普遍的な面白さをもつ『パックマン』
パックマンの生みの親、岩谷徹氏
開催25周年を迎えたGDC 2011では、特別企画として「Classic Game Postmortem」という、巨匠開発者達が往年の名作を振り返るセッションが会期中に開催された。Postmortem(ポストポーテム)とは、プロジェクトが終わったあとの事後検証という意味。講演には10セッションが設けられ、開催3日目には岩谷徹氏による『”How to Create a Good Game – from my experience of design Pac-Man(パックマンのデザインした経験による、いいゲームの作りかた)』の講義が行われた。『パックマン』は昨年30周年を迎え、2005年には”もっとも成功し たげーム機”としてギネスブックにも載るなど、国内外で高い人気を集めている名作。30年前に登場したパックマンだが、会場にいる人たちで知らない人はいないはずだ。岩谷氏は、ナムコにて『パックマン』を開発した一人者。現在、バンダイナムコゲームスのフェローであり、また東京工芸大学のゲーム学科の教授。これまでにも幾度かGDCで招かれた日本人常連講師のひとりだ。演台に立たれての講義に非常に慣れている様子、受講者たちをひきつける魅力的な話術をもたれている。
至れり尽せりゲームの『パックマン』
史上初公開となった貴重な手書きのデザイン案
最初に岩谷氏から出たものは、『パックマン』のゲームデザインのコンセプトだ。なぜパックマンが生まれたのか。それは、女性向けのゲームを開発しようということだった。30年前でゲームといえば、ゲームセンターで遊ぶのが主流だった。そこで女性もゲームセンターで遊べるアーケードゲームを登場させたかった、という。女性に受け入れてもらうために、女性の好きなことを考えた。そこで思いついたのが”食べる”という行為。そこで、”食べる”という動詞でゲームを考えたのだという。英語名は「Pac-Man」だが、「パクっと食べる」が本来の由来。「人の心にどうやって訴えかけるかが大事パッと見てゲームの目的がすぐにわかることが肝要」と語る。ゲームは「アイデアは勿論、そしてビジュアル、アルゴリズムが大事」とし、「一度ゲームオーバーになって再開するときは、難易度を下げる」、「クッキーを食べると、逃げる立場から追う立場に転化する。これがプレイヤーには気持ちいい」とプレイヤーへの配慮を語り、「やさしい設計を至るところに尽くしています。これを日本語で『いたれりつくせり』と言います、わかりますか?」と会場に問いかけた。
ファンファースト~ゲームは楽しさが1番
岩谷氏の指針でもある「ファンファースト」
岩田氏は、持参したバインダーから何やら紙をぱらぱらめくり、「これが『パックマン』の企画書の原本です」と手書きの企画書を披露した。実は世界初公開です、と告白してスライドに大きく写されたものには、「最初はないアイデアがどんどん追加されている。皆さんも付け加えたり、加えたりしていってください」と、発想を柔軟にすることが大切だと言及した。岩谷氏は、最近のゲームを「パッと見でゲームの内容がわからないことが多く、操作が複雑」と評価し、そしてお馴染みの持論「ファンファースト(ゲームは楽しさが1番)」であることを改めて訴えた。「『パックマン』はとてもシンプルなゲーム。シンプルなだけだと飽きてしまう。大事なのはプレイヤーの気持ちを考えること。 プレイヤーが嫌だと思うことを避けよう。勿論危険なことにも遭うが、ちゃんとクリアすると難易度が下がってとても気持ちよくプレイし続けられる。そういうゲームであることが、『パックマン』が30年間生きてきた理由です」と語った。
そして、「『パックマン』 のゲームデータは何バイトだと思いますか?」と会場に質問した。答えは24キロバイト。今の多くのゲームデータはほとんどがグラフィックス。ゲームのルールのデータサイズは少量で済むという。「そこが凄く大事です。『パックマン』に限らずいろいろなゲームの要素を分解して、なぜこの要素がフィーチャーされているのか、なぜこのレベルデザインなのかを研究することが大事です。ぜひそのようなゲーム開発を皆さんもしてください」と結んだ。さて、『パックマン』の今後は?岩谷氏は『歌うパックマン』を考えているという。
講演at a glance[Googleから学ぶスマートTVの在り方]
ソーシャル&オンラインゲームサミットでは、「Games in Smart TVs: Lessons Learned from the Development of Google TV(スマートTVにおけるゲーム:GoogleTVの開発から学ぶ」と題した米グーグルのAndres Ferrate氏、Ian Ni-Lewis氏による講演が初日(2月28日)に行われた。ソニーがGoogleと提携して米国で昨年発売開始した『Internet TV』を事例として、スマートTV自身の予測される拡張機能や、様々な展開が予測されるゲームの在り方などが語られた。
Forrester Research より。2014年には米国でのスマートTV数は4300万ユニットに増加するという
世界のインターネット普及の拡大、2008年の統計では米国内では99%というテレビ普及率に伴い、OTT(Over the Top)サービスを拡大する傾向をたどっている事実、IPとアプリケーションを実装したテレビ=スマートTVが確実に浸透していくだろうと、語られた。急速な普及が見込まれるスマートTVは、「ゲーム業界およびインターネット業界にとって次なるビジネスチャンスになる」として、開発されたゲーム事例も紹介された。ただスマートTVはゲーム機ほどの性能はない。
しかしクラウド化の遂行により、レンダリング性能については解決するだろうという見解もあった。また、ゲーム開発者へ興味ある話としては、ユーザーとテレビの距離。お茶の間だとある程度距離があることに気がついて欲しい。手元で遊ぶPCゲームやスマートフォンとは違い、アイコンの配置や文字のサイズなど配慮が必要になる。さらにInternet TV用のコントローラを参考に取り上げ、コントローラもゲーム専用のものを考える必要性がある、と課題を挙げた。
ニンテンドー3DSの開発過程
紺野秀樹氏による「Development Process of Nintendo 3DS(ニンテンドー3DSの開発過程)」
任天堂社長の岩田聡氏による基調講演に続いて同日、紺野秀樹氏による「Development Process of Nintendo 3DS(ニンテンドー3DSの開発過程)」が開催された。紺野氏は、宮本茂氏が率いる情報開発本部で、25年間にわたってゲームソフトの開発を行なってきた。
ハードウェアの開発段階。 Wiiを使った裸眼立体視のデモ機
今回の3DS開発にあたり3DSのソフトウェアだけでなくハードウェアまで統括することになり、その誕生秘話と開発チームワーク(ソフトウェアとハードウェア開発ワークフローの違いなど)が語られた。3DSは、市場初の裸眼立体視パネルを実装したゲーム機となるが、今回はその点はあえて話さず、通信機能やARの魅力に注がれた。
日本のセルアニメは世界一だ!
サイバーコネクトツーの代表 松山 洋氏(左)とリードアーティスト 竹下 勲氏(右)
3月3日には、サイバーコネクトツーの代表 松山 洋氏と同社のアーティスト 竹下 勲氏による「PS3&Xbox 360 NARUTO SHIPPUDEN: ULTIMATE NINJA STORM 2 Exploring the the ‘Other Side’ of Super Anime-like Visual Elements(「NARUTO-ナルト- 疾風伝 ナルティメットストーム2」で使われている”超アニメ表現”)」の講演が行われた。松山氏からは、前作の開発経験値から、どのように開発を効率化したかの説明が行われ、その中で主に注力した独自ツール開発について詳細が公開された。
開発したツールには、アーティスト側でキャラクターのすべての忍術を制作できる「スキルエディター」を始め、イベントシーンを作る「フローエディター」と、キャラクターの表情や顔の演技を作る「リグ+フェイシャル」がある。リアルではない誇張した表現を使うセルアニメ的な表現を追求するために、ボーンまで動かせるフレキシブルなツールを開発したという。
組織構成のスライド。開発チームの人数は常に一定だったわけではない
そして竹下氏からは、セルアニメの「神作画(Kami-Sakuga)」を目指して行われた手法の数々が説明された。ありえない残像をあえて入れるというセルアニメ的誇張表現「超アニメ的モーションブラー」、ダイナミックなシーンを生み出す背景エフェクトの作成手法や神作画パスアニメーション「Itano-Circus」、そしてキャラの顔の上に荒く描いた輪郭線などを重ねてキャラクターの爆発した感情を表現する「劇画タッチ」など。「Itano-Circus」はアニメーター 板野一郎氏が生んだ独特なアニメ表現手法で、例えば戦闘機から発射されたロケット弾とその煙を、カメラが追従して撮ったような映像シーンになる。
自分達の作品は「アニメを超えているとは思わない」と松山氏
最後は松山氏にもどり、「この講演で最も言いたかったこと」として、「Japanimation is the BEST in the world !!!(日本のセルアニメーションは世界一だ!)」と、スライド一杯に掲げた。日本セルアニメのクリエイター達を尊敬して止まない松山氏は、彼らと共に「世界で勝負できるコンテンツを出していきたい」と最後を括った。
ゲーム開発者達のレッドカーペット
開催2日目に行われる、Game Developers Choice Awards。ノミネート者と関係者は宴会席テーブルの周りに座り、受賞者が書かれたカードに自分の名前があることを祈る。11回目を迎えたGame Developers Choice Awardsはゲーム業界関係者の投票により、優れた作品を選出するというアワード。司会を務めるのは、「Brutal Legend」で知られるDouble Fine Productionsの最高経営責任者Tim Schafer氏だ。今年の10部門で、Game of the Yearを含む賞を総なめにしたのが、「Red Dead Redemption」(Rockstar San Diego)、またミリオンセラーとなった「Minecraft」(Mojang)も3部門で受賞した。また「アウトラン」「バーチャファイター」など、セガを代表するアーケードゲームのヒット作を多数制作した鈴木 裕氏には、パイオニア賞が贈られた。鈴木氏は、同日に「Yu Suzuki’s Gameworks: A Career Retrospective」という講義も行っている。
「Brutal Legend」で知られるDouble Fine Productions代表のTim Schafer氏
GDC Expo
GDC Expoは開催後半3日間、展示フロアで開催される。各社展示ブースのほか、ビジネス用途のセクションおよび雇用募集を目的としたブース出展(キャリア・パビリオン)が1フロアに寄せ集まる。展示ブースで今年めだったのが、クラウドおよびブラウザー系ゲームサービス関連の企業やソーシャルゲーム。またAR(Augmented Reality:拡張現実感)を使ってのゲームを披露しているブースも増えていた。
『NGP』
SCEブースでショーケース内展示となった次世代プレイステーション・ポータブル『NGP』
『Move』周辺機器
Moveの新しいシューティングアクセサリー
「Move.me」
PlayStation Moveの次なる展開としてSCEが発表した「Move.me」。PS3+PS Eye+PS Moveに、SDKをインストールしたPCで様々な新しい使い方ができる、というもの。SCEブースでは、2本のMoveコントローラーを使ってロボットを操作するデモが行われていた。
プレイステーション携帯「Xperia Play」
ソニー・エリクソンから発売予定のプレイステーション携帯「Xperia Play」が米国初公開。
「Tegra2」
Nvidiaブースの「Tegra2」モバイルスーパーチップコーナー。オリジナルのパッドだけはショーケースにて展示。
インテルミニPC
インテルブースにあった、参考出展のミニPC。キーがアプリケーションによってカスタマイズできる。
「Google TV」
初出展となったグーグルでは「Google TV」のデモが人気。
ARの参考デモ
3DVia社のARの参考デモ。シリアルの箱にゲームが映し出され、箱を動かして操作する。
「Granny 3D」
パワーアップしたアニメーションエンジンの「Granny 3D」(RADゲームツールズ)
VISION Black テクノロジー
AMD社のVISION Black テクノロジーの描画デモ。「MindWave」
ニューロスカイ社の脳波で遊ぶ、脳波センサー付きヘッドフォン「MindWave」。