ニコンのフルサイズミラーレスカメラ「Z f」の実機を体験させていただいたので私のインプレッションを紹介しよう。
フィルム一眼レフを思い出させるクラシカルなデザイン
Z fを初めて見た時、外観がZ fcとそっくりのように思ったが、いざ握ってみるとボディサイズは少し大きめでガッチリとした印象だ。膨らんだ曲線のグリップがボディに採用され、Z fcよりも握りやすく、外付けのグリップなどを着けなくても手持ち撮影しやすいデザインだと思う。
ボディ重量は電池込みで約700gとずっしりと重く、かつてのニコンフィルム一眼レフを使っているのだろうか?と思わせてくれる。目を瞑って握ると「新時代に作り直されたニコンF3」を手にしているようにさえ思えてくる。
ファインダー正面の「Nikon」ロゴもF3の時代のロゴみたいで懐かしい。
今回、Z fはボディカラーが黒だったことがブラック塗装好きな私にとって嬉しいところだ。
シャッターボタンにZ fcにはなかった「ねじ切り穴」がついてソフトシャッターレリーズが使えるのも嬉しい。クラシカルなデザインのZ fだからこそ、ソフトシャッターレリーズボタンや、革製のストラップ、金属製のレンズフードなどのアクセサリーにこだわって「カメラスタイルで遊ぶ」のもオススメだ。
ダイヤル操作が楽しいZ f
Z fにはカメラを構えて左側上部にISO感度設定ダイヤルがある。ISO感度ダイヤルを撮影の前に回して設定するのが楽しい。それは、あたかも「撮影前にフィルムを入れるような儀式」のように思えてくるからだ。
また、Z fには最高速1/8000から低速4秒、B、T、1/3STEPが刻まれた大きめのシャッターダイヤルが採用されている。シャッターダイヤルの回転方向が時計回りに回すと低速から高速になるのもニコンのアナログカメラの伝統を引き継いでいる。
最高速が1/8000なのはニコンF4と同じだ。最高速の1/8000はf/1.2級の大口径レンズなどを明るい所で絞り値を開けて撮影するのに有利だ。ダイヤルのクリック感も軽過ぎず、適度な重さで、動かしていて実に心地良い。カチカチ回してるだけで楽しい気持ちになってくる。
しかし、私は最新のミラーレスカメラの1/3段の露出変更に慣れているため1/3STEPのシャッター設定を行い、シャッターダイヤルはあまり使わないと思う。だが、このシャッターダイヤルがZ fに「ある」のが良いのだ。それは私がカメラ少年だった「あの頃」を思い出させてくれるから。
オールドレンズを使いたくさせるフルサイズセンサー
Z fはフルサイズセンサー搭載だからオールドレンズを「昔から慣れ親しんだ画角のまま」で使えるのが嬉しい。広角レンズは広角レンズとして、標準レンズは標準レンズとして135フィルム時代の画角そのままで楽しめる。
そもそもニコンZマウントは、大口径ショートフランジバックだから、ニコンS型距離計カメラ用のニッコールレンズやFマウントニッコールなどのオールドレンズがマウントアダプターを介して使用できる。クラシカルなデザインのZ fは、家で眠っているオールドレンズを外に持ち出して使いたいと思わせてくれる。私が所有するWニッコール3.5cm f/1.8などもデザイン的に見て、Z fにお似合いのレンズの一本だ。
裏返して畳むとフィルムカメラのようになるバリアングルファインダー
私はZ fがバリアングルファインダーなのに大賛成だ。実際にZ 30やZ fcで使ってみて、動画撮影や自撮りするのに便利だと思うし、液晶モニターをひっくり返して収納すれば、あたかもフィルムカメラの裏蓋のような見た目になる。割り切って背面液晶を使わずにEVFファインダーのみでスチル撮影すれば良い。
ところでニコンZ fは、Z 6IIと同じような心地良いメカシャッターフィーリングだ。新しく追加されたAFエリアモードも増えてAF性能が刷新された。クラシカルな外観のみならず、実戦で本格的に活用できるカメラに仕上がってると思う。
今回新しく加わったモノクロモードも楽しそうだ。ボディ上部のレバー切り替えで簡単にモノクロ撮影が楽しめる。また、ピクチャーコントロールのモノクロームの他に、フラットモノクロームとディープトーンモノクロームが新設されてモノクロ表現の幅が拡大した。さらに、ピクチャーコントロールにリッチトーンポートレートも加わった。
とにかく、Z fはミラーレスカメラとして気軽に写真を撮影できる楽しさのみならず、アナログ入力のフィルムカメラのような見た目や操作性で「機械を操作して撮影する行為そのものを楽しめる」カメラだ。また、撮影しなくても、眺めてるだけで、触ってるだけで楽しめるカメラ。いや、被写体にもなるカメラ。さらに、オールドレンズから最新のニッコールZレンズまで、あらゆる交換レンズを装着して遊べる趣味性の高いカメラだと思う。
私にとって、いつでもどこでもそばに置きたい、そして使っていきたいニコンカメラになるに違いない。Z fは、私がこれまで歩んできたカメラ人生の記憶の一つ一つを呼び起こしてくれるきっかけを作ってくれる楽しいカメラになると思う。
最後に、やはり、ニコンZ9、Z8に並ぶ現行で最高の基本性能で、かつての「フラッグシップNikon」のニコン F3PのようなデザインのZ fシリーズの頂点のカメラの登場にも期待したい。
赤山シュウ
1986年3月、東京写真専門学校報道写真学科卒業。在学中に、サンケイスポーツ新聞社写真部でアルバイト。ホテルニューオータニ写真室を経て有限会社植田カメラに入社。在職中、故植田正治氏より生き方としての写真を学ぶ。25歳から独立し、写真撮影で生計を立てていく。
人物の魅力、関わり合いを通して地域の素晴らしさ、地元ながらの生き方を訴えるフォトグラファーをめざす。