ゲーム開発者のためのイベント CEDEC 2010を振り返る
日本最大のゲーム開発者向けカンファレンス CEDEC 2010 が横浜パシフィコにて 8月31日から 9月2日の 3日間開催されました。海外でゲーム開発者向けのカンファレンスというと、毎年米国サンフランシスコで GDC(Game Developer Conference)が有名です。CEDEC は GDC に負けず劣らず、ゲーム開発者にとって重要なイベントです。なにより日本で開催され、国内外の第一線で活躍する著名な開発者がノウハウを惜しみなく伝えてくれる場であり、ゲーム開発者同士の情報交換の場でもあります。数万円という参加費も、海外の同様のカンファレンスと比較すると破格の設定です。
キーノートスピーチはゲーム業界の人、コンテンツ業界の人、ゲーム業界外の人というテーマで、初日は CEDEC フェローの和田洋一氏が「CEDECとは?そのもたらす価値の追求」二日目は作家の瀬名秀明氏が「ゲームの知能と小説の感覚 ヒトの宇宙の究極(?)問題を考える」三日目は MITの石井裕教授が「重力に抗して:タンジブルビッド」をタイトルにキーノートスピーチを行ないました。
ゲームの知能と小説の感覚 ヒトの宇宙の究極(?)問題を考える:瀬名秀明氏
作家の瀬名秀明氏の小説は、パラサイトイブというゲームの原作として知られています。海外でもゲームを気に入った学生がコツコツと英訳したものが本となって出版されているそうです。瀬名氏は、ゲームの基本原理として考えることができ、小説の素材ともなったテーマをいくつか紹介されました。宇宙を統べる4つの力は「重力」「電磁気力」「強い力」「弱い力」であり、宇宙の基本法則こそが、ヒトの究極のゲームであると問いかけました。ふと世の中を見回してみると、「重力」で遊ぶゲームが多いことに気づきます。パチンコ、将棋崩し、だるま落とし、黒ヒゲ危機一髪、テトリス。(ここでヘンテコなテトリスとして “Not Tetris” を紹介されました)
20世紀初頭の重力への挑戦を紹介さらにチューリングテストにまつわる細かな逸話を紹介し、ロボットと人の境界は何か?と問いかけました。また自身が飛行機を操縦することから地上(二次元)と空中(三次元)を対比して見つめ直し、「人間の知能は二次元にへばりついているのかもしれない」と人の視点に関する問いかけがありました。最後には、現代人は眼球からゲームにダイブするものであり、視覚的ゲームが行き着く先はどこであろうか?「重力感」がしっかりデザインできているだろうか?という問いをゲーム開発者に問いかけた講演でした。
重力に抗して:タンジブルビッド:石井裕氏
石井氏は、最近オープンした MIT Media Lab の校舎を紹介するとともに、いろんなバックグランドをもった人がせめぎ合いながら議論して研究していることから始まり、自身の研究をインパクトのある漢字のプレゼンテーション資料とともに紹介していきました。
- テトリス = 中間管理職の悲哀
- ラプラス(フランスの数学者、天文学者)≠ ラブプラス
などとゲーム開発者向けのユーモアを交えながら始まった石井氏の講演は日本語の中に英単語が数多くちりばめられた、とても早口なものです。映画マイノリティーレポートの先進的なユーザインタフェースは、実は MITの卒業生が考えたものであり、実際に映画の世界を実現した技術を提供する会社 g-speak を作ってしまったほど。
また、自身の体験を「出る杭は打たれる」→「出過ぎた杭は誰も打てない」と読み替え、少しくらい突出するのではなく、圧倒的に突出して他を引き離してきた研究体験を表現していました。
最後に「100m」というキーワードを取り上げ、「100mトラックを人より早く走ることは、真の競争ではない。誰も分け入ったことの無い原野を一人切り開き、まだ生まれていない道を、一人全力疾走すること、それが競争だ。そこには観客も審判もストップウォッチも存在しない」とゲーム開発者に向けて、あらたな分野を切り開き進んで欲しいという想いを伝えていました。
CEDEC 会場に目を向ければ…
通常のセッションに合わせて CEDEC CHALLANGE と呼ばれる「挑戦」がいくつか企画されました。前回も紹介しましたが、DeNAのゲーム開発者らが挑戦した「三日でゲームを作ってみる」もその1つです。当日開発されたゲームは「プラットフォームウォーズ」という各ソーシャルゲームプラットフォームが社員を奪い合いながら売り上げを伸ばすというゲームでした。iモード等携帯電話で http://cedec.dena.jp/ へアクセスしてみてください。
他にも、「超速碁九路盤 AI 対決」囲碁プログラミングの対決が企画され多数の応募がありました。ちなみにトーナメントで勝ち抜いたプログラムは、最後にプロ棋士と対決してボロボロに負けていました。
ポスター展示も充実しており、通常の学会であればそれこそポスターが一枚はってあるだけの展示とは大きく違い、狭いながらもスペースを最大限に生かして機器展示しているポスター展示もありました。なかでも産業総合研究所、ヒューマンライフテクノロジー研究部門の展示である「立体視に触覚・手ごたえを与える非ベース型錯触力学インタフェースの可能性」の展示が特に人だかりの多かったポスター展示でした。これは、錯触力覚インタフェースと立体テレビを組み合わせ、立体的に映った映像の感触や、映像として映っているものの手応えを感じられる展示でした。
ゲームセンターでのゲーム機、家庭で楽しむ、コンシューマゲーム機、携帯して楽しむ携帯ゲーム機、パソコンで楽しむゲーム、その中にはブラウザゲームやソーシャルゲームも入ります。また、携帯電話やスマートフォンで楽しむゲーム。単にコンピュータゲームといっても、多岐に渡り、ゲーム開発者も様々な分野で活躍されています。2、3日目のキーノートから分かるように、ゲーム以外の様々なメディアやコンテンツ、学術的な研究とゲームが結びつき、様々な活用がなされています。CEDEC から見て取れるのは、今後、ゲーム開発で培った技術やノウハウが、映像業界や、CG研究などが広い分野でフィードバックされてくることが多くなってくるように感じられました。開発側の人間として今もっとも重要な展示会であることは言うまでもありません。