txt:raitank・編集部  構成:編集部

2017年2月、NABを前にBlackmagic Designから突如発表されたURSA Mini Proは、ついに念願のNDフィルターがカメラ本体に内蔵された。またユーザー自身で交換できる画期的なレンズマウントシステムを搭載した既存URSA Miniからのバージョンアップだった。2012年のNABで突然なんの前触れもなく“弁当箱”の異名を持つ廉価で高性能なシネマカメラ、初代BMCC(Blackmagic Cinema Camera)が登場し、業界に激震が走ってから早5年。ますます絶好調なBlackmagic Design社グラント・ペティCEOにインタビューする機会を再度いただいた(2014年11月刊行されたPRONEWS magに国内業界誌で初インタビューを実施。今回はRaitank氏と編集がタッグを組んでインタビューに臨んだ)。

グラント・ペティCEOにBlackmagic Designの気になることを直撃!

――ビデオ、シネマ、その他の映像関連事業の中で、グラントCEOが現在一番興味を持っている分野はどの辺りでしょうか?

グラントCEO:私が現在興味あるのは、デジタルフィルムカメラに放送用機能が搭載されたURSA Mini Proを市場に投入することによって、デジタルシネマの波が逆に放送やライブ配信に何をもたらすのか?ということですね。

グラントCEO:放送業界人が従来の放送用カメラと同じように使えるデジタルフィルムカメラを手に入れ、デジタルシネマのワークフローを放送業界に持ち込み、無料で手に入るDaVinci Resolveによって新しい世代のカラリストたちが業界に参入し、従来とは違う方法論で番組を制作し始めたら、一体どんな素晴らしいことが起こるのでしょうか?実際何が起こるか?この部分に関しては、ユーザー次第なので正確に予測するのは難しいですが、考えただけでエキサイティングです。未知の地平にこそ革新が生まれるものです!

――オリジナルのレンズやシネレンズの設計・製造はしないのですか?(Blackmagic社ラインナップにまだ存在しない製品はレンズくらいなのでは?)

グラントCEO:それはないですね。ENGレンズはとても高額ですし、マイクロフォーサーズ規格のもっと良いレンズがあったらいいのに!とか、なぜレンズ市場は時代の変化への対応が遅いんだろうとは思っていました。ただ、企業としての私たちの立ち位置は、変化のきっかけを作る者であることだと考えているんです。我々が起こす変化に価値や利益を見出した協業他社さんが、品質を改善しながら新製品を出してくれたら良いと思っています。

――URSA以降、御社のカメラには「シネマカメラ」という呼称が付かなくなりました。これは御社が、よりテレビや放送業界寄りになってきたという意味なんでしょうか?

グラントCEO:多くの意味で弊社の最新カメラには、過去リリースしたシネマカメラの機能がすべて含まれています。創業当初のカメラ製品は、ラインナップされていませんでした。そもそもカメラを作ることがゴールではないんです。我々がやろうとしたことは、より多くの人にグレーディングについて知ってもらうこと、実際に撮影したデータをグレーディングしてもらうことでした。もっと多くの人たちが撮影素材をグレーディングするようになれば、世界が変わる!と考えたのです。

しかしながらDaVinci Resolveを無償で提供しても、まだ課題が残っていました。高額なデジタルフィルムカメラを買える人たちと、そうではない普通のビデオカメラを使わざるを得ない人たちの“二極分化の壁”が厳然と存在していたのです。シャドー部が潰れてハイライトが白飛びする普通のビデオカメラで撮った絵は、グレーディングしたところで、もともと問題のある絵にさらに問題を増やすだけです。大昔のカラリストが画質劣化は覚悟の上で、テープ・ダビングで色をいじっていたのと変わりません。

グラントCEO:そういうわけで最初のBMCCシネマカメラたちは、できるだけ安易かつ安価にグレーディングに適したダイナミックレンジの広い絵が撮れるように設計された、いわばDaVinci Resolveの周辺機器的な存在だったのです。皆が使っているEFマウントで、高品質なRAW映像をシンプルなProRes形式で保存でき、タッチスクリーンでメタデータを操作できるカメラ。当時はそんなカメラは他にありませんでした。

グラントCEO:BMCCカメラの登場で、制作のフローやカラーグレーディングの有用性に関する認識は大いに変わりました。さらに私たちにはプロフェッショナルなカメラを作る!という目標がありました。業界に長くいるお客様たちは我々の製品に概ね好意的ではあったものの、それまで使い続けてきた放送向けカメラと同じように扱えるプロフェッショナルなカメラを望んでいたのです。技術的な問題点のほとんどはBMCCカメラで解決済みでしたが、彼らは従来の業務用カメラのデザイン的な問題点も解消したがっていました。

ただ私たちとしては、いかに安価に提供できるか?という目標は譲れません。製造・供給工程において様々な取り組みを実施し、効率化を徹底することによって、URSA Mini Proのような複雑なカメラを、今の形、今の値段で提供することができたのです。もちろん今後も、今まで以上に改善を続けていくつもりです。

――英語がネイティブでない私たちにとって、URSA(メスのクマ?)という名は、ハイエンドカメラの製品名としてはなかなか難しい製品名です。この製品名の由来を教えてください。

グラントCEO:URSAがメスのクマという意味だとは知りませんでした!実際は、URSAという製品名は私たちが吸収合併したCintel社でテレシネに使われていた有名なブランドの製品名から拝借したものです*。フィルム時代に築かれた由緒ある名前ですし、これからのデジタルフィルム時代を背負って立つカメラの製品名として相応しいのではないかと思いました。業界に長くいるお客様には、よく知られたブランド名なんです。

*Cintel社のテレシネ機 URSA Diamond などのラインナップ製品が存在した

――次の一手について教えてください。Blackmagic Design社の未来はどうなるのでしょうか?

グラントCEO:この質問にはなんと答えたら良いか?難しいですね。それを考えると夜も眠れないくらいです(笑)。よく真夜中に目が覚めてアイデアを思いつくんですが、そうなると、もう眠れません。ベッドから起き出してあれこれ仕事して、早く頭から追い出さないと。夜中に何か思いついて興奮して眠れなくなり、翌日寝不足のまま疲れた顔で出社なんて、TVドラマみたいですよね?

色々なツールが日進月歩で安く手に入るようになってきたので、そのうちオフィスに行く必要もなくなり、夜なにか思いついたら起き出してそのまま仕事を始めちゃう人ばかりになりそうですけど。

グラントCEO:私たちがとるべき進路は、そもそも複雑なんです。開発中の製品は往往にして思った通りに動いてくれません。そうなると、開発にお金がかかり過ぎるか、あるいはもっと時間を費やして技術的な変更を施さないと改善することはできません。三年前のIBCでは、開幕の前日にワークフローに問題が発覚し、もっと研究が必要なことが判明して、急遽ブースから取り下げた製品もありました。

ですから未来は予測できません。どの製品がヒットするか?誰にもわかりませんしね。でも一つだけ言えるのは、我々はこれからも一所懸命に開発を続けますし、顧客の皆さんに喜んで頂きたい、クリエイティブな選択肢を提供し続けたいということです。もしそうできたら、皆さんにとっても我々にとっても、未来はエキサイティングなものになるはずです。

WRITER PROFILE

raitank

raitank

raitank blogが業界で話題になったのも今は昔。現在は横浜・札幌・名古屋を往来する宇宙開発系技術研究所所長。