取材:渡邊聡 構成:編集部

オリジナル特機の制作、販売やレンタル行うMETAL WORK

第3回は、テクニカルファームの片岡会長からご紹介頂いたMETAL WORKの桝井正美さんを紹介いたします。METAL WORKには、自社サービス紹介のWebページは存在しません。サービスや取り扱い商品の告知はInter BEEのブース出展(Metal Toysとして出展)のみのブランドです。しかし、オリジナルドリーや箱馬を撮影現場で見たことがある方は多いのではないでしょうか。

METAL WORKの桝井正美氏

METAL WORKは、クレーンやドリーのオペレートやオリジナル特機の設計、製造を行っています。特に数々のオリジナル特機で話題の桝井さんですが、いったいどんな方なのでしょうか?事務所にお邪魔して話を聞いてみました。

まずは、METAL WORKのレンタルや取り扱い製品を写真で紹介します。

METAL WORKでレンタル取り扱いのエクステンション式リモートヘッド用クレーン。分割できるので、オフィス内の撮影も可能。レールもMETAL WORK自社製品で、耐荷重3,000kgの「プロフェッサートラック」

エクステンション式クレーンは、4段階の拡張が可能

METAL WORKブランドの少し大きめのドリー「スマートボーイ」8輪タイプ

桝井氏自作の組み立て式クレーンを実演

渡邊:早速ですが、自己紹介も兼ねて自作の組み立て式クレーンを見せて頂くことは可能ですか?

長いモジュラーを使わない最小限の状態を紹介しましょう。クレーンは分解して搬入可能で、エレベーターやオフィスの中に運べます。バラせば一つ一つのアームは基本的に一人で運べる重量になります。

まずクレーンのベースをセットアップし、エクステンションアームに取り付けて、安全ピンでアームを固定します。基本的に、一箇所も工具を使用しません。いかに現場で楽に作業を行うか、“横着精神”が大事です。

渡邊:ロック機構が凄い。本当に工具を使わないで、組み立てられるのですね。

今は、工具を使わない組み立てが主流です。ドイツメーカーをヒントにしています。通常は先端に遠隔操作のリモートヘッドを付けますが、短くすれば人が乗ることも可能です。せっかくなので今日は人乗りの状態にします。

渡邊:カメラマンがクレーンアームの先端に乗る需要はまだありますか?

あります。年配のカメラマンは、遠隔操作を好まない方がいらっしゃいます。そういう方は、自分で乗って操作したい希望が多いようです。

カメラマンが乗ると、極端に高くしたり、地面すれすれの低いアングルができないなど、カメラワークに制限が出ます。カメラリモートの時は、8メートルぐらいまで上げることができます。また本来でしたら、レールを併用して移動しながら上げ下げが可能です。

渡邊:このクレーンを全部、桝井さんが作られたのですか?

リモートヘッド以外はそうですね。電子機器が絡む場合は他人の力を借りています。

渡邊:凄すぎる!ちなみに、こちらのクレーンの売価はどのぐらいになりますか?

当時は、300万円ぐらいで販売しました。レールをセットにすると約400万円になります。ヨーロッパ製は700万円ぐらいですので、その約半額ですね。

短時間で車輪交換できるオリジナルドリーが話題

渡邊:METAL WORKさんはドリーやレールの設計・製造でも有名ですが、改めてご紹介いただけますか?

ドリーの自重は40、50kgのものが多く、2人で運ぶのが一般的です。しかし「BEETLE」は、カメラ限定ドリーとすることによって一人で運べるのが特徴です。TBSのテレビドラマ「下町ロケット」や「半沢直樹」の撮影でも使われました。車の中など狭い場所でも、移動撮影が可能です。

上下無段階調整式カメラマウント搭載で、カメラは好きな高さに調整できます。ボールヘッド雲台にカメラヘッドを乗せて、好きなとこで止めるだけです。人が乗っても耐荷重的には問題ありません。

ドリーとレールのセット「BEETLE」

ミニマムな国内の建築様式に対応しやすいように幅50cmのドリーとレールのトラックシステムを開発しました。軽量アルミレールの「LT NEO」を発売中です。LT NEOは片手で上がるほど軽量です。軽量なのは現場で好まれます。鉄だと重すぎて誰も手伝いにきてくれませんが、LT NEOだと楽なのでみんな手伝ってくれますし、女性でもすぐに運べます。

レールは折りたたみ式を採用し、長さもご希望に沿って作ることが可能ですので、常用車に入れて運ぶことも可能です。ジョイントは共通のバックルを採用しており、なくしても供給しやすい仕様です。

METAL WORKの中でも、もっとも軽いレールタイプ。片手でレールを上げられるし、一人で2~3本運ぶことが可能

一瞬で折りたためる

渡邊:セットアップがめちゃめちゃ早い。折り畳めるのはいいですね。

あともう1つは、人乗りタイプの「Oh!dolly」です。これが私の横着精神を本領発揮した商品です。通常、タイヤとレール兼用タイプのドリーは、車輪を変える際にはいったん箱馬に乗せないと交換できませんでした。

しかしOh!dollyはタイヤを8個搭載しており、交換中も常に内側4個は残っています。つまり、浮かす必要がありません。また、Oh!dollyも車輪交換に工具は必要ありません。タイヤ交換は、六角レンチでネジを外す作業が必要な機種が多いですが、Oh!dollyはピンを抜いてタイヤを交換し、抜いたピンを戻すだけです。箱馬に乗せずに、4ヶ所を約30秒で交換できます。こちらもテレビドラマなど、時間のない現場で使われています。

円形レール不要で滑らかな円形移動を実現するSPIN CAM

渡邊:ドリーやクレーン以外のサービスではどのようなものがありますか?

実は、ほかの特機屋さんでできないのものがこちらに回ってくることがたまにあります。例えば、現在公開中のボートレースのCMシリーズの中で、水上を走るレーサーの周りをカメラが回った少し変わったカットがあります。

SPIN CAMを使って撮影した例。22秒以降のカットでSPIN CAMが使われてる

ドローンは、人に近づいて撮影はできません。ましてや、時速80kmで走行するボートをドローンで回り込みながら撮るのは困難です。それでもゴールのカットはレーサーを回り込むアングルを要望されました。そこで、SPIN CAMを使ってこちらのカットを実現しました。

カメラはGoProを使っています。このカットが業界的に「どのように撮ったか?」みんなで謎を解くのが流行ったみたいです。実は、それを撮影したのは私たちなんです。からくりを明かすと、ヘルメットの先端は画面から切れています。その先には巨大な竹とんぼの形をした長い棒が付いており、その両側にGoProをつけています。

当初、モーターが入っていない空回りをするバージョンでうまくいくと思っていました。しかし、実験をしたらまったく駄目でした。私は電気工作には強くないので、モーターを仕込んで竹とんぼの調整を他の人に協力して頂き、ゆっくり回転するものを作りました。何回かテストを行って、スタート2週間ぐらいでようやくOKを頂くものができました。

ヘルメットに巨大な竹とんぼを搭載。「頭のこのへんで周ります」と桝井氏。撮影に使ったSPIN CAMは解体していたため、その残りのパーツを使って再現していただいた

SPIN CAMを紹介した映像

市販品より、自分で手掛けたほうがいいものができる

渡邊:桝井さんは最初から特機オペレーションだったのですか?

僕は東京・赤坂にあった東京映像芸術学院という映像学校を卒業してすぐに制作会社に入り、番組のネタをリサーチしたりするテレビ情報番組の番組ADに携わりました。しかし、10ヶ月続きませんでした。性に合わないし、あと私はいっぱい寝ないと駄目。寝られないじゃないですか?制作会社って(笑)。業界向きではありませんでした。

その後、アルバイトをしながら、東京映像芸術学院の同期だちと空き時間に自習を行う機会がありました。ホームセンターで売っている安いパイプにドアを開け閉めする滑車みたいなのをつけて、特機を作りました。知識もまったくない中で、最初は簡単なレール上で移動車が動くものでした。しかもパイプはタオルハンガー程度のもので、とても弱かったです。一回の撮影でパイプは潰れてしまい、ワンテイクしか撮れないようなものでした。

インチキクレーンとかも作りました。角材をトラス型に組んで、上下はできるけれどもその場から動けない。そんなのもありましたね。

しかし、後輩が卒業して制作会社の現場で活躍し始めると、「インチキでもいいから貸してくれ」と連絡をもらうようになりました。貸し出しをすると、金額はわずかですが支払もありました。

1円でも支払われるのならば、もっときちんとしたものを提供したいと思い始めました。三和映材社さんの前を通り掛かる時に、道路からレールを眺めて「こうなってなければいけないのか?」と研究したこともありました。

最初は当然、レールのジョイント部分のつなぎ目の状態は良くありませんでした。でも、徐々に理解し、改善できました。思考錯誤を繰り返し、低価格で金属製を使い、何十回でも使えるレールを実現できました。すると、コンサートやCMに少しずつ呼んでもらえるようになりました。

これまで、特機は個人所有しない、個人で持つ人もいない、レンタルが当たり前でした。その常識を問い直して、特機を個人で買える値段で提供を開始しました。推測の域ですが、自分で所有する人は増えていると思います。それは僕にとってはいいことですが、今までレンタルで貸していたところは厳しくなっているのかもしれません。

渡邊:桝井さんが、市販の特機を購入しなかった理由はなぜでしょうか?

特機業界は大手会社会社が4~5社、あとは中小企業で成り立っています。中小企業といっても、個人社長みたいな人たちが40~50人ぐらいいるかもしれません。

基本的に、皆さん機材を購入します。中には、1,000万円ぐらいする機材を買う方もいらっしゃいます。そうしなければ、現場から声がかからないからです。そのため、個人事業主ですが法人化して銀行から資金を借りて購入というパターンが多いようです。

僕の場合、お金を借りて機材購入するのを惜しみました。自分で作ったほうがまだ上がりもいいからです。既製品を使うと「これいいんだけれども惜しい」「なんでこんな手間のかかる」「こうしたほうがみんな楽ではないか?」と思うことが多かったです。とにかくいかに現場を楽にやるか。こんなことで時間がかかっていたらもったいない、と思うことがあり自社開発に至りました。

渡邊:最近、オーダーが多い商品はどちらになりますか?

一番多いのは軽量レールですね。やっぱり皆さんいままで鉄製を使っていて、大変な思いをしてきたと思います。特機業界は独立する方が結構多く、「他の会社でこういうの見たけど」「どこで買ったの」みたいなのを聞いて、問い合わせをよくいただきます。

小型ドリーの図面。BEETLEを元にして何ヵ所かカスタマイズしたもの

渡邊:思い入れがある自社機材を挙げて頂くとしたら、何になりますか?

みなさんに喜んでいただいたのは、もっとも重いレールの「プロフェッサートラック」でした。「軽い」「安い」を特徴としたトラックシステムを発売している中でも、プロフェッサートラックは値段もかなり跳ね上がります。しかし、ドイツ製しか発売していなかったアルミニウムを材料としたトラックシステムを日本で発売すると、「いろんなところ探して、ようやくみつけたよ」みたいな感激の声を多数いただけました。

「マイスタートラック」というシリーズの耐荷重は1.3トンですが、プロフェッサートラックはアルミニウム製で2トンの耐荷重を超えることができます。実はそこまでの荷重がかかる重い特機は国内にはないので必要ないですが、安定感がぜんぜん違います。本当に口うるさい人が、喜んでくれました。

普通のドラマレベルの撮影には、こんなスペックはまったく求められていません。オーバーなんですよ。ではなくて、CM撮影とか、むしろマニアに近いです。切断時に切り刃から火が出るぐらい硬いコーティングがしてあります。通常高額になるのでやりませんが…(笑)。

だから、数もそんなに出るものでもありません。でも安いです。やはり値段でも勝負しないといといけないですね。弊社は有名ではないので。

事務所には、切断前のマイスタートラックがずらりと並んでいた

渡邊:レールの加工、切断も桝井さんご自身で行っているのですか?

材料は何個でも正確に同じものを作る会社が近所にあります。そこで私が納得いくまで何回も作り直しをしてもらい、何百という単位で注文します。それを段差がでないように、工業用接着剤であるべき位置につけるのが私の仕事です。

ただ、その作業は大変なため失敗もします。冬と夏で全然仕上がりが変わるため、その差が出ないようにするまで何年もかかりました。

高速移動に対応した移動車を開発

渡邊:長い間特機業界で活躍されてきて、業界の変化を感じることはありますか?

ちょっと早いかもしれないですが、クレーンなど不必要になる時代がいずれくるかもしれません。高さの問題とかありますが、MoVIとかでかなりいいワークができています。「あ、これはMoVIで行けるので今回いいです」と言われることもあります。CM撮影ではレールとちょっとしたクレーンなどで結構まかなえるようになってきたなと感じています。

特機はたまには必要でしょうが、ずっと続くものではないと思っています。数は減っていくと思います。

渡邊:それでも若い人たちが特機を目指したいと希望するなら、どうしたらよいでしょうか?

希望するなら、有名な会社に入ったほうがいいでしょう。仕事の種類も多いでしょうし。ただし、怖い人もいっぱいいると思います。そもそも私は怖い人がまったく駄目です。ここにある特機は、どれも現場で怒られないように作ったものです(笑)。

渡邊:METAL WORKの今後の展開が楽しみです。すでに考えているアイデアとかあるのでしょうか?

実は、動き始めています。僕と別の電子制御のエキスパートのチームが一緒になって、電子制御系で動く大型ジンバルを開発しており、時速80kmぐらいで走れるレールを使った移動車を組み合わせたものを開発中です。

こちらはお客様からのオーダーで、開発しているわけではありません。「やってみたいね」という話で盛り上がったので「やりましょう」と決まった感じです。トップアスリートの100m競争を楽に追い越せるぐらいの移動車になる予定です。

公開できる時がきたら報告させていただきます。

WRITER PROFILE

渡邊聡

渡邊聡

1960年5月8日生まれ。東京都世田谷区出身。東放学園専門学校放送広告科卒。スチール、ムービー、テレビの撮影現場を渡り歩き、たどりついた先のポスプロでマネージャーを務めるが、無駄な作業の多さに嫌気がさし、ノンリニアオンリーのポスプロを新たに立ち上げ、番組編集作業の効率化を図り、エバンジェリストとして活躍する。MPTE 日本映画テレビ技術協会会員。