「12K」に埋もれる本来の魅力
このシネマカメラの話をすると、必ず「12K、すごいですね!」という反応が返ってくる。かつての自分も口にした言葉ではあるが、それでは本質を見落としたままだ。
実際に使ってみて、「Blackmagic PYXIS 12K」の真価は解像度の数字にはなく、フルフレームRGBWセンサーが持つ、描写の緻密さと繊細さにあると感じた。人の眼が日頃何気なく捉えている、実は圧倒的なダイナミックレンジの中にある世界。その質感の密度、対象の微細なテクスチャー、影の中にも存在する幾層にも連なる色と光の奥行き。そういうものを人間の眼と同じような感覚で「記録できる」センサーを有する、それがこのカメラを体験した後の自分なりの評価だ。

今回の作例は、石上純也が設計したことでも知られる、神奈川工科大学のKAIT広場で撮影した。複雑な陰影を持つ空間に人物も景色として溶け込ませながら、光と影が交差する瞬間を丁寧にありのままに捉えていった。使用レンズはSIGMA AF CINE LINE 28-45mm T2 FF(Lマウント)。シグマ初のAF対応シネレンズで、28-45mm F1.8 DG DN Artの光学系を継承しながら、シネ仕様のフォーカスリング、M0.8ピッチのギア、クリックレス絞りリングを備えた本格的な映像制作向け仕様だ。

PYXIS 12KのLマウントとの組み合わせでは、AFを使うことでピント合わせが簡略化され、ワンオペでも現場をスムーズに回すことができた。
作例
Hair & Make : Mari Takahashi
Model : Sakuko
階調の豊かさ、そしてクロップ耐性というもうひとつの武器
KAIT広場での撮影でまず感じたのは、「そのままが写し込まれる」という感覚だった。
四角に切り取られた、ランダムに配置される天窓からの陽光の回り込みは、曇った時ほどより複雑な表情をみせる。16ストップのダイナミックレンジを持つPYXIS 12Kは、ハイライトの飛びとシャドーの潰れを同時に抑えながら、その間にゆったりと広がる中間調をびっしりと記録していた。
DaVinci Resolveではじめて素材を開く時の、12Kというからには「どこまでリッチな画が撮れているのか?」という少し意地悪く試そうとする気持ちは、もうどこにもなかった。

そして、ここからこのセンサーが12Kであることの「本当の意味」が効いてくる。
クロップ耐性だ。
オープンゲート(12,288×8,040)で収録した素材は、4Kに換算すると約12倍のピクセル情報を持っている。ポスプロで好きな位置にリフレームできるし、電子手ブレ補正でクロップをかけても解像感は落ちない。複数のカットをシングルショットから作り出すことも可能だ。
KAIT広場での撮影でも、人物を広く引いて収録しておいて、後処理で寄りのショットを切り出したり、擬似的にズームイン・アウトすることも容易だった。ここは6K素材では難しく、8K素材であっても慎重になるところだ。
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今回セットで使用した、Sigma AF Cine Line T2 FF 28-45mmのズーム域は、この運用と組み合わせるのに十分だと感じた。テレ端が足りないのではと思ったが、12Kを生かすには程よい広さと倍率だった。例えば85mmなどの中望遠レンズを使う場合、最初からシビアな構図づくりとピント操作に時間を費やすことになるが、その必要もない。12Kの情報量があってこそ成立する、SIGMAシネレンズとの贅沢な組み合わせであり、ワンオペにとっても都合がよかった。
「誰が使うべき一台か?」
ここで少し立ち止まって、正直に書く。
PYXIS 12Kは素晴らしいカメラだ。だが、全員に勧めたいカメラかというと、そうではない。むしろ、ターゲットが少々絞りにくい機種でもある。
ボックスタイプという設計思想は、コンパクトで拡張性が高い反面、そのまま撮り始めることはできない。ハンドルもグリップもモニターも、用途に応じて自分で組み上げる必要がある。12KのBRAWを毎日大量に回せるストレージ環境と、それを扱えるポスプロ体制も必要だ。映像制作のパイプライン全体を個人やチームでコントロールできる人でないと、この機種の力は出し切れない。

それでいて、「全方位的に使いやすいカメラ」でもない。ボディ内手ぶれ補正も、NDフィルターも非内蔵だ。そこはシビアにみるポイントだろう。
今回はワンオペでのテスト撮影となったが、2人以上のチームでの運用が好ましい。アシスタントのみならず、フォーカスプラーもぜひアサインしてほしい。そうすることでこそ、このシネマカメラはより真価を発揮するといえる。
総評──圧倒的な密度と自由度が、この価格で
繰り返しになるが、PYXIS 12Kは「12Kカメラ」として語られることが多いが、それは本質ではない。フルフレームRGBWセンサーが生み出す繊細な描写、16ストップの階調、そして12Kゆえのクロップ耐性がもたらすポスプロの自由度。その上位のシネマカメラであるBlackmagic URSA Cine 12K LFと同等のセンサーが、税込832,800円で手に入る。
使い手を選ぶカメラであることは間違いない。だが、映像制作のパイプラインを自分で組み立てられる人、そしてすでにBMDエコシステムの中にいる人にとって、シネマカメラのラインナップが充実しはじめた制作環境において、他者から一歩抜きん出るという意味でもこのカメラが開く扉は大きい。
RAWやLOGでの撮影環境が充実してきた中で、素材自体のクオリティをもう一段あげたいと、撮影・編集の度にストレスをためている制作者はわたしだけではないはずだ。そんな、タフな個人、そしてさらなるステップアップを目指すチームにこそ、12Kという数字に引きずられず、センサーが記録する世界の豊かさに意識と眼を向けてほしい。そこにこのカメラの本当の価値がある。
宮下直樹(TERMINAL81 FILM)|プロフィール
フリーランスのフォトグラファー・シネマトグラファー
写真・映像、ドキュメンタリーから空撮まで。
視覚表現の垣根を超えた小さな物語を縦横無尽に紡ぐ。
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