前回、Vol.1からしばらく時間が空いてしまった。しかしながら伝えるべき情報は多い。編集部に無理を承知で続編をお願いした。前回は、大手カメラ各社のブースを中心にお送りしたが、今回は、レンズメーカーや周辺機器ブース情報などを交えつつ、Photokina2010全体を振り返りつつ総括していきたい。

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会場中心にあった地球儀。一般から応募された多数の写真がちりばめられている

最近のPhotokinaは、大手卸売向けの商談イベントでだけでなく、一般人へのPRもその役割の一つになりつつある。例えば、鷹狩りを演出してその撮影を行ったり、プロの写真展だけでなく一般ユーザーからの写真展示などにも力を注いでいる。このあたりは、以前のPhotokinaを知る人々にとっては大きな驚きだろう。とはいえ、その他のイベントのように「一般ユーザーこそ歓迎!」というノリではなく「一般の人が来ても追い返さないよ、それにまあ一応何か用意しておくよ」という程度の歓迎ではあるのだが…。

交換レンズの高機能化を図る、TAMRON

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TAMRONブース。TAMRONでは、高機能型の交換レンズに力を入れていた

レンズメーカーの中でも目立っていたのがTAMRON。さいたま市の見沼代用水の流れる田園地域に本社を置く同社は、その評価は海外でも非常に高く、特に一眼レフ向けズームレンズにおいては、安価で性能が高いとして非常にファンの多いメーカーだ。交換レンズメーカーという立場上、どうしても安価なラインに力を入れざるを得ない立場の中デジタル化にもいち早く対応し、デジタル・フィルム兼用のDiシリーズ、そして今話題のAPS-Cサイズ向けデジタル専用レンズDi-IIシリーズを出してきた歴史がある。

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TAMRONレンズの歴史展示。ここでは、全てのレンズを真っ二つに切って、内部構造を見せていた

今回は、超音波モーターによる高速静音オートフォーカスであるUSD機能、そして、手ぶれ防止機能であるVD機能にターゲットを絞って展示をしており、大きな注目を集めていた。なかでも、70~300ミリ対応の望遠レンズ、SP 70-300mm F/4-5.6 Di VC USDは、その高性能と日本円の希望小売価格で6万円という安価さが合わさり、常に人が途切れない状況であった。また、VCを付けた大口径標準ズームレンズである SP AF 17-50mm F/2.8 XR DiII VC は、これ一本で大抵の撮影が可能な万能レンズながら大口径でF2.8とそこそこ明るく、スローシャッターにも耐えられる安価な高性能レンズとして注目されていた。

いずれも、元々のレンズ性能が極めて高いからこそ生きる機能であり、TAMRONの実力を発揮しているレンズであると言える。

DSLR動画やレンズ交換式ビデオカメラに対応した、ZEISS

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ZEISSのブースでは、巨大なレンズ状の物体が目を引いた

カール・ツァイツでおなじみのZEISSのブースでは、巨大なレンズ型の展示で、来場者の度肝を抜いていた。中でも注目は、DSLR動画対応。ZEISSでは、いち早く一眼レフカメラ向けシネレンズである Compact Prime CP.2 lenses on DSLR の製品2本を従来のCANON、Nikon向けだけでなくSONYのαマウントに対応させ、αシリーズの一眼レフだけでなく、NEXシリーズ、とりわけNEX-VG10への対応を大々的にアピールしていた。また、焦点距離35mmの大口径一眼レフレンズ Distagon T 1.4/35 も、その F1.4 という圧倒的性能で話題を集めていた。

巨大レンズの中は、ZEISSレンズの歴史の展示場になっていた

特にDSLR動画対応のシネレンズについては、過半数の展示機を動画対応させるなどして力を注いでおり未開拓のこの市場を一気にねらうZEISS社の野心が強く伺える展示であった。実際問題として、DSLR動画においてシネレンズでないために苦労をするシーンは非常に多く、我々制作者は通常レンズに無理矢理大口径アダプターやギアなどを付けて微調整を図っていたが、このZEISSのシネレンズが普及すれば、そうした苦労はなくなることだろう。レンズ価格も3700ユーロ(約43万円)からと、シネレンズとしては極めて安く、このレンズを運用するためのギアなどの周辺機器も同程度の比較的リーズナブルなラインが予想される。このレンズの日本市場投入が強く望まれるところだ。

大判フォトプリントで売り込む、EPSON

EPSONブースはプリンタ一色

一方、写真といえば必要なのが、そのプリント技術である。特に、デジタル化が進んだ昨今は、ラボによる印画紙転写よりも、高品位プリンターによるオンデマンドでの印刷出力が強く望まれており、EPSONでは、フォト画質のカラープリンタに特化した出展を行っていた。

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巨大な写真画質プリントアウトは、多くの使い道があるだろう

特にEPSONが力を注いでいたのが、超大判印刷だ。こうした超大判印刷を銀塩写真で実現するのは手間がかかり、まさにデジタル写真の利点とも言える部分になって居る。とくに、 EPSON 4900 Stylus Pro 17 inch を始めとするStylus Proシリーズの3機種は、A2板以上の大型紙に刷れる比較的安価な(日本円で約30万円から)プロ向きラインとして注目を集めていた。11色対応でPANTONEカラーの98%を押さえたその品質はまさに写真画質。

国策で力を入れるアジア諸外国ブース

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韓国は定番の政府系による小ブースまとめての展示を行っていた

国策でまとめてブースを出していた、韓国と中国が積極的だったことが印象的だ。まず韓国は、SAMSUNGのNX-100やその前機種のNX-10向けを意識した、雲台や周辺機材の展示を行うブースが多かった。

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中国系は、カメラ本体ではなく、三脚やスクリーン、ライトなどの周辺機器に集中していた

中国に至っては、会場の一角を数十のブースで埋め尽くす一大出展を行っており、そのいずれもが、比較的安価な携帯三脚やライト、レフ板や撮影用スクリーンなどの周辺機材の展示参加であった。カメラ本体やレンズは高い技術力だけでなく大規模な工場投資を必要として新規参入が難しいものの、雲台や三脚、スクリーンなどは工場投資も安価で済むために比較的新規参入がしやすく、特に、安価な労働者を背景に抱えて(韓国は北朝鮮労働者への当て込みもあり)大量生産に自信のある両国にとっては、草刈り場とでも言うべきジャンルなのだという。

いずれにしても、両国共に国策として中小零細企業がブースを出しているところが注目で、両国共に、いずれはこうした企業群の中から足腰の強いカメラ機材メーカーを育て上げたいという強い意志が伺える出展であった。

人気のカメラチェックブース

CHIP FOTO VIDEO Digital誌によるカメラチェックコーナーはいつも大人気であった

Photokinaでは、通路などへの一般人向き展示も華やかだ。ドイツの雑誌、CHIP FOTO VIDEO Digital誌の提供による、巨大チャートと、カメラチェックのコーナーが一般客に大変な人気であった。

現代の複雑化した光学機器であるカメラにおいては、こうした定期的なチェックと微調整が大変重要だ。定期的に撮影素子クリーニングに出すなどして居る者も多い。中でも最も簡単にチェックできるのがこうしたチャート撮影で、画像を拡大できるPCもそばに配置してこのブースだけでカメラの調整を完了させることが出来、大変な力の入れようであった。

壁面に貼ってあるものをA2版に小型化したカメラチェック用のポスターの無料配布も行われており、大いに賑わっていた。一般客に冷たいことで知られるPhotokinaがこうしたイベントに力を入れ始めたのも、デジカメの普及によって一気に一般層に高機能カメラが広まった結果と言えるのかも知れない。

Photokina2010全体から ~Canonと戦うメーカーはどこか?~

カメラファンの視点ではなく、敢えてデジタル映像的な立場から結論から言えば、Photokina2010におけるCanon以外の一眼レフ動画や大型センサービデオカメラは、どれも、やはりどこか腰が引けている印象だ。

大手各社でのAVCHD搭載仕様の急な広まり方は、その顕著なところと言えるだろう。AVCHDがその低いデータレート制限(24Mbit)とプログレッシブ撮影を苦手とするところから(24PはAVCHD規格にあるのだが30P設定が無く、どうしても30Pにしたければ、60i等で撮影して取り込み後にフィールドを合成し、さらに別フォーマットに再圧縮をして30P風にする必要がある。当然画質は劣化する)、プロ用ハイエンド放送には使えず、そのためにプロ用機材のシェアを食われる心配をする必要が無い。そのため敢えてAVCHDを使用しているものと思われる。事実、AVCHD以外の記録方法の可能性についてどこのブースで担当者に聞いても「上位機種のプロ用ビデオカメラとのバッティング」をちらつかせながら、もごもごと言葉を濁される結果となった。

こうした各社に対して、会期直前にCanonの出してきたEOS 60Dでは、アマチュア向け機種ながら従来のプロ向け機種と同じく、平均的な映像業務用上位機種より大きなAPS-Cサイズの一眼レフ記録センサーに、最大約44Mbpsという中品位のデータレート、様々なフィルタ機能に豪華なレンズラインナップまでもを遠慮無く使用しており、その差は未だ圧倒的だとしか言いようがない。

安価な一眼レフで業務用カメラに正面から戦いを挑むのは、業務用ローエンド機種であるXFシリーズ以外に業務用ビデオカメラのシェアを持たないCanonならではの戦略とも言えるが、このCanonのアドバンテージは現在のところ、どこまでも大きいものだ。

いずれにしても、スチルカメラ群のデジタル映像との融合は、まだまだ始まったばかりだ。会場のあちこちでマイク付きの一眼レフ利用者を見かけたが、それを実際に使っているのは著者を含め、ごく少人数に限られていた。そのため、動画撮影をしていると人だかりが出来てこちらが被写体になって一斉にシャッターを切られる有様であった。 しかし、そうした光景も会期が終わりになるにつれて減り、カメラでの動画撮影が受け入れられて行くのを感じた。2年後のPhotokinaまでには、また、大きな動きがあるのではないかと強く期待する。

WRITER PROFILE

手塚一佳

手塚一佳

デジタル映像集団アイラ・ラボラトリ代表取締役社長。CGや映像合成と、何故か鍛造刃物、釣具、漆工芸が専門。芸術博士課程。