ロレンツォ氏とハッセルブラッドジャパンとの初プロジェクトとなる写真展「RECURRENCE – 回帰」

東京・原宿にあるハッセルブラッドストア東京でローカルアンバサダーのロレンツォ・バラッシ氏の写真展「RECURRENCE – 回帰」が開催された。写真展の最終日となる5月9日には、クロージングイベントとしてバラッシ氏のトークショーが行われたのでその様子を紹介しよう。

バラッシ氏は、1995年よりアシスタントのフォトグラファーとしてカメラマンに従事。1998年にミラノで自身のスタジオを構え、広告やフリーランスのファッションの撮影を行い、2002年よりフリーへ転向。2008年より東京をベースに広告、デジタルクリエイターとして活動。岩手県陸前高田にて、東北復興のためのイタリア人会「Italians For Tohoku」の一員として支援活動も行っている。

照明を駆使したアーティスティックな作品を得意とするフォトグラファーのロレンツォ・バラッシ氏

撮影テーマは撮って出しでも素晴らしい写真を作り上げること

今回の写真展「RECURRENCE – 回帰」は、70年代と80年代に国内外のファッションの世界で大きな功績を残した日本人モデル、山口小夜子から着想を得たもの。山口小夜子と当時のフォトグラファーやデザイナー、スタイリスト、ヘアメイク、エディターは、カメラから撮って出しでも素晴らしい写真を作り上げていた。そんな最大のスキルを持ち寄って画を作っていた時代とプロフェッショナルリズムへのバラッシ氏なりのオマージュであり、敬意を表したものだという。

ロレンツォ氏は、まず最初に自身とカメラとの関わり合いから紹介を行った。

ロレンツォ氏:20年ぐらい前にカメラマンのアシスタントとしてそのキャリアが始まった時に、初めに与えられた仕事というのはカメラの後ろにあるフィルムパックのフィルムの装填でした。フィルムマガジンを入れ替えたり、ポラロイドバックを付け替えるのを行っていたのですが、ハッセルブラッドのカメラに触れるというのがすごくエキサイティングで、楽しかったのを覚えています。

その際に見ていたビューファインダーから覗いたときの景色がすごく美しくて大好きになりまして、中判カメラへの愛というのはその時から始まりました。なので、ハッセルブラッド・ジャパンとのコラボレーションの打診があったときはすごく嬉しかったです。

「RECURRENCE – 回帰」は、往年のモデルの山口小夜子女史からインスピレーションを受けたもの。山口小夜子は近代日本の象徴でありアーティストだったという。

ロレンツォ氏:一番の理由がモデル、山口小夜子が近代日本の重要なアイコンの一人だと考えたからです。また、彼女は世界に対して一番最初に大きな影響を与えた日本人モデルともいえます。世界に対して新しいジャパニーズビューティー、日本の美というコンセプトをもたらした功績があります。

山口小夜子の存在は今でもなお多くの人たちの影響やインスピレーションの源になり、新時代の山口小夜子のような存在の女性やモデルが、近いうちにまたでてきてくれるんじゃないかなと信じています。

今回の作品は、レタッチを行わないで撮って出しで撮影されている。一枚に対して集中し、全力をかけて作り上げる昔ながらの撮影のスタイルで実現しているという。

ロレンツォ氏:当時、レタッチがそれほどない時代というのは、1枚の写真を作り上げるために参加するすべてのヘアメイク、デザイナー、アーティストたちが、1枚に対して集中して、全力をかけて、作り上げていた時代だったと思います。

また、当時は完璧な1枚を得るためにチーム一丸となって取り組むという姿勢がありまして、そんな時代と同じことを行いたいと考えました。現代の写真において、レタッチや画像編集は重要なことだと僕も認識しています。しかし、より良いイメージを作り上げるために努力をし続ける姿勢を忘れないようにしたい。今回はそのため、完璧な1枚を作り上げるために編集などを一切しないイメージを制作しようと取り組みました。

カメラから撮って出しで、すぐに使えるような写真ができたことは、その場にいた全員がすべてを出し切る最良の結果をだせるたということになります。イメージが制作できたことに対して達成感を感じます。

より深く考えて撮影ができる無駄な撮影をしないカメラ

今回、シリーズの撮影は、ハッセルブラッドのミラーレスタイプの中判カメラ「X1D-50c」で撮影された。その理由を次のように話す。

ロレンツォ氏:ハッセルブラッドのカメラというのはより深く考えて熟慮してから撮影しようとさせる、何か設計的な部分があるように感じています。1枚1枚全員が集中して撮影を行った今回のコンセプトには、ハッセルブラッドのカメラは最適だったと思います。

もちろん、撮影された画像というのがとてもシャープであったり、撮影された画像の色がとても自然であるということも挙げられます。また、ダイナミックレンジが素晴らしいし、階調は広いです。今回の撮影では黒背景に対して黒い髪を組み合わせて撮っています。ハッセルブラッドの中判カメラで黒背景に対して黒髪というのがどういうふうに写るのか、というところをチャレンジしたいのもありましてこのような撮影をしました。

結果は、良好でした。数えようと思えば、髪の毛のディテールまで数えることができるぐらいきちんと色がわけられて撮影されています。

ロレンツォ氏はインテリアや建築の撮影に情熱を傾けている。最後に今後のプロジェクトの展望を語り、トークショーをまとめた。

ロレンツォ氏:次のプロジェクトでは、建築の撮影を行いたいと考えています。なぜなら建築物が人間の生き方にどういった影響を与えるかについて探求したいからです。また、日本には、マスターピースと呼ばれるような建築物を作った有名な日本の建築家が何人かいらっしゃっいます。そういったプロジェクトもやりたいということもあり、建築のプロジェクトを進めていけたらなと考えています。

ロレンツォ氏が使用した同タイプの中判カメラ「X1D-50c」。写真はブラックタイプのX1D-50c 4116エディションモデル