2012年。皆様、あけましておめでとうございます!raitankです。ただひたすら頬の筋肉がだらしなくゆるむばかり。だって皆さん、今ボクの手の中には、あのEOS C300があるんですよ!(笑)
EOS C300と年越しする
ほどよいサイズと重さ。何年も使いこんだ5D MarkIIから持ち替えても、大して違和感はありま…いやぁ、これはウソですね。なんとも形容の難しい独自のカタチをしたC300は、いきなり裸で手渡されたら、一瞬どこを支えて持てば良いのか、まごつきます。
たいていの工業製品には、ひと目見ただけで機能を想起させる形状といったものがありますが、ハンドルやレンズを未装着のEOS C300を観察しても、これが『映像を撮る道具である』ということがわかるヒントはどこにも見当たりません(笑)。…ただ正直なところ、それは5D MarkIIでも同じなんですよね。旧来通りのスチルカメラのカタチをまとったEOSで動画を撮ることの不条理、滑稽さは、なにも”アンチ一眼ムービー派”の声を待つまでもなく、シンパのユーザー自らが一番よく知っているのですから。
そこへ、このなんとも不思議な… 一眼レフではなく、かといってビデオカメラでもなく、更にはREDが提唱し、のちにSONYがFS100で継承した”ブリック・モジュラー・スタイル”ともまた違う、全く新しいカタチをぶつけてきたCanonのデザイナー様に、まずは敬意を表したいと思います。
というわけで、目で愛でて、それから撫でて…と文字どおり”カタチから入った”後は、さっそくC300の基本的な性能の把握から入っていくことにしましょう。
改めて、C300とは?
11月3日の発表以来、ボクが見聞きした様々な情報から得ているEOS C300というカメラの概要は、”2010年6月に登場した4:2:2ファイルベース業務用機XF300(XF305)に、新開発スーパー35mmサイズのCMOS 4Kラージセンサーを搭載し、PLマウント、EFマウントのレンズを使えるようにした上でCinema EOSの冠を付加したプロ用ビデオカメラ”といった感じでしょうか。
海の向こうの業界誌「Film and Digital Times」誌上で公開されたC300の開発責任者、真栄田雅也氏のインタビューによれば、C300はそれまで社内の別々の部隊によって個別に開発が進められてきた業務用ビデオカメラと一眼レフカメラのチームが初めて一緒になって開発された機種だそうです。
▶ Jon Fauer’s Film and Digital Times Issue 45 : Canon’s Managing Director Masaya Maeda
…とはいえ、こうして完成したC300を前にすると、一眼レフカメラであるEOSの痕跡はどこにも見当たりません。強いて挙げれば、本体側面に取り付けることができるハンドグリップはとてもEOS的…というか、一眼レフカメラっぽいカタチをしています。
でも、ざっと見たところ、筐体にも、あるいはメニュー項目にも、他にEOSらしさを感じる部分はほとんどありません。たとえば「感度」は一眼レフのような「ISO表示」とビデオカメラのような「ゲイン表示」を切り替えて使うことができますが、EOS動画のユーザーとしては、そんな表層のインターフェイスではなく画調のカーブを自作できる「ピクチャースタイル」機能こそ、ぜひ移植しておいて欲しかったのですが…。
反対側から見ると、ビデオカメラであるXF300に備わっている機能は、「NDフィルター」から「ゼブラ」、あるいは視認性の高い「ウェーブフォーム・モニター」まで、一通りすべて揃っていることがわかります。
つまりC300は、Cinema「EOS」という冠を戴いてはいるものの、その素性はれっきとした「ビデオカメラ」であり、一眼ムービーの進化形では全くないばかりか、そもそもそれを代替するモノとしては設計されていないことが強く感じられるのでした。
そして、この部分の受け止め方は、個々のユーザーの立ち位置によってハッキリと二分されるのだと思います。ボクのような一眼ムービー派の側からのアプローチでは、極端なはなし「あ!これはボクの道具ではない…」ということにもなるでしょうし、逆に昨今の一眼ムービーの台頭を大いなる違和感と共に眺めていた多くの方々にとっては「こういうモデルをこそ待っていた!」と喝采を持って受け入れられるに違いありません。
「C300は一眼ムービーの親玉ではなく、ラージセンサーを搭載したビデオカメラなのだ」という所見は、外から見た時の印象だけではなく、出てくる絵にも大いに関係しています。
C300の絵は、EOS動画では頭痛の種だったモアレやエイリアシングとは無縁。ローリングシャッターもよく抑えこまれていて、それはそれは立派なものです。でも、同時に、たとえ Canon LOGモードで撮影していても、ちょっと油断するとハイ側が簡単に飛んでしまうところなど、少々”ビデオ臭い”と感じる部分があるのも事実。Canon LOGが通常の”LOG”カーブほど寝ていないからとはいえ、ボクなどは、やはりフィルム・カメラを置き換えるものというには、少しキビシイ気がしてしまいました。ただそれも、上述の通り『ちゃんと”ビデオらしい”絵が記録できるラージセンサー機』を心待ちしていたプロの皆さんにとっては、待望のカメラ!ということになるのでしょう。
C300の絵を見て、”フィルムっぽさが足りない”と感じるか?はたまた”ビデオらしい絵で素晴らしい!”と感じるか?が、このカメラを評価する際の分岐点になるのでは?と思いました。
…ちなみに、C300には「EOS Std.」というカスタム・ピクチャー(ピクチャースタイルに非ず)が用意されています。これは名称からしてEOSの「スタンダード」ピクチャースタイルを模したカーブかと思われますが、EOSムービーのユーザーが動画撮影時に使う基本のピクチャースタイルは「ニュートラル」と昔から相場が決まっています。なぜことさらに誰も使わない「スタンダード」をプリセットにしたのか?理解に苦しみます。
C300のラチチュードを測る
…と、ボクが散文調の印象を書き連ねるのはこれくらいにして(笑)、今回はせっかくなので、日頃懇意にして頂いているプロカメラマン(撮影部)の金居明弘氏、映像作家の岩永 洋氏のお二人をお招きして、より実務的なテストをお願いしてみました。
金居さんのケージリグに収まった C300
金居さんは特に「最大12絞り分」と謳われているC300のラチチュードに興味津々。逆光の中に座ってもらったモデルさんをCanon-LOGで撮影するというキビシイ条件の下、測定したデータを元にC300の特性曲線を描き、また実際に12ストップをフルに使った撮影をテストしていただきました。
今回、このEOS C300と共に登場した「Canon-LOG」データは、すでにWeb上で各国のテスター諸氏が指摘している通り、一見したところ「コレって本当にLOGなんですか?」と問いたくなるような、メリハリがあります(金居さんご提供のグラフに比較のために示されているTechnicolor CineStyleのカーブと比べると、Canon LOGがどれくらい”締まっているか”おわかり頂けると思います)。
LOGデータといえばポスプロでグレーディングするのが前提であることは”常識”ですが、『そもそも8-bitのデータなんて、カラコレしても破綻するだけでは?』という議論もあるくらいで、これなら敢えて「撮って出し」のまま繋いで完成!とする人も出てきそうですね。
※編集部註:1/19追記…読者の方から質問をいただきましたので、わかりやすくするために上記資料写真の追加および一部用語の変更を行いました。
というわけで、のっけから大変厳しいテストを敢行された金居DPの所見はいかがなものでしょうか?
待望のCanon製ラージセンサービデオカメラということで、基本的かつ当たり前の機能を手堅く押さえてきたなという感じですが、残念ながらそれ以上の”+アルファ“が希薄かも知れません。たとえば初めて5D MarkIIで動画が撮れるようになった時の、「わっ!フルフレーム・センサーで撮った写真が動いてるぞっ!」と胸が高鳴った感動のようなものは、C300には感じられませんでした。すべてが画期的な新製品でありながら、僕の周囲では”ちょっと高すぎるね?”という声を多く耳にするのも、この辺りが原因ではないでしょうか…
金居さんのその他のコメント
- とても便利で見やすいウェーブフォーム・モニターだが、ビューファーには出力できず、液晶モニター上でしか見られないのはなぜ?
- 「カスタムピクチャー」は、EOSの「ピクチャースタイル」のようにユーザーが編集できるようにしてくれれば良かった。
- 100IRE以上をカットする機能が用意されているが、どちらかというとスーパーホワイトを100IRE内に圧縮してくれる機能が欲しかった。
それから、実は一つ問題が発生した事をご報告しておきます。
C300で撮影したデータは「Canon MXF」ファイル形式になりますが、MacOS(QuickTime)は MXF形式にネイティブ対応していないため、そのままでは編集はおろか、再生すらできません。そして今回お借りしたテスト機には、残念ながら専用ソフト等が入ったユーティリティ・ディスクが付属していませんでした。
そのため、CanonWebサイトからXF300用の「Canon XF Plugin for Final Cut Pro 1.1」プラグインをダウンロードしてきてインストールし、Final Cut Pro上から「切り出しと転送」コマンド経由でProRes422形式(Intraコーデック)へとトランスコードして読み込みました。
ところが。Final Cut Proで読み込んだProRes422データは、なぜかオリジナルのCanon-LOGとは、見かけがかなり変わってしまいます。ざっと下の画像のような具合。似て非なるものと言った方が良いほど、明るさ、彩度、ガンマのすべてが違うのがお解り頂けるでしょうか(コレ、EOSのH.264データでも起こるんですよねぇ…(泣))。
ちなみに、上記XMFファイル読み込みプラグインではProRes各形式に加え、「ネイティブ」形式で読み込むこともできるのですが、結果は同じ。やはりガンマシフト(?)のような色変換が起こってしまったことを付記しておきます。
今回使用したプラグインは、あくまでXF300(305)用であって、C300専用ではありません。そのせいなのか?今回のC300から搭載された「23.976fpsではない、純粋な24fps Progressive(24.00P)」モードをオンにして撮影したデータは、認識してくれないという不具合も発生してしまいました。これは是非試してみたかっただけに、大変残念でした…。
ISO 20000の世界へ
さて、続いてもう一人。DPとして自ら撮影もこなす映像作家の岩永 洋さんは、なんといってもC300が誇る高感度特性をテストしてみたいとのことで、もうガクブルの寒さの深夜に向ヶ丘遊園駅に出かけ、忘年会帰りの酔客にビミョーに絡まれながら(笑)、ISO 20000で線路のきらめきを撮影してみました。編集して頂いたので、そのまま掲載してみましょう。
岩永さんは、なんといっても脱着式のハンドグリップが気に入ったようです。特に液晶とトップハンドルを外した最小サイズの状態で、一眼レフのようにグリップを握りファインダーを覗いて行う撮影は、その他の業務用ハンドヘルド機ではついぞ味わったことがない新感覚!と絶賛しておられました。
以下、ご本人の弁。
撮影データに関しては、ざっくりとした印象としてハイの描写があまり良くなかった。ディテールがないとかそういうことではなくて、描写の質感がかなりビデオライクな気がした。暗部の再現性がどこまであるのか?をしっかり探ってからになるが、相対的に暗めに撮った方が、あとあと良い質感を得ることができそうな予感。でも、ISO 20000という感度での描写は、ただただ凄い!のひとこと。ノイズの具合がデジタルっぽくなく”粒状感”に近い。どうせなら5D MarkIIや7Dのように、写真もちゃんと撮れたらいいのに!と思ってしまいました。EOSの名を冠しているわけですし…(笑)
また今回は、ちょうど岩永さんがBlackmagic Design社のUltraStudio 3Dを入手されたというので、これ幸いと(笑)、C300から外部レコーダーへの収録をテストさせてもらったのですが… 出てきた信号は、なぜか60i。『いや、そうじゃなくて24pで収録したいんですけど?』と思ったのですが、マニュアルを確認するとC300のHD-SDI出力は59.94i(60i) 固定とのこと。
…つまり、せっかくC300には「1080/24.00p」モード(23.976pではない)が搭載されたというのに、HD-SDI端子からの出力信号は、やはり兄弟機であるXF305と同じくSMPTE 292M準拠のまま、ということなのでしょうか? う~ん、なんだか残念ですねぇ…。
年明け早々、ロケ撮影に出かけます!
といった具合に各種のテストをして過ごしたEOS C300との最初の一週間が終わり、今これを書いているのは、2011年最後の日、大晦日の夜。あと数時間で新年が明けます。そして、元旦、二日と準備をしたら、今度は「raitank組」の仲間たちを誘って、3日、4日と二日間に渡ってロケ撮影に出かける計画を立てています。その模様は、キッチリと作り込んだ上で中旬頃に公開する予定です。どうか、ご期待ください!
※編集部註:今回のレビューで使用したC300は発売前の評価機です。実際の製品版とは仕様が異なる場合があります。