
映像制作の世界で、ひっそりと、しかし確実にその存在感を増しているAtomos社。私もその魅力に取り憑かれた一人であり、Atomos「Ninja V」を愛用している。
しかし、残念ながらその魅力は時代を先取りしすぎていて、多くの人に理解されていないことも事実だ。数年前に話題を呼んだ「Ninja V」を手に入れたものの使いこなせず諦めた人も多いと聞く。
だが、ついに時代が追いついた。映像におけるカラーマネジメントの一般化の波が到来。そして、それに呼応するかのように、Atomos社から新しく発売されたのが「Shinobi GO」だ。
時代に合ったShinobi GO
Shinobi GOは、これまでのAtomos社製品の技術を受け継ぎながら、コストを抑えた戦略的な製品。発表時から関心を寄せていた筆者が編集部にお願いして手配いただいた「Shinobi GO」を徹底レビューする。
本記事では、カメラに明るくない筆者が、制作技術の視点からShinobi GOの魅力を掘り下げていく。
Logに対する理解
現在の動画配信サイトでよく見かけるLog撮影の説明には、首を傾げたくなるものが多い。「明るく撮る」といった説明を見かけるが、なぜそうするのか?理屈だって説明されていることも知っているが、そもそもその理屈が合っているのか?と疑問に思う。
例えば波形表示の内容を見てレンジを整える、というのも意図はわかるが、Logの画にその考えはあまり意味がない。その方法ではピークはわかるが「ハイライト付近」の状態はわからない。ピークも相対的なものしかわからない。意図はわかる。ただそれはRec.709の撮り方の視点であって、Logを活かす撮り方ではない。
そこで、ここで一度整理しよう。
- そもそもLog映像はRec.709以上のカメラの「本当の表現」を収めたもの。
- よって「本来の表現」はRec.709のモニターには表示しきれない。
- そのためRec.709に「収まるようにした」結果の見た目が、皆さんの知るLog映像の見た目。

- このようにLog撮影された絵はあくまでも圧縮されたデータのようなもので展開後に意味がある。
- そして多くの方が軽んじているが、Log形式の映像はRec.709より大きな色域(広色域規格)を使用していることが多い。
- これらのことから手動では「本来の表現」に戻すことは困難で、戻し先がRec.709なら場合によっては不可能だ。

- LUTでの処理は多くの場合はRec.709となるので、「本来の表現」ではない。
- 大まかに言えば、Log=Rec.709以上= HDRとも言える。
このようにLog形式を使った撮影はいろいろな勘違いによって、現在の一般的に知られた撮影手法では、手探りな調整となり、カメラの性能を活かしきっていないことがわかる。
できれば「本来の表現」を見ながら、収録の調整をすべきだと理解できる。
ここまでを踏まえてShinobi Goはどうか?
Shinobi GOをパッと見ると、同様なカメラに搭載目的のモニター製品と変わらないように見える。実際、それらの製品ができることは可能で、普通に使うと違いを感じにくい。わかりやすい違いは、軽量・コンパクトさとモニターの品質、HDR表示か。
しかし、実はShinobi GOにもAtomos社製品に通じる魅力がある。それはカラーマネジメント的視点での魅力だ。
カラーマネジメントの入り口になる「AtomHDR」
Shinobi GOは廉価版ながらもAtomHDRテクノロジーを搭載する。「AtomHDR」は機能としては、Log形式の映像をHDR上に展開するものであり、先に書いた通りLog形式映像の「本来の表現」はRec.709ではカラースペースが狭く展開しきれない。そこでHDRのカラースペースに展開するのだ。
この機能によって、Log形式の映像を「本来の表現」に近いものを確認できる。さらに、その際の輝度波形情報などの計測表示も利用できる。先の説明の通り、Logでの撮影には「本来の表現」を見ながら撮影調整することが望ましい。それがこの「AtomHDR」で実現できる。

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「本来の表現」を確認しながら撮影調整することで、Log形式の状態ではわからないカメラの性能を使い切ることができる。RAWでの収録の場合でも、記録中に表示される映像は多くがLog形式になった映像だ。故に同じ理屈が適用できる。
「RAWだから後からなんでもできる」という考え方は怠慢だ。確かに元の内容はある程度の幅で高品質に調整できる。ただ限度はある。元々の撮影内容が肝心だ。故に意味がある。
使用例
それでは実例を見てみよう。例はFujifilm F-Log/F-Gamut(BT.2020)だ。F-LogにAtomHDRは対応している。
- 入力内容に設定を合わせる
- モニターをHDR表示に合わせる

これで「本来の表現」に近い表示になり、HDRでの計測表示もされる。ここでのポイントはLUTを使っていないことだ。先に書いたようにLUTによって生み出された映像は多くがRec.709であり「本当の表現」ではない。そして、この「本来の表現」の見せ方は、この春からの映像制作におけるトレンドの、映像のカラーマネジメントに通じる。
カラーマネジメントとの関係
この春のPremiere Proのカラーマネジメントへの正式対応で、DaVinci Resolve、Final Cut Pro、Premiere Proの主要編集ソフトが全てカラーマネジメントへの対応を果たした。
これは近年のさまざまなカラースペースを取り扱う状況においては必然な流れだ。そして、カラーマネジメントではLog形式の素材は「本来の表現」を基準に作用する。

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そう、カラーマネジメントの一部の工程は「AtomHDR」の考えに近い。このことからも「AtomHDR」の価値がわかるだろう。「AtomHDR」によって「本来の表現」を確認しながら撮影された内容は、入力用カラースペースで解釈されるものと同様なので、作業用カラースペースでの使用を想定できるのだ。
カメラに明るくない者のハードウェア評価
先に書いたように、私は決してカメラに明るくはない。そんな視点での評価だとご理解のうえ、ご覧いただきたい。
機能としては、
- ゼブラ表示
- フォーカスピーキング表示
- LUTファイルを読み込んでの表示
- フォルスカラー機能
- フレーム表示(クロップマスク)機能
がある。
ここまでは一般的な製品でも見られる機能だろう。以降はShinobi GOの他の製品に比べての特徴と言えるものだ(筆者の知らないだけで、一部機能は保有している製品はあるかもしれない)。
1,500nits HDRディスプレイ
ディスプレイの輝度は1,500nitsだ。これだけなら他にもっと明るい製品もあると思う。ただShinobi GOの場合は、1,500nitsのHDR表示ができる。ただ明るいというわけではない。HDRは単にパネルが明るければできるわけではない、規格(EOTF)に準拠して表示する能力が必要だ。Shinobi GOにはその能力がある。
計測機能:輝度波形/ベクトルスコープ/ヒストグラム/RGBパレード
Rec.709においては計測は一般的な製品でもなくはないが、HDR換算の表示は特殊だ。
軽量・コンパクト
重量は210gとかなり軽量。さらにとても薄くコンパクト。接続するケーブルも多くの類似製品が筐体の側面に接続するためスペースをとるが、同製品では背面に接続するため余計なスペースを取らない。

USB-C 給電
NP-Fバッテリーでも稼働できるが、背面のUSB-C端子への給電で稼働することも可能。これによりバッテリーの取り回しが自由になり、バッテリー分の荷重を分散できる。

課題
良いことだけを書いても、説得力がないので苦言も書いておく。
表示パネルの色域性能はRec.709
Shinobi GOの表示パネルの色域性能は、あくまでもRec.709で、それ以上の色域表示はエミュレーションによるものだ。その性能に物足りなさを感じる場合は、上位グレードのShogunシリーズを推奨する。この場合はP3 105%の色域を持っている。この場合はP3 105%の色域を持っている。
ものは言いようだが、カメラにつけるような取り回しだと、エミュレーションの表示でも気になることはないと思う。さらに、波形などの計測表示が確認できるので、十分じゃなかろうか。
モニター解像度は1920×1080
モニター解像度は1920×1080で、4K表示はネイティブ解像度ではない。これはモニターサイズ的には問題になることはないだろう。場合によっては、ピクセル1:1の拡大表示もできる。
4Kは30Pまで
使用用途には適さない場合があるだろう。注意したい。
入力はHDMI1系統のみ
入力はHDMIのみ。SDIはない。これは製品のターゲット層には問題ないだろう。
限られた同梱品
付属する電源関係のパーツは、USB-C(2.0)ケーブルだけだ。携帯電話やスマートフォンのような状況だ。注意したい。

まとめ
Shinobi GOは、Shinobi IIの機能制限版と言える存在だが、十分な機能を維持して魅力的なコスト(2025年3月時点で税込49,940円)になっている。
いろいろ見ていくうちに上位版である、Shinobi II(2025年3月時点で税込77,000円)にも興味が出る。Shinobi IIならこれまでの機能に、カメラコントロールやタッチフォーカス、デスクイーズ表示機能、EL-Zone表示、Arri/REDサポート機能がつく。
技術的にはカラーマネジメントが標準になる今後の映像制作において、コスト/パフォーマンスともにとても魅力ある製品ではないだろうか。
ぜひ、Log撮影やRAW撮影の多いこれからの「新世代」のクリエイターはぜひチェックされたい。
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