SDI to HDMIコンバータ、横並び大テスト―コンバータはどれも同じか?―
*前回の[小寺信良の業界探検倶楽部](動画版)とあわせてお楽しみください…
昨年のInterBEEでは、業務ユーザーの世界でもかなりHDMI機器が入り込んできていることが、改めて確認できた。HDMIの長距離伝送など興味深い製品も登場して、中継・生放送システムにも組み込めるようになってきた。一番大きなポイントは、HDMI機器が使えれば、低コストでシステムが組めるということである。
しかし、既に持っているHD-SDI機器も混在させたいケースもまた、多いだろう。こんな時に活躍するのが、SDI to HDMIのシンプルなコンバータである。これまでも撮影やポストプロダクションの現場では、クライアントモニター用に民生のテレビを接続するときなどによく使われてきた。最近は小型化・低価格化が進み、モニターの裏にちょっと転がしておく程度の使い方ができるようになってきた。
だがこれらのコンバータ、価格も種類も多いが、果たして全部同じクオリティなのだろうか。10万円と6,980円が同じ映像品質なのだとしたら、10万円のコンバータの意味はなんなのだろうか。
今回は、日本国内で入手可能なコンバータを一通り集めて、波形モニタで変換前と変換後の特性を比較してみることにした。デジタル to デジタルの変換だから変わるわけがないという人もいるが、本当だろうか。早速テストしてみよう。
今回の検証システム
今回用意したコンバータは、以下の8つである。
なおPROTECHの「VC-10」もお借りしていたが、当日電源が入らなくなり検証できなかった。
検証を行なったシステムは以下の通りだ。映像信号をVDAで分配したのち、各コンバータに入力。それらの出力をRoland V-800HDに入力する。同時にVDAからのHD-SDI信号もスイッチャーに入力し、この信号と各コンバータの出力を比較する。
映像の遅延を測定するために、モニターはHD-SDIの映像ソースをスイッチャーをスルーしたものと、スイッチャーのスイッチングアウトの2つを用意した。SDIをスイッチャーのスルーにしたのは、スイッチャーで発生するディレイ量を吸収するためである。このモニター2つをカメラで撮影し、レコーダで録画して遅延量を測定する。
信号発生器として、ファブリックス社のSxEをお借りした。波形モニターはリーダー電子の「LV5382」をお借りした。これはHDMIの直接入力が可能なほか、波形をBMPでUSBメモリーに保存できる優れものだ。
検証オリジナルと変換後の違い
ではまず最初に、カラーバーを入力してみて、オリジナルと変換後の違いを見ていこう。
メーカー | モデル | 波形 |
オリジナル信号 | ― | AJA |
Hi5 |
AJA |
Hi5-3G |
|
Blackmagic Design |
MiniConverter SDI to HDMI |
|
ATOMOS |
Connect S2H |
―(測定漏れ) |
Roland |
VC-1-SH |
|
LYNX Technik |
CDH1811 |
|
MEDIAEDGE |
VPC-SH1 |
|
GoodPrice |
SDI to HDMI |
数年前からコンバータとして定番であったAJAのHi5は、信号が”太る”傾向がある。微妙にS/Nが落ちているのかもしれない。一方新型のHi5-3Gではそのような傾向は見られず、オリジナルのSDI信号との違いは見られなかった。
低価格で人気のBlackmagic Design MiniConverterは、一見すると大きな問題はなさそうに見えるが、0%以下の信号がカットされているのがわかる。ピクチャーモニターでは表示しない領域ではあるが、技術者としては気になるところだ。
MEDIAEDGE VPC-SH1では、クロマ量にかなりの影響が出ているのがわかる。また同じように0%以下の信号がなくなっている。ただこれは、当日使用した実機の動作に問題があったようだ。本機では接続されたHDMI機器に対して、プラグアンドプレイで出力モードを自動的に変更するそうだが、メーカー側での見解では、どうもその機能が誤動作しているのではないか、ということであった。
確かに検証に使用したRoland V-800HDにはHDMI端子はなく、DVI-I端子を変換コネクタを使ってHDMIに変換している。このあたりでうまくプラグアンドプレイが動かなかったことは考えられる。機会があればもう一度検証してみたいところだが、今回の検証ではVPC-SH1の正確な特性が測定できなかったため、以降の測定からは除外する。一方他社製品には、このような問題は見られなかったことを付け加えておく。
格安のコンバータであるGoodPrice SDI to HDMIでは、50%あたりを中心にして信号が上下に拡がっているのがわかる。昔アナログの頃は終端が外れたりするとこのようなことになったりしたものだが、デジタル変換でこういう特性は初めて見た。
それ以外の製品では、オリジナル信号との差は見られなかった。ATOMOS Connect S2Hに関しては、当方のミスでカラーバーの結果を測定するのを失念してしまったが、次のランプ波形での測定結果を見る限り、オリジナル波形との違いはないものと推測される。
続いてランプ波形を入力してみる。ポイントは、B-Y、R-Y信号の変化だ。
メーカー | モデル | 波形 |
オリジナル信号 | ― | AJA |
Hi5 |
AJA |
Hi5-3G |
|
Blackmagic Design |
MiniConverter SDI to HDMI |
|
ATOMOS |
Connect S2H |
|
Roland |
VC-1-SH |
|
LYNX Technik |
CDH1811 |
|
GoodPrice |
SDI to HDMI |
AJA Hi5は、信号が太るのは同じ傾向だが、B-Y、R-Y信号の上下でクロップがかかっている。クロマの高い部分に対しては、色の階調が潰れることが予想される。
Blackmagic Design MiniConverterは、B-Y、R-Y信号に変化がないが、Y信号の上下でやはり上下にクロップがかかる傾向が見て取れる。
GoodPrice SDI to HDMIに関しては、信号のリニアリティにも問題があるが、やはりB-Y、R-Y信号の上下でクロップがかかっており、正確な信号の伝送には難があることがわかる。
それ以外の製品については、オリジナル信号との差異は認められなかった。
ディレイ量の測定
続いて信号のディレイ量について測定した。ディレイと一口にいっても、フレーム、フィールド単位でのディレイと、ライン単位のディレイがある。まずはクロスハッチを入力して、その位置がモニター上で変化するのかを測定した。これは目視による確認なので、特に画像は掲載しないが、測定の過程は動画で公開しているので、どのような状況だったのかを確認したい方は以下のリンクから見ていただきたい。
フィールド、もしくはフレーム単位のディレイについては、MEDIAEDGEのVPC-SH1が2フレームのディレイがある以外、他のモデルでは観測できなかった。VPC-SH1は内部にスケーラーがあり、アップコン/ダウンコンの変換もできるため、そのスケーラーでディレイが発生するものと思われる。
フィールド単位のディレイ、すなわち位置のズレとしては、殆どのモデルで問題はなかった。ただAJAのHi5は、1ピクセル上にずれることがわかった。フィールド単位のディレイはないので、上にずれるというのは通常であれば奇妙な話だが、おそらく入力信号のうち垂直同期信号はコンバートしておらず、内部ですげ替えているため、その長さが1ライン分短いのではないかと推測する。
またBlackmagic DesignのMiniConverterは、1ピクセル右にずれる事がわかった。これは単純にディレイなのかもしれないが、もしかしたらこれも水平同期信号を内部で差し替える際に、若干信号が長いということも考えられる。
いずれにしてもこの2製品のみ、変換前と変換後で位置のズレが確認できたが1ピクセルなので、単純なモニタリングやライブ配信といった用途であれば、それほど大きな問題とは、言えない。
総評
Digital to Digitalの変換であっても、実際には結構内部変換により信号が変質するものがあることが確認出来た。
この中でもっとも変化が大きかったのは、6,980円という破格のGoodPrice SDI to HDMIだ。映像の内容の確認ぐらいなら使えるが、さすがにこの価格では、ちゃんとしたクオリティは保証されないということだろう。
次に変化の大きかったAJA Hi5は、コンバータとしてはもうかなり古い製品であり、当時の用途からすればこれで十分であったのだろう。最新モデルのHi5-3Gでは問題がなくなっているので、設計や内部チップが世代代わりしたことで、クオリティが上がったものと考えられる。ただ価格的には今回テストした中でダントツに高価な製品なので、それはさすがに問題があっては困る。
Blackmagic DesignのMiniConverterは、いろんなテストで少しずつ問題があった製品だ。それほど古い製品でもないが、やはりそのあたりは値段なりということであろう。
低価格ながら成績が良かったものとしては、ATOMOSのConnect S2Hがある。コンパクトなコンバータでバッテリー駆動がポイントだが、構造的にバッテリーが外れやすいところがあるので、フィールドでの使用では何か対策が必要だろう。また長時間使用していると熱を持つため、熱がこもるような場所への設置は注意が必要だ。
MEDIAEDGE VPC-SH1は、低価格ながらスケーラーも装備するなど、機能的にはいいところをついているが、今回のようにうまくマッチングしないケースがある。ただUSB経由でPCを繋いで設定変更ができるので、自動認識に問題があればそれで対処できるだろう。ボタン類が表出しているのは一見便利そうではあるが、逆にちょっと場所移動させるために持ち上げただけでもボタンを押してしまうようなところもあり、取り扱いに気を遣う製品だ。
RolandのVC-1-SHは、価格的もちょうどいいところで、どのテストでも全く問題がなかった。まだ発売前の試作モデルだが、手堅い選択肢として期待できそうだ。Rolandは2007年からマルチフォーマット対応のコンバータVC-300HDを製品化し、ノウハウを積み重ねてきているところが、今回のテスト結果に繋がったものと思われる。
LYNX Technikはこれまで日本にほとんど入ってこなかったため、あまり馴染みのないメーカーだが、コンバータ以外にも信号発生器など多くの製品ラインナップがあり、日本での発売も始まるようだ。機能的には申し分ないが、価格もそれなりに高価なので、個人がフィールドで使うというよりは、テレビ系の撮影会社やポスプロ、局内システムに入れるようなクラスの製品のように見受けられる。
今回のテストで傾向として言えるのは、比較的最近の製品ならほとんど問題はなくなっているが、すでに製品として古いものは今から買うメリットはない、という事である。また異様に価格が安いものは、それなりのクオリティであるということもわかった。
ただ、システム内のあらゆる場所で高価なコンバータが必要かというと、そこは用途次第だろう。単に映像の内容が見られればいいだけの用途に、隅々まで高級なコンバータを何台も導入するは必要ない。また、単純な変換ボックスとして利用するケースでは、誤動作に気づかないことが一番の問題であり、あまり機能が多くない製品の方が望ましい。一方でHDMI収録する、あるいは放送に出す本線に使用するような部分では、ある程度コストをかけてしっかりした製品を使うべきだ。
今回は単純な変換のみをテストしたが、各製品には分配機能があったり、光ファイバーの伝送ができる、あるいは3Gデュアルリンクに対応するなど、いろいろな特徴がある。これらのポイントもよく見きわめることで、単品としてはちょっと高くても、システム全体としてはコストを下げる設計もできる。このあたりは映像技術者の腕の見せ所である。
今回のテストを参考に、ぜひベストチョイスを見つけていただきたい。