FX5を現場で使ってみる
ソニーからCinema Lineの新モデル「FX5」が登場しました。
7月22日の発表から約1カ月。すでに国内外で数多くのレビューが公開されており、基本的なスペックや新機能についてはご存じの方も多いでしょう。
そこで今回は細かなスペック紹介は最小限に留め、実際の撮影現場で使って感じたことを中心にお伝えします。
私は普段、FX2、FX3、FX9の3台を案件や現場に合わせて使い分けている、割とヘビーなFXシリーズユーザーです。今回レビューのためにFX5をお借りし、各種テストに加えて、とあるアイドルグループのダンスMV撮影への実戦投入もしました。
内部RAW、進化したAF、強力な手ブレ補正、Open Gate。
実際に使ってみると、これらは単に「できることが増えた」だけではありません。これまで必要だった機材や作業、場合によっては人員まで減らせる可能性が見えてきました。
このサイズでここまでできるようになったFX5は、これからのFXシリーズの姿を少し先取りしているようにも感じます。
今回は、そんなFX5を現場目線で見ていきたいと思います。
FX5で気になった進化
細かなスペック紹介は省きますが、FX5には触れておきたいアップデートが盛り沢山です。まずは実際に触って、特に気になったものをいくつか紹介します。
実務でありがたい3つのBase ISO
FX5では、ISO 800 / 4000 / 12800という3つのBase ISOを選択できるようになりました。
FX2、FX3、FX9を使ってきた経験では、高感度側が4000だと低照度の屋内では使いやすい反面、日暮れ時などではもう少し感度が欲しいと感じることがありました。
一方、12800は800との差が大きく、そこまで感度を上げたくない場面もありますが、光量がギリギリまで落ちた状況でも、もう一歩粘れる安心感があります。
その両方を搭載したFX5は、かなり幅広い光量変化に対応できるようになりました。
FXシリーズ初のデュアルゲイン撮影
さらにFX5では、FXシリーズとして初めてデュアルゲイン撮影に対応しました。
3つのBase ISOとは別の機能なので少し混乱しやすいのですが、簡単に言えば、センサーから得られる情報を異なるゲインで処理・合成し、ハイライト側の階調を確保しながらシャドウ側のノイズを抑える機能です。
使用できるBase ISOは800のみで、フレームレートやイメージスキャンモードにも制限があります。
常時ONにするというより、明暗差の大きなシーンなど、画質を優先したい場面で使う機能と考えるのがよさそうです。
使いやすくなった液晶モニター
3.5型・約276万ドットの4軸マルチアングル液晶モニターも、個人的には嬉しい進化です。
FX3より大型化し、可動範囲も広がったことで、本体モニターだけで対応できる場面が増えました。
一方、FX3のように収納時に「カチッ」と固定される感覚がなくなり、可動部も増えています。長期間ハードに使用した際の剛性については、今後使い続ける中で確認したいところです。
また、別売りのビューファインダー「DVF-EL1」も完成度が高く、手持ち撮影時に非常に活躍しそうなポテンシャルを秘めています。FX2と見比べても、明らかに高精細で見やすくなっています。
これらを併せて、カメラ本体周りのモニタリング環境が劇的に向上していると感じます。
強力な手ブレ補正
手ブレ補正では、Dynamic Activeは60fpsまで、Activeは120fpsまで対応します。
特にDynamic Activeの補正は非常に強力ですが、クロップ率やカメラワークとの相性もあるため、後ほど実写を交えて検証します。
FX3 Mark IIか、小さなBURANOか
FX5を最初に手にしたとき、私自身は「FX3のMark II的なモデル」という印象を持っていました。
外観やサイズはFX3に近く、XAVCで撮影している限り、操作感にも共通する部分があります。
しかし使い込んでいくと、単なるMark II的な進化だけではないことが見えてきました。
例えば、フルメニューへのアクセスはMENUボタンの長押し。十字ボタン周りも整理され、大きめのダイヤルで選択から決定まで行えるようになりました。
こうした操作体系には、従来のミラーレス型FXよりも上位Cinema Lineに近い感覚があります。FX3から乗り換えた場合は、最初は少し戸惑うかもしれません。
さらにX-OCNの内部収録や、記録方式・システム周波数を変更した際の再起動、記録モードによって変わる機能制限など、その傾向は操作以外にも見られます。
今回、短時間ながらBURANOと続けて操作する機会がありましたが、X-OCNの扱いやメニュー表示、記録方式を切り替えた際の挙動、後述するカスタムアスペクトマーカーなど、思っていた以上にFX5との共通点を感じました。
もちろん、BURANOはCineAltaを冠するカメラです。実際に持てば、その重量や大きさだけでなく、AFやIBISを含めた各機能の作り込みにも上位機らしさがあります。
そういう意味ではFX5は、FX3から受け継いだ小型・軽量という特徴に、「小さなBURANO」を思わせる上位Cinema Lineの機能や運用思想を組み合わせたカメラ、と考えるのが実際のイメージに近いと思います。
では、こうした進化によって、実際の撮影現場では何が変わるのでしょうか。
ここからは冒頭でも触れた、「これまで必要だった機材や作業をどこまで減らせるのか」という視点から見ていきます。
AFはどこまで任せられるのか
今回実戦投入したダンス撮影では、AFを積極的に使用しました。
被写体が前後左右へ激しく動くだけでなく、カメラ自体も動き続け、構図が複雑に変化する撮影でしたが、AIによる被写体認識によって人物を捉えながら、かなり粘り強く追従してくれました。
被写体の向きや画面内での大きさが変わるような複雑な構図変化にも対応できるようになった印象で、このあたりは普段使用しているFX3やFX9とは明確に世代の違いを感じます。
ただし、もちろん完璧ではありません。
複数人が横並びになっているところへカメラが突っ込んだり、ダンス中に前後のフォーメーションが入れ替わったりすると、自分が合わせたい人物ではなく、後方の人物へフォーカスが移ってしまうことが何度かありました。
AIによって「人物を認識し続ける」能力は大きく進化しましたが、その構図の中でカメラマンが「誰を主役として見せたいのか」まで完全に理解できるわけではありません。
今回はフレーズ単位でカットを割り、必要に応じて撮り直しもできる撮影だったため、実用上は問題なく撮影を終えることができました。AFの設定をさらに追い込めば、改善できた部分もあったかもしれません。
一方、一発の確実性が求められる撮影では、これまで通りフォーカスを別の人間に任せる場面もあると思います。
人をいらなくするのではなく、人に頼らなければならない場面を減らす。
FX5のAFは、そのくらいの捉え方が現実的だと思います。
RAW収録を「特別」ではなくしたX-OCN
FX5を語るうえで、最も大きな変化の一つがX-OCNの内部収録です。
これまでFX3などの小型FXでRAW収録を行うには、HDMIからRAWを出力し、外部レコーダーでProRes RAWなどを収録する必要がありました。当然、レコーダーやケーブル、電源、記録メディアなどが増え、せっかくの小型ボディもシステム全体では大きくなってしまいます。
FX5は、FXシリーズとして初めて16bitシーンリニアのX-OCNを内部収録することで、この制約を大きく変えました。外部レコーダーを追加することなく、FX3に近いサイズのままRAW収録まで完結できることは、実際の運用を考えると非常に大きな進化です。
さらにX-OCN LTに加えて、データサイズを抑えたC1、C2も用意されています。Blackmagic RAWなどにも通じる、「もっと気軽にRAWを使う」という方向性を感じます。今後 C2にはハイフレームレートへの対応も予定されており、RAWが特殊な撮影のためだけのフォーマットではなくなっていくことを予感させます。
もちろん注意点もあります。
ProRes RAWとX-OCNのどちらを選ぶかは、撮影後の編集環境によっても変わります。Final Cut ProならProRes RAWとの親和性が高く、DaVinci ResolveなどではX-OCNを扱えるため、撮影前に「誰が、どの環境でデータを扱うのか」を確認しておくことは重要です。
また、X-OCN収録時はA/Bどちらか一方のスロットへの記録となり、2スロットへの同時記録はできません。外部レコーダーなどの機材が減った一方、一枚のメディアに対する責任は大きくなり、実案件ではこの点に少し緊張感がありました。
それでも今回、実際の撮影を全編X-OCN LTで収録してみて、「RAWを撮っている」と強く意識する場面はほとんどありませんでした。
外部レコーダーを組むこともなく、普段と同じようにカメラを構え、記録フォーマットの一つとしてRAWを選ぶ。
RAWが「ここぞという撮影で使う特別なもの」から、「日常的に選べる記録フォーマットの一つ」になった。この変化こそ、FX5の内部RAWが持つ大きな意味だと思います。
待ちに待ったカスタムアスペクト表示
個人的に今回のFX5でかなり強く推したいのが、カスタムアスペクトマーカーです。
最近では16:9で撮影しながらSNS用の9:16など、縦位置での切り出しを同時に求められることも増えています。また私の場合、ライブの出し画など、出力先が独自のアスペクト比というケースも頻繁にあります。
これまでは目的の比率がカメラ側になければ外部モニターごとに設定し、対応できないTVモニターなどでは画面にテープを貼ってガイドを作ることもありました。
FX5では任意のアスペクトマーカーを映像へ重畳できるため、HDMIからの出力先でも同じガイドを共有できます。
さらに内部RAW収録によってRAW収録用の外部レコーダーが不要になり、HDMIを純粋なモニタリング出力として使いやすくなったことも、この機能との相性を良くしています。
非常に地味な進化ですが、こうした現場の小さな手間が一つなくなることは、個人的にはかなり大きなアップデートです。
Open Gateをどう使うか
FXシリーズとして初めて搭載されたOpen Gateでは、3:2のセンサー領域を使った撮影が可能です。
アナモフィック撮影用途の他に横位置で撮影した素材から縦位置を切り出す用途との相性が良く、先ほどのカスタムアスペクトマーカーと組み合わせれば、横位置と縦位置の両方を意識しながら撮影できます。
個人的に期待しているのがグリーンバック撮影です。
16:9より上下方向の余白を確保できるため、人物の全身撮影や、キーイング後に位置を調整する可能性がある撮影ではかなり有効だと思います。これまで横位置と縦位置で別撮りしていた案件でも、一度の撮影で対応できる場面が出てきそうです。
一方、単純なリフレーミング用途については少し考え方が異なります。
撮影後に構図を調整できることは心強い反面、本来現場で決めていた構図を編集側へ渡すことにもなります。撮影側の自由度が上がる一方、ポストプロダクションの工程が増えることは意識しておく必要があります。
そのため私自身は、「後から直せるから広く撮っておこう」という目的より、縦横同時納品やグリーンバックなど、Open Gateを使う理由が明確な撮影で活用したいと思います。
自ら撮影から編集まで行うディレクターであれば、リフレーミングまで含めてOpen Gateの恩恵をより受けやすいでしょう。
手ブレ補正はジンバルに代われるか
Dynamic Activeを試した限りでは、FX5の手ブレ補正は非常に強力です。
ここで切り分けて考えたいのが、「手ブレを抑えること」と「カメラワークを作ること」です。
手持ちでの望遠撮影や、歩きながら人物を追う際の細かな振動を抑えることが目的なら、ジンバルを使わずに済む場面はかなり増えそうです。
一方、オービットフォローなど、ジンバルそのものの挙動を利用したカメラワークまでは代替できませんでした。被写体へ回り込むような動きでは、カメラワークと補正の挙動が相反するのか、時折カクつきが発生します。
つまり、ジンバルそのものが不要になるのではなく、「防振装置」としてジンバルを持ち出す場面が減っていく、というイメージです。
現時点では、そのくらいの捉え方が適切だと思います。
今回のテストでは、ここまで紹介してきた機能を実際の撮影でも試しました。AF、FF 5K 3:2のOpen Gate、カスタムアスペクトマーカー、逆光、5倍スロー、Dynamic Activeなどを一つの映像にまとめています。
実際に一本の映像として撮影してみても、AFの追従やカスタムアスペクトマーカーの使いやすさは好印象でした。また、X-OCNとXAVC S-Iを混在させても、DaVinci Resolve上での色合わせは比較的スムーズです。
画質はどこまで上位機に迫ったのか
そして確認しておきたいのが、肝心の画質です。
前回FX2をレビューした際にはFX3とFX9を比較し、同じFXシリーズでも画質には明確な差があると感じました。
今回はFX3、FX5、FX9を同じ環境で撮影し、人物を中心に比較しました。また短時間ながらBURANOを借りることができたため、FX3との簡易比較も行っています。
AFは複雑な動きの中でも終始良好で、乗り移り感度などの設定を変更した際の挙動も、FX3より滑らかになった印象です。
また、実際に撮影して改めて便利だと感じたのがカスタムアスペクトマーカーです。今回は画面上には収録されていませんが、撮影中に任意の比率を確認できることで、Open Gateから縦横それぞれを切り出す際にも迷いがありません。
X-OCNについても、撮影時だけでなくポストプロダクションまで含めて扱いやすいものでした。RAWデータから露出やホワイトバランスを調整する感覚はスチルのRAW現像に近く、XAVC S-Iで撮影したカットとの色合わせも比較的スムーズです。
もちろん、すべてをRAWで撮れるわけではありません。今回も5倍スローやDynamic Activeを使用するカットではXAVC S-Iへ切り替えています。
前述した「RAWを特別なものにしない」というFX5の特徴は、実際に撮影から編集まで通してみても変わりませんでした。
実際の現場に近い条件で比較
撮影では、ハイライトからシャドウまで幅広いレンジが入るよう背景を作り、すべてCine EIでBase ISOを切り替えながら撮影しました。画角はレンズで可能な限り揃え、FX5とBURANOはRAWで収録しています。
DaVinci Resolveではソニー純正LUTをベースに、露出と色温度を微調整してノーマライズ。4K 16:9のタイムライン上で、そのままの状態、拡大、シャドウを大幅に持ち上げた状態、モノクロなどで比較しました。
カメラごとにセンサーや記録方式が異なるため、完全に条件を統一したラボテストではありません。
ただ、私自身はFX3、FX5、FX9などを同じ現場で混在させることがあります。今回は絶対的な性能差を見るというより、「実際の撮影で混ぜたときにどの程度の差が出るのか」を見るテストとして考えています。
高感度で感じたTriple Base ISOの強さ
まず印象的だったのがノイズです。
Base ISO 800では、どのカメラも大きな差は感じませんでした。高感度側ではFX9やBURANOにまだ余裕を感じますが、驚いたのはFX5のISO 12800です。
FX3より明らかにノイズ量が抑えられており、細かく見るとカラーノイズは若干感じるものの、12800という高感度域を実用的な選択肢として持てるメリットは大きいと感じました。
3つのBase ISOを持つことは単なるスペック上の特徴ではなく、実際の撮影でもFX5の大きな武器になりそうです。
Dual Gain撮影についても比較しましたが、今回の条件では見た目に大きな差は確認できませんでした。波形では中間調からハイライト側に若干の余裕が見られたものの、明確な評価をするには、さらに明暗差の大きな条件で検証する必要がありそうです。
上位機との差は残るが、かなり近づいた
階調については、FX9やBURANOの方が、特に肌の中間調にもう一段余裕があるように感じました。グレーディング時にも階調の豊富さを感じ、このあたりにはまだ上位機らしさがあります。
ただし今回はFX5がRAW、FX3がXAVC S-Iなので、その差をすべてカメラ自体の性能差として評価することはできません。
解像感については画素数の違いが素直に現れている印象で、FX5の高解像度化は、グリーンバックのキーイングやトリミングなどでも有利に働くと考えられます。
色についても、FX3では撮って出しで若干G/Y方向へ寄るように感じることがありましたが、FX5ではその傾向が弱くなっています。X-OCNのノーマライズも容易で、他の Cinema Lineとの色合わせも良好でした。
総合すると、FX5によって、これまで感じていた小型FXと大型Cinema Lineの画質差はかなり縮まったと感じます。
横に並べて細かく見ればFX9やBURANOにはまだ余裕があります。しかし実際の撮影で混在させた場合、ぱっと見で大きな違和感が出るほどの差ではありません。
FX3の機動性と上位Cinema Lineの画質。その間を埋める存在としても、「FX5」というポジションはかなりしっくりきます。
できることが増えた分、覚えることも増えた
FX5は多機能になった一方、記録方式やフレームレートによって使用できる機能が変わります。
XAVCとX-OCNの切り替えや、23.98pと29.97p / 59.94p系を行き来する際には本体の再起動も必要です。
私は案件によって23.98p、29.97p、59.94p、119.88pを頻繁に使い分けるため、こうした条件や切り替え時間は実際の現場でも無視できません。
このあたりは、FX9など上位Cinema Lineを使ってきた人には馴染みのある感覚です。
小型機でありながら上位機に近い機能を持ったことで、運用についても同じような理解が必要になってきた、と考えた方がよいでしょう。
FX5は「買い」なのか
では、実際にFX5は買いなのでしょうか。
私自身について言えば、現在所有しているFX9とFX3を手放し、FX5へ集約することまで検討しています。
もちろん、すべての面でFX9やBURANOを上回っているわけではありません。内蔵NDはなく、今回の比較でも画質については上位機にまだ余裕を感じました。RAWを選択すると使えなくなる機能もあります。
それでもAF、手ブレ補正、内部RAWによって、私の現場では大型機や周辺機材に頼らなければならない場面が確実に減りました。可変NDも小型・軽量で優秀な製品が増えており、あとは運用次第だと感じています。
FX5は発表以来、「FX3 Mark IIなのか」「小さなBURANOなのか」「ゲームチェンジャーなのか」など、さまざまな言葉で語られてきました。
実際に仕事で使い、FX3やFX9、BURANOとも触り比べた私から提案したいのは、「FXシリーズのネクストスタンダード」です。
小型FXとしてはハイエンドであり、上位Cinema Lineのサブカメラにもなる。内部X-OCN、高性能なAF、強力な手ブレ補正をこのサイズに収めたFX5は、これからのFXシリーズの一つの基準になるカメラなのではないでしょうか。
FX3や他のCinema Lineからの買い替えを検討している方も、これからCinema Lineを導入する方も、この新しい世代のFXを一度試してみる価値は大いにあると思います。
- 機材協力:株式会社 Light Up
- モデル:中馬瑠香 (@ruka_chuman)
- 撮影協力:Photographer : EMIRI HABAKI (@emiri.habaki)
北下弘市郎(株式会社Magic Arms 代表)|プロフィール
映像・写真カメラマン・撮影技術コーディネーター。大阪生まれの機材大好きっ子。音楽・広告・ファッション・アートなどを中心に、ムービー・スチル撮影を行う。撮影現場の技術コーディネートや機材オペレーターなど、撮影現場に関する様々な相談に対応する。

