
ワンオペレートの現場で試す「Canon EOS C80」と「Deity Microphones S-MIC 3S」
筆者は普段、Sony ILME-FX3(以下、FX3)を主軸機材として、音楽系のオフショット撮影や企業案件などを中心に活動しているビデオグラファーだ。ビデオグラファーという職種は、いわゆる「ワンオペ」の現場(1人で撮影・録音・機材管理などすべてをこなす現場)が多い。
機動性や利便性を考えFX3をメイン機としているが、写真機としてEOSを使用したこともあるのでCanon EOS C80(以下、C80)は以前から気になっていた。本記事では細かい技術仕様の話には踏み込まず、あくまで「ワンオペ視点」での使用感に絞って、現場での使用感をレポート形式でまとめた。
周知の通り、C80はCanon CINEMA EOSの人気機種であり、結論から伝えればとても優秀なカメラだったが、良い点ばかりではなくFX3と比べ気になった点も正直に伝えたい。
本体設計の合理性と操作性
特に印象的だったのポイントが2つある。その一つが「メニューや物理ボタン配置が直感的で合理的な設計になっている」ということだ。
サイズ感と重量
筆者の場合、C80を使う上で最も気になるポイントのひとつが「重量感」だった。そこでまずは、使用感に直結する本体の重さについて実際に現場で扱った感触をレポートする。
早速スペック上の比較から見ていこう。FX3の本体重量は約715g。対してC80は約1,310g(本体のみ)と、数値だけを見ればおよそ倍近い差がある。
今回の検証はオフショット撮影を想定しており、筆者のようなワンオペレーターにとって、小型・軽量な点はFX3を選ぶ理由の一つと言える。だからこそ重量を気にするわけだが、実際にC80を手にしてみた第一印象は「思ったほど重さを感じない」というものだった。
その理由は、グリップ部分の大きさと形状にある。C80のハンドグリップは非常に握りやすく、ホールド感が良いため取り回しにあまりストレスを感じなかった。さらに、C80は本体と付属品のみで完結できるシンプルな構造と機能を備えており、カバンから取り出してすぐ撮影を開始できる点も良かった。
今回のオフショット撮影ではC80にRF 24-105mm F4レンズを組み合わせて臨んだが、システムとしての重量バランスもストレスを感じることはなく、ワンオペでの長時間撮影という条件下でも、個人的には手にかかる負担は許容範囲内だった。
一方、FX3は本体が軽量であるものの、C80と比べると握力と腕力に任せてホールドする感覚だ。さらに、実際の運用では外部モニターやリグ、バッテリーなどの拡張が必須になる場面も多く、それらを組み合わせた結果、最終的には小型・軽量というメリットを活かせなくなることもある。
FX3で、軽量、コンパクトなセットアップに割り切るか、C80でバランスと機能性を選ぶか。そこは適材適所。優劣ではなく利用シーンに合わせるのが最適解である。

液晶モニターの見やすさと操作性
こちらもスペック上の数値を比較すると、FX3の液晶は7.5cm(3.0型)、約144万ドット。対してC80は3.5型、276万ドットと、サイズ・解像度ともにC80がFX3を上回る仕様となっている。
しかも、実際に撮影してみるとこの違いは、数値以上に撮影中の「安心感」や「テンション」に影響した。C80の液晶は非常に繊細で、映像の細部が見やすく、ピントや露出の判断がしやすい。特に人物のスキントーンについては、Canonらしい発色の良さと自然な階調表現が光っており、撮影の段階で「これは使える」と確信できるクオリティだった。その場で素材の質感をある程度把握できるというのは撮影者にとって大きなアドバンテージだ。
さらにC80で筆者が好きな機能として、画面上に波形モニターを表示できる機能がある。これは明るさの判断が難しい環境(暗所や逆光など)では非常に頼りになる。波形を直感的にチェックでき、外部モニターがない現場でも撮影クオリティの担保がしやすくなる。この機能が視覚的にもわかりやすく、ワンオペレーターにとって大きな魅力だ。
手ブレ補正性能の比較と現場での使い勝手
手ブレ補正の効き具合は、正直にいうとFX3のアクティブ手ブレ補正に慣れている筆者としてはやや物足りなさを感じた。FX3は画角が若干クロップされるというデメリットはあるものの、オフショット撮影のように移動しながら多様なカットを拾っていく場面では、機動性の高さが大きな武器となる。
一方C80は、全体的な補正傾向が柔らかく、意図しないブレやカクつきが出にくい点にが良かった。ボディ内補正こそ非搭載だが、電子式手ブレ補正とIS対応RFレンズとの組み合わせによって、手振れ補正の協調が効き、より高い補正効果がを生み出しているのだ。
利用シーンによって、ウエストポーチやサポートバッグの上にカメラを乗せて構えるなどの工夫をすれば、重量負荷を軽減しながら臨場感を残した表現もできる。
オートフォーカス
C80において特に好印象だったのがAF(オートフォーカス)の滑らかさだ。
AFが速すぎて違和感を覚えるような不自然さがなく、映像全体の印象がとても上品に仕上がる。これはCanonの新世代のAFアルゴリズムの恩恵である。
加えて、顔認証AFの表示枠がしっかりと画面上に出るため、今どこにフォーカスが合っているかを直感的に把握できる。この点も、先述した高解像度の液晶との相乗効果で、フォーカス確認や直感的なコントロールが行いやすい設計になっている。顔認識が迷う場面も時折あったが、そういった際には液晶のタッチフォーカスが非常に有効だ。AFの不安定な場面では、一時的にMFに切り替えて対応する柔軟さも持ち合わせておくと、撮影がスムーズに進められる。
入力端子と操作系
C80の豊富な入出力端子類は、ワンオペレーターにとって非常にありがたい仕様だ。12G SDI、HDMI出力はもちろん、音声入力としてXLR端子(mini)と3.5mmジャックのマイク端子を両立しているため、使用可能なマイクの選択肢も豊富だ。
ただし、3.5mmジャックはファンタム電源に非対応なので、コンデンサーマイクを使う際にはXLR入力を活用する必要がある。S-MIC 3Sをはじめ、多くの業務用マイクは標準XLR端子を採用しているため、今回の検証ではXLR-mini XLR変換ケーブルを使用したが、ケーブル取り回しもスッキリとしており、特に煩雑さは感じなかった。

また、個人的に高評価だったのは、音声操作の物理ダイヤルとボタン類が背面液晶の裏側に配置されており、液晶画面を開いてカメラを構えた時に右手の親指の延長線上の自然な位置にくるよう配置されていて、片手操作でも音声レベル調整がスムーズに行える。これは、予測できない音量の変化が多い音楽系のオフショット撮影では特にありがたいポイントだ。

この操作性の良さは「カメラ本体で音声も管理する」という現場において非常に大きな武器になる。
さらに、カスタムボタンも押しやすいところに配置されていて、筐体がコンパクトなFX3と比べて、C80のシネマカメラとしての機能性と使い勝手は非常に魅力的だ。
番外編:Deity Microphones S-MIC 3S
音声入力端子に触れたところで、今回C80と共に使用したDeity Microphones製のガンマイク「S-MIC 3S」も紹介しよう。
筆者は普段SennheiserのMKE600やZOOM M3を使用おり、S-MIC 3Sの軽さには驚いた。
長さも短めでカメラ前方への張り出しが少なく、撮影時に邪魔にならないので被写体との距離が近い撮影でも使いやすい。カメラに長いマイクが装着されていると、被写体が「撮られている」という意識を強く持ってしまい、表情が固くなったり自然な振る舞いが損なわれることがある。そういう意味でも、S-MIC 3Sはカメラとの一体感が高く、余計な存在感がない。
音質に関しては、聴感上ではややハイ上がりで、人の声の帯域をしっかり拾うチューニングがなされている印象だ。特に会話がメインとなるオフショット映像では「音の聞き取りやすさ」=「伝わりやすさ」につながるためこの特性は非常にありがたい。
大がかりなセッティングが難しい現場や、できるだけコンパクトに機材をまとめたい、被写体との距離感を自然に保ちたいというニーズに応える、「軽くて小さくて、ちゃんと録れる」という理想のバランスを持ったマイクだ。
なお、S-MIC 3Sはファンタム電源専用(乾電池などは入れられない)なので注意してほしい。
映像クオリティの高さ
そして、C80について特に印象的だったのポイントの2つ目が、階調、色味、暗部の情報量の多さといった映像のクオリティだ。
ISO感度と暗部ノイズ
ISO感度は6400程度までであれば実用範囲内と感じた。ISO感度を上げれば明るさを稼げるのは当たり前だが、映像がノイズだらけになってしまっては意味がない。今回の撮影ではISO 6400まで上げても気になる暗部ノイズはなく、暗いライブハウスやリハーサルスタジオなど、照明環境が不安定な場面でも安心して使うことができた。
今回は行わなかったが、機会があればトリプルベースISOを搭載したC80と、暗所に強いFX3の高感度比較なども面白い。
編集時に気がついたCanon 709の良さ
撮影後の編集工程で特に驚かされたのが、Canon 709の色補正耐性の高さだ。突然の照明変化により一部ハイライトが飛び気味になったカットでも、グレーディング時にしっかりとディテールが残っており、滑らかな補正が可能だった。暗部も階調が豊かで、アンダー気味に撮影された場面でも違和感なくトーン調整ができたことから、Canon 709のダイナミックレンジの広さと補正耐性の強さを実感した。
さらに印象的だったのは、使用したレンズRF 24-105mm F4の描写性能である。編集時に改めて素材をチェックすると、細かな質感描写や空気感の表現に優れており、シャープでありながらも自然なトーンで情報がしっかりと残っている。
このCanon C80とRF 24-105mm F4の組み合わせは、軽量で取り回しに優れつつ、ポストプロダクションでも高い編集耐性を発揮した。オフショット撮影という変化の多い現場において、非常に信頼のおける構成だと改めて感じた。
シネマティック・ドキュメンタリー撮影の作例
Canon C80では、カメラ本体のみで12bit RAW収録が可能という大きな特徴がある。
実は今回、その恩恵を活かすべく、シネマティックなドキュメンタリースタイルの作例撮影にも挑戦した。
使用したレンズは、RF24-105mm F2.8 L IS USM Z。F2.8通しで、なおかつズーム全域で高い描写力を持つこのレンズは、ドキュメンタリーに求められる柔軟性と高画質を両立する一本だ。

収録は6k12bit RAW LT、モニター出しはC-Log3で行なった。モニタリングはATOMOS SHINOBIを使用し、現場でリアルタイムにLUTを当てながらルックの確認を行った。
正直なところ、レンズとモニターを含めた総重量は決して軽くない。だが、モニターに映し出される映像を見た瞬間、その重さが吹き 飛ぶような高精細な描写力に驚かされた。
特に印象的だったのは、髪の毛の暗部階調やスキントーンの滑らかな表現力。自然光と天井照明のみというシンプルな室内光源下で急に差し込む強い日差しに対してもディテールをしっかり残してくれていた点がとても印象に残っている
屋外での人物を歩きながらの撮影ではそのまま手持ちで撮影したが自然な手ブレ感で違和感なく撮影ができた。内蔵NDフィルターのおかげで、開放F値を保ったままボケ感を活かした撮影が可能だったのも、大きな武器となった。
興味深いポイントとしては、友人のビデオグラファーが使用しているCanon V1にSony用のLUTを当てたところ、質感が非常に近かっ たとの話を聞き、今回の撮影でもSHINOBIに普段FX3で使用しているLUTを適用してみたところ、非常に近いルックが得られた。編集段階で同じLUTベースでカラーグレーディングを行ったが、想定通りのトーンに仕上げることができた。気づけば素材と向き合うのが楽しくなり、作業時間を忘れて没頭してしまうほど編集作業はスムーズかつ快適なものだった。

なお、この作例の音声はDeity MicrophonesのPR-2 Pocket Recorderも使用した。このレコーダーも非常に優秀だったので、いずれ機会があればそちらの使用感もお伝えしよう。
総評
まだすべての機能を使いこなせているとは言えないが、C80はワンオペレートで現場をこなす映像クリエイターにとって非常に扱 いやすい1台であると実感している。
FX3との比較では、価格帯や設計思想の違いから単純な優劣はつけられない部分もあるが、Canonのデジタルシネマ機としての完成度の高さは、一度触れてみる価値がある。
もちろん、筐体サイズや重量などから使用シーンはある程度選ぶ必要があるが、今までのミラーレスの動画機とは一線を画す画作りの表現力は、日々のクリエイティブにも良い刺激となり、新しい映像表現の扉を開いてくれる。
川村健司
1976年生まれ。北海道出身。現在はビデオグラファー/ミュージシャンとして活動。地元北海道で8年間PAをしていた経緯権もあり、映像と音声を融合した情報発信を精力的に行なっている。

