ニコンが2024年12月13日に発売するミラーレスカメラ「Z50II」は、エントリーモデルながら高い性能と機能を備え、それでいて低価格のカメラとして、発売前から大きな注目を集めている。本記事では、Z50IIを実際に使用し、その魅力を徹底的に検証していく。
Z50IIは、前機種であるZ 50の発売から約5年、様々な進化を遂げて登場した。画像処理エンジンには最新のEXPEED 7を採用し、AF性能や動画性能が大幅に向上。さらに、バリアングル式モニターや10bit N-Log撮影など、動画撮影に役立つ機能も充実している。
初心者の方でも安心して使える操作性と、上級者も納得の高画質・高機能を両立したZ50II。その実力を、詳細なレビューと作例を交えてお伝えしていこう。
上位機種譲りのデザインと操作性
上位機種との統一が取れたデザインとボタン配置である。Z9から続くデザインが踏襲されており、見た目も手に持った時の感触もZ6IIIと同等で非常に良い。エントリーモデルとはいえ、チープさは感じられない。
ボタン配置もそれに準じているため、上位機種のサブカメラとしても持ち替えた際に戸惑うことはない。基本的な操作は右手でほぼ行える。マウント横のファンクションボタンも2つ付いており、Z8やZ6IIIといった上位機種と同じである。
サイズはZ50と比べて約100g重く、少し大きくなっている。しかし、グリップは深く、小指も余ることがなく、Z50よりとても持ちやすい。多少重いレンズをつけてもしっかりとホールドすることができる。小型軽量化よりも使いやすさを求めるのがニコンらしい。
サイズ比較
機種 | サイズ | 重量 |
Z50II | 約127×96.8×66.5mm | 約550g(バッテリーおよびメモリーカードを含む) 約495g(本体のみ) |
Z50 | 約126.5×93.5×60mm | 約450g(バッテリーおよびメモリーカードを含む) 約395g(本体のみ) |
録画の状態がわかるタリーランプ
左肩には、上位機種には搭載されていないタリーランプが付いている。録画中に点灯するほか、バッテリー残量が少なくなった際にも点滅して状態を知らせる。
バリアングル式モニターで自由自在な撮影を
Z50IIでは、Z50で採用されていたチルト式モニターから、バリアングル式モニターに変更されている。これにより、ハイアングルやローアングル、縦長動画、自撮りなど、様々な撮影アングルに対応できるようになった。
他社のエントリーモデルでは3インチモニターが多い中、Z50IIは上位機種と同じ3.2インチモニターを採用している。画面が大きく見やすいため、ライブビュー撮影や動画撮影、メニュー操作などが快適に行える。情報表示も見やすく、撮影設定の確認やプレビューが容易だ。
内蔵ストロボ
最近のミラーレスカメラでは珍しくなった内蔵ストロボだが、Z50IIには引き続き搭載されている。これは初心者にとって大きなメリットと言える。光のコントロールに不慣れな初心者は、暗所や逆光で撮影する際に写真が暗くなりやすいが、内蔵ストロボを使用すればそのような失敗を減らせる。
また、近年ではストロボ光を正面から発光させ、90年代から2000年代に流行した「写ルンです」のようなポップで特徴的な雰囲気を再現する表現が再び注目されている。内蔵ストロボがあれば、この表現を手軽に楽しむことができる。
ただし、ストロボはビデオライトとしては使用できない。自撮り時に顔を明るくする用途など、需要がありそうな機能であるだけに少し惜しい点だ。あと、ストロボのチャージ速度は非常に遅い。
高速になった記録メディア
記録メディアにはUHS-II対応のSDカードが採用されており、写真の連写時などにおける書き込み速度が向上している。
入力端子
Z50にはなかったヘッドフォン端子が新たに追加された。また、USB端子はType BからUSB-Cへ変更となり、USB給電にも対応した。マイク端子は、バリアングルモニターを回転させた際に干渉するのが少し残念だ。
高性能な画像処理エンジン「EXPEED 7」を搭載
画像処理エンジンには、Z9、Z8、Z6IIIと同じEXPEED 7が搭載された。これにより、Z50と比べて体感スピードが大幅に向上している。起動速度、AF速度、再生画像の表示、写真と動画の切り替えなど、上位機種と比べても速度の差をほとんど感じない。
高精度AFと進化した被写体検出
オートフォーカスはハイブリッドAF(位相差AF/コントラストAF)を採用しており、上位モデルから強力なAF性能を継承している。Z50には無かった被写体検出機能も搭載され、被写体オート、人物、動物、鳥、飛行機、乗り物といった被写体を検出することが可能だ。特に「鳥」の検出機能は、上位機種のZ6IIIにはまだ搭載されていない(Z9およびZ8には搭載済み)。厳密な測定は行っていないが、被写体の検出速度は体感的に上位機種との差をほとんど感じない。また、MF(マニュアルフォーカス)時にも被写体検出機能を利用でき、被写体にピントが合った際にはフォーカスポイントの色が変化する仕組みになっている。AF機能がないオールドレンズやシネレンズを使用する際にも非常に便利だ。
上位機種に匹敵する充実の機能
近年のニコンのカメラの特徴として、ハードウェア的に搭載可能な機能は、エントリーモデルであっても惜しみなく搭載する傾向がある。他社では、初心者には不要と判断される機能を省略することで、機種間の差別化を図るケースが多い。しかし、ニコンはそうした差別化を行わず、あらゆる機能を盛り込むことで、ユーザーが長く使い続けられるカメラを提供している。
この思想は、Z50IIにもしっかりと受け継がれている。上位機種に匹敵する充実した機能を備えているため、カメラを使い込むほどにそのメリットを実感できるだろう。
また、上位機種のサブカメラとして使用する場合でも、「この機能がないのか!」と戸惑うことが少ない。上級者が使っても満足できるだけの機能と性能を備えている。
最大4K UHD 60P対応、オーバーサンプリングで高精細な映像を実現
Z50IIは、最大4K UHD(3840×2160) 60Pでの動画撮影に対応している。ただし、60P撮影時は1.5倍にクロップされる点に注意が必要だ。フルHD(1920×1080)では120Pでの撮影が可能で、滑らかなスローモーション映像を記録できる。
4K UHD撮影時は、5.6Kオーバーサンプリングにより高精細な映像を実現している。
また、前機種のZ50にあった30分の記録時間制限が撤廃された点は大きな進化点と言えるだろう。
映像制作に欠かせない10bit N-Log対応
10bit Log収録は、近年のカメラにおいて必須の技術となりつつある。Z50IIも、10bit N-Logでの動画記録に対応している。Log収録では、広いダイナミックレンジと豊かな色表現が可能になるため、カラーグレーディングやHDR制作において威力を発揮する。
さらに、最近ニコンから発表された「RED監修 N-Log用LUT」を使えば、簡単にシネマカメラのようなしっとりとしたフィルム調の色合いを再現できる。筆者も最近はこのLUTをベースにカラーグレーディングを行っている。あらゆるシーンにマッチするLUTなので、ぜひ試してみてほしい。
フレキシブルカラーピクチャーコントロールでオリジナルカラーを作る
ニコンの無料ソフトNX Studioを使えば、色相、彩度、明度、明瞭度などを自由自在に調整でき、自分だけのオリジナルカラーを作り出せる、カメラに取り込めば色を見ながら撮影が可能だ。プリセットの色調では物足りない、こだわりのあるユーザーに最適な機能である。また自分で色を作るのがハードルが高いユーザーにはニコンイメージングクラウドからクリエーターの作ったピクチャーコントロールを保存することもできる。
ボディー内手ぶれ補正非搭載の理由と影響
最近の多くのカメラに搭載されているボディー内手ぶれ補正機構は、このモデルには搭載されていない。もちろん、ボディー内手ぶれ補正機構があるに越したことはないが、その分価格が上昇し、初心者が手を出しにくいカメラになってしまっては本末転倒である。
最近のニコンのレンズには手ぶれ補正機能が付いていないものも多いが、APS-C用のレンズには手ぶれ補正(VR)機能が搭載されているものが多い。キットレンズの NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR、NIKKOR Z DX 50-250mm f/4.5-6.3 VR、そして NIKKOR Z 18-140mm f/3.5-6.3 VR もレンズ内に手ぶれ補正を搭載している。これらを試したところ、ジンバル代わりに使うなど特殊な状況を除けば、通常の撮影において十分に良好な性能を発揮した。
電子手ぶれ補正は、比較的強めに補正がかかる。カメラを振って急に止めた場合には揺り戻しが発生するため、多少の慣れが必要だ。しかし、手持ちでゆっくりとした動きで撮影する場合には特に問題なく使用できる。
またボディー内手ぶれ補正が無いのでセンサークリーニングの機能も付いていない点は留意が必要だ。
Z50IIならではの独自機能
上位機種のZ9、Z8、Z6IIIにはない独自の機能がいくつか搭載されている。エントリーユーザーに優しい機能や、便利で上位機種にも採用してほしいと思える機能も含まれている。
(1)商品レビューモード
YouTubeなどで商品レビューを行う際、基本的には顔認識で撮影することが多い。しかし、商品をカメラの前に出してもAFが顔に合ってしまうという経験があるだろう。そんな場合に便利なのが商品レビューモードだ。
このモードを使用すれば、商品を優先して認識してくれる。実際に試したところ、反応は非常に良好だった。さらに、商品レビューモード(カスタム)を使えば、商品として認識する範囲を限定することも可能だ。
(2)動画セルフタイマー
録画開始までのタイマーを2秒と10秒で設定できる機能が搭載されている。これにより、撮影前の不要な部分が記録されず、編集や投稿時の手間を省くことができる。
(3)ピクチャーコントロールボタン
ピクチャーコントロール(カラープリセット)変更メニューに簡単にアクセスできる専用ボタンを搭載。これにより、表現したい色や雰囲気にすぐ切り替えることができ、撮影中の効率が向上する。またピクチャーコントロールの選択画面はよく使うピクチャーコントロールを選択して表示することができるようになった。
(4)シーンモード
Z50にも搭載されていたが、モードダイヤルには上位機種にはないシーンモード(SCN)が用意されている。これは、さまざまな撮影シーンに合わせてカメラの設定を自動的に変更するモードだ。ポートレート、風景、こどもスナップ、夜景、料理など16種類のシーンに対応しており、カメラの設定がわからない初心者でも適切な設定で撮影が可能だ。初心者がまず簡単に撮影を楽しむことは、映像制作を長く続けるための第一歩と言える。
新型バッテリー「EN-EL25a」の搭載
Z50IIには新型バッテリー「EN-EL25a」が付属する。このバッテリーは、従来のEN-EL25(1,120mAh・8.5Wh)に比べ、容量が1,250mAh・9.5Whと若干増加している。実際に4K UHD 60P H.265 10bitで撮影した場合、バッテリー1本での記録時間は約73分だった(カタログ値は約60分)。
撮影開始から約45分でバッテリー残量が1メモリとなり、タリーランプが点滅して残量警告が表示されたが、その後も撮影を続けることができた。この結果は十分に実用的な撮影時間といえる。ただし、1日中撮影を行う場合は、予備バッテリーを持っておくのが無難だ。またモバイルバッテリーからのUSB給電にも対応しているので併せて使用すると良いだろう。
なお、バッテリー残量の表示精度については、もう少し正確に分かるようになると便利だと感じた。
熱停止:125分の連続撮影が可能
最近の4K UHD以上の高解像度での撮影では、カメラの熱停止は避けて通れない課題だ。そこで、Z50IIが熱停止するかどうかを、室温22℃の環境でテストした。なお、ニコンのカメラでは125分で記録が一度停止する仕様となっているため、これを基準とした。
4K UHD 60P H.265 10bitで撮影した結果、125分間熱停止することなく記録を続けることができた。ただし、撮影中にカメラのボディーはかなり熱くなっていた点は注意が必要だ。炎天下や高温の環境では異なる結果になる可能性があるため、その点は留意したい。
3つの選択肢から選べるレンズキット
Z50IIはボディー単体のほか、以下の3つのレンズキットが用意されている。
- Z50II 16-50 VR レンズキット(NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR)
- Z50II 18-140 VR レンズキット(NIKKOR Z DX 18-140mm f/3.5-6.3 VR)
- Z50II ダブルズームキット(NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR + NIKKOR Z DX 50-250mm f/4.5-6.3 VR)/li>
すでに欲しいレンズが決まっている場合はボディー単体で購入しても良いが、これから映像制作を始めたいという方にはダブルズームキットがおすすめだ。どちらのレンズも手ブレ補正機能を搭載しており、初心者でも扱いやすい。
また、画質も非常に優れており、「本当にエントリーモデルのキットレンズ?」と驚かされるほどだ。記事冒頭の作例はほぼNIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VRで撮影しているが、その描写の良さを感じ取っていただけるだろう。
キットレンズの次に手に入れてほしいレンズ
正直に言うと、ダブルズームキットを購入すれば、レンズを買い足さなくても満足してしまう人もいるかもしれない。しかし、ニコンには他にも魅力的なレンズが数多く存在する。
その中でも特におすすめなのが「NIKKOR Z 40mm f/2」だ。開放F値2の美しいボケ味と、170gという小型・軽量設計が魅力の単焦点レンズである。価格も3.5万円程度と比較的購入しやすい。多くのフォトグラファーからも高い評価を得ている一本だ。
実際に使用して感じたZ50IIの魅力
Z50IIを箱から取り出した瞬間、その質感に「おぉ」と思わず感動してしまった。正直、実物を触る前は「エントリーモデルだし」とあまり期待していなかった。しかし、良い意味で期待を裏切られる結果となった。
上位機種と同等の機能が搭載されており、画質も十分なクオリティだ。特に10bit N-Logでの撮影が可能な点は素晴らしく、カラーグレーディングでの作業もスムーズだ。「RED監修N-Log用LUT」を使用すれば、シネマカメラのようなしっとりとしたフィルム調の質感を楽しむことができる。また、フレキシブルカラーピクチャーコントロールを使えば、完成形をイメージしながら撮影が可能で、動画制作初心者でも印象的な映像を簡単に作り上げることができる。
「実際に仕事の現場で使用するか?」と問われれば、私の場合はZ6IIIやZ8といった機材を所有しているため、特殊な事情がない限り使用する機会は少ないだろう。しかし、それはZ50IIが劣るという意味ではなく、サブカメラやBTS(撮影現場の舞台裏)の撮影としても十分に使えるクオリティだ。
また小型なボディーは私の撮影フィールドである山岳でも気軽に持って行けて良い。山に重いカメラ持っていくのが気が引ける方にぜひオススメだ。
私が一眼レフカメラで動画撮影を始めた頃のカメラと比べると、Z50IIの性能は圧倒的に優れている。動画性能に関しては、数年前の上位モデルを超えるレベルだ。さらに、これほどの性能を持ちながら、実売価格はボディーのみで約13万円、ダブルズームキットでも20万円を切る。この価格でこれだけの機能を詰め込んでくるとは驚きだ。
最近は「iPhoneでいいよね」と言いがちだが、出てくる画を見るとZ50IIのようなカメラで撮影する意義を改めて感じた。特にエントリー層にとって、このカメラは「ミラーレスカメラを買って良かった」「ミラーレスカメラじゃないと撮れない映像が撮れた」という体験をしてほしい。Z50IIは、まさにそのための最適なカメラと言えるだろう。
Z50IIは、これから映像制作を始めたいと考える人々に自信を持っておすすめできる一台である。
製品情報
- 製品名:Nikon Z50II
- ニコンダイレクト価格:税込145,200円〜
- 発売日:2024年12月13日
井上卓郎(Happy Dayz Productions)|プロフィール
北アルプスの麓、長野県松本市を拠点に、自然やそこに暮らす人を題材とした映像作品を自然の中にゆっくり溶け込みながら作っている。現在は企業や自治体のプロモーション映像や博物館などのコンテンツを中心に、映像作品を手がけるかたわら、ライフワークとして自然を題材とした作品を制作しています。一応DaVinci Resolve認定トレーナー。
代表作:ゴキゲン山映像「WONDER MOUNTAINS」シリーズ、「くらして歳時記」など