去る9月15日、東京丸の内のコンファレンススクエアにおいて世界最大級の超高感度CMOSセンサーを応用し、10等級相当の流星の広視野動画撮像に成功したことが発表された。これは東京大学大学院理学系研究科附属天文学教育研究センター木曽観測所のシュミット望遠鏡に搭載することによって成し得たものだが、これにより流星が地球と生命の進化に及ぼしてきた影響について理解が進むことが期待できるほか、スペースデブリや太陽系内移動天体などの検出数が大幅に増大し、それらの位置と速度の測定精度も向上することが期待できるとしている。
今回木曽観測所のシュミット望遠鏡に搭載された超高感度CMOSセンサーは、2010年8月31日にすでに発表され、2010年11月に開催されたCanon EXPO Tokyo 2010でも披露されたものだが、実際に活用された事例としては初の発表となる。デジタル一眼などに搭載されているCMOSセンサーは35mmフルサイズやAPSサイズが一般的で、サイズ的には大判とされているが、キヤノンが開発したCMOSセンサーは、チップサイズが202×205mmとなっており、35mmフルサイズのセンサーと比べても約40倍の大きさとなっている。この大きさは現在半導体の製造プロセスで使われている直径12インチ(約300mm)ウエハーから1枚しかとることができない(450mmウエハーも実用化されつつあるが)。

35mmフルサイズのセンサーと比べても約40倍の大きさとなっている。そのため、非常に高感度かつノイズも少ない

直径12インチ(約300mm)ウエハーから1枚しかとることができない
また、ウエハーにパターンを焼き付けるいわゆるステッパーという露光機は、焼き付けるサイズに制限があり、こうした大型のセンサーを制作する場合は複数回しかも異なるパターンも焼き付ける必要がある。勢い歩留まりが非常に悪くなりそうだが、説明を聞くとそれほど悪くはないという回答であった。プロセスルールが何μなのか、や量産ラインでの製造かなど不明な点もあるが、需要を考えると試作ラインで1枚1枚丁寧に製造されているように思う。

焼き付けるサイズに制限があり、大型のセンサーの場合は複数回露光する

しかも異なるパターンも焼き付ける必要がある。ここでは3種類のパターン

メタルコンタミネーションの抑制技術による暗電流低減効果

世界最大級の超高感度CMOSセンサーの外観。電極は写真左側のみなので、組み合わせて使用する場合の実装が容易
ちなみに、歩留まりはウエハーの原材料であるインゴットの質や処理工程、メタルコンタミネーションなどの要素も絡むが、こうした課題を一つ一つクリアすることで、現在製造できる最大級のCMOSセンサーの製品化を実現している。 一般に半導体は量産効果を上げるために1枚のウエハーからいかに多くの半導体を生産できるようにするかが課題であった。そのため、プロセスルールの微細化やウエハーサイズの大型化が進んできたのだが、撮像素子の感度を上げるためには1画素の面積を広くとったほうが手っ取り早く高感度化が実現できる。また、天体望遠鏡のように大きなイメージサークルをもつ光学系ではそれにあったサイズの撮像素子のほうが視野角などの面で色々と都合が良い。撮像素子の場合はメモリーなどの半導体とは異なった要求要素があり、それを実現したものといえる。

チップサイズが202×205mmなので直径12インチ(約300mm)ウエハーから1枚しかとることができない

望遠鏡搭載時の超高感度CMOSセンサー。CCDのような真空チェンバーや冷却装置がなく、ファンによる空冷のみ
天体観測といっても何をどう観測するかで、望遠鏡の形式だけでなくセンサーも異なるものが必要になってくる。天文台に設置してあるような望遠鏡の場合は、複数のセンサーを備えているのが一般的であるが、キヤノンの開発したセンサーでどのような観測が可能になったのだろうか。
同じ焦点距離のレンズならばイメージサークルが広いほうが広角で撮影できる。これは天体望遠鏡でも同じで、従来はサイズの小さいCCDを複数タイル貼りのように並べていたが、大型のセンサーが有れば1枚ですむ。また、複数のセンサーが必要な場合でも数が少くて済むという利点がある。さらに非常に感度が高いので、肉眼や写真乾板では観測できなかった暗い星でも撮影することができるほか、流星のようにいつどこに現れるかわからない星を観測しやすい。
暗い流星ほど数が多く、どこからどの位の数が出現するかは、今まできちんと観測することができなかったそうで、こうした流星の明るさや飛来方向、数などを正確に観測することで、生命の進化への影響や地球への影響の研究が進むことが期待できる他、今まで人類が地球外へ打ち上げてきた人工衛星やロケットなどのいわゆるスペースデブリの観測などがより精密に行うことが可能になるという。
そのためには、明るい星から暗い星まで正確に記録でき飛来方向も正確である必要があると思うが、ダイナミックレンジやシャッター方式に関しての質問には答えてもらえなかった。機会があったら別途取材できたらと思う。
センサー仕様
- チップサイズ…202(H)×205(V)mm
- 画素サイズ…160μm×160μm
- 総画素数…160万画素(H1280×V1280)
- 出力フレームレート…100フレーム/秒
- 出力チャンネル数…10ch
- 画素レート…220Mhz(22MHz×10ch)
- ゲインアンプ設定…×1、×8、×16
