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ボタンのような小ささと軽量で絶大な人気のLARK M2に後継機種が登場した。Hollyland LARK M2Sはピンマイクに匹敵するプロフィール(見え方)で、デジタルマイクの高機能さを余すことなく搭載している。

シンプルで扱いやすく、マイクを目立たせないアイデアが秀逸

映像用の無線機器で評判の高いHollylandからLARK M2Sが登場した。ボタンサイズの送信機で絶大な人気があったM2の後継機種にあたり、基本的な使い勝手はM2を踏襲しつつ、M2で使いにくかった部分を改善し、さらに「目立たないマイク」を突き詰めるデザインとなっている。

まず、送信機を見ていただくと一目瞭然だが、これまでのラベリアマイクとは全く違うデザインとなっている。いや、一見するとU字型のクリップが付いた送信機に見えるのだが、マイクカプセル(収音部)はU字クリップの小さい方の先端だ。つまり、テレビなどで使われるピンマイクと同じくらいのサイズの丸い部分がマイクカプセルなのだ。

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M2Sの送信機。U字クリップの小さい方の先端がマイクカプセルで、服の外側に出す

写真を見ていただくとわかるが、ピン型のラベリアマイクを使ったのと同じ見え方でありながら、ケーブルレスなのだ。重量は7gと非常に軽量で、薄手の襟でも着崩れることがないだろう。

この形状は非常に画期的で、実際にテレビなどの収録で使ってみているのだが、取り外しが非常に簡単かつ迅速だ。プロがよく使うソニーUWPシリーズだと、マイクの設置、ケーブル捌き、送信機の取り付けと作業が多く、しかも、送信機がかなり重たいので、取り付けには腹巻きを使わなければならないこともある。さらに、送信機の状態が録音声マンからわからないので、収録の途中で衣装から送信機を取り出してもらってチェックしなければならない。

そういう点でM2Sは、そういった現場の不満点が大きく改善されている。実際に映画の現場でも、非常に迅速にマイクセッティングができてありがたかった。

クリップ型マイクカプセルは是か否か。前製品M2の不満点は解消されたか?

さて、前作になるLARK M2だが、筆者は2セット(4マイク)を使っている。とにかくマイクが小さいのが最大のメリットで、音質は悪くない。もちろん、プロ用のアナログ無線マイク(UWPシリーズなど)に比べて、独特のデジタル感のある音質にはなるのだが、インタビューや番組収録といった「人の明瞭な言葉」を録音するには必要十分だった。

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U字クリップには滑り止めのゴムが配されている。チタン合金のスプリングは軽量でありながらガッチリとホールディングしてくれ、激しい動きでも脱落の危険性は少ない

特にボタンサイズということのメリットは大きく、背広の襟、Tシャツの胸などに簡単に取り付けられた。M2はマグネットで衣服の生地の裏表から磁力で取り付けるか、洗濯バサミ式のクリップをマイク本体にマグネットで取り付けるといった方式だった。

マグネットはTシャツの胸の真ん中にでも取り付けられるために、マイクセッティングという意味では非常に柔軟性があった。これは歓迎すべきことなのだが、一方で、演者が激しく動いたりマイクに触ったりして脱落することも無くはない。そういう意味では気を使うマイクであった。さらに、ウインドジャマーは送信機全体を包む形状のために、ジャマーの取り付けが結構難しかった。

もう1つM2の問題点として、受信機のボタンやボリュームに触ってしまってセッティングが変わってしまうことだ。特にボリュームノブは触った程度ですぐに回ってしまって、ボリュームが変わってしまう事故が少なからず起きた。ただし、この点はファームウェアで改良済みで、触っても変わらないようにする「HOLDモード」が搭載された。

その他ではM2に文句をつけることはないくらいに、素晴らしいマイクだと思う。まぁ、強いて言えば、ノイズリダクションが強すぎるくらいだろうか。
このあたり、M2Sがどうなっているのか確認してゆこう。

クリップ型マイクと改良された受信機。使い勝手はどうなったか?

M2Sは、M2のマグネット式を廃して、マイクカプセル部分は1.3cm×0.63cmとピンマイク相当のU字クリップ式になった。チタン合金でできており、非常に軽量であるにも関わらず、かなり強力な挟む力があり、挟んだ時に生地などに接する部分はゴムの滑り止めが付けられている。これらによって、スポーツなどの激しい動きにも対応できる。

U字クリップ式になったことで、マグネット式に比べて取り付け位置の自由度が狭まったが、襟などに挟むことで映像に映り込むマイクカプセル部分が非常に小さくなったのも大きな進化だ。

他のデジタル式無線マイクの場合、どうしてもマイクが大きく目立つ。重量もあるので、だらしなく衣服が乱れたり、マイクがそっぽを向いたりする感じになりやすいのだが、見た目重視の現場の場合には、このU字クリップ式の利点は大きいと言える。M2で使い難かったウインドジャマーは簡単にマイクカプセルに取り付けられるようになり、そのサイズも小さく薄くなったので、衣装への影響もかなり軽減される。

M2SのU字クリップ式は、ある意味で損して得を取るという大胆な変更だが、これについては賛否があるだろう。しかし、実際に使った感想で言えば、「工夫次第で、U字クリップがいい」と評しておく。

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背広の襟には取り付けが簡単で確実。マイクの向きを考える必要もない。映像上、マイクに目が行くこともないだろう

通常のインタビューなどでは、背広などの襟(胸元)に簡単に取り付けられ、かつ、マグネットのような脱落の心配がない。Tシャツのような胸元にクリップしにくい衣装では、首元の襟に取り付けることが考えられるが、討論番組などでは顔の向きが変わることによる音質・音量の変化が避けられない。首元への設置は周囲がうるさい時には有効だが、それ以外で音質変化を伴うので避けたいわけだ。そういう意味ではU字クリップ式は扱いにくい。

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Tシャツなどの丸襟にも簡単に取り付けできる。軽いので服が乱れる影響もかなり少ない。一方で、マイクを口元から離すには、紐で首からぶら下げて服の下に入れるなど工夫も必要

ではTシャツなどへの取り付けはどうしたらいいか? 筆者はネックレスのような紐を用意して、首から下げてTシャツの下にぶら下げてもらうか、女性の場合にはブラなどに挟んでもらっている。この場合、衣擦れを回避するためにウインドジャマーを取り付ける。まぁ、面倒な場合には首元の襟に挟んでしまうが、編集時にラウドネス調整するだけで、通常のインタビュー等は問題なく使えることは付記しておく。

扱いやすい受信機とスマホによる詳細設定は便利。30時間分のバッテリーを搭載した充電ケース

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M2Sの受信機。M2とほぼ同じサイズ。操作はボリュームスイッチと電源ボタンの2つだけ。ホールドモードが搭載されていて、誤動作が避けられる

受信機は、前作のM2と同等サイズと機能を有する。操作系は3段階のボリューム(スイッチ付き)と電源ボタンの2つしかない。あとはUSB端子と音声出力ジャックだけだ。

まず、ボリュームボタンだが、無段階に回るが設定は3段階に切り替わる。これは3つのLEDで確認可能で前作M2と同じだ。このボタンは押し込むことでモードが切り替わる。短いタップではノイズキャンセリングのオンオフが切り替わり、長押しでステレオ・モノラルの切り替えができる。電源ボタンは長押しで本体のオンオフ、短いタップではボタンホールドになる。

実はM2Sにはもうちょっと機能があり、これはスマホアプリ「LARK Sound」で行う。接続方法はiOSとAndroidで異なる。iOSの場合には、受信機と専用ケーブル(USB-Lightning変換:コンボセットに付属)で接続する。アプリを立ち上げると接続され、ボリューム調整(3段階)、ノイズキャンセルの「強弱」切り替え、オートオフの設定(送受信器が接続されていない場合の電源オフまでの時間)ができる。Androidの場合には、小さな専用受信機(USB-C RX)をUSB-C端子にダイレクトに接続。USB専用受信機の場合には音量調整が5段階になる。

スマホアプリで設定されたものは、そのまま受信機に維持される。ノイズキャンセルが2段階になったのはありがたい。テレビ番組や映画のように音質が問われる場合には弱かオフで使うのがいいだろう。

発売されるのは3パッケージ。低価格なのが嬉しい

発売されるのは、

  • LARK M2S コンボ(カメラRX + USB-C RX + USB-C to Lightning変換ケーブル付き):税込24,200円
  • LARK M2S ミニコンボ(カメラRX + USB-C RX付き):税込23,200円
  • LARK M2S USB-C RX付き:税込19,800円

と、なっている。

コンボはカメラ接続とスマホ接続を前提としたモデルで、コンボとミニコンボの違いはLightning変換ケーブルの有無だ。「USB-C RX付き」は2つのマイク送信機とUSB-C接続の受信機のセットだ。

どのセットにしても、プロレベルの機能とサウンドなのに低価格なのはありがたい。一方、ライバルとなるのは先日発売となったDJI Mic miniだろう。価格もほぼ一緒だ。音質も遅延もほぼ変わらないし、電波の到達距離なども同等と言える。どちらがいいかは、運用方法で選ぶことになるわけだが、両者の違いを挙げておくと、

  • 使い勝手はでM2S(Mic miniはスマホなしでモード変更ができないなど)
  • 取り付け方は引き分け(Mic miniはかなり分厚く、服の中に入れるとかなり膨らむ)
  • 収納・持ち運びでは甲乙つけ難い(Mic miniはジャマーを付けたまま充電ケースに入れられ、送信機単体での充電ポッドが用意されているが、ケースサイズはM2Sがかなり小さい)
  • 拡張性はMic mini(比較しようがないのだが、Min miniはOsmo Pocket3などとダイレクト接続できる)
  • このように、甲乙つけ難いのだが、運用時にマイクを目立たせたくない、隠したいという用途ではM2Sが勝る。

    実際の映画で使った様子を紹介すると、筆者はM2とM2Sの両方を適宜使い分けた。前述のようにマグネットで胸元に取り付けることもあれば、U字クリップで簡単に引っ掛けることもあった。どちらも持っているのがベストだと思う。通常のインタビューやYouTubeではM2Sが圧倒的に使いやすいと思う。

    WRITER PROFILE

    渡辺健一

    渡辺健一

    録音技師・テクニカルライター。元週刊誌記者から、現在は映画の録音やMAを生業。撮影や録音技術をわかりやすく解説。近著は「録音ハンドブック(玄光社)」。ペンネームに桜風涼も。