txt:オースミユーカ 構成:編集部

“世界観こそすべて”でモノづくり

新型コロナウイルスを吹き飛ばすような元気一杯の楽曲が届いた。子供たちに絶大なる人気を誇るケロポンズが歌う「つるかめクス」という曲。生命保険会社の一つの取組としてその曲を元にダンス体操映像を作って欲しいという依頼だった。ケロポンズは以前に一度PVを作らせていただいたご縁もあってうれしいことこの上ない。聴くだけで元気が沸くようなパワフルな曲を映像も負けないように明るく楽しくめでたい感じにするぞ~と意気込んだ。

「日本生命」ニッセイ体操 つるかめクス

“世界観こそすべて”でモノづくりをしているので、いつもそこを決めるまでに時間がかかる。資料を見たり、ロケ地を漁ったりしている中でピンと来たスタジオにまずはロケハンに行ってみた。無駄にゴージャスでバカバカしい金ピカ空間は、ユーモア溢れるケロポンズとその楽曲にピッタリだった。カメラをぐるりと回すと360°の金襖で覆われた城のような空間。ちょっと意味不明の場所というところが面白い。どうせならカメラをぐるぐる回して、その空間の魅力も一緒に伝えたら勢いも増して強くなりそう。カメラのレンズも変えないで撮りきれるということもロケハン時に確認できたので、思い切って3分のワンカット長回しで行くことにした。

ワンカット撮影は事前準備が全てを決めると言ってもいいほどだ。今回はダンスものだったので、まずは曲を解体して、歌詞とカメラ位置、カメラと演者の動きのシンクロ、ダンス中の出入りのタイミングなど一つずつ決めて、スタッフや演者と共有するためのビデオコンテを作った。同時にオーディションや音楽録音も進む。音楽スタジオにも呼んでいただき、スタッフやクライアントと一緒にコーラスにまで参加させてもらう。こうやってタレントもクライアントもごった煮で作業が進むと、みんなで一緒に作っている手作り感が増してどんどん楽しくなっていく。

ケロポンズのお二人も、スタッフの皆さんも遊んでいるような雰囲気で笑いながらあっという間に曲ができあがる。ザ・プロフェッショナル!

時は新型コロナウイルスで撮影が厳しくなってきた春先だった。私たちの現場もなんとか撮影決行できたけど、いつもお菓子が並んでいるその横には消毒用アルコールはもちろんのこと、高級すぎるマスクも常備してあった。そして密室空間での撮影はとにかく短時間で終わらせたいのは誰もの願いだった。さてワンカット撮影は吉と出るのか凶と出るのか…。

現場はステディカム一台のガチンコ勝負。カメラマンの吉田好伸さん、滝澤智志さんも役者の動きを見ながら何度もリハーサルにのぞむ

撮影は思いの外、大がかりだった。撮影部も総勢10名ほど。役者の出入りだけでなく、照明さんもタイミングよくカメラの裏側に回り込んで脚立を立てて照明チェンジを曲中にやってのける。カメラマンは重いステディカムを背負って縦横無尽にカメラを振る。大きなかけ声をかけて役者たちを盛り上げる振付スタッフのパワーもすごい。

カメラの向きが縦横無尽に動くので照明をいかにみえない場所に仕込むかがカギ。金色を美しく出すためにも照明はとても大事だ

踊るのは7歳から75歳までの老若男女9人。しかもケロポンズのお二人は着ぐるみ衣装を着て3分踊り続けるので体力の消耗がすこぶる激しいときた。もちろんみんなの気力も集中力もそんなに長くは持たないので、一テイクずつが本気勝負だけれどこれがなかなか難しい。何しろ踊りながら移動をして、移動した先で(バミリに目線を向けることなく)きちんと立ち位置に立ってまた踊るというのを何度も繰り返さなきゃいけないのだ。さらに人物の出入りがあり、その段取りだけで私なら泡を吹きそう…。

現場の裏で色を確認しながら本番を迎える

何回かテイクを重ね、なんとか及第点を超えたOKテイクが撮れた。このままお疲れ様と言えなくもないけれど、やっぱり気持ちよく「カンペキでした!」と言って終われないのは歯切れが悪い。しかしながら踊りまくっている皆さんの顔には、明らかに疲れが滲んできた。ここで粘ってドツボにハマるというパターンも何度か経験しているし、さてさて。プロデューサーと目配せをしつつ「OKテイクが撮れたので、次のテイクで最後の祭をやります。泣いても笑ってもこれが踊りおさめになるので、全てを全部これでもかと出し切って踊っちゃってください」と大声で伝えた。すると「ウォー!!」という叫びが聞こえてきた。もう気力も体力も限界すれすれまできているのに、みなさんすごいテンションで盛り上がりまくっている。

最後の円陣を組んで大盛り上がりのみなさん

そんなこんなで、ラストのテイクは全くもって文句のつけようのない、みんなの集中力と勢いがギュギュ~ッと詰まった完璧すぎるカットが撮れた。「カット~~!最高!OK~!」と叫んだその瞬間、異様な雄叫びが上がり、本当の祭りが始まった。みんなが大声で歌いながらその場でサビを踊り始めたのだ。もう踊り疲れているにもかかわらず、完全にハイテンションで踊りまくっている。涙を流すものあり、抱き合うものあり、ハイタッチするものありで、甲子園で優勝したのかと思うほどの盛り上がり。75歳から子供から着ぐるみまで完全に揃ったワンカット撮影という緊張を強いたからゆえのこの幸せな瞬間だ。こんなとき、あぁ撮影って本当に最高だなあと思う。

WRITER PROFILE

オースミ ユーカ

オースミ ユーカ

CMやEテレ「お伝と伝じろう」「で~きた」の演出など。母業と演出業のバランスなどをPRONEWSコラムに書いています。