9月3日より8日まで、中欧オーストリーの工業都市・リンツを会場に今年も「アルスエレクトロニカ・フェスティバル」(Ars Electronica 2009)が開催された。「アルスエレクトロニカ・フェスティバル」は、世界で最も長い伝統を誇る、グローバルな電子芸術祭で、1979年の初回から今年で30周年を迎えた。今回もまた、世界31ヶ国から800人以上のアーティストや科学者を集め、世界のメディアアートとインタラクティブ・ビジュアル研究者のミーティングハブとしても機能しているフェスティバルでもある。
また、日本でホットな議論の的となっている「国立メディア芸術センター」のお手本となる、「未来美術館」の「アルスエレクトロニカ・センター」を中心に構え、今回は今年1月の同センター拡張オープン初のフェスティバルとしての二度目のお披露目の場でもあった。ちなみにアルスエレクトロニカ・センター(外装と内部)。2009年1月に拡張オープンした「未来美術館」の目玉は、人間の拡張の可能性に迫る展示構成群、ロボットから人体のビジュアリゼーションまでひとりひとりが体験できる。夜になるとセンターの外装は七色に妖しく光る。
新しい表現方法を開拓したアーティストを称える「アルスエレクトロニカ賞」
電子芸術として、科学から音楽まで300以上のイベントが展開された「アルスエレクトロニカ」の中で、映像分野のハイライトは、これまた世界で最も長い伝統を誇る、電子芸術のグローバルコンテストである「Prix Ars Electornice」(アルスエレクトロニカ賞)。アルスエレクトロニカ賞は1987年に開設されたもので、現在、コンピュータアニメーション・フィルム・VFX部門、インタラクティブアート、ハイブリットアート(複合芸術)、デジタル音楽、デジタルコミュニティ、19歳以下フリースタイル表現(オーストリア人限定)の6部門が開かれている。
その中のコンピュータアニメーション・フィルム・VFX部門において、大賞である「ゴールデンニカ」を受賞したのは、Iriz Pääbo が、カナダ国立映画制作庁(NFB)として制作したコンピュータアニメーションの短編映画である「HA’Aki」である。
HA’Aki
「HA’Aki」はカナダにおいて熱狂的人気があり、作家である彼女もファンであるプロフェッショナルスポーツであるアイスホッケーへのオマージュを抽象的なコンピュータアニメーションとオリジナルのデジタル音楽のトラックで構成した作品。そのアイスホッケー愛が溢れる2D/3Dアニメーションの抒情的な美しさを持った表現が認められ、大賞が授与された。
コンピュータアニメーション・フィルム・VFX部門の次席である「ディスティンクション」が授与されたのは、フランスのプロダクションチームである Dark Prince による短編アニメーション「Skhizein」とGlenn Marshall による英国のコンピュータ生成映像「The Nest That Sailed The Sky」の2作品。
Skhizein
「Skhizein」は、彗星と衝突したことでリアルな世界と位置関係がずれてしまった男の悲哀の物語をショートアニメーションにした作品。3DCGと手描きの演出、それにフォトマッピングによる何となくのリアリティが加わった、新鮮でかわいらしい映像世界だ。
The Nest That Sailed The Sky
「The Nest That Sailed The Sky」は、コンピュータによるビジュアライゼーションを用いたメディアアートづくりに重きを置いたオープンソース言語「Processing」をベース作られた、数理生成による高精細映像を繊細なアニメーションに置き換えるソフトウエア。そこから生まれる繊細かつ拡がりのある独特の映像を前に、ミュージシャンのピーターガブリエルがオリジナルの楽曲を提供、ビデオクリップ化されている。
「The Nest That Sailed The Sky」をもとにしたビジュアライゼーションは、現在、iPhone用アプリとしても開発中。音楽やタッチとともに気軽にいじれる「美しさ」のアプリだ。
今回のコンピュータアニメーション・フィルム・VFX部門の審査について、審査員のJurgen Hagler は、「他のコンペと較べて、アルスエレクトロニカ賞にとってのコンピュータ映像の基準とは、コンピュータによるビジュアライゼーションによって新しい表現に挑み、それを作品として可能にした者に贈るということにある。その新しい表現に対する多様な価値を業界や世界に提供するのこと、このコンテストなのだ」と語る。
さらなるアルスエレクトロニカの情報は、公式サイトをチェックしてもらいたい。日本語の情報も充実し始めている。また、アルスエレクトロニカ賞は毎年、1月から3月中旬にかけて応募を受け付けている。