txt:小寺信良 構成:編集部

今回の業界探検倶楽部は、グラスバレー株式会社が6月26日に発売するEDIUS Pro 8の話題をお伝えする。ほぼ2年ぶりとなるメジャーアップデートだ。いつもならば動画インタビューでお送りするところだが、今回は岡カメラマンが日にちを間違えて現場に到着せず。というトラブルのため、急遽テキスト形式のインタビューでお伝えする。

新EDIUS 8シリーズ発表!その真価はいかに?

5月25日に製品発表会が行なわれ、新EDIUS 8シリーズが初めてメディアの前で明らかになった。価格情報も含め発表の詳細はこちらの記事を参照していただきたいが、簡単にまとめると、価格の大幅ダウン、UIの変更、Quick Sync Videoへのフル対応、キヤノンの新フォーマット「XF-AVC」への対応、ブラウザアプリの付属などである。

一方で、これからおよそ2年をかけて無償追加される新機能も発表された。H.265/HEVC映像の入出力、モーショントラッキング、高品位スローモーション、カラーグレーディングモード、RAWファイル読み込み、Log/LUT対応などである。

kodera_44_02254

無事発表会を終えてホッとしたところでお話しを伺った(写真左:片岡氏、写真右:粟島氏)

これから追加される機能を前もって宣言しておくという方法は、珍しい。また完全に別アプリとなっているメディアブラウザを新しく付けるという点も興味があるところである。これらの狙いはどういうところなのだろうか。今回はEDIUSおよびGV Browserを担当する、同社ストラテジック マーケティング エディティングシステムズのプロダクトマネージャー 片岡敦氏と粟島憲郎氏にお話しを伺った。

目玉機能はアップデート対応?

http://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2015/05/150527_EDIUS_8_screen_jp_rev3.jpg

EDIUS 8
※画像をクリックすると拡大します

──今回のアップデート内容を見ると、目玉と思われる機能のほとんどが後日の無償アップデートで対応となっていますね。いや別にそれが悪いと言うことではなく、ソフトウェアの売り方というのが変わってきているのかなと思います。
例えばAdobeにしてもMicrosoftにしても、大物ソフトウェアは月額料金のサブスクリプション型に移行しています。EDIUSのような大型パッケージソフトの売り方としても、先にお金を払ってあとから機能が届くという、クラウドファンディング的というか、先払い方式のような新しいスタイルに移行しようとしているのかなという気がするんですが。

片岡氏:ぶっちゃけて言うと、そういうことです。開発の中で基礎開発は済んでいて、こういうのやりたいというのはいっぱいあるんですね。そういうのを提供していくのにあたって、全部がきちっとできあがるのを待ってからリリースしていたのでは結局追いつかないというか、どうしても時期に乗り遅れてしまいます。今回提供を予定している機能についても、以前お客様のほうから「やるの?やらないの?」と再三きかれているところもありまして、「いや、やりますよ」と。一種のお約束になりますが、ご提供させていただきますと言うことによって、我々の今後の方向性をご連絡するということです。

──元々EDIUSは、頻繁にアップデートされるソフトウェアですよね。うっかりしているとアップデートが追いつかないこともあるぐらい。ただアップデートされて、何が変わったのかよくわからない事もあります。

粟島氏:これまでEDIUSは、これからどうなっていくんだろうというところが見えにくかったと思うんです。最新フォーマットに対応するとか、リアルタイム性とかは担保されてたとしても、どういう機能を積んでいくのというのがわかりにくかった。これは我々の伝え方もよくなかった点はあるかと思いますが。

今回はデジタルシネマのほうに行くと宣言させていただきましたけど、それもやりながら、違う仕掛けも仕込めたらいいなと思います。GV Browserというのが、そういうフックの部分ですね。

──前回取材させていただいたのが、EDIUS 7になる時でした。あの時もほぼ作り直しというレベルで64bit化対応を行ったわけですが、今回もう一度EDIUS 8という新しいプラットフォームにしなければならなかった理由はなんですか?

片岡氏:EDIUSは発売してもう12年になりますが、まだいろんなところに古い仕組みも残っています。7で64bitベースにはなったんですけど、それでもまだ若干、昔のレガシー機能を引きずってるところもありました。それで遅くなっているところがあるのを、思い切って8で変えて、新しいベースに変えていくと。

──リリース時点の目玉として、Quick Sync Videoによる高速化という点がありますよね。ユーザーにとって、これの恩恵はどれぐらいあるんでしょう?

粟島氏:実はEDIUS 7のときにも、エンコードだけはQuick Sync Videoに対応していました。今回はデコードも対応したので、編集時の再生などでリアルタイム性が上がりました。今回の発表会デモは、すべてノートPCだけでやっています。ノートで4K/30pまでやれるというところも、デスクトップアプリケーションとしてこれからどういう方向に行くべきかというトレンドを見据えた結果なんです。

kodera_44_02252a

発表会のデモはすべてノートPCで行なわれた

──言われてみれば、Quick Sync Videoのデコードに対応したというのは、これまであまり聞かないですね。

片岡氏:そこはずっとIntelさんと密接にやらせていただいてる中で、Quick Sync Videoをもっと有効に使えないかというときに、アイデアとして出てきたところです。EDIUS 8のメッセージとして、「軽い」「ノートPCでも軽快に動く」というアピールともよく合います。

GV Browserは何を狙う?

http://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2015/05/150527_GVBrowser_JP.jpg

将来はブラウザじゃなくなる?GV Browser
※画像をクリックすると拡大します

──ではEDIUS 8に付属することになる「GV Browser」ですが。なぜ今ブラウザをバンドルすることになったんでしょう?

片岡氏:元々我々はEDIUS NeoとかEDIUS Expressとか、いわゆるEDIUSをカットダウンしたバージョンをやってきました。そしてこういうアプリの将来はどうしていったらいいのかと考えたときに、プロではない一般の人が必要とする機能というのは何なんだ、というところから考えだしたんです。

もちろん簡単に編集したいというのはあると思いますが、1つのメモリーカードの中に何千枚という写真やビデオが入ってしまうようになって、自分のシステムの中に大量に素材がある。それを綺麗に整理するもの、どんなカメラのどんなフォーマットにも対応できて、軽快に見られる決定版のようなツールがないなと。

じゃあこれまでEDIUSでずっとやっている、最新のフォーマット対応とかの中で、各メーカーさんとやりとしてきたノウハウが使えるんじゃないのかと。一般的により広く使っていただくものとして、どういうツールを作るのがいいのか、そこから始まってます。

──なるほど。そうは言っても、リリース当初はファイルを見るだけ?

粟島氏:EDIUSのエンジン部分も相当使ってますので、4Kプレビューもできます。セカンドディスプレイを繋いでいただくと、ちょっとしたポンだしができたりなど、実は色々考えてあります。

基本的な考え方として、巨大なメディアプールのなかで1つのクリップをどうしたいか、そして沢山ある素材をどうまとめたいか、その2つの方向があると思うんですね。さらにそのメディアプール自体をどうしていくのか、それが問われる時代が来ると思っているんです。それはクラウド連携かもしれませんし、ちょっとカット編したものをほかに渡していくということかもしれません。いろんな可能性がある中で、まずはブラウザ機能を実装して、様々なご意見を聞き回りたいなと思っています。

──これとEDIUSとの関係は?EDIUSにもメディアブラウザがあり、BINもありますよね?機能的には被ってるんじゃないかと思いますが。

粟島氏:それは使い方のスタイルの違いですね。EDIUSまで立ち上げて仕分けをするのはしんどいなと。だったらノートPCでプレビューしながら整理して、帰ってからEDIUSでちゃんとやると。編集する前段階で綺麗に整理するということです。その点GV Browserは、Surfaceなどでキーボードを外したタブレットモードではUIが変わりますし、画面タッチで拡大できるといった機能も持たせています。

またメタデータを使った検索、例えばカメラ名や解像度で検索し、仮想フォルダにまとめるといった機能もあります。この仮想フォルダをEDIUSで読み込んで編集できます。EDIUSのソースブラウザとして、もっと連携を強化していかなければいけないし、単体でも機能強化していきます。

──では将来的にはEDIUSバンドルではなく、Neoの後継といったブラウザでは収まらないものになっていく、ということなんでしょうか。

片岡氏:元々別アプリになるという予定で開発がスタートしています。

粟島氏:次の世代のEDIUS Neoということで、ジャーナリスト、フォトグラファーなどが使えるツールになると思います。こちらはEDIUSよりも柔軟に設計されていますので、これからいろんなことがやりやすい。特にUIのところなどは、4Kの高解像度ディスプレイにも対応していますし、ここで成功した技術をEDIUSのほうに持ち込むといった事も考えています。

WRITER PROFILE

小寺信良

小寺信良

18年間テレビ番組制作者を務めたのち、文筆家として独立。映像機器なら家電から放送機器まで、幅広い執筆・評論活動を行う。