小林基己の視点VOL04メイン画像

ブリッジリンク+ビジュアル・グラフィックス(以下:VGI)による内覧会に行ってきた。ブリッジリンクは高精細LEDディスプレイをいち早く取り入れたり、球形やCUBE型LEDディスプレイなど独自のカラーを強く打ち出した大型映像を得意とする会社だ。そのブリッジリンクが2021年後半から、映像ソリューションを提供するVGIとタッグを組みバーチャルプロダクションに力を入れてきた。

東京江戸川区にある本社で、LEDを使ったインカメラVFXのデモンストレーションを含めた様々なLEDを展示した内覧会を行っているとのことでお邪魔してきた。

様々な特殊な形状のLEDを展示

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多種多様な形状のLEDはブリッジリンクの真骨頂だ

入ってまず目に入ったのは、Ticker LEDディスプレイだ。荷物棚の棚板に沿うように細いLEDが配置されていてアナウンス表示が出来るようになっている。

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Ticker LEDディスプレイ。棚のスペースを利用して情報を表示する

この最初のスペースで過去作品の制作現場のメイキング映像や、これからのプロジェクトなどのクリップを見せてもらった後に、奥に入っていくと今回の目的であるバーチャルプロダクションのシステムが組まれたスペースに出る。

独自開発のLinkBoxを介したバーチャルプロダクションの展示

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約横6m×縦3.4mの1.9㎜ピッチのLEDディスプレイを背景とするインカメラVFXのシステムが組まれていた(1.9㎜というピッチ数は4K出しで7.3m×4.1mになりモアレもあまり気にならないというバランスの良いピッチ数だ)。それとは別に照明用に横1m×縦2mの3.9㎜ピッチの高輝度LEDディスプレイも用意されている。

そこに映像を送り出すインカメラVFXのシステムをVGIが担っていた。VGIは別のメディアサーバーを介することなくUnreal Engineだけで運用するというシンプルなシステムをウリにしている。カメラの位置情報の収集も独特だ。IMU(慣性計測センサー)と二眼3Dカメラからなるセンサーから得られる情報を独自開発のLink Boxを介してUnreal Engineへ入力する方法をとっている。

これによって赤外線マーカーの設置などのわずらわしさから解放される。ただ、バーチャルプロダクションにおいてはスクリーンに写し出されるものがカメラ位置によって変化していくので、そのセンサーを正面に向けてしまうと誤認識してしまう問題があるため、VGIではセンサー部を横に向かせることで解消していた。

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今回の内覧会ではカメラはα7sを使用しており、Genlockをかけることができない。それでもフリッカーに悩まされないのはLEDの周波数の高さゆえだろう。

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カメラ上部に付けられた二眼センサーのデータを後部に配置されたLinkBoxを介してPCの送られる

かくいう私も2021年9月にここでミュージックビデオを撮影している。その時は被写体がピアノということもあり、映り込みを考えると合成が難しい状況でバーチャルプロダクションと言う選択肢に至った。その時はUnreal Engineのバージョンも4.26でトラッキングセンサーも違う機種を使っていたが、その後4.27にバージョンアップし、いろいろな経験を得て改良していくことで、より使いやすいシステムへと変化していた。

バーチャルプロダクションに限らず、撮影というのは次々と新しい難題が押し寄せてくる。どれだけ場数を踏んできているかで、事前にトラブルになりそうな要素を避けることができる。

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このアセットはゴ-テック2022に向けてデジデリックが製作したCGになる

今回用意されていたアセットのいくつかは技術展示会「ゴーテック2022」に向けて作成されたビジュアル制作会社のデジデリック制作によるもので、環境データも含まれていた。これは、ブリッジリンクとVGIの技術検証から協業に至る流れに、TSPとデジデリックが合流し共同プロジェクトとして立ち上げた一環である。

TSPが製作、映像技術を担い、デジデリックがCG作成、VGIがシステムを担当し、ブリッジリンクがLEDを提供するというバーチャルプロダクションの撮影工程をワンストップで請け負えるシステムを構築している。LEDインカメラVFX自体の制作費がかさむというイメージが強いが、このチームではミドルレンジの制作費でも実現できるようなワークフローを作るというのが目的のようだ。今後の展開にも期待したい。

床面用から透過など多種多様なLEDを展示

そして、そのバーチャルプロダクションのエリアを抜けると再び多彩なLEDが目に飛び込んでくる。

透過型LEDや円柱状になるもの、床面用LED、そして今、屋外大型ビジョンなどで注目を集めるL字型に組まれた裸眼立体視できるコンテンツの展示もあった。これだけ多種多様なLEDを目にするとこれらを使った新しいアイデアが湧いてきそうだ。

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メッシュ状で透けて見えるLEDや円筒状、踏んでも大丈夫な床置きLEDなどが展示されている
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透過型ディスプレイを拡大してみた様子。背景の窓が透けて見える
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90°で組まれた2面のLEDがある一定の視点から見ると奥行きがあるように見える裸眼疑似3D、実写も使われるケースは珍しい
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円柱状のLED

今回のLED展示の中で大きく取り上げられていたバーチャルプロダクションは、こういったLEDやシステムのエンジニアと撮影技術や演出が、絶妙のコンビネーションで成り立つ技術である。いままで映像の周辺にいたスタッフが制作現場の真ん中に立たされるわけなので、現場でのコミュニケーションも一筋縄ではいかないだろう。ただ、自分がVirtual Production Field Guideの取材を始めた2021年初めに想像していたよりも加速度を増して進化している。

まだ実験的に取り入れていこうというケースも多いが、これからの新しい撮影の形としてLEDを使用したインカメラVFXの希望を見出せるような展示になっていた。

WRITER PROFILE

小林基己

小林基己

CM、MV、映画、ドラマと多岐に活躍する撮影監督。最新撮影技術の造詣が深く、建築と撮影の会社Chapter9のCTOとしても活動。