なぜDITなのか?
DIT(デジタル・イメージング・テクニシャン)は、デジタルワークフローで撮影から編集までの間の映像技術を担当するスタッフです。デジタルカメラで撮影したオリジナル収録マザーの管理、オフライン編集で使用するムービーファイルの作成、簡易的なカラーコレクションなど、多岐にわたります。さらに、撮影前にどのようにワークフローを構築するかのプランニングも担当します。ビデオ撮影では、CCU(カメラ・コントロール・ユニット)を操作して、映像のホワイトバランスを調整する通称VE(ビデオ・エンジニア)がDITの職種に近い存在です。
しかし、両者の大きな違いはVEがビデオ信号を扱っていたのに対して、DITはメディア・ファイルを扱います。また、VEが波形モニターを使っていたのに対して、DITはヒストグラムも道具に加えます。VEとDITの職域は近くても、ビデオ技術に加えてファイルベースの技術を習得する必要があります。
ファイルベースワークフローの登場で、映像記録がビデオテープからファイルになりました。これにより、パソコンさえあれば誰でも「操作」することはできます。そんな手軽さから専門のエンジニアではなく、制作部のアシスタントが軽い気持ちで操作していることもあります。撮影済みの35mmネガフィルムと同じように大切なものであるにもかかわらず、あまりにも軽く扱われてきたことが、これまであまり問題視されていませんでした。
このように撮影済みデータを誰がどのように管理するかは、意外にも明確にスタッフ間で示されてきていませんでした。時には撮影助手が撮影の合間を縫って担当したり、制作部の若手がやることもあります。またVEがこれまでのCCUを操作する代わりに、ファイル管理のために現場に駆り出されることもあります。
現場でのファイル管理や技術サポートは、いったい誰がやるべきなのでしょうか。それに対する答えがDITだと私は考えています。海外ではすでにDITが定着していて、ディットと呼ばれることもあります。日本でもDITが定着すれば、これまで明確化していなかった現場において、安心したファイルベースワークフローが定着するでしょう。
DITが持つべき知識
ビデオエンジニアが持っていた映像技術に加えて、DITは動画ファイルの特徴、画像処理、編集ソフトとの連携、色調整、オーディオ技術などが必要になります。さらにコンピュータの中で大半が処理されるため、Linuxコマンドを使ったコマンドラインインターフェースの使い方も基礎的なところは抑えておきたいものです。さらに、現場に行く前の打合せではワークフローのプランニングにも関わることがあるので、ポストプロダクションでどんなワークフローが進められているかも知っておくべきです。
- 基礎的なNTSC映像技術
- コーデックの基礎知識
- 動画の圧縮技術
- RAW/Logデータの使い方
- 主要カメラの特徴
- カラーコレクション技術
- オーディオファイルの扱い方と映像との連携
- コマンドライン主要アプリケーションの使い方
- 実践的なワークフローの計画
これらが最低限DITならば備えておきたい技術的な知識です。DITはソフトウエアやハードウエアを上手に使いこなすユーザーなのです。メーカーで製品を設計製品化するような一部分に特化した知識よりも、幅広く必要最小限の知識レベルをクリアしていればいいのです。映像技術のスペシャリストではありますが、その中の各ジャンルに関してはゼネラリストでいいのです。
また、ファイルベースのワークフローは毎月ごとに新製品が登場し、その中で使われる映像フォーマットもどんどん新しいタイプが登場します。そのため、常に自分に合った最新の情報源を持っていなければなりません。インターネットの情報を正確に分析して、たくさんの不確定な情報から正確で自分の体に吸収すべきものだけを取捨選択できるリテラシーも必要です。そのためには、インターネットの情報源だけでは不十分で、人間同士の横のつながりが情報の正確性を高めるのです。
まったく新しい職種
映像業界は映画やテレビ番組を作ることを中心に、それを取り巻くかたちで関係するスタッフが多岐にわたります。映画の最後で流れるスタッフロールを見れば一目瞭然で、関わっている人数も多いですがその職種も数多くあります。DI~デジタル・インターミディエイトが広がると、それまでのフィルム独自の職種からビデオの技術も映画に取り入れられるようになっていきます。
DITは最近生まれたばかりの新しい職種です。まだ日本では明確な仕事内容も認知されず、その存在すらほとんどの関係者も知らないでしょう。新しいことを始めるのは何事もパワーが必要です。しかし、その手間や時間を惜しまないのなら、きっと数年後にはその成果が見えてくるでしょう。DITは文字通りそんな Do it! を積極的に進めたいあなたにふさわしい仕事です。