90年代後半より日本の音楽映像シーンを最前線で目撃し続けたライター林 永子(a.k.aスナック永子)が、映像の現場を牽引するプロフェッショナルにインタビューを行う連載企画。
第2回目のゲストは若手撮影監督の清水絵里加氏。女性の撮影監督が稀少だった時代に学生生活を送った彼女が、人気カメラマンとして活躍するにいたる経緯とともに、その独創的な撮影スタイルの秘訣に迫る。

国際法と映像のダブルスクール時代

――撮影監督を目指された経緯から教えてください。

清水絵里加|プロフィール 1988年 生まれ
2011年 国際基督教大学(ICU)卒業

2013年 東京藝術大学 大学院 映像研究科 映画専攻 卒業
2021年 シネマトグラファーとして独立

もともと、中学生の頃から1人で映画館に通うくらい映画が好きで、エンドクレジットに名前が出ているのを見て「かっこいい」と思っていたんです。ただ、進路として具体的には考えていなかったのと、国際機関で働くことにも興味があったので、大学では国際法の勉強をしていました。

2、3年生で将来について考え始めた時、あらためてモノを作る仕事がしたいと思い、バイトで貯めたお金で映画美学校へ。当時は、映画、映像とは限らず、ファッション、舞台演出、ライブ演出など、大人数でモノ作りを行うジャンルの学校について調べていたのですが、映画美学校はサイトにヒットしたその日に説明会があり、行ってみたのがきっかけでした。

――お導きですね。ダブルスクールで大学と映像の学びを両立された。

昼間は大学、夕方から映画美学校の生活が1年間。映画美学校は主に演出を学ぶスクールで、生徒が書いた脚本の中から数作が選ばれ、実習で映像化する。選ばれなかった生徒がスタッフに回り、録音部、技術、ヘアメイク、編集など、いろいろな役回りを経験する中で、撮影を担当した映像を講評会で褒めてもらえた機会が何回かあり、「撮影、得意かもしれない」と興味を持ち始めました。

――そして大学卒業後は、東京藝術大学の大学院映画専攻へ。

撮影の勉強を専門的にしたかったので、映画専攻の中の撮影照明コースに入学しました。教授は北野武監督映画の撮影を長く担当されている柳島克己さん。「撮影は、人から教わるものではない」「自分で考えて、撮る」というスタンスの方でしたので、実習がとにかくコンスタントにあって、1年で何本も制作していきました。その課題も、フィルムだったり、15分の短編だったり。最終的には長編にチャレンジしました。

――機材は揃っていたのでしょうか?

当時にしては珍しいRed Oneがありました。ソニーのHVR-Z7Jもたくさんあり、16mmカメラも。学生映画にしてはハイエンドな機材が揃っていて、先輩や同期から使い方を教えてもらいながら試行錯誤を繰り返しました。

予定調和の外側にある奇跡を切り取る

――プロの現場に入ったのはいつ頃ですか?

大学院2年の夏休みに、森崎東監督の長編映画「ペコロスの母に会いに行く」の現場に助手として参加しました。その時に出会った方々とのご縁で、卒業後にも別の現場に呼んでいただき、MVやCMの現場も増えて、最終的には奥口睦さんのチームに。いつの間にかレギュラーのセカンドになっていました。奥口組には、セカンド、チーフあわせて5年間お世話になりました。初めてCMの現場に入ったときは、1カットを撮るのに何時間もかけて、クオリティを追求する姿がカルチャーショックでしたね。

――転機になった代表作などあれば教えてください。

奥口組のチーフ時代、まだ独立する前に、志賀匠監督からお声がけいただいたGRAPEVINE「ねずみ浄土」MV。ホテルの清掃員の女性が、サボって音楽を聞いて、夢の世界に入る、といった大まかな筋書きがあって、ロケーションやアングルなどはこちらのアイデアも監督に相談しながら、演出を組んでいただきました。自由度が高く、面白い現場でした。

――ジャズのインプロビゼーションのようにセッションする場面もあったと伺っています。清掃のカートに乗っているシーンも、カメラの方向感覚が変化するところが不思議でした。

撮影用のカートマスターに寝そべっていただいて、さらにその上に私が跨って撮っています(笑)。カメラには機動力のあるRonin RS2。大きいカメラだと、物理的に自分で自由にワークすることが難しく、Steadicamのオペレーターへの指示ももどかしい。セッションのように、瞬発的に、自分の身体のようにカメラを動かしたいのに、人を介すると説明が伝わりきれない一方で、Roninは行きたいところに自由に、軽やかに行ける。

――なるほど、フィジカルが伴うカメラワークは、確かに清水さんの撮る映像の魅力のひとつです。ほろよい「夢中がはじまる。」(サントリー)CMも、演者や美術セットの間をワンカット撮影で駆け抜けていらっしゃいます。

狭い動線の隙間を縫って動いています。この撮影ではRonin RS3に、カメラ本体からセンサーを切り離せるVENICE 2のエクステンションユニットを装着しました。一眼レフくらいのサイズ感のセンサーとレンズが手元にあり、そこからケーブルでつながるカメラ本体で収録しているので、自分の身体の幅さえ通過可能であれば、すれすれの狭い場所でも手持ちで移動できる。走り回る私の後ろから、ケーブルにつながれたボディ本体を持って追いかけてくる助手の方が大変でした(笑)。

――カメラアスリートですね。ポカリスエット「声の出番だ」(大塚製薬)のWeb movieも、被写体に迫る臨場感が素晴らしいです。

出演者は役者ではなく、部活に励むリアルな高校生たち。演出コンテはもちろんありましたが、その設定どおりに高校生が動けるかどうか、動いて良くなるかどうかは分からない。そこで、高校生は普段通りにスポーツに熱中してもらい、こちら側が動いて演出意図にそぐったアングルを切り取りにいっています。演出や段取りを狙い過ぎないというか、"作った感"がない方が面白いのではないかと思い、彼らと一緒に走ったり、競技をしているみたいな感覚で、躍動する瞬間を収めています。機動力重視なためカメラは小さめのソニー FX6です。

――今作もまた動体視力を活かしたフィジカルセッションですよね。臨場感を切り取る。

どんな作品に対しても、"作り物に見えたくない"。段取り、仕込みっぽさを避け、作為的にならないためにはどうしたらいいか、毎回考えながら撮影しています。もちろん確約が必要な仕事もありますが、段取りが整いすぎると、どうしても"作ったもの感"が増す。どうすれば、その人自身が発したように見えるか。予定調和から外れたところにある奇跡みたいな瞬間をキャッチアップしたいんです。

リアルタイムライブ映像で活きる臨場感

――今年撮影を担当された最新作で、思い出深い作品はありますか?

京都で開催された国内最大規模の国際音楽賞「MUSIC AWARDS JAPAN(MAJ)」のオープニング映像の生放送です。

――リアルタイムの中継を基軸に、レッドカーペットでのパフォーマンス、ライブ、インサート映像などが交錯する構成でした。そのスケールの大きさも話題となりました。

こうした大舞台に呼んでいただけるようになったのは、奥口さんの助手時代にサカナクションの無観客オンラインライブ「SAKANAQUARIUM 光ONLINE」を経験させていただいたからだと思います。ちょうどコロナ禍で、無観客配信ライブが出始めた時でした。その後、MAJのようなイレギュラーな配信だったり、ライブミックスのようなチャレンジングな映像にお声がけいただく機会が増えました。昨年は児玉裕一監督の演出によるドローンショーも撮影しました。

――最後に今後やりたいことを教えてください。

映画です。CMもMVもライブも楽しくて、なんでもやりたいというスタンスではありますが、もともと映画をやりたくてこの世界に入ってきたので、物語を、長編を、1回がっつり撮りたい。お芝居こそ、"作りもの"ではなく"生もの"だと思っていて、役者のみなさんの奇跡のような瞬間を撮影したい。物語はフィクションですが、ドキュメンタリーのような対峙の仕方でお芝居を撮りたいですね。

WRITER PROFILE

林永子

林永子

映像ライター、コラムニスト、ラジオパーソナリティ。「スナック永子」やMV監督のストリーミングサイト等にて映像カルチャーを支援。