日本を代表する映像ポストプロダクションといえば、最新の撮影、映像・音声編集、CGなどの映像技術サービスを提供している株式会社IMAGICAを挙げる人が多いのではないだろうか。1935年に日本で初めて自動現像機による映画フィルムの現像を開始し、1970年代初めにはビデオのポストプロダクションの分野にも進出。現在のノンリニア、リニア、MAの部屋数は合計100以上で、この規模を超えるポスプロは存在しないだろう。そんな最先端の映像を常に実現してきたIMAGICAが、Adobe Premiere Pro(以下Premiere Pro)をテレビ番組編集と4K映像編集のツールとして採用した。品川プロダクションセンターで活躍しているテレビプロダクションⅠユニットEDチーム エディターの密岡譲氏と、技術推進室R&Dユニットチーフリサーチャーの清野晶宏氏に採用の背景を聞いてみた。

テレビ番組制作にPremiere Proを採用

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株式会社IMAGICA テレビプロダクションⅠユニットEDチーム エディター 密岡譲氏

密岡氏と清野氏の話を聞くために伺ったのはIMAGICA品川プロダクションセンターだ。都内に数あるIMAGICAの拠点の中でもテレビ番組制作が中心の施設で、主にリニア編集によってバラエティ番組の制作が行われている。しかし、ここ数年はノンリニア編集の比率がどんどんと増えており、最近は品川プロダクションセンターと湾岸スタジオと合わせてリニアが6割、ノンリニアが4割にまで移行している。ノンリニア編集の主軸はAvidで、一部ではFinal Cut Proでオンラインまでやってしまう場合もあるという。そしてそのノンリニア編集の環境にPremiere Proが採用され、今年BSで10回放送された30分のドキュメンタリー番組制作に使われたとのことだ。そのあたりの事情を、実際に番組の編集を担当した密岡氏が語ってくれた。

密岡氏:品川プロダクションセンターでPremiere Proを採用した理由は2つあります。1つは、番組編集で必要な機能がPremiere Pro CS6でほぼ揃ったことです。CS6以前はこれがなければ駄目という機能があって、例えばマルチカメラが4カメまでという制限がありましたが、CS6では4つ以上のカメラアングルを使用できるようになるなど、不安が払拭されたからです。

もう1つは、現在でもディレクターによるオフライン編集システムの主流がFinal Cut Pro 7であり、既に開発が終了してかなりの期間が経過しているため、他のシステムへの移行を模索する必要があった、という背景があります。しかし、Final Cut Pro 7の使用率は依然高く、また、通常の番組作品のオフライン編集をするには、現在のところ特に困る状況にもないため、移行促進がなかなか進んでいないのが現状です。そんなときにGoPro、HDV、AVCHDなど臨機応変にいろいろなフォーマットで撮影されるドキュメンタリー番組の担当となりました。そこでは「このフォーマットは対応していません」という状況は作れません。それら新しいフォーマットにネイティブで対応し、混在運用が可能なPremiere Proに優位性を感じて、このドキュメンタリー番組を機会に、Premiere Proの採用に踏み切りました。

テロップ入れの快適さもポイント

次にPremiere Proを実際に使った感想を聞いてみた。まず1つが、テープへの書き出しだ。テレビ番組の制作なのでテープ納品ということになるものの、ノンリニア編集の場合は「テープ納品のためのテープ収録でみんなつまずいている」ということが度々発生していたという。テレビ番組なので構成上の直しが発生したり、表記上の直しが発生したりしたときにインサート編集でテープにどんどん直しを反映させていくことがあるが、その作業をレスポンス良く、正確に出来るノンリニア編集システムは限られていたという。その点、Premiere Pro CS6ではそれまでのバージョンに比べてテープの入出力は大幅に改善されていて、「レスポンスは快適で、テープ納品がとても楽になりました」とのことだ。

もう1点はテロップを入れる際の効率の良さだ。バラエティ番組編集というのはテロップの数が非常に多い。そこで密岡氏の方法はテロップをPhotoshopで9割ほど作り、Premiere Proで読み込ませてタイムラインに貼り付ける。誤字脱字があった場合はすぐに直して戻って終了。そのPhotoshopとPremiere Proの連携が素晴らしく気に入っているという。このスピード感については、「他のノンリニア編集システムで作業するよりも圧倒的な速度だと思っている」と絶賛した。業界では「テロップが多い場合はリニア編集のほうがいい」と言われているが、その状況も変わっているという。「今後の使い方」という意味で「『ここにテロップを入れる』というところに空のPhotoshopファイルを入れていって、アシスタントにそれをどんどん更新していってもらいます。しゃべりテロップを100枚入れるのならば、空のPhotoshopファイルを100個入れておく。あとは変更を反映させて終わるのでは」という構想も紹介してくれた。

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Photoshopでテロップを作成しPremiere Proのタイムラインに貼り付けた例。手直しもPhotoshop上で素早く行える(画像クリックで拡大)

幅広い4K編集システムが可能

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株式会社IMAGICA 技術推進室R&Dユニットチーフリサーチャー 清野晶宏氏

IMAGICAが4Kの映像制作システムにPremiere Pro CCを採用した件について、その背景を清野氏が答えてくれた。

まず最初にPremiere Pro CCの採用のきっかけは2014年の4Kテレビ放送開始のニュースで、この件が明るみになってからIMAGICAにはたくさんの4K案件の問い合わせが寄せられている。そうなると、IMAGICAに既に存在している4Kシステム以外に、さらに裾野を広げるような新しい4K編集システムが必要となる。そこで採用となったのがPremiere Pro CCの4K編集システムというわけだ。


清野氏:Premiere Proは、PCに出力ボードを導入することで4Kが出力できるなど自由度の高さがあります。高性能なシステムを構築したり、ある程度制限して価格を抑えたシステムを構築したりといった選択の幅が広いことがいいですね。また、Premiere Pro CCはPremiere Pro CS6に比べて4Kなどの再生もだいぶ向上しており、Premiere Pro CCでないと4Kは大変かもしれません。

Premiere Pro CC自体の使い勝手ですが、XAVCでもすぐに読み込めるし、F65のRAWもそのまま読み込むことができるところが優れています。従来、F65のRAWというとDaVinci Resolveで読み込んだり、ソニーがリリースしている「F65RAW Viewer」というツールで現像するという工程が必要でしたが、Premiere Pro CCならばすぐに編集に入ってオフラインを作ることができます。使い分けの幅が広がるのはありがたいですね。

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4K素材の編集イメージ(画像クリックで拡大)

密岡氏も、iMac上で動作するPremiere Pro CC上でF65のRAWを操作したときの感想を語ってくれた。

密岡氏:Premiere Proには「ホバースクラブ」という、動画をスクラブに合わせて表示する機能が搭載されていますが、そのホバースクラブが4KのF65 RAWでもスムーズに行なえます。「こうしてこうやったら」というイメージがレスポンスよく付いてくるので、これにはびっくりしました。

楽しみなIMAGICAのノウハウとPremiere Proのコラボレーション

密岡氏にはIMAGICAでのPremiere Proの活用事例を紹介していただいたが、そこで記者が感じたのはPremiere Proを積極的に工夫したり、特性を考慮して早速使いこなしているということだ。

密岡氏:IMAGICAでは「こうやったらいいんじゃないか?」「ああやったらいいんじゃないか?」という、試行錯誤された上のシステムをAvid上でもFinal Cut Pro上でも組んでいます。Premiere Proは導入されたばかりですが、いきなりノンリニアのテロップ入れをPremiere Proで始めたというわけではありません。これまでのノウハウがあったからこそです。

IMAGICAというと業務用機器の中でも特に高額な機材や施設を備えたポストプロダクションというイメージが強いが、いろいろな問題を解決したり、ツールをフルに活用できる技術をもったポストプロダクションであるということを改めて感じた。今後IMAGICAはPremiere Proをどのようにフル活用していくのだろうか。そのあたりも注目である。

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