米コンピューター大手のヒューレット・パッカード(HP)が8月18日の米株式市場終了後に発表した事業構造改革は、国内外のメーカーに大きな波紋を広げただけでなく、金融業界からもネガティブに捉えられた。翌日(19日)には同社の株価が急落、前日比20%安の23ドル60セントで引けた。
事業構造改革には、収益性が低く成長が鈍化しているPC事業を分離独立させ、高収益のある企業向けITサービスやソフト事業などに経営資源を集約することが挙げられた。 そしてスマートフォンおよびタブレットPC向けOSである「webOS」を使った端末事業は打ち切り、また同時に英ソフトウェアベンダーのAutonomy(オートノミー)社を約102億米ドルで買収することが明らかになった。
HPは、デスクトップPCとノートPCを合わせた世界パソコン出荷台数で、未だ全体の約18%を占めている。PC事業はHPでの売上高の3割を占めるが、営業利益率が5%と、ほかの主力事業より低い。PC事業を分離独立(スピンアウト)させるに至った理由として、HPの最高経営責任者であるレオ・アポテカー氏は、タブレットやスマートフォンの普及で競争が激化し、収益性が低下しているためとしている。PC事業部(PSG:Personal Systems Group)の今後は、この先12~18カ月の間に明らかにされる。
過去の教訓として、IBM社が2005年に中国のレノボ・グループに売却し、高収益の企業向けサービス・ソフト事業に集中したことがある。またNECは規模を拡大する目的でレノボと連携し、市場に居残っている。アポテカー氏はIBM社を参考にしたとも言われているが、現在のPC事業の市場価値は大幅に低下しており、売却するとしても期待の結果にはならないとアナリスト達は予測している。
PCメーカーではHPやDellのほか、エイサーやアスースといった台湾勢、そして中国のレノボ・グループがシェア上位陣力を保っている。HPのPC事業の買収に乗り出すのは、台湾の経済ビジネス情報のNNA.ASIAによれば、エイサーやアスースは資金不足で難色を示している一方、潤沢な資金を持つレノボか、韓国のサムスン電子が買収先として有力視されているという。アジアのメーカーが買収先となれば、圧倒的なシェアを持つ巨大企業が誕生し、日本のメーカー達も新たな方向性と戦略の見直しを迫られることになる。
またwebOS事業を打ち切るニュースでも騒然となった。webOSは、HPが昨年2010年にPalmを買収し取得したばかり。しかしHPは今回、webOS製品は市場の支持を十分に獲得できておらず、同製品が成長するまでには時間がかかり過ぎると判断したという。このニュース後、米国ではwebOSタブレット機が100ドル以下で「たたき売り」されてしまっている。
英ソフト会社オートノミーの買収に対して、米ウォール街では、売上高約9億ドルの会社に10倍以上の値段を付けたことに対して疑問視されている。HPは、2011年頭にビジネス分析企業であるVerticaを買収している。オートノミーは最近Iron Mountain社を買収し、クラウド技術を資産とした。米調査会社のGilbane Group社では、HPはオートノミーを買収することで、クラウドやビジネス分析を中心に、ソフトウェア事業を同社の主軸の1つとして注力していくだろうと予測している。
HPが発表した2011年会計年度の売上高は、前回は1290億~1300億米ドルと予測していたが、1272億~1276億米ドルへと下方修正された。
(山下香欧)