txt:オースミユーカ 構成:編集部
「人にみせるための映像の作り方」
「学校いきたくない」、「今日学童休んでいい?」。小学生になった娘は、なんとか休んで母のそばにいようと毎朝必死のネゴシエーションにいそしんでいる。私はいま噂に聞いていたとおりの“小一の壁”に打ち当たっている。
保育園時代は8時半から18時まで自動的に預けて仕事ができていたが、小学校にあがると通常15時には家に戻ってきてしまう。テレビを基本的にはみせない方針ということもあって、私が相手にする時間も多く圧倒的に仕事の時間が減ってしまい業務に支障がでまくっている。仕事より遊びが大好きでさぼり名人の私としたことが仕事の時間が減ってこんなに嘆く日がくるとは思いもしなかった。
そんな折、小学生向けに映像制作のワークショップをやって欲しいという依頼をいただいた。ただの小学生ではなくプログラミングの精鋭エキスパートたち。小学生向けプログラミングスクールのTech Kids School、Cyber Agent、Adobeの3社が共同で行っているKids Creator’s Studioという小学生クリエイター育成プロジェクトの特別講座だという。
アドビの会議室にて、二日間みっちり一緒に映像の企画から撮影、編集までの基礎を教えることになった。いままでもレクチャー形式の授業は大学でやっているけれど、制作実習のようなものは私にとってもはじめての経験だ。ただ子どもとのコミュニケーションは得意分野だから、楽しみながらはじめてのことに取り組めるというありがたいお話。今回は「人にみせるための映像の作り方」というテーマをいただいた。
アドビにて。Rushの使い方を教えてくれるアドビ田中さんも講師のひとり
沖縄、京都、大阪、埼玉と全国各地から集まった4人の小学生プログラマーたちは、実際に会ってみると、まだまだあどけなくかわいらしかった。5年生男子二人と6年生女子二人なのだが、オンライン上での仲も深まっていたらしく、共通の趣味を持つ仲間に会えた喜びとほどよい緊張感が伝わってくる。
撮影、編集、録音までのすべてをiPadで行う
まず一日目は、編集ソフトに慣れるところからはじめた。Adobe Stockから適当に50本ほどの動画をダウンロードしておき、「みている人を笑顔にさせる映像」というテーマで30秒の動画を編集してもらう。初心者向け編集ソフトAdobe Premiere Rush CCを使い、(1)カット編集→(2)テロップ・エフェクト→(3)音楽・効果音と一日かけて課題を少しずつ増やしていこうと考えていた。
しかし、のっけからなんなくソフトを使いこなしていく子どもたち。教えていないのにテロップを入れ、エフェクトをかけて動画の完成度を勝手にあげていく。Rushの操作性の良さもあり感覚的にソフトを使いこなし、音楽や効果音も上手に取り入れ、一日もたたないうちに編集の技術的な基礎をマスターしてしまった。
二日目は「他己紹介」というテーマで企画の作り方から撮影、編集と駆け足で進んだ。一番きちんと伝えたかったのは、映像のイメージをしっかりもった上で撮影に入るということ。子どもたちは編集ソフトという新たな道具を使ってみるだけで楽しくてたまらない様子だし、普段たくさんの映像をみて育っているのでなんとなくそれっぽく形にするのはうまい。でもきちんと人に伝わる映像を作るためには、構成やシナリオを練り、絵コンテを描き、撮りたい映像が頭に思い浮かんでから撮影をはじめることが大事だ。
「他己紹介動画」は、自己紹介を深堀することからはじめた。自分にどんな一面があるのか紙に書き出して探っていく。次はその書き出した紙を撮影する相手が読んで本人インタビューをし、魅力や紹介したいところをみつけていくという作業をした。映像を作る上で被写体を知る勉強や取材はとても大事な工程だ。私も彼らの間を行ったり来たりしてコミュニケーションをとることで、他己紹介が広がっていく様子を感じた。
たとえば「〇〇くんは笑い出すと60秒止まらないんだよ」ということを教えてくれる子がいた。それこそが仲良しの自分だけが知っている彼の魅力であり、他己紹介の項目として普通はなかなか思い浮かばない個性が光るポイントだ。
そういうポイントをくすぐると、すぐに取り入れて自分のものにしていく素直さは小学生ならではのかわいさ。それにしても小学生相手にどこまで教えるのかということに関しては悩ましい。技術を教えすぎたり、サンプルをみせすぎたりして自由度や発想力を奪ってしまうのももったいない。
YouTube世代は撮るのも写されるのも気負いがない
コンテを描いた後、Rushのカメラ機能を使って撮影をはじめた。自分でナレーションを読んで相手を紹介する子、インタビューで魅力を引き出す子、他己紹介に自分が出演する子など、動画の長さ以外は特に細かい指定をしなかったため、それぞれアプローチが違っておもしろい。
興味深かったのは撮影と編集を並行していく子どもがいたということ。これはRushだから可能なことだが、撮影した映像がそのままタイムラインに乗るので、1カット撮るごとに「あと12秒撮れば1分半になるな」などと秒数を確認しつつ、なんともインスタントに撮影が進んで行くのだ(笑)。
あとから並び替えたり、よりよい素材を選ぼうという概念がそもそもないのかもしれない。企画、撮影、編集という段取りを大事にしてしまう私としては、このシームレスさやYouTube世代の気負いのなさが新鮮でおもしろかった。
プレゼン慣れしている子どもたちによる試写会も盛り上がった
隙間時間に子どもたちに質問してみた。「うちの小1娘が学校をしょっちゅう休みたがるんだけど…」「わかる~」みんな深くうなずいてくれる。「そういうときは休ませればいい」それがみんなの答えだった。なかにはプログラミングにはまりすぎて宿題を忘れたことを先生に叱られ、二週間も学校を休んだことがあると語る子もいた。しかし母親の「あなたは他の子どもたちと同じことをしないでいい。自分のペースでやりなさい」という言葉に救われたという。休ませてほっておいてくれたからこそ自然にまた学校に足を運べるようになっていたとか。
アドビならではのインスタスポットは、Photoshopブラウザ。子どもたちは左上の×ボタンをこぞって押してウィンドウを消そうと遊んでいた
好きなことに夢中になって、その道を極めた子どもたちもそこに至るまでのストーリーがそれぞれある。無理に学校いかなくてもいいよ、と言ってあげられる母に私はなれるだろうか?人に教えることは自分への学びとして返ってくることがたくさんある。