Cinema EOSだもの。映画撮らなくっちゃ!

前回の「テスト篇」の続きです。テストを通じて特性と実際に出てくる絵に親しんだら、やっぱり実地で撮影してみないことには、カメラのポテンシャルはわかりません。そしてC300はその名も”Cinema EOS”です。Cinemaを撮ってナンボでしょう?

…というわけで、raitank blog読者の中から、”その道の達人”系の方々1ダースほどにお声がけし、即席「raitank組」を結成。カントク(兼・録音部)を務めさせて頂くことになったボクは、12月、1月の仕事をすべてキャンセルし、raitank blogの更新をストップし、年末・年始の諸行事もすべて返上して、今日まで全力疾走で駆け抜けて参りました!

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それはもう過酷かつ壮絶なプロジェクトで、この1ヶ月の間のバックステージ話だけで軽くご飯3杯はいただける濃厚さですが、そこはそれ、本稿はあくまでC300のインプレッションですので、舞台裏のエピソードに関しては、また稿を改めて別の機会にご報告させて頂くこととして、さっそく現場での使用感からレポートしていきましょう。

映像を撮ることに特化したカタチと機能

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1回目のレポートをお読みくださった皆さんは薄々、『どうやら”一眼派”のraitankは、諸手を挙げてC300マンセー!というわけではなさそうだぞ?』と思われたかと思いますが(そしてそれは半分以上正しいのですが)、実際に現場に持ち出したC300は、さすがに使い易さ抜群!でした。

「ワンプッシュ・ホワイトバランス」、「内蔵NDフィルター」、「オーディオ音量メーター」、「ウェーブフォーム・モニター」、「ゼブラ」、「輪郭強調表示機能」、「プログラマブルボタン」、「ファントム電源対応XLR端子」などなど、要はビデオカメラとして当たり前の機能が当たり前にそこにあるという安心感。本来、写真を撮るために作られたEOSで、”無理して”動画を撮るのとは、やはり大違いです。

そして、一眼レフに加えビデオカメラの世界でも定評があるCanon製品であることによる、どこまでも安定した動作。実はこのデモ機にはバッテリーが1本しか付属していませんでしたが、XF300などと共通のBP-955であるということで、ロケ撮影に備え、SYSTEM5様のご厚意により、新品を2本ご用立ていただきました。でも、超絶に寒い冬の浜辺での撮影でも、バッテリーの保ちは公称値よりもむしろ長いくらいで、終日撮影して3本のバッテリーがすべて空になることはありませんでした。

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その他の動作に関しても同様。発売前のデモ機とはいえ、まったく安定していて微塵も揺るぎません。メカニカルな、あるいはプログラム上のトラブル、不具合、不安定動作は一切なし。システムの再起動も不要でしたし、記録漏れ等のトラブルも皆無。それはもう鉄壁の安心感!でした。…実は今回C300でロケ撮影に出かけてみて初めて、常日頃の一眼での動画撮影によって自分がいかに不断の緊張を強いられているか!?を逆に思い知らされた次第です(笑)。

Cinema EOSの”初号機”として…

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では、C300はもうこれで完成されているのか!?と言えば、そこはやはりかつてない新しい形態をまとった初号機です。今回、撮影監督をお願いした金居さん、岩永さんらから、幾つか改良していただきたいポイントの指摘を受けましたので、ご報告しておきましょう。

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1.内蔵ファンがうるさい

C300はボディ内にファンを内蔵しています。これが結構な音を出すのでした。きちんと計測はしていませんが、静かな室内での撮影ではきっと録音部さんに叱られるレベル。そして本番撮影時に、これを一時的に停める機能等が見当たりません。ビューファーの接眼部を伸ばすと音漏れが激しくなるので、外部モニターが使用できる場合は、ビューファーは常にボディに収めた状態で使う必要がありそうです。

2.ビューファーがイマイチ

C300のビューファーは「0.52型/155.5万ドット」というスペックを誇ります。これは、モニターユニットに搭載されている「4.0型/123万ドット」の外部液晶モニタよりも高精細…の筈なのに、実際の見え方がどうも芳しくありません。フォーカスの山も把握しづらいし、視度調節ダイヤルはすぐ回ってしまうし。ビューファー、液晶モニターともに既存のXF300/305と同等のようですが、こちらのビューファーはどうなのでしょうね?ちょっと気になりました。

3.録画開始/停止ボタンは電子式シャッターではダメ

C300には一眼レフカメラのそれを思わせるハンドグリップが付属しています。この、”ビデオに一眼レフのグリップ”という構造は、思いのほか握りやすくて大いに気に入ったのですが、シャッターまで一眼レフ同等の電子式というのはどうなの?という声がありました。シャッター動作によるブレ低減効果がある電子シャッターも、映像の撮影時にはハッキリとしたクリック感がなく、感触だけでは録画が開始されたのか?止まったのか?がわからないのです。特に撮影時のモニタにグラフィック表示を出すことを嫌う場合、いちいちタリーランプ等を確認しないと動作状態がわからないのは問題ですね。

4.内蔵マイクが欲しかった

C300からは内蔵マイクが省略されており、本体だけでは音声の収録ができません。いわゆるダブルシステムで音声と映像を別録りする場合、もちろんスレートとタイムコードで…というのが正道なのでしょう。でも、PluralEyes等の自動シンク・ソフトを使ってボタン一発で同期を終えるワークフローも一般的です。こうしたソフトによる同期作業では、映像付帯のガイド音声が必要です。音質は関係ないので、それこそEOSと同等の内蔵マイクがあれば、本体重量をなるべく軽くしたいステディカム撮影時等にも、マイクホルダーなしでガイド音声が録音できるのに、と残念でした。

MPEG Long GOP@50Mbitデータの編集

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正月明け3日、4日と二日間に渡って早朝から夜まで続いたraitank組の強行ロケ撮影。どうにか香盤表上の全20シーンを取りこぼしなくすべて撮り終えたところで、最終データの総容量は、なんと!たったの37GB。さすがはLong GOP@50Mbitですね。同じ分量の映像を、ハックしたGH2のイントラパッチ等で撮影していたら、容量はざっと3倍は必要だったに違いありません(笑)。

持ち帰ったデータは不測の事態に備えて、すべて「ディスクイメージ」で保存した上で、今回はFinal Cut Pro上から、XF300用のプラグイン(C300用に非ず)経由でProRes422に変換しました。ですが、C300(及びXF300/305)の映像データはMPEG-2 Long GOPの映像をSMPTE準拠の汎用MXFコンテナに収めただけだそうで、わざわざProResに変換することもなさそうです。むしろ、プラグイン・オプションに用意されている「ネイティブ」形式を選択してラッピング変更のみ実行して読み込んだ方が、画質は同等のままデータ容量の増加を防げるようです。

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また前回のレポートで、この読み込み時にガンマシフトが起こることをご報告しましたが、その後、正式にC300に対応したユーティリティ・ディスクを入手することができました。このディスクから最新版のFCP用読み込みプラグインと、MXFデータの管理ソフトCanon XF Utilityを使って、もう一度データを検分してみたところ…

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やはりガンマシフトは起こるようです。Final Cut Proに読み込んだデータは、Canon XF Utility上で見るオリジナルより若干レンジが強制的に広げられ、コントラストが上がる感じがします(上写真参照)。ただし、前回のレポート作成時にはこの純正ビューワーソフトがなかったので、C300の静止画記録機能で保存したJPEG画像と読み込んだ動画を比較して、その差に愕然としたのですが、今回は大した差は出ませんでした。…実はこれがCanonさん推奨のMXFファイルの見え方なのだとしたら、プラグインで読み込んだままで問題ないということになります。

Canon LOGとグレーディング

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今回の撮影は、もちろん全篇Canon LOGで行いました。前回もザッと検証した通り、C300と共に登場したCanon LOGの映像は、いわゆるLOG映像として見た場合、ほんの少しハイとローを広げるだけでそのまま使えてしまいそうなほど、最初からかなり”立って”います。ですが、せっかくの4:2:2データです。単純な色合わせをするだけなんてもったいない。積極的に色をコントロールしてみましょう。

…と意気込んで臨んだグレーディング耐性の所見ですが、これはハッキリ申しまして、16-bit深度の色空間で処理できるApple Color、あるいは同32-bitで処理できるDaVinci Resolveのようなソフト上で行ってください。今やRed Giant Software社のColorista2やMagicBulletシリーズをはじめ、編集ソフト上で直接使えるグレーディング・ソフトやプラグインが山ほどありますが、やはり8-bit(=たったの256階調)の壁は厳然として存在することがよくわかりました!

いくらC300がフルHD解像度に最適化された画素配列を持つ新しいセンサーから、階調豊かな4:2:2信号を読み出しているといっても、記録されるデータは8-bitです。潰れてしまった暗部を持ち上げてもディテールは出てきませんし、飛んでしまった明部を下げても階調は蘇りません。ましてや上記の通り、一口に「8-bit」と云っても機器やソフト間で完全な互換性はないようです。そんなあやふやな(?)8-bit色空間内で動作している編集ソフト上で色をいじるなど、もってのほか!と心得るべきでしょう(もったいないです)。

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逆に、Apple Color(16-bit色空間上)でいじった時には、C300のデータはかなり快適です。黒と白をピンダウンした上でカーブの上げ下げを行う場合など、かなり極端な補整をかけても最終出力が荒れることはまずありませんでした。このあたり、余裕ある色深度での作業では、さすがに4:2:2収録ならではの余裕が如実に感じられました。

C300テスト・ムービー「ぱられる」完成

というわけで、C300と過ごした二週間のあいだに学んだこと、感じたことを長々と書き連ねてきましたが、最後に今回のインプレッション企画の最終成果物であるテスト・ムービーをご覧ください。題して、「ぱられる」です。

できる限り「HD」をオンにして、また全画面表示にてご視聴ください。あるいは後述の通り、ご自分のPCにムービーデータをダウンロードしてから、全画面表示にしてご覧ください。

C300テスト・ムービー「ぱられる」はCreative Commonsライセンスの下、オリジナルデータを開放しています。HDでの再生がガタつく場合、もしくはフルHDデータをつぶさに確認されたい場合は、埋め込み元であるVimeoのページより、オリジナル映像データをダウンロードしてお楽しみください。

▶ Vimeo : raitank “Parallel”
http://vimeo.com/34751772

また、上記のようなWeb視聴用にエンコードされたものではなく、C300から撮って出しの「MXFデータ」各30秒ほど×3篇を、同じくCreative Commonsライセンスにて、別途、検証用にご用意しています。上記と同じく、該当のVimeoページからご自由にダウンロードしてグレーディングのテスト等にご活用ください。

MXFデータのアップロードでは、Vimeo様の仕様で音声と映像の同期がズレてしまうようです。悪しからずご了承ください。

▶ Vimeo : “Parallel” Original MXF Footage-1
http://vimeo.com/35198347

▶ Vimeo : “Parallel” Original MXF Footage-2
http://vimeo.com/35199052

▶ Vimeo : “Parallel” Original MXF Footage-3
http://vimeo.com/35199691

最後に。このオモシロイ機会をボクに与えてくださったPRONEWS様に感謝します。また、ボクのひょんな思いつきから年末年始の気ぜわしくも平和であった筈の日常をすべて返上し、正月三日から寒風吹きすさぶ葉山の浜辺に引っ張り出されてしまった「raitank組」ボランティアの皆さん。本当にどうもすみません。そして、本当にどうもありがとうございました。皆さんの伊達と酔狂のおかげで、2012年は年明けから希有で楽しい出だしとなりました。できますれば、ぜひまた次の…(ry)


前編はこちら [EOS C300インプレッション]

WRITER PROFILE

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raitank blogが業界で話題になったのも今は昔。現在は横浜・札幌・名古屋を往来する宇宙開発系技術研究所所長。