今年も2月23~25日に「Digital Signage Expo 2010」が米国ラスベガスで開催されたので出かけてきた。全体の印象としては、昨年に比較してみると出展規模や参加者数も着実に拡大増加していた。特に比較的大規模な出展が増加して、ベンチャー企業のような小さな出展はむしろ減少したように思えた。これは徐々に業界全体として成熟過程に入ったことを表しているようだ。一方、日本からの参加者は昨年の半分以下であったと思われる。
CELL高速画像処理やハーフHDサイズ表示の出展
それでは、会場内で目に付いたものを紹介しよう。まず最初に、新しい技術に関しての展示をいくつか紹介する。
ソニーが日本以外で展開しているシステム「ZIRIS」は、PS3に搭載されているCELLプロセッサーを搭載することで圧倒的な画像処理能力を持っている。専用のオーサリングツールを利用して、写真にあるようなディスプレイレイアウトであっても擬似的に1枚のディスプレイとみなしたり、個別の表示をさせたりといったことが自由自在に実現できる。こうした表示をさせるために仮に従来型のポスプロで作業行った場合には、想像できないくらいの時間と手間がかかるものだが、これをいとも簡単にこなしてしまうのがCELLのパワーである。
ディスプレイ関連ではBrookview Technologies社が「HoloPRO」という透明なパネルへのタッチパネル式の表示ソリューションを展示した。HoloPROは、透明フィルムを2枚のガラスの間に密封したディスプレイだ。一定方向からの入射光だけを偏光・出力して、他の角度からの入射光は透過してしまうので、プロジェクターの投影映像のみが表示される仕組みだ。Intelブース(写真右)で同社の製品を使用した展示が行われていた。向こう側が透けた状態で、あたかも空間に画像が浮かび上がるように操作できるのは近未来的だ。ディスプレイ上にあるタッチセンサーは静電容量検知式で、USB接続されている。
SunBriteTV社は、屋外設置するためのディスプレイや防水ケースなどを専門に扱う会社だ。こうした企業が存在しているところにも、米国のサイネージ市場の層の厚さを感じられる。
NECが、これまでにないサイズのディスプレイとして、1920×540ピクセルのLCDを参考出品した。かなり横長に見える印象だが、この解像度とサイズはフルHDサイズの高さを半分にしたもの。駅や商業施設のサイン用途として大きなニーズがあるかもしれない。
これからデジタルサイネージがHD化していく中で、ニーズが急速に広がりそうなものとして、HDMIの分配器がある。写真はmagenta社の32分配の例だが、こうした技術は発展途上であり、地味ながらも注目に値する。
簡易デジタルサイネージの取り組みも始まる
今年は、これまでのような巨大なデジタルサイネージシステムを利用することなく、比較的簡便なデジタルサイネージに対する取り組みについても、いくつか見ることができた。
Thinking Screen Media社のSignChannelは、ネットワーク対応のデジタルフォトフレーム用のコンテンツ配信サービスFrameChannelの姉妹サービスである。汎用的な無線LAN機能を内蔵したデジタルフォトフレーム(サイズは、上の写真のように最大で32インチくらいまである)に対して、月額20ドルのコストで、ニュースや天気のようなコンテンツと、業種別のテンプレートを利用することが可能。米国内でも飲食店などを中心に、デジタルフォトフレームの利用が加速してきているが、こうしたサービスがこの傾向に拍車をかけることになるだろう。
コンテンツ配信をしているScreenfeed社も、デジタルサイネージに最適化したコンテンツを配信している。コンテンツの購入は、内容をWebから確認した上で電話でオーダーする形を採る。価格設定は端末数ごととなる。日本からも利用可能だが、現状では英語のみ対応している。
ソーシャルメディアとの連動も始まる
今年は、SNS(ソーシャルネットワークサービス)やTwitterなどソーシャルメディアとの連動も考慮したデジタルサイネージの取り組みも始まっていた。
SMS(ショートメッセージサービス)やTwitterとの連動でお馴染みのLocamoda社が、今年は会場内のディスプレイで来場者の展示に関する感想や情報をデジタルサイネージで表示共有していた。PRONEWSでもInter BEE 2009会期中にTwitterを活用して会場の雰囲気をWeb上で伝えていたが、実際にこうした展示会場にいると一人ですべてを見るのは困難で、見落としも起こる。こうした時に、デジタルサイネージでブース情報を共有することは非常に有効で、この試みは日本でも今後に増加するだろう。
DIGITAL SIGNAGE EXPOに見られたデジタルサイネージ関連製品/サービスは、技術的なサプライズは特になく、日本との差違はほとんどなかった。米国デジタルサイネージ市場の特徴は、ハードやシステム、コンテンツといったレイヤーがクローズじていること。つまりウオールマートはウオールマート、マクドナルドはマクドナルドでしかなく、これらを相互に接続していこうという発想はほとんど見られないのだ。これに対して日本は、1つ1つのデジタルサイネージが小さいために、相互に接続したいという話になってくる。その延長線上で、システムの標準化やアドエクスチェンジと言った話も出てくるわけで、日米のデジタルサイネージは、活用/運用という点で似て非なるものであると言えるだろう。