような賞をいただけたことは、大阪に帰って皆で分かち合って喜びたいと思います」

■サウンド部門■

サウンド部門は、丁寧な作り込みで「音ゲー」を「リズムゲーム」という新たなステージに昇華させたことを評価し、『リズム天国ゴールド』(任天堂)の開発チームに贈られた。ポピュラー音楽のヒットメーカーの才をゲームデザインに活かし、サウンド表現とゲーム内ギミックの連携も絶妙で、「リズムに乗る」という本能的な気持ち良さとユーザー操作とが直結されるよう音色選びまでこだわっており、シンプルなアイディアと丁寧な作り込みで幅広い層で楽しめる音楽ゲームを実現していることが評価されている。

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「本日は、このような賞をいただき大変光栄に思います。共同開発していただいたつんく♂さん、TNXのスタッフの人たちにも、この場を借りてお礼申し上げます。『リズム天国ゴールド』のサウンドは、なるべくシンプルで覚えやすいBGMと、なるべくインパクトのある効果音を組み合わせて、独特の雰囲気を作り出そうと努力してきました。プレイヤーが頭で考えて手を動かすというよりも、独特なノリに飲み込まれて身体が勝手に動くような音作りに取り組んできました。これからもサウンドならではのアプローチで、遊ぶ人を笑顔にできるような音作りに取り組んでいきたいと思っています。ありがとうございました」

■ネットワーク部門■

ネットワーク部門は、ゲームではなく、ネットワーク上での新しい楽しみ方を実現した『ニコニコ動画』(ニワンゴ)の開発チームに贈られた。いわゆる「ゲームパッケージ」とは異なる作品の受賞には賛否がわかれるところだが、ネットワーク上でコンテンツを提供しあったり、それらとインタラクションを行う部分を広義のゲームと解釈。新しい楽しみ方の提供とバックエンド技術の積極公開など、業界に対する貢献を評価した。

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「そうそうたるゲームの開発者がおられるなか、『ニコニコ動画』がここにいていいのかとビビっています。この賞をいただけたことを、大変光栄に思います。『ニコニコ動画』には、オンラインゲームのミドルウェアを構築していた経験を持つ人が何人もいますので、オンラインゲームは常に意識して開発しています。本日の賞はチーム全員で、感謝をもって受け取りたいと思います。本当にありがとうございました」

■著述賞(新設)■

これらの部門賞とは別に、今年から著述賞も新設。日本のゲーム開発現場第一線で働く技術者が書いた草分け的な技術書であり800ページを越える書籍の『ゲームプログラマになる前に覚えておきたい技術』を執筆したセガの平山尚氏と、ゲーム産業だけでなく日本のソフトウェア産業全体に対し『プログラミング言語C』邦訳版ほか多数の執筆をしてきた石田晴久氏(故人)に、著述賞が授与された。

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「8年前にこの本があれば、私はこんなに苦労はしなかっただろうと思えるだけに、皆さん、もっと本を書いてください。本書は黒字になると思います。ここにおられる各社の社長の皆さん、管理者のみなさん、優秀な部下がおられましたら、ぜひ本を書かせてください。よろしくお願いします。ありがとうございました」

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「この度は、CEDEC著述賞を、夫・石田晴久に賜りましたことを、心よりお礼申し上げます。主人もとても喜んでいることと思います。『プログラミング言語C』をあらためて取り出して見てみました。技術書なので本文は分かりませんでしたが、前書きに次のように書いていました。『本書を出すに当たっての訳者の願いは、読者の方々の中からUNIX流のプログラミングの考え方を参考にして、優れたOSや新しいプログラミング言語と、その処理系、各種のソフトウェアを自ら設計し、制作する人がたくさん出て欲しいということである』。主人のこの願いは、きっとこの会場におられる多くの皆様によって叶えられていくことだろうと思っております」

松原副会長は、石田氏の功績に対し、「『プログラミング言語C』の原書は、1978年にAT&Tベル研究所のB.W.カーニハンさんとD.M.リッチーさんによって書かれたものです。石田先生は、1982年に翻訳して著しました。今年で28年目を迎え、第2版が1989年に出ましたけれども、未だプログラミング言語Cを学びたいという人に読まれ続けている本です。48万部を超え、技術書における大記録を更新し続けています。東京大学大型計算機センター長、サイバー大学IT総合学部長などを歴任され、UNIX、インターネットなど日本のコンピュータサイエンスを支えるあらゆる技術にかかわり、その普及に大きな功績を遺された。誠に残念なことに、今年の3月にお亡くなりになられました。去年この賞があればこの賞を贈ることができたと思うと、本当に残念でなりません。ご冥福をお祈りするとともにこの賞を贈ります」と賛辞と感謝を述べた。

■特別賞■

CEDEC AWARD発表授与式の最後に、特別賞がゲームデザイナー堀井雄二氏に授与された。コンソールゲーム黎明期から現在に至るまでゲーム開発に関わり、特に『ドラゴンクエスト』シリーズにおいてRPGのゲームデザインの基礎を確立した功績を讃えた。

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「『ドラゴンクエスト』を初めて作ったのが、今から23年前になります。当時、RPGはPCではありましたが、一般的にはあまりポピュラーな存在ではなく、この面白いゲームをどうやったら分かってもらえるだろうかと続けてきました。23年が過ぎ、今では当たり前のようにプレイしてもらえているんですよね。ユーザーも育って来たという気がします。『大学生でも漫画を読む』と言われた時代がありましたが、今では60歳でも漫画を読んでいる。これと同じように、RPGも子供の時に遊んで1回覚えてしまうと、ずっと楽しんでいけるのだと思います。RPGというジャンルは、今後も続いていくのだろうと思います。皆さんも頑張ってください。ありがとうございました」

松原健二副会長は、今年のCEDEC AWARDS発表授賞式の閉会にあたり、次のように総括した。

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「部門賞においては素晴らしい作品がノミネートされました。今年ノミネーション選考委員会で選ばれた作品は、どれをとっても、素晴らしいゲーム開発の技術が生かさされていたのではないかと思います。今年初めて設けた著述賞には、昨年に出版された本と1982年に出版された本を選びました。おそらくこの中には、『プログラミング言語C』が出版された後に生まれた人や、書籍を通じて石田先生を知ったという人も多いのではないかと思います。私は先生にたまたま数回お会いする機会を得て、さまざまなご指導をいただく幸せに巡り会いました。しかし、『プログラミング言語C』は、そういった機会がなくても石田先生の思いに直接触れることができ、素晴らしいものだと思います。特別賞は、20年以上RPGを制作し、日本の地にRPGというジャンルを根付かせ、日本のゲームの代表的なジャンルとして育てた功績は、私たちにとって誇りであり、今後新しいゲーム・新しいジャンルを志す人の礎になればCEDEC AWARDSとしても光栄だと思います」

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