VegasProを取り巻く現状とは?

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撮影に臨む筆者

日本の番組制作現場において「Vegas Pro」はマイナーです。ノンリニア編集を行うディレクターは皆さんご存知の通りMacの「Apple Final Cut Pro」が主流です。Windowsでは「Adobe Premiere Pro」「Avid Media Composer」「Grass Valley EDIUS」と続き、残念ながら「Vegas Pro」は未だその名前を知らない人が多いです。

では、本場アメリカならどうでしょう。アメリカでは「Vegas Pro」はメジャーソフトです。「Final Cut Pro」「Premiere Pro」とシェアを3分割しているのです。この結果は当然です。なぜならVegas Proはどの編集ソフトと比べても優位性が多く、使い方が簡単で多彩な編集アイテムが満載だからです。

坪井流VegasPro七つの特異点

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素材同士をクロスしただけで、自動的にクロスフェードのトランジッションが実現

実際、私個人の判断で「Vegas Pro」が優れているという事実に至ったのは、「Final Cut Pro」「Premiere Pro」などのソフトを使用した経験に基づきます。そこで分かった他とは違う大きな特徴は

  1. タイムラインにあらゆる形式の映像データをドラッグ&ドロップ可能、レンダリング無しでプレビューする事ができる。
  2. タイムライン上で素材同士をクロスしただけで、自動的にクロスフェードのトランジッションが実現。
  3. タイムライン上のカーソルを走らせながら、エフェクト、プレビュートラックのスイッチング等の設定・調整可能。
  4. タイムライン上のカーソルを常に始点戻すことができ、リピート再生を何回かする間にメモリーにデータを蓄積させ、リアルタイムプレビューを可能にする。
  5. タイムライン上に使用する素材をWindowsのフォルダで管理でき、ビンなどのソフト上の管理フォルダを必要としない。ドラッグ&ドロップでタイムラインに素材を使用する事が出来る
  6. エフェクト設定が他のソフトより豊富。
  7. タイムライン上のどの部分に触れても、カーソルが移動しピンポイントでイン点・アウト点が探しやすい。

Final Cut Pro等でもできるが、OSのフォルダで素材を管理するという概念はない。むしろVegas Proはこの方法を使わないと不便。

これらが大きな特徴です。

だからといって、Vegas Pro以外のソフトがこのシステムがなくてダメと言っているわけではなく、どのソフトも慣れてしまえば一緒です。ただ、私が編集においてVegas Proにこだわったのは”スピード感”です。普通、編集へのこだわりはその”映像のクオリティー”ですが、それはどの編集ソフトを使用しても完成した映像はほぼ一緒です。ただ、編集が完成させるに至る限られた時間の中で最良の編集結果を生み出すためには優れた操作性が必要であり、またその操作性が最良の編集結果への想像力を手助けしてくれるということがあるのです。Vegas Proを使っているうちにノンリニア編集が想像力を膨らますということを実感することができ、さらに”編集のスピード感”がその想像力を後押ししてくれることに気づいたのです。

編集のスピード感を求める4つのポイントとは?

“編集のスピード感”、それは効率性の追求でもあります。何百時間と編集を行っている中で、クリック数、キーボードを押す数まで計算したことはないのですが、「クリックがめんどくせー」という衝動に駆られることがあります。長時間編集における苦痛の一つです。それを避けるためにディレクターは効率的な編集方法を追い求め、結果、ノウハウとしての最速編集テクニックが身についていくものです。個人差はありますがVegas Proは最速の効率性があると信じることができるソフトだと思います。

ここで私が求める効率性についてお話しましょう。Vegas Proを使う上で私が身につけたノウハウです。編集においてこだわりたい要素を上げてみます。それは「スペック」「レイアウト」「管理」「操作性」の4つです。これらは全て編集の効率性に結びついています。

「スペック」とはPCのスペックのことです。ノンリニア編集の効率性にもっとも関係します。特にプレビューにおいてPCのCPUの性能、メモリーの容量、ストレージの管理システムと転送速度が大きなウエイトを占めます。特にレンダリングを多用することなくプレビューできるVegas ProにとってPCのロースペックは致命的です。ですので私の場合、PCはコストも考慮してPCは自作しています。最低でもCPUはインテルのCore i7以上。Core i7は350MHz以上にクロックアップ設定すればスピード感をより体感できます。そしてメモリー。メモリーは信頼性の高いメーカーの製品を積めるだけ積みます。

最近、Windowsの64bitのOS環境が整ってきたのでVegas Proは絶対64bit版がお勧めです。10GB以上のメモリーを積んでおけば安心です。そしてハードディスクはRAID0(ストライピング)を組みます。これで十分HD編集が可能です。重たいHDの非圧縮映像は、このRAID0を組んだハードディスク数が多ければ多いほどリアルタイムで再生できる可能性が増えます。

最後にグラフィックボード。Vegas Proでブルーレイ納品が今後多くなることを想定し、HDCP(High-bandwidth Digital Content Protection)対応のグラフィックボードをセッティングします。グラフィックボードを用意していないとブルーレイがPC上で見ることができない場合があります。以上の環境で、Windowsでのノンリニア編集のベースができあがると考えてください。コスト的にも自作PCができれば上記のスペックマシンを組んでも総額15万円でおつりがきます。

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続いて「レイアウト」です。これも”スピード感”を重要とするための必須ノウハウです。私の場合、写真の様なレイアウトで編集しています。モニターは1920×1080ピクセルものをデュアルで使用。編集のスピードはモニターのサイズに比例するのでピクセル数が多ければ多いほど効率は増します。またWindowsのレイアウトも変更は必須です。標準だとタスクバーはモニターの下に配置されますがそれを左端に移動しておくことで1080ピクセルしかない縦の表示範囲をすべて使えます。

なお使用するフォルダをタスクバーにマルチに配置しておくとワンクリックでフォルダを開くことができます。これは非常に便利なのでノンリニア編集をやらなくてもマルチタスクは左端配置がお勧めです。そして肝心の画面レイアウトですが、Vegas Proはタイムライン、プレビューウインドウ、エフェクト等の選択ウインドウはそれぞれ分離独立し、モニター内に自由に配置できます。私の場合は右モニターをすべてタイムライン専用に使い、タイムライン上の操作を優先して編集スピードを高めます。プレビューウインドウは左モニターの右端に配置します。この配置は私の座り位置の正面になります。

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その他のセッティングウインドウはプレビューウインドウの下に置き選択性を優先します。そうすると左モニターの左端に空きのスペースができるのでここに素材やテロップ等を管理したフォルダや台本やテロップ制作用のソフトをあらかじめ配置しておきます。このスペースの表示は左端タスクバー上のタスクとして管理し、ワンクリックで表示できるようしておきます。

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続いて「管理」です。これは編集に使う素材の管理のことです。Vegas Proはプロジェクト内でも素材の管理ができますが、あくまでもそれは素材を管理しているWindowsフォルダをリンクしているに過ぎないエクスプローラーであるので、タイムラインにフォルダから素材を直接ドラッグ&ドロップできるVegas Proであれば、自分が分かりやすい方法でフォルダを管理し、写真のようなタスクでフォルダを呼び出せば効率アップにつながるというわけです。

最後に「操作性」ですが、これは先に述べたように1~7の操作性の特徴です。ソフトへの向き不向きで個人差があるのであくまでもソフトへの慣れの話として捉えてください。

以上、私が「Vegas Pro」を使う基本的な理由…。Vegas Proの操作性やスピード感が編集の想像力を支援してきてくれたという事実。こういった感覚を芽生させてくれる「Vegas Pro」に対して、マイナーでも使い続けてきた価値があったと私は信じています。次回、Vegas Proを駆使するディレクターとして、映像のプロとして、現在進行形で生計を立てている私の実践的なノウハウについてお話したいと思います。

WRITER PROFILE

坪井昭久

坪井昭久

映像ディレクター。代表作はDNP(大日本印刷)コンセプト映像、よしもとディレクターズ100など。3D映像のノンリニア編集講師などを勤める。