何やら電波法に不穏な噂が…

あくまで噂というレベルなんだが、近く電波法に何らかの変更がされるという。事の発端は増加する携帯電話とテレビの地デジ化。無線で飛ばす電波はラジオや携帯電話からタクシー無線、アマチュア無線、トランシーバーやおもちゃのラジコンに至るまで様々な目的で使用されているのだが、それぞれの目的別に使える周波数帯域が法律によって定められているし、もちろん違反すれば罰せられる。そんな中、今回テレビがデジタル化される事によって今までアナログ放送が使っていた帯域がごっそり空いてしまう事になり、そこを何に割り当てようかと検討されているのだ。

一説によると増加する携帯電話にどこか割り当てる必要もあって、その帯域を使っていた機材を空いたアナログテレビの帯域に変更しようと考えられているようだ。当然今までのその機材は使えなくなってしまう事になる。その機材の中に我々が使っているワイヤレスマイク等(現在のところ免許が必要なA帯と呼ばれる770MHz~806MHzのみが変更の対象とされているようだ)も含まれているというのだから穏やかではない。しかもその変更に対応するにはソフトのアップデートとかのレベルではなく、モロに買い替えが必要で、今まで使っていた物はゴミになる。当然ゴミなんか買い取ってくれる所はないだろう。

「そんな横暴が許されるはずがない!」との声が聞こえて来そうだが、実は30年近く前にも一度あったのだ。当時私はギターリストをやっていて、ライブステージ等ではワイヤレスでギターの音を飛ばしていた。それは一つの流行で、アマチュアのミュージシャン達にも広がっていたように思う。それがある日突然、特に音質が向上する訳でもなく、法律が変わったから買い替えてくださいと、「そんなバカな!」と、改正後もしばらく使っていたのだが(時効ってあるのかな?)、なんとなく混信が増えてきたような気もしてきたり、改正前か後か忘れたが、コンサート会場に突然トラックの無線らしき音が響き渡ったりなんて事もあり、どこかのPA屋さんが捕まったらしいとかいう噂も流れ、泣く泣く買い替えたのを覚えている。混信するという事は、逆にこちらの音もどこかに流れ込む可能性もある訳で、思わぬ所から苦情が飛び込む可能性もあるという事だ。

重ねて言うが現時点ではあくまで噂ではある。総務省によれば現在改正の方向で技術的な検証も含めて検討中との事。詳しくはネット上でもいろんな意見が述べられているのでそれを元に判断してもらいたいが、本丸の総務省に電話で問い合わせるのも良いかと思う。まぁ、お役所なので言えない事は言ってはくれないが、思ってた以上に親切に的確に答えてくれた。また、総務省のホームページにもいくつかの資料が掲載されているので見てみてほしい。こんな事が起こらないに越した事はないが、いずれにしても少し意識はしておいた方がいいだろう。また、現在ワイヤレスシステムを所有しているなら、少しでも値段が付く内に売っておいて、買い替えを考えるタイミングなのかもしれない。

ワイヤレスシステムの目玉発見!

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Line 6社のXD-V30L(左)とXD-V70L(右)。両機種ともオープンプライス。市場参考価格はXD-V30Lが42,000円、XD-V70Lが58,000円

そんなこんなで手頃なワイヤレスシステムを物色してみた。とは言ってもこの分野にここの所目立った新しさはなく、実売で1セット(マイクと送信機と受信機のセット)4〜5万円といったところの価格帯で各メーカースタンダード品をラインアップしている。まぁこんな物かと思っていたら意外な所から意外な物が発売されていた。

Line 6のXD-Vシリーズだ。「意外」と言ったのは、このLine 6というメーカー、おそらく映像関係者にはほとんど聞き馴染みのないメーカーだろうと思ったからだ。しかし音楽関係、特にミュージシャンの間では非常に有名なメーカーで特にいろんなアンプやギター、ベースなどの音をシミュレートして一台で何台分ものサウンドを出してしまう回路には大変定評がある。そんな音響機器メーカーから同じような価格帯でなんとデジタル伝送のワイヤレスシステムが発売されている(ちなみに前述のスタンダード各機種はすべてアナログ)。しかも使っている周波数帯は2.4GHzという使用者免許の要らない所。早速デモ機をお借りしてチェックしてみる事にした。その内容を報告する前に、ワイヤレスシステムにおけるデジタルとアナログのメリットとデメリットを少しお話ししておこう。

デジタル伝送の一つのメリットとして、その電波の使い方がある。一つの音声を送るのに要する周波数の幅が非常に狭いのだ。故に限られた周波数の中に多くのチャンネルを混在させる事ができる。その上、アナログでは単純に音声信号だけを送っているのに対して、デジタルでは音声情報に加えて機種情報等も併せて送る事ができる。お陰で受信機側は正確に送られて来たチャンネルのみを受信する事が可能だ。これは多くのチャンネルを使わない現場であったとしても混信を避けるには非常に有効だ。

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もう一つは音の良さなんだが、この「良さ」に関してはあまり単純な話ではなく、人によって意見の分かれるところでもあるのではっきりさせておこう。マイクで拾ったアナログ音声をデジタル信号に変換(A/Dコンバート)してから送るので、受信機に入ってそこで逆にアナログ信号に変換(D/Aコンバート)するまでの間は音質の劣化はない。そういう意味ではアナログに比べて正確性は抜群だ。後はA/D、D/Aコンバーターの精度、クオリティ次第という事になる。デジタル音響機器の命はこの回路だと言っても過言ではない。また、アナログの音に慣れきっている人の耳には正確さ故に「固い音」だと感じる人もいる。

もう一つはノイズに対する差だ。特に無音部分の差は著しい。アナログでは無音時も電波を送り続け、空中のノイズの影響も受けるのに対して、デジタルの方は何も送らず文字通り無音となる。ただこの無音と小さな音との境目に不自然さを感じる事もあり、その辺りの処理のセンスが問われるところだ。次にデメリットを挙げるとまず音声の遅れというのがある。これは前述のA/D、D/A変換に要する時間でデジタル機器の宿命だと言える。ただこのタイムラグに関しては日進月歩の技術によってどんどん短くなっていて、特にLine 6というメーカーはこの分野では特別な信頼を得ているので期待が持てる。

後は電波の受信限界時の「粘り」がないという点だろう。電波が何かの障害によって微弱になった時、アナログではノイズが乗ったり音量が下がったりはするが、それでもなんとかギリギリまで受信しつづける。対してデジタルでは十分な電波が得られない時には即座にシャットアウトされてしまう。これはラジオ(アナログ)と携帯電話(デジタル)の音声切れの差をイメージして頂ければわかると思う。ラジオはザーザー言いながらもなんとか聞こえるのに対して、携帯電話ではブツブツ途切れて話の内容がまったく分からなくなる事がある。それゆえ、デジタルは電波状況の良い場所でないと使い物にならないという定説が広がってしまっている。

事実、ワイヤレスマイクシステムでデジタル伝送が導入された当初はこれがネックで信頼を失ったという事もあった。その後もデジタルワイヤレスは電波状況が安定しているホールやスタジオといった場所に於いて、強い電波を送る機器のみで採用されていたように思う。自ずと機器も高価になり、デジタル=高級というイメージも定着し、まさかスタンダードラインの機器にデジタルが導入されると思ってもいなかったのは僕だけではないだろう。

これを受けて早速実験したいと思うがそれはまた次回に…

WRITER PROFILE

ふるいちやすし

ふるいちやすし

映画作家(監督・脚本・撮影・音楽)。 日本映画監督教会国際委員。 一般社団法人フィルム・ジャパネスク主宰。 極小チームでの映画製作を提唱中。