キヤノン、「CP+2024」でVR系ラインナップのコンセプトモデル3機種を一挙展示[染瀬直人のVRカメラ最前線]メイン写真

キヤノン株式会社とキヤノンマーケティングジャパンは、2024年2月22日から横浜で開催中のカメラと写真映像のワールドプレミアショー「CP+(シーピープラス)2024」にて、VRや3D撮影用に用いるAPS-C向け交換レンズ2種とコンシューマー向けの360°/180°3D VRカメラのコンセプトモデルを参考展示した。今回の連載記事では、早速、この展示について、キヤノンブースのその他のVR、MR、3D関連の展示と併せて、ご紹介する。

概要

CP+は、カメラとその関連機器を扱う一般社団法人カメラ映像機器工業会(CIPA)主催によるコンシューマーとビジネスユーザーを対象にした展示会で、2010年から、基本的に毎年開催されている(コロナ禍の2020年は中止。2021年と22年は、オンライン開催のみ)。昨年の来場者数は、リアル会場イベントが3万8,181人、オンライン会場イベントが11万8,476人となり、オンライン参加者数が、過去最高を記録した。本年は2月22~25日の4日間に渡り、およそ90社近い写真関連企業が出展して、パシフィコ横浜のリアル会場イベントとライブ配信のオンライン会場イベントが同時開催されている。2024年のキャッチフレーズは、「Noting stays the.same、さぁ レンズを向けよう、二度と来ないこの瞬間に!」。

CP+2024のキヤノンブースでは、VRや3D撮影を可能とするRFマウントの交換レンズが2機種と、コンシューマー向けの360°/180°3Dの2 in 1のVRカメラのコンセプトモデルと、一部、作例動画が披露された。

キヤノン、「CP+2024」でVR系ラインナップのコンセプトモデル3機種を一挙展示[染瀬直人のVRカメラ最前線]Vol.34
CP+2024会場のパシフィコ横浜
CP+2024会場のキヤノンブース
「CP+(シーピープラス)2024」で参考展示されたVRや3D撮影用に用いるAPS-C向け交換レンズ2種とコンシューマー向けの360°/180°3D VRカメラのコンセプトモデル

最近のキヤノンの実写VRの展開を振り返る

これまでも、本連載の中で度々取り上げてきたように、キヤノンは2021年12月に、同社初のVRカメラシステムとして、RF5.2mm F2.8 L DUAL FISHEYEレンズと、EOS R5から成る8K 180° 3DのVR映像の撮影を可能とするEOS VR SYSTEMを発表している。その後も、EOS R5 CやR6 Mark IIなど対応機種を拡大しながら、アプリも含めてアップデートを続けている。

コロナ禍で延期され、昨年、8年ぶりに行われたキヤノンの製品群と最新技術を披露するグループのプライベートイベント「Canon EXPO 2023」でも、VR系のブースは存在感を示しており、EOS VR SYSTEMによる8Kのライブ配信のデモはもとより、XR向け光学描画コンポーネントを採用した小型グラス等の光学モジュールの試作品やグラス用のマイクロ有機ELディスプレイ等の展示も印象的であった。

また、昨年4月に幕張メッセで開催された「ニコニコ超会議 2023」や、同年9月につくば国際会議場で開催された「ISU World Congress 2023 JAPAN(世界ステレオ写真大会)」などカメラショー以外でも、積極的にEOS VR SYSTEM関連の出展をおこなわれている。

キヤノンは、複数のカメラを用いて、様々なアングルから被写体を撮影して3D空間データを再構成することにより、自由視点映像を作成する「ボリュメトリックビデオ」のテクノロジーにも注力しており、キヤノン株式会社の川崎事業所内に、ボリュメトリックビデオ撮影スタジオを保有している。

キヤノン、「CP+2024」でVR系ラインナップのコンセプトモデル3機種を一挙展示[染瀬直人のVRカメラ最前線]Vol.34説明写真 キヤノン、「CP+2024」でVR系ラインナップのコンセプトモデル3機種を一挙展示[染瀬直人のVRカメラ最前線]Vol.34説明写真
Canon EXPO 2023の模様

CP+2024のキヤノンブースで参考展示されたRFマウントの交換レンズ2種類について

今回のCP+2024のキヤノンブースのVR3D系のコンセプトモデルの展示は、3機種。全てアクリルケース内に展示されている。

そのうち、APS-Cカメラに対応しているRF-Sレンズが2種類、EOS R7に装着された状態で展示された。いずれも、今年、米国のラスベガスで開催されたCES 2024で、初めて披露されたものと同じであるが、国内でのお披露目は初めてとなる。RF-Sレンズとは、EOS RシリーズのAPS-Cカメラ向けに開発されたレンズであり、イメージサークルがAPS-Cサイズなので、RFレンズより、小型で軽量に仕上げられる点がメリットだ。RFレンズ同様、バックフォーカス(レンズ最後面から撮像素子までの距離)の長さを短くとる所謂「ショートバックフォーカス」を採用することで、レンズ設計の自由度が増し、高画質化にも貢献する。また、カメラとレンズのいずれもCPUが内蔵されていて、高速に相互通信をおこなうことが可能な「新マウント通信システム」が実装されていることも特徴である。

今回の展示のうちの一方は、魚眼レンズが並列に配置されてセットになっており、EOS VR SYSYEMの「RF5.2mm F2.8 L Dual Fisheye」を小型にしたような形状のAPS-C向けステレオVRレンズである。既存の「RF5.2mm F2.8 L Dual Fisheye」は、フルサイズ用のレンズであると同時に、描写性能、操作性、耐久性や堅牢性においても、プロの厳しい要求に耐え得る高品質を実現した「Lレンズ」であった。そのシンボルとして、鏡筒には赤いラインがデザインされていることから、通称「赤玉」などとも呼ばれている。Lレンズシリーズの「L」は「Luxury」に由来しており、高級品であるが故に、コンシューマーが気軽に導入し難い場合も想定されるが、今回のAPS-C用のレンズは、エントリー層が、実写3D VRの世界へ参入するにあたり、そのハードルを下げるために開発されたものと思料される。そして、今回の展示が、CES 2024と異なる点は、このコンセプトモデルで撮影された作例動画が、世界で初めて披露されたことだ。来場者は、VRヘッドセットを装着して、動物を撮影した数種類のコンテンツを視聴・体験して、立体視を楽しむことができる。また、ヘッドセット以外に裸眼立体視表示のディスプレイ搭載のPCが用意され、コンテンツが3D表示、上映されている。

作例の動画は、立体感は維持しつつ、EOS VR SYSTEMの180°VRよりも、些か狭い視野角に設定されている。その分、実写VRならではの撮影時における制約は、緩和されるので、撮り回しは良くなるというメリットがあるはずだ。

APS-C向けステレオ3D VRレンズのコンセプトモデル
裸眼立体視ディスプレイによる3D作例動画のデモの模様

そして、もう一方のコンセプトモデルのレンズは、魚眼レンズではない小型の2つのレンズが、一つのレンズの筐体内に、並列にレイアウトされて一体となったAPS-C向けステレオレンズである。没入感よりも、立体視に主眼をおいた設計となって、視野角が狭い分、接写や小さい被写体の撮影にも威力を発揮するものと予想される。こちらも、幅広いターゲット層に向けて企画されたバリエーションモデルであるが、今回はサンプル映像の展示はない。

APS-C向けステレオレンズのコンセプトモデルの展示

もう一つは、PowerShot Vシリーズの360°/180°3D VRカメラ

前述の2機種はEOSのラインナップにおける交換レンズであったが、今回、展示されたもう一つのコンセプトモデルは、キヤノンが、昨年のPHOTONEXT 2023で国内で展示をおこない、その後、CES 2024でも披露されたPowerShot Vシリーズの360°/180°3D VRカメラである。

このカメラは、360°/180°のハイブリッド仕様で、背中合わせに二つの魚眼レンズが配置されている。デフォルトの状態では、360° 2Dが撮影でき、レンズを引き起こして並列の配置にすると180° 3Dとなって、視野角と次元(平面/立体)を変更して一台二役のVR撮影ができるところがユニークなな設計だ。

正面(Canonのブランドロゴの面)の右側面には、起動ボタン。その下に、カードとリムーバブルバッテリーのスロットのカバーが配置されている。左側には、モードボタン、Wi-Fiボタン、USBタイプCの端子が並ぶ。背面には、モニターと、その下に大きな物理シャッターボタンが配置されている。

PHOTONEXTやCESでは、コンセプトモデルの陳列のみであったが、今回の展示では、作例動画が、VRヘッドセットで視聴・体験できるので、ぜひ会場でご覧いただきたい。

大道芸のジャグリングやディアボロのパフォーマンス、そして、キリンが餌を食べる場面等が、迫力ある立体感と没入感を持って体験できる内容になっている。

また、360°全方位の美しい海辺の絶景シーンを、高画質で視聴できるコンテンツが用意されている。

新領域のデジタルカメラに位置付けられたPowerShot Vシリーズでは、昨年6月にポケットサイズのVlogカメラ「PowerShot V10」が、発売されている。

PowerShot Vシリーズの360°/180°3D VRカメラ
CP+ 2024会場のキヤノンブースでは、APS-C向けステレオVRレンズとPowerShot Vシリーズの360°/180°3D VRカメラによるサンプル映像が、VRヘッドセットで視聴できる

キヤノンブースのその他のMR/VR/3Dの展示について

EOS VR SYSTEMとしては、その他に、ゴスペラーズのステージを再現した8Kコンテンツの視聴や実機によるタッチアンドトライのコーナーが設けられている。

また、九州を拠点に活動するアイドルグループ「ばってん少女隊」のステージを、8K 60Pの180°3Dの多視点映像とヤマハの立体音響収音「ViReal」で、記録、製作されたコンテンツが体験できる。

EOS VR SYSTEMのコンテンツ視聴コーナーとタッチアンドトライのデモ
200度の広視野角を持つ高精細HMDのPIimax Vsion 8Kで、「ばってん少女隊」のコンテンツを視聴する筆者。ヘッドフォンからは、バイノーラルによる立体音響を味わうことができる

MRシステム「MREAL」のコーナーでは、新日本フィルハーモニー交響楽団による「ボレロ」の演奏を撮影したボリュメトリックビデオと、 JVCKENWOOD独自の頭外定位音場処理技術 「EXOFIELD」の立体音響により、VR空間内で個々の演奏者に近づくことで、音の大きさや聴こえ方の変化を楽しむことができるMRのデモがおこなわれている。

「MREAL」のコーナーでは、新日本フィルハーモニー交響楽団による「ボレロ」の演目のMRコンテンツを体感できる

「EOS画質の3Dのコーナー」では、オートフォーカスの精度を高めるために用いられるDual Pixel CMOS AF技術を応用して、一枚の静止画から深度情報を取得して生成されるEOS画質の3Dモデルのデモ展示が行われている。

こちらは、ブースを訪れた来場者を撮影して、生成された3D動画を、登録したメールアドレスに送ってくれるサービスが実施されていた。

本来はオートフォーカスの精度を高めるために用いられるDualPixel CMOS AF技術を活用して、一回の撮影、一枚の静止画から深度情報を取得して生成することを可能にした、EOS画質の3D画像のデモ展示の模様
会場では、ブースを訪れた来場者をEOS R5で撮影して、生成された3D画像に動きをつけた動画を、登録したメールアドレスに送ってくれるサービスが実施されていた

まとめ

キヤノンEOS VR SYSTEMの登場がもたらした功績は、高品質のVR映像の実現と、VRの撮影や編集のワークフローにおけるユーザーの負担を大きく低減できたことにあった。実写のVR映像の普及には、ハイエンドのカメラの実現や高品質なコンテンツの充実と同時に、エントリー層の拡大も必須である。

今回のCP+2024のキヤノンブースにおけるVR系コンセプトモデルの展示からは、VRや3Dのユーザーやクリエイターの裾野の拡大を図ろうとするキヤノンのビジョンを感じ取ることができるだろう。

展示は、アクリルケース内のコンセプトモデルの陳列に留まり、タッチ&トライやスペックや価格等の具体的な情報の開示はないものの、世界で初めて、作例動画が披露されているので、この機会にぜひ会場で体験していただきたい。

筆者としては、本連載でも、これらの製品を、継続して取り上げて、製品として発表・発売された暁には、詳しく紹介していきたいと考えている。

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CES 2024 キヤノンブースにおけるVR系のコンセプトモデルの展示
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CES 2024 キヤノンブース

WRITER PROFILE

染瀬直人

染瀬直人

映像作家、写真家、VRコンテンツ・クリエイター、YouTube Space Tokyo 360ビデオインストラクター。GoogleのプロジェクトVR Creator Labメンター。VRの勉強会「VR未来塾」主宰。