TV制作現場で使われるVegasPro

前回に引き続き、「Vegas Pro」で行える具体的なテクニックを。今回は私が実際に現在も制作しているBS放送番組について、より実践的な番組作品の納品についてご紹介します。

担当している番組は、BS11で毎週土曜日 AM9:30~放送される30分番組「建築家のアスリートたち」です。この番組の放送開始は2010年の3月。もうじき丸2年目を迎えようとしています。内容はタイトル通り、建築家にフィーチャーした建築情報番組で、日本をはじめ世界各国の著名な建築家に彼らが持つ建築論についてインタビューしたり、国内でブームになりつつあるデザイナーズ住宅の設計コンセプトについてお話をお聞きしています。もちろんこの作品はハイビジョン撮影で行い、HDCAMテープで局へ納品しています。制作費は、かなりの低予算。何かと工夫してクオリティーをあげるべく努力しています。総制作は私が受け、撮影から編集・MAと全てをこなしています。言ってみればほぼ個人で番組を作っていることになります。制作が追いつかない場合は、チームを組んで制作に臨みます。

番組を編集するVegasProでの制作画面

さて、気になるこの制作方法ですが、HDCAM納品が必須なので、撮影機材から仕上げのプロセスを検討し、私のメインソフトであるVegas Proを最大限活かせる様にしました。撮影カメラは、予算規模も加味して、SONY XDCAM EXカムコーダー PMW-EX1/EX3を採用。XDCAM EXの映像ファイル(MPEG-2 Long GOP圧縮方式)を主体にHD作品を完成させる方法で始めました。現在ではEXで作品を作る番組はかなり多いと思います。やり方しだいではEXも軽くて便利なコーデックだと思います。

結果的に私の番組では作品規模を考慮してこのEXにして正解だったと思っています。なんといってもVegas Pro上ではSD時代のDVに近い軽さでタイムライン上で自由に動き、プレビューもレンダリングを必要としません。毎隔週に迫りくる納品締め切りへの対応リスクをを考えても正解だったと思います。

XDCAMで撮影するアドバンテージ

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撮影した素材をXDCAMのカメラから素材を取り込みます。実はこの段階からVegas Proの利点があるです。まずカメラをUSBでパソコンに繋ぎます。Vegas ProはSONY製品だけあってここから便利さを感じるのですが、素材取り込みはMacの場合と違ってSony XDCAM Transfer ソフトウェアや XDCAM EX プラグインを必要としません。SxSのカードからドラッグ&ドロップした映像データをそのままタイムラインに乗せることも可能ですが、EXの場合1RECごとに撮影素材がフォルダ分けされ、その中で管理されてしまうので1ファイルごといちいちフォルダを開けなければならず、このやり方は不便です。

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撮った素材を一気にタイムラインに載せたい場合は、Vegas Proに標準で装備されているデバイスエクスプローラーを使用します。「Vegas Pro」上でデバイスであるカメラが認識され、その中にとり貯めてある素材が全て認識され、取り込みたい素材を選択し取り込むことができます。この方法で全素材が一つのフォルダで管理され、素材選択も容易になります。取り込み時間はUSBコードからの取り込みなのでSxSカード16GBで約1時間分の素材となり、パソコンのスペックによりますが10分程度で済みます。取り込んだ素材は番組撮影素材フォルダの中で管理し、さらに最低でも2つ以上のハードディスクでバックアップをとります。

なお、編集に関して素材を管理するハードディスクはシングルよりRAIDのストライピングを組んだディスクに入れたほうがプレビューがスムーズになります。RAIDを組んだハードディスクが多ければ多いほどスピードが増します。AVI非圧縮素材もリアルタイムにプレビューできます。多少リスクが伴いますが、バックアップを怠らなければ是非お勧めです。みなさん試してみてください。

編集作業は、効率よくもちろんVegas Pro

編集に関して、大量の映像素材を30分番組へと編集し、CGを加え、テロップをのせ、完パケの映像を書き出し、テープへデジタルカットします。どの編集ソフトにおいても手順はほぼ一緒だとおもいます。この過程で様々なノウハウは皆さんお持ちだと思いますが、ここでは、番組の基本であるテロップについて触れておきます。ほとんどのソフトでも言えることですが、テロップ作成においてソフト付属のテロッパーのクオリティーが低すぎるのです。Vegas Proも残念ながらクオリティーはあまり高くありません。それでもまだ良い方です。

本当はシームレスに作業を行いたいのですが、効率を上げるために、テロップの部分は編集ソフト付属のものではなく、フォトショップやファイヤーワークスなど別ソフトを使います。他の編集ソフトを使っていてもそうすると思います。これらがテロップ制作の基本ソフトになります。Vegas Proも、もちろんそれらと連動しています。PSD、PNGなどほとんどの画像ファイルをネイティブに載せることができます。もちろんTIFFのアルファ付もちゃんと抜くことができます。ただ、タイムライン上から載せたファイルをタイムライン上で選択し、そこからテロップ制作に使っているソフトを開くことができる機能をぜひ付け加えてもらいたいです。

VegasProのクセ=個性を知る

また、Vegas Proを多くの方に使っていただきたいためには、あらかじめ、ある程度ソフトの癖みないなものを知っておいたほうが今後のトラブルを避ける方法になると思います。

これは、ソフトウェアの特性、つまり個性ともいえるクセです。私がVegas Proを使いこなし、見つけたクセなので参考にしてください。といっても、ちょっとネガティブな情報ですが…。まずひとつめは、EXコーデックの映像データを何回も続けて繰り返すと書き出したデータにノイズが載る場合があります。たとえば番組内で毎回繰り返し使うCMなど、一度30秒の完パケとして書き出してあり、タイムラインに乗せて毎回流用します。この際、既に一度書き出したものがCM部分だけもうXDCAM EXで2回目のレンダリングを行う事になります。全てのレンダリングがそうなるわけでなありませんが、バグが出ます。 データによってそれが起こってしまうものは、何回レンダリングをしても解消されません。

対処方法としては、2回目以降のレンダリングを避けるために、CM素材をAVIの非圧縮にしておくか、Sony MXFのファイルでレンダリングし、最後の一本化にでXDCAM EXのレンダリングを複数回にしない方法をとると安全です。

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そして2つ目、Final Cut Pro(以下FCP)を介してテープへデジタルカットする場合、AVIやQTの非圧縮ファイルから変更してください。というのは、やっぱり非圧縮ですからデータが重くなります。30分で約300GBになってしまうと、なかなかそれはそれで時間がかかります。もっと軽いHDデータをVegas ProからFCPへ持ち込めないのかと色々調べた結果、Sony MXFで書き出したファイルならFCPで認識し、あまり時間がかからずFCPのタイムラインに載せることができます。

それは大変うれしかった事実でしたが、実は落とし穴があり、Sony MXFからFCPに載せProRes422に書き換えた時に、見た目では全く分かりませんが、白と黒の波形が基準値をオーバーするエラーが。これには自分も気づかず、一度局納したテープがつき返された時にその事実が発覚し、大変な思いをしたことがあります。Vegas Proからテープへデジタルカットする環境が整わない限り、FCPを介さないとこのプロセスはできないことなので参考にしてください。

※この情報はVegas Pro10までの情報です。まだVegas Pro11では解消しているかもしれません。

MAについて私の場合はVegas Pro上で音楽編集を自分でやってしまい、そのデータを書き出してMAルームにもって行きます。音は、Vegas Pro内で完結する事を触れておきましょう。

以上、Vegas Proから局へのテープ納品はなかなか面倒くさいものがありますが、編集の利便性を考えると、断然Vegas Proで編集作業を行う事に代わりはありませんし、今後も続けていくと思います。さて、次回は最終回。11月にリリースされたばかりの「Vegas Pro11」について徹底分析してみようと思います。

WRITER PROFILE

坪井昭久

坪井昭久

映像ディレクター。代表作はDNP(大日本印刷)コンセプト映像、よしもとディレクターズ100など。3D映像のノンリニア編集講師などを勤める。