シュア・ジャパン・リミテッドとヒビノインターサウンド株式会社は、去る1月29日にシステムファイブPROGEAR半蔵門において「ここだけは押さえたい!ワイヤレスマイクの基礎知識」を開催した。昨年6月の第1回目からマイクの基礎知識や収録の基礎などのセミナーを開催していたが、今回は4回目にあたり最近話題になることの多いワイヤレスマイクの基礎知識について解説された。

ビデオ撮影において今や必需品ともいえるワイヤレスマイクだが、単に音声を送信するだけでなく最近は送信側のバッテリー残量が受信側でわかるものや暗号化による秘話機能など、単にA型B型という従来のアナログワイヤレスマイクだけでなく様々なタイプの製品がでてきた。また、A型のワイヤレスマイクは総務省の周波数再編アクションプランの一環として、周波数の移行が決まった。今年の4月以降はA帯ワイヤレス製品の免許取得が不可能となり、2019年4月以降は使用できなくなるなどユーザーにとって気になる、あるいは死活問題ともいえる話題だ。

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講師を務めたシュア・ジャパン・リミテッドの小諸浩和氏

今回講師を務めていただいたのは、シュア・ジャパン・リミテッドのフィールドアプリケーションエンジニアとして活躍中の小諸浩和氏。セミナー前半の基礎講座では電波や周波数に関するレクチャーを行い、後半ではアナログとデジタルの違いや、電波を可視化するスペクトラム・アナライザーなどを使った実演を含めて解説が進行された。

電波とは?

まず、小諸氏から「電波とは何なのでしょうか?電波を利用した製品にはどんなものがあるでしょう?」という問いかけに、参加者から「携帯電話、ラジオ、ワイヤレスマイク」などが挙げられていた。その他にもETCやラジコンなどもある。それに解説を交えながらワイヤレスマイクの話へつながっていく。

小諸氏:電波は有限の資源なので、ワールドワイドでの使用状況や国内の現状などを考慮し、利用者が融通しながら使っています。ワイヤレスマイクにはA型B型のほかにもC型D型があります。放送局などでは、主に音質的なことなどからいわゆるA型B型のワイヤレスが使われています。アンテナの長さや到達距離などから移動体通信において800MHzあたりが使いやすいのです。

こうした事情もあり、携帯電話やワイヤレスマイクに帯域を譲ることになり、A型は2019年4月までにホワイトスペース(470~714MHz)または1.2GHz帯に移行しなくてはなりません。

よく携帯電話のCMで“プラチナバンドを獲得しました!”という台詞を聞いたことがあると思うが、このプラチナバンドというのは上記で紹介した800MHzのことなのだ。

また、A型を使用するには免許が必要だが、B型(一般用)の使用には免許は必要ない。C型は周波数が低くあまり飛ばないため、狭い範囲で使用するのに向いており、ガイドシステムなどに使用されることが多いという。

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スペクトラム・アナライザーを使用して電波状態を確認する

小諸氏:さて、ワイヤレスマイクだけでなく、実際にどのように電波が利用されているかスペクトラム・アナライザーという機械を使って電波を見てみましょう。

携帯、PHS、ワンセグ、Wi-Fi、特小など様々な周波数が使われているのがわかると思います。今ここで使っているワイヤレスマイクも表示されていますね。

電波は有限の資源であり、移動体無線に適した帯域は限れており、みんなでシェアしなくてはならないということは頭でわかっていてもなかなか納得できない部分もあるだろう。スペクトラム・アナライザーにより、その場の電波の利用状況がわかり、どの電波が何に利用されているかの解説もあったことから、実感として状況をつかむことができた。さらに、参加者のほとんどが業務で音声(ワイヤレスマイクなど)に携わっているであろうということもあり、電波と音波、マイクとアンテナのたとえで更に解説が進む。

小諸氏:空気中の波動が起こす現象という意味では、音波も電波も非常に似た性質があります。たとえば、遠くの音が聞こえない=電波が受信できない。大音量で歪んでしまう=送信機と受信機が近すぎる。反響が多くて聞き取れない=受信障害デッドポイント。と同義のことといえます。

またアンテナはマイクロホンと同様に電波を拾うもので指向性などマイクロホンに似た考えができます。ワイヤレスマイクのアンテナとしては、波長によりアンテナの長さが決まるだけでなく、用途によりいくつかの種類があります。一般的なのはホイップアンテナですが、ブースターを内蔵したものや団扇のような形をしたログペリ(Log-Periodic Dipole Array)などがあります。

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ワイヤレスマイクのアンテナには様々な形のものがある

アンテナはいずれも送信所の方角を向いており、アンテナが長いほど指向性が強いという。また、アンテナに高周波数電流が流れることで磁界ができ、その磁界が電界を作り、その電界が磁界を作り…と磁界と電界を繰り返し作ることで、空間に飛び出したのが電波の正体だということも紹介した。

アナログとデジタルの違いとは

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セミナー会場にはShureのワイヤレスマイクや、プラグオン送信機が用意されていた

小諸氏:電波が音を運ぶ仕組みとして代表的なのが、AMラジオなどで利用されているAM変調(振幅変調)とFMラジオなどで利用されているFM変調(周波数変調)などがあります。AM変調では音を電波の強弱で、FM変調は周波数の偏移として、電波に乗せて送信します。AM変調は比較的遠くに飛び、FM変調は雑音に強く音質が良いといった特徴がありますが、AM変調は雑音に弱いという欠点があります。

目で見ることも耳で聞くともできない電波。こうしたアンテナとマイクの対比や、変調の説明では図面などを多用して音声に携わる人たちにとって非常にわかりやすい説明だと思った。日常使っているワイヤレスマイクのアンテナのことや電波を使ってどのように音声を伝送しているのかが実感として理解できた。

小諸氏:現在ワイヤレスマイクにはアナログワイヤレスマイクとデジタルワイヤレスマイクがあります。一般的にデジタルはチャンネル数やダイナミックレンジ、周波数特性といった面でアナログより優れていますが、遅延やバッテリーの持ちといった面でアナログより若干劣ると思われる面もあります。ただ、これらも以前に比べて格段に改善されており、先ほどから使用しているこのデジタルワイヤレスで遅延が気になった人はいないのではないでしょうか。

それでは、具体的な機種を挙げてその特徴を見てみましょう。

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ShureのFP1ボディパック型送信機とFP5ポータブル受信機

小諸氏:アナログの屋外収録用小型ワイヤレスシステムFPシリーズです。一眼レフカメラに直接装着して使用することが可能なプラグオンタイプやマイクユニットの交換ができるトランスミッターが内蔵のハンドマイク型、ワイヤレスとしてポピュラーなボディパックタイプがあります。いずれも比較的リーズナブルな価格設定の製品です。FPシリーズより上位機種のUHF-R MWシリーズはFPシリーズの基本的なラインナップと同様ですが1Uのレシーバーが用意されています。

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ShureのULX-D

小諸氏:デジタルワイヤレスシステムのULX-Dは、デジタルの特徴である使用本数が多くとれることや、秘話機能をもつ以外に、専用の充電池を使用すれば最大12時間の長時間駆動が可能です(単3形乾電池も使用可能)。バッテリーパックにはマイコンが内蔵されており使用可能時間が正確に分単位で表示されるようになっています。レシーバーはデジタル出力対応となっているので、AD/DAを介する回数を極力減らすことで非常に遅延が少ないという特徴を持っています。

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一眼レフカメラにFP5を装着して使用できる

現場で使うワイヤレスマイクにも様々な種類があり、用途によって使い分けができる時代になったようだ。特にデジタルは遅延の問題で食わず嫌いの人も多いようだが、すでに問題のないレベルまで改善が進んでいる。バッテリーもレシーバー側から管理できる製品があることから今後普及していくに違いないだろう。

マイクの電波状態を目で見る

小諸氏:これらの製品を使って実演に入る前にスペクトラム・アナライザーについてちょっと触れておきましょう。今使っているのはベンチタイプの高価な物ですが、こんなに高精度多機能でなくても空きチャンネルのチェックやほかにどんな電波が出ているのかを見るだけなら小型で安価なものもあります。なにか問題があった時の切り分けや原因を探るのに役立つでしょう。

電波の挙動はなかなか把握することが難しい。スペクトラム・アナライザーの存在を知っていても実際どのように利用したらよいのか。そもそも高価で手が出ないのでは?と思っていたが、リーズナブルな製品があることで、現場で活用できそうだ。今回のセミナーで実際に電波の波形を見せていただきその有用性や活用方法もわかってきたように思う。

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無指向性と単一指向性のマイクに息を吹きかけ雑音の入り方を比較

マイクには無指向性と単一指向性があり、小諸氏が自分なりの使い分けを紹介してくれた。「こういう事をすると『吹くな』と怒られそうですが…」と言いながら2つのマイクに息を吹きかけてノイズの拾い方の違いを説明していた。

小諸氏:外で風が吹くときに単一指向性のマイクを使うと吹かれノイズが出てしまいます。いくらジャマーを被せてもダメですね。

外で使用する際には風吹き音に強い無指向性がよいだろう。また、無指向性はマイクを向ける位置で音量に変化はないが、単一指向性はマイクを向ける位置で音量が変わることも紹介した。

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Shure FP3のプラグオン。赤いランプがつくと音が歪んでいるサイン

小諸氏:まずは、FPシリーズを使ってレベル調節をしてみましょう。FPシリーズのプラグオンタイプには音量調節がありますが、このレベルをMAXにするとちょっと詰まった感じに。受信機でのレベルは赤ランプが点灯しています。これはお聞きのように歪がある状態なので、赤ランプがつかないくらいに調節すると良いと思います。

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送受信機を近づけることでRFのオーバーロードが発生する

小諸氏:送受信機の距離は近すぎないようにしましょう。近すぎるとどうなるか、2本のワイヤレスを使ってスペクトラム・アナライザーの波形を見せながら実際にテストしてみましょう。レシーバーとトランスミッターを近づけるとレシーバーにあるRFのレベルに表示され、オーバーロードになっていることがわかるようになっています。通常使用ではだいたい2m以上距離を保つようにしましょう。近すぎるとスペクトラム・アナライザーで見ると周りの電波をマスクしてしまう様子がわかると思います。相互変調といいますが、この状態だと隣接した周波数のワイヤレスへ影響が出ることがあります。

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2つのマイクロホンが干渉し合って別の波ができる実験を行う小諸氏

小諸氏:それでは、実際にマイクをもって外に出て電波の状態や音がどうなるかを検証してみましょう。

デジタルワイヤレスとアナログワイヤレスの違いとして、電波が途切れそうになった時のノイズの違いや音の状態などは、一般にアナログはノイズにまみれながら音声が途切れる感じですが、デジタルではいきなり無音になります。今回使用しているワイヤレスシステムに関しては、到達距離は概ね同じと考えていいでしょう。この辺をポイントにチェックしてください。

アナログワイヤレス。会場を出発してすぐの電波状況
音声のノイズが目立つ時の電波状況

最初はアナログワイヤレスをもち、会場から外へ。レシーバーの受信レベルやスペクトラム・アナライザーの画面が会場に映し出されているので、電波の状況がどうなっているのかリアルタイムでわかる。音声の状況は受信レベルがある程度ある時は非常にクリアだが、レベルが低くなると徐々にノイジーになってくる。受信限界と思われる地点でもどうにか音声が聞き取れる状態だった。実演ではあまり派手にノイズは出なかったが、ハムノイズなどと異なり、後処理で取り除くのは難しいノイズだ。電波の届く有効距離は重要だ。

小諸氏:次はデジタルワイヤレスです。スペクトラム・アナライザーで見るとアナログは音声によって山形の波形が大きく変化しますが、デジタルは台形の形が音声の有る無しに関わらずほとんど変化していません。

それでは実際に外までいってどのような音になるのか、電波の様子も見ながらやってみましょう。

デジタルワイヤレス。会場を出発してすぐの電波状況
音声が途切れてきた時の電波状況

アナログワイヤレス同様、電波の有効範囲では非常にクリアな音質だ。受信限界のあたりから音声が途切れ途切れになってくる。ただ、音声が出ているときはアナログと異なりクリアな音質に感じられた。現場的にはデジタルとアナログともに有効範囲で使うことがポイントとなるだろう。ただ、場内アナウンスのように内容が聞き取れれば目的を達するような使用法ではアナログのほうが良いように思われる。要は目的に合わせたチョイスが重要ということだと思う。

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ワイヤレスマイクの検証結果をWireless Workbench 6で表示。ピンクの線がアナログの電波状況、黄色の線がデジタルの電波状況を表している

小諸氏:最後にこれまでの電波の状態を記録していたものを見て比べてみましょう。Shureが無償で提供しているWireless WorkbenchというソフトウェアのRF履歴機能を使ったものです。アナログは距離が離れるとともに電波レベルが低くなりノイズに埋もれていく様子がわかります。デジタルは受信限界付近では途切れ途切れになっていますね。

ワイヤレスを使用する際の注意事項

最後に、小諸氏がワイヤレスマイクを使う上での注意点を以下の通りに紹介していた。

  • 使用する前に空きチャンネルを確認
  • 複数使用時の周波数はなるべく離す
  • 送信機と受信機を近づけないように
  • 送信機同士の距離は離す
  • 基本的にアンテナは2本(A/B)
  • 飛距離を把握しブースターなどで調節
  • 指向性アンテナなどでエリアを確保
  • 音と電波は似ている
  • 使用周波数を調査する

今回で4回目となるShureセミナー。電波の性質や送信の原理など一見とっつきにくいが重要な内容を音声に例えてみたり、スペクトラム・アナライザーを使って電波をビジュアル的に見せるなど、よくあるセミナーの切り口とは一味違う内容だった。電波に対する理解が深まった参加者も多かったのではないだろうか。実演で興味深かったのはアナログ、デジタルワイヤレスの受信限界での違いや2本のワイヤレスを使った相互変調などである。音として実際に聞いた経験があっても実際どのような電波状態だったのか、どのような原因や仕組みになっているかが非常にわかりやすかった。2019年のA型周波数移行が迫るにつれて、ワイヤレスについての知識を身につけようとするユーザーが増えていくだろう。今後も定期開催が望まれる素敵なセミナーだった。

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PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。