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私の仕事現場で、HOLLYLANDを使わない日は無い…というほど、同社の製品にはお世話になっている。ロケならMarsシリーズに代表されるトランスミッターやLarkシリーズのマイク。マルチカムシステムでの収録や配信なら、ワイヤレスインカムのSolidcomシリーズやワイヤレスタリーシステムを活用している。

そんなHOLLYLANDから、またワイヤレスインカムの新製品が登場すると編集部から連絡が入った。「いや…先般、Solidcom SEが出たばかりだが」と驚きと困惑が混じったリアクションをしてしまった。

もはや、同社の全方位死角ナシのワイヤレス製品群の中に、一体何を新しく投入してきたのか、大変に興味がわいた。

Solidcom SE Pro

今回登場したのは「Solidcom SE Pro」。特徴は、DECT準拠方式の1.9GHz帯の電波を使い、伝送距離400m(1,300ft)、ノイズキャンセリング機能を備え、最大11名でのコミュニケーショングループを作ることができる。HOLLYLANDは2024年秋にリーズナブルな価格帯のワイヤレスインカムシステム「Solidcom SE」を発売したばかり。こちらは2.4GHz帯の電波を使ったモデルで、少人数チームでの使用に適した仕様で開発された。

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(左)Solidcom SE/(右)Solidcom SE Pro。ヘッドアームの内側のクッションの色で見分ける

今回新発売となる「Solidcom SE Pro」と既存の「Solidcom SE」は、ヘッドセットのデザインはほぼ一緒。形状に差異はなく、カラーリングと製品名の印字のみ違っている。既存の「Solidcom SE」は、ヘッドセットのヘッドバンドのクッション部分が「ブラック」でマスターヘッドセットのみ、ヘッドバンドの頭頂部が「ブラウン」だったが、「Solidcom SE Pro」では、クッション部分が「ダークグリーン」、マスターヘッドセットの頭頂部も同色の「ダークグリーン」となっている。

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Solidcom SE Pro。マスターヘッドセット(左)とリモートヘッドセット(右)
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左から、Solidcom SE マスターヘッドセット、リモートヘッドセット、Solidcom SE Pro マスターヘッドセット、リモートヘッドセット

また、マイクアームにシルク印刷されている製品名も当然違っており、さらに「Solidcom SE」ではアーム根元にあったグラフィックデザインも「Pro」では無くなっている。

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マイクアームのシルク印刷のデザインにも差異

電波の仕様などを除くと、Solidcom SE Pro と既存のSEは共通点・共用点も多い。マイクアームの跳ね上げ/下ろしでマイクのON/OFF対応、スピーカーニット部分に備わったマイクミュートボタン、ボリューム調整、ノイズキャンセリング機能搭載、バッテリーは同一品が使用可能、変換ケーブル(別売)によるイヤフォン使用に対応、防塵・防滴仕様…などとなっている。

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操作パネル部分。マイクミュートボタンと、音量ボタンが備わっている
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別売りの変換ケーブルを使用することでイヤフォン仕様にできる

そもそもSolidcom SEシリーズは、上位機種に当たる同社の「Solidcom C1 Pro」などで培われた仕様や機能がしっかりと活かされており、完成度の高い製品となっている。

一方で、違いも確認していこう。まずは「Solidcom SE Pro」と「Solidcom C1 Pro(In-Ear)」との違いだ。大きな違いは、デザイン(形状)の違い。C1 Proの方が線の細いデザインでよりコンパクトにまとまっている。ヘッドセットのスピーカー部分は、C1 Proがオンイヤー用のスポンジパッドとオーバーイヤー用のパッドとの交換が可能なのに対して、SE Pro はオーバーイヤー仕様のみ。

C1 Pro はオンイヤー仕様だとスピーカー周りがコンパクトになるので、首掛け利用の際もスピーカー部分がそれほど邪魔にはならないが、SE Pro はオーバーイヤーのサイズで固定されているので、アゴの下にスピーカー部分が当たり続けてしまうこともあるだろう。

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Solidcom C1 Pro との比較。C1シリーズがよりコンパクト

また、SE・SE Pro 共通でノイズキャンセリング機能を搭載しているが、いずれもノイキャン機能のON/OFF切替はできない。C1 Proシリーズではノイキャンは任意にON/OFFできる。

バッテリーは、C1シリーズと SEシリーズはでは異なるバッテリーを採用しており、C1シリーズはヘッドセット側のバッテリー挿入部に"フタ"が付いており、それを開け閉めしてバッテリーを出し入れするが、SEシリーズではヘッドセットのバッテリー挿入部分に蓋がなく、挿入されたバッテリー自体がフタになるデザインになっている。バッテリー取り替え時のアクション数が少ないのはSEの方式だ。

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ヘッドセットの重さはバッテリー込みで185.2g

また細かな話になるが、消耗品の対応も少し違っている。マイク風防・オーバーイヤーパッド・ヘッドパッド(スピーカーと反対側のアームパッド)は消耗品として交換可能パーツとなっているが、ヘッドパッドがC1シリーズではマジックテープによる脱着交換に対して、SEシリーズではシール?(粘着剤)による脱着交換となる。SEでは一度ヘッドパッドを剥がすと再利用できないと考えた方が良いだろうが、交換の必要がある劣化状態ならシールによる付け替えも合理的である。

次に、「Solidcom SE Pro」と「Solidcom SE」の違いを見ていこう。最大の違いはやはり電波の周波数だ。SE Proは1.9GHz帯、SEは2.4GHz帯となっている。SE Proの1.9GHz帯はSolidcom C1シリーズやさらに上位の Solidcom M1システムと同じ周波数帯だ。SEが採用する2.4GHz帯はWi-FiやBluetoothなども使われている帯域のため、人が多く集まるイベント会場などでは電波が途切れてしまう可能性が大きくなる。

一方で、SE Pro の1.9GHz帯はデジタルコードレス電話の通信電波として使われているほかは、業務用音響機器での採用が主で、一般の来場者などが使用している可能性は小さい周波数帯のため、混線や干渉が少なく、安定した通信を行える。

また周波数が低い方が、電波の回折現象による回り込みも多くなり、障害物の多い場所でも理屈上は2.4GHzよりも1.9GHzの方が電波の到達が(信号強度)が高くなる。

その伝送距離だが、SE Proは400m、SEは350mとなっており、SE Proの方が、伝送距離が長くなっている(いずれも見通し距離)。なお、Solidcom C1シリーズも伝送距離は350mのため、SE Proはそれを上回ることになる。

同時接続数もSE Proが向上している。既存のSEは最大5人接続となっており、「小規模」制作に最適を謳っているが、SE Proでは最大11人接続に対応する。どこまでを小規模としてどこからを中規模とするかはそれぞれだと思うが、SE Proではより大人数のスタッフが現場に対応できるようになる。

従来からのSolidcom C1シリーズの場合は、ヘッドセットのみでの構成で最大8人接続となっているので、この点でもSE Proは同時接続数を上回ることになる。なお、Solidcom C1シリーズではHUB BASE(インカムステーション)の導入で最大9人、そのHUBをデイジーチェーン(数珠つなぎ)することで最大27人まで対応できる。逆に、SE ProはHUB BASEなどは用意されていないため、接続数をそれ以上増やす手段がない。

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実践投入

大まかなスペックが分かったところで、実際に撮影収録現場で使用してみた実感や感想を記していく。

まず、SE ProとSEとで大きく違いを感じたのが「音」そのものだ。2.4GHモデルの「SE」は昨年秋から既に実際の現場で使う機会が何度かあったのだが、使ってみての印象は「タイムラグがある」「音が悪い」「ノイズキャンセルが不自然」というものだった。これは、筆者が日頃はSolidcom C1 Proや Solidcom M1などを使う環境に居ての感想だ。

「SE」は音声の伝送にタイムラグを感じられる。ヘッドセットを付けたまま、肉声が聞こえる距離で会話をすると、直接耳に入ってくる声とSEを経由して入ってくるインカムの声に時間的ズレがある事がハッキリ分かる。インカムなので多くの場合はある程度の距離が離れた場所での使用になり、このわずかなタイムラグが運用上の問題になることは無いのだが、例えばスイッチングベースで、2~3人が横並びでオペレーションしながら会話をすると、このズレが気になる。

一方、新発売の「SE Pro」はこのタイムラグを感じることが無い。Solidcom C1 などとほぼ同等の同時性を確保していると思う。実際、SE Pro を付けたまま、対面で会話をしていても全く違和感を覚えなかった。

音質に関しても、SE Pro は向上している。先のSE に感じた「音が悪い」「ノイズキャンセルが不自然」はひとまとめにして考えるべきだろう。先述のようにSEシリーズではノイキャン機能の有効/無効が切り替えられないので、常にノイキャンは効いた状態で通話することになる。

そのためノイキャンの性能は重要になってくる。従来の「SE」のノイキャンは「ノイズ処理しています!!」と分かるぐらいかなりキツめに処理が掛かっており、そのせいで通話内容にも影響が出て、不自然なアーティファクトを感じる。具体的には「言葉あたま」が少し欠けたように感じられるため、結構ストレスが溜まるものだった。

しかし「SE Pro」はそうしたノイズキャンセリングの不自然さがなくなり、環境ノイズだけが綺麗に消えている。Solidcom C1 Proシリーズの様な自然な通話が可能になっている。

今回、年末年始に掛けて、幾つかの現場で私を含めて現場のスタッフに使ってもらったが、日頃は Solidcom C1 Pro を使っている彼らからの評価も良く、Solidcom SE Pro でのコミュニケーションでも全く違和感やストレスを感じなかったそうだ。

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小規模制作チームに最適。スタッフからも好評だった

電波の飛びに関しては、Solidcom C1 と比べてもSE Pro は遜色ない。電波の飛びは、環境によって大きく変化してしまうため評価が難しいが、当ラボが毎年請け負う中継業務で、電波の飛び具合が不安な会場がひとつあるため、そこで使用できるかどうかがかなり重要になっている。

そこは中規模(約1,700席)のホールで、特徴としてはステージ背後の壁面に3段鍵盤・パイプ数3732本のパイプオルガンが設置されている。配信・中継ベースを組む際は、オーケストラ控え室で基地を作るのだが、そこは正にパイプオルガンが設置されている壁の裏側となるので、カメラが置かれている客席は分厚い壁の向こう側。電波が通っていくのは、オーケストラ控え室の左右から出てステージの上手/下手袖へ行く動線しかなく、電波の回り込みと反射で伝搬するのを期待するしかない。

ここも"年"や"客席の入り具合"によって、伝搬結果が変わってしまうので、電波の飛びが悪いときは送信機や親機をステージ袖に設置して電波の中継ポイントを作るなどの工夫をしている。

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複雑な作りのホールでも十分使えそうだ

さて、そのホールでSE Proのテストをしたところ、スイッチングベースから客席後方のカメラマンの席まで問題なく電波が飛び、通話できた。客入れが完了した満席状態では無く、客入れ開始直後のまだお客さんがまばらな状態でのテストだったが、上手く電波の回り込みができているようだ。ちなみにSEでもテストしてみたが、こちらも上記の条件では問題なし。

例年は、Solidcom C1シリーズでやや伝搬の不安定さがあったので、先の中継ポイント設置での対応をしていたのだが、今年は本番で使用した Solidcom C1 Pro でも問題なく通話か確立していた。…目に見えないから電波は難しい。

なお、2.4GHzで通信するHOLLYLAND Wireless Tally Systemも同じ場所で本番使用したが、こちらも大変に安定していた。

とにかくSolidcom SE Proは比較的条件の悪い、見通しの良くない場所でも問題なく通話ができることが確認できた。

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音質、伝送距離ともに満足できる仕上がり

まとめ

今回、レビューを書くにあたっては、このSolidcom SE Pro の販売価格を知らされていない。予想としては、当然Solidcom SE以上、Solidcom C1 Pro In-Ear未満の価格帯になると考えている。

そうであれば、小規模制作をフィールドとするユーザーには、かなりマッチする製品に仕上がっていると思う。HUB BASEなどを使った拡張性はないものの、音質や使い勝手はSolidcom C1 Proと同等と言ってもよく、伝送距離や同時接続数に至ってはC1を上回るスペックを搭載している。

Solidcom SE Proは周波数の違いからSolidcom SEとの接続互換性はないし、また同じ1.9GHz帯ワイヤレスインカムのSolidcom C1シリーズとも互換性はない。そのため、既存モデルのユーザーからすると追加アイテムとしてはそれほど食指は動かないと思うが、これから初めてのワイヤレスインカムを考えているユーザーには、ぜひ手を伸ばしてほしい製品に仕上がっている。

また、2現場以上が同時に動くような事が稀にあるならば、Solidcom C1ユーザーでもリーズナブルなSolidcom SE Proを予備セットで揃えておくのも良い。

一方で、既存のSolidcom SE(2.4GHz)は、Solidcom C1 Proユーザーからすると価格相応の音質だと感じてしまう。では、価格以外の魅力は無いのか?と言われると、そうでもない。1.9GHz帯は確かに干渉のリスクの低い周波数帯だが、施設によっては1.9GHz帯のデジタルワイヤレスマイクでシステムを構築しているところもある。その場合1.9GHz製品は持ち込めないため、2.4GHz帯ワイヤレスインカムのSolidcom SEが代替品として生きてくる。電波干渉など収録チーム側のリスクはあるが、イベントなどに影響を与えないのが何よりも最優先であるため、Solidcom SEを選択肢として考える意味は十分にある。

Solidcom SEシリーズは、品質を多少犠牲にした廉価版モデルになると考えていたのだが、今回のSE Proはその予想を良い意味で裏切ってくれた。SE ProはHOLLYLAND製品が本来持つ高い品質と安定性が組み込まれており、上位製品のユーザーでも十分に満足できる内容に仕上がっている。

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本当に、全方位死角ナシになってきたHOLLYLANDのワイヤレスインカム群。あとやってほしいことは、変換ケーブル無しでφ3.5mmイヤフォンが挿せる仕様のヘッドセットや、スピーカー無しの完全首掛け仕様のインカムなどだ。 今後もHOLLYLANDの開発力と開発速度に期待したい!

WRITER PROFILE

宏哉

宏哉

のべ100ヶ国の海外ロケを担当。テレビのスポーツ中継から、イベントのネット配信、ドローン空撮など幅広い分野で映像と戯れる。