神戸国際展示場レジストレーション会場
txt:安藤幸央 構成:編集部

第8回目となるSIGGRAPHのアジア版、神戸で開催

SIGGRAPHは世界最大のコンピュータグラフィックスとインタラクティブ技術に関する学会・展示会である。そのSIGGRAPHのアジア版、第8回目となる「SIGGRAPH ASIA 2015」が、2015年11月2日から11月5日の4日間、神戸で開催された。

SIGGRAPH ASIAが日本で開催されるのは2009年に横浜で開催されて以来。今回の神戸開催では、横浜開催時よりも多い、世界49ヶ国から約7,000人の参加者があった。日本各地からの参加者はもとより、中国、韓国、台湾、マレーシア、シンガポールなど、アジア各国からの参加者も多く、大変な盛り上がりであった。海外からの参加者はKOBE Beaf(神戸ビーフ)で神戸のことを知っていた人も居たようだ。

SIGGRAPH ASIAは米国で開催される本家SIGGRAPHと比べて規模は半分ほどであるが、ディズニー&ピクサーなど、第一線で活躍するアーティスト、世界で活躍する研究者らの数多くの発表が充実しており、同じ時間帯のセッションのどれに参加するのか悩むほどであった。

今年のテーマは“[RE]volutionary”「革命的な」というもので、“[RE]”が強調されていることからも、過去に研究されていたことや、過去のノウハウを再度見直して、新しいものを作ろうという、昨今のVR(バーチャルリアリティ)ブームの再来を喚起させるものとなっている。

コンピュータアニメーションフェスティバル

Computer Animation Festival予告編

世界各国からのCG作品を集めたCAF(コンピュータアニメーションフェスティバル)では、映画の特殊効果映像や、ヨーロッパやアジアからの新しい短編作品を観ることができる。今年は特にアート系専門学校からの学生作品の投稿が多かったとのこと。


■Best in Show(最優秀賞)

タイトル:Chase Me
制作:Gilles-Alexandre Deschaud[フランス]

メイキング

この作品は、絵コンテから3DCGデータとアニメーションを作成し、そこから約2,500体のキャラクターを1コマ1コマ3Dプリンターで出力したものを使ったストップモーションアニメーション。一般的に入手できる家庭用の3Dプリンタを用い、背景や風景もほとんどが3Dプリンターで作られている。3Dプリントアウトには10ヶ月間、約6,000時間、プリンターが動きっぱなしだったとのこと。総制作期間は約2年という、驚くべき手間のかかった作品だ。


■Best Student Project(学生奨励賞)

タイトル:Natural Attraction
制作:Marc Zimmermann(監督)Pablo Almeida(プロデュース)[ドイツ]

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この作品は、ドイツの映画学校Filmakademie校出身の監督本人の卒業作品として作られたもの。自然の魅力や美しさ、厳しさを描いた作品だ。デジタル技術で、感情を視覚化し、表現することに注力した作品。


■Jury Award(審査員特別賞)

タイトル:Afternoon class
制作:Seoro Oh’s[韓国]

学校の午後、眠い時間の様子をコミカルに描いた作品。ものすごい眠い時の幻覚のようなものを、的確にCG映像で表現したもの。これを見ると、学生時代の眠かった授業を思い出すかもしれない。


■Rhizomatiks によるプレショー
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プレショーの様子(株式会社ライゾマティクス真鍋大度氏のInstagramより)

初日のシアター上映の前に、株式会社ライゾマティクスの真鍋大度氏らによる、プレショーが開催された。プレショーの舞台には24台のLEDライトを搭載し、コンピュータ制御されたドローン(複数のプロペラを持ったラジコンヘリ)と、ドローンの位置を検知するための多数の光学式モーションキャプチャ機器が配置されていた。内容は、三名のダンサー(elevenplay所属)と、24台のドローンが輝きながら連携した動きとダンスを繰り広げるというもので、そのシステムの複雑さを分かる観客でもあったため、会場のため息を誘っていた。以前から、ドローンとダンサーの組み合わせで数々の演出(振付、演出はMIKIKO氏)がなされてきていたが、24台のドローンが連携したものは、今回が初お披露目だったとのこと。

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開始前、ステージにドローンが待機しているところと、キャプチャ用のVICON T160

論文発表

今年のSIGGRAPH ASIA 2015の論文プレビュービデオ

SIGGRAPHの主軸は、論文発表であり、コンピュータグラフィックス関連はもとより、動画処理や画像処理、3Dプリンタ関連などの研究は数多く発表される。それらの研究開発内容は、数年のうちに製品に組み込まれたり、ツールとしてリリースされることが期待される。


■Real-time Expression Transfer for Facial Reenactment

リアルタイムの顔の表情の差し替えが行える技術。元素材として、実写の顔映像が必要であるが、まったく表情を変えない、素材となる人の顔映像が、もう一人の表情豊かな変化が自然な表情で刺し変わるのに驚く。注意深く見れば、若干の不自然さを見つけられるかもしれないが、説明を受けなければ実写映像としか思わない自然さを持った、顔差し替えの技術だ。


■Fast computation of seamless video loops

自然なループビデオを作成する技術。例えば滝の映像など、ループしやすい動画映像でも単純に数秒ループさせるだけではすぐ不自然さに気づき、映像がループしていることに気付いてしまう。本研究は、適度にランダムな要素を混ぜ合わせつつ、まるで長時間撮影し続けたような動画映像をループ生成することのできる技術。同様の技術は従来も研究されてきたが、違和感の無さが大幅に改良されている。背景や風景の動画素材活用として期待される技術だ。


■Video Diff
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コンピューターのコマンドで、ファイルとファイルの違いを見つけるためのdiffというコマンドがあり、本研究はある動画映像と、ある動画映像の微小な差異を見つける動画版のdiffツール。例えば、ゴルフのショットで飛距離がのびた動きの動画と、飛距離が伸びなかった時の動きの動画をタイミングをあわせて見比べ、どこの動きが違ったのかを確認することができる。他にもバスケットのショットで失敗したものと、うまくいったものを比較したり、スポーツ分野や、映像監視の分野で様々な応用が広がる研究だ。


High-Quality Hair Modeling from A Single Portrait Photo
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1枚の写真から、髪の毛の3Dモデルを作成する技術。ウェーブのかかった複雑な髪の毛からもレリーフのような3Dデータを作ることができる。


■Legolization: Optimizing LEGO Designs

どんな画像も、LEGOブロックで表現できるようにする技術。ある素材を元に構造や強度なども考えた上で、LEGOブロックで構築できるよう部品を選択する。従来はプロのLEGOビルダーしか作れなかったような複雑で大きなものも作れるよう指南してくれる。現在は、ある特定の個体だけであるが、この技術を活用してストップモーションアニメーションの制作なども期待される。


■An Interactive Tool for Designing Quadrotor Camera Shots

数枚の網羅性のある写真画像から、ドローンで撮影したようなフライスルー動画映像を作ることができる技術。ドローンで撮影済みの素材から、視点位置を変えて再編集するようなことにも使える技術。


■Real-Time Pixel Luminance Optimization for Dynamic Multi-Projection Mapping

石膏像のような素材へ、複数のプロジェクタで輝きや反射の質感も含めて投影するプロジェクションマッピング手法。元は石膏像なのに、金属質感など、CGっぽい表現が可能。単に映像を投影するだけでなく、白飛びしたような輝きの成分も考慮しているところが特徴だ。


Visual Transcripts: Lecture Notes from Blackboard-Style Lecture Videos
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動画映像に向いた読み易い、新しいタイプの字幕の提案。数学の教材を黒板に書いているような、時間軸のある内容を字幕化するのに最適な方法だ。

8Kディスプレイ展示

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その他、NHK技研とシャープの協同開発の、HDR(ハイダイナミックレンジ)対応の85型8K液晶ディスプレイが、セッション会場内でお披露目された。「北斎ジャポニズムの世界観」という8K撮影された実写映像と、Unityを活用したリアルタイム表示のデモであった。デモの開発は東京電気大学高橋研究室作成、コンピューターはELSA Japan提供とのこと。

映像体験の没入感も驚異的なものであったが、8K液晶の各ピクセルが見えないほど小さいため、何か映像を見ているというよりも高精細なポスターを見ているような感覚になり、映像表現やデジタルアートの表現も新たな領域に進化したと思わせるものであった。CG制作系、映像制作系の人達にとっては4Kでも苦労しているのに、8Kなんてとんでもない!と言われているそうだが、単に解像度が増えたことだけではなく、新たな表現、新たなビジネスチャンスがあると考えて欲しいそうだ。

実際、ハイビジョンテレビであれば理想的な映像画面と視聴者の距離は画面の高さの3倍と言われているが、8Kディプレイの場合、画面の高さの0.75倍ほどの近距離でも視聴体験が損なわれない。かなり近い距離で動画像を見ることができ、立体視ではないのに、圧倒的な没入感が感じられるのだ。

総括

今回もまた、コンピューターグラフィックスの応用分野が広がってきたことと、VRの技術やコンテンツ、パノラマ映像の機材やコンテンツがこれから伸びていく気配が感じられたSIGGRAPH ASIA 2015であった。来年夏のSIGGRAPH 2016は米国アナハイム、SIGGRAPH ASIA 2016はマカオで開催される予定だ。

WRITER PROFILE

安藤幸央

安藤幸央

無類のデジタルガジェット好きである筆者が、SIGGRAPHをはじめ、 国内外の映像系イベントを独自の視点で紹介します。