txt:山下大輔 構成:編集部

AJA Video Systemsブース 360°全天球動画

RICOH THETA Vで撮影した360°全天球動画です。視点変更機能を利用するにはPC版Google ChromeブラウザおよびiOS/Android版YouTubeアプリが必要です。(アプリ起動はこちら)

今年もやってきたInterBEEの季節。11月に開催されたInterBEEにて、AJA Video Systems社のブース取材を行った。AJAは、放送業務を行う上で欠かせない製品を多く取り扱っている。筆者もAJAブースで解説員を行うというタイミングが重なり面白い経験をさせてもらったと感じている。

ブースには、IP系、コンバーター系、キャプチャ、レコーダー系と放送に欠かせない製品が所狭しと展示されていた。8K表示などの展示もあり多くの来場者で賑わっていた。来場者も国内にとどまらず、特にアジア系のユーザーから積極的に問い合わせを受けていた様子も印象的だった(筆者にも質問が来てしどろもどろだったが…)。場所は千葉の海浜幕張にも関わらず、地方局の方々が情報を求めて集まる展示会は今年も熱かった。

まずは製品群から気になる3つを選出してみた。

KONA 5

AJAのビデオ入出力ボードKONAは、デジタイズ、テープへの出力、モニター用の出力などポストプロダクションには欠かせない製品だ。今回そのビデオボードシリーズにKONA 5が追加された。当日はHPのワークステーションに組み込まれたEIZOのモニターにPremiere Proから4K60pシーケンスで展示されていた。また、SDKによる拡張機能で12G-SDIx4ポートをフルに活用できる8Kへの対応を示したデモも行っていた。関係ない話だがCC2019では重く、CC2018ではトラブルがないという部分もあり、CC2019側の最適化が待たれる状況だった。主な特徴は以下の通り。

  • 12G-SDI×4ポート
  • HDMI 2.0出力をサポート
  • HDR(HDR10、HLGサポート)
  • 通常版は最大4K/UltraHD 60pに対応、SDKによりOEM版は8Kに対応

特に12G-SDIの対応はマスモニやVTRなどにも同時に4K60pで出力することが安易になった。シ ンプルな構造のため、より配線がしやすくなったのも魅力的だ。

Ki Pro Ultra Plus

4Kの収録と再生、HDだと4系統まで同時に収録可能なレコーダーKi Pro Ultra Plusは、収録現場でProRes 422はもちろんProRes 4444/XQ、MXF形式のDNxHD/HRなどで収録することが可能で、すぐに次の作業に取り掛かることができる。収録は専用のSSDに直接書き込むことができ、編集用コーデックで記録されるため、すぐに編集に入ることも可能だ。また、収録時にカメラ側のメディアに問題がある場合も、バックアップとして記録をしておけば不測の事態を回避することもできる。

再生プレイヤーとしての機能も充実しているため、現場でのモニタリング時に役立つ。ファームウェアアップデートでは日本のユーザーの要望に応え、再生時のタイムコード(TC)バーンインの表示位置を変更できるようになった。

HDRの切り替えに対応しているのも興味深い。HDR10やHLGをサポートしている。

FS-HDR

FS-HDRは1RUラックマウント型のコンバーター&フレームシンクロナイザー。特徴としてHDRからSDRへの変換を行い、逆にSDRからHDRに変換することができる。BT.2020(4K)とBT.709(HD)の相互互換も行え、また興味深いのは様々なLogに対応している点だ。Sony S-Gamut3/S-Log3に変換して出力することができ、LUTのアップロード/保存も可能になった。LUTを乗せる時に管理がシンプルになることは、現場での効率化にも直結するだろう。

対応しているLogの種類

  • Sony S-Gamut3/S-Log3
  • Sony S-Gamut3.Cine/S-Log3
  • Sony S-Log3 BT.2020
  • ARRI LogC Wide Gamut
  • Panasonic Vlog
  • Red Log3G10 Wide Gamut
  • Canon Log 2
  • Canon Log 3

AJA Video Systems社 社長 Nick Rashby氏に聞く

今回、AJA Video Systems社 社長のNick Rashby氏にインタビューする機会をいただいたので率直にいくつかの質問をぶつけてみた。

――今年のAJAブースの見どころはどういったところでしょうか?

今年のInterBEEでは、新製品のKONA 5など、最新製品を組み合わせた8Kソリューションを目玉として展示しています。KONA 5は、InterBEE 2018の開催に合わせて出荷開始も発表しました。

また8Kだけではなく、Colorfront社と協業で開発した新製品HDR Image Analyzerを始め、HDR対応製品を使ったHDRソリューションも見どころの一つですね。

――OEM製品の今後の展開についても教えてください

今回のInterBEEでも4Kと8Kの製品が数多く展示されていますが、その中の多くのパートナー企業様にAJAのOEM製品を採用していただいています。かなり重要な部分をビジネスでも占めていると思います。

――RS422の対応は今後も続きますか?

テープからメディアに移行が始まり、パッと見て重要度が落ちてきたように思うかもしれませんが、お客様の需要がある限りはサポートはもちろん続けていくつもりでいます。

――HDCAMやXDCAMのテープの取り込みやプリントへの対応は今後も想定しているのでしょうか?

もちろんVTR、RS-422系の制御系のものがある限りサポートしていきます。HD、4K、8Kいずれであっても、必要に応じて対応し続け、メディアだけではなくテープとしてのワークフローも支えていく予定です。

――IBCで発表されたFS-HDRのアップデートと新機能について教えてください

FS-HDRファームウェアv2.6がそろそろ公開されますが、そこにお客様からいただいた声を活かしています。例えば.cube形式のLUTを最大10個まで持たせることが可能になりました。またTVLogic社のWonderLookProを使ってリアルタイムにLUTを作ったり、ダイナミックに連動できる機能を追加しました。このような現場で色作りを行なっているパートナーと協業していきたいと思っています。

――Ki Pro Ultra Plusの新しいファームウェアv4.0についても教えてください。

今回のアップデートは特に日本のお客様の声を活かした内容となりました。例えば、出力画面上のタイムコード(TC)表示位置を変更する機能が追加されています。これまで固定の位置(画面下部のセンター)にしか出せなかったタイムコードのスーパー出力を6箇所(下、上、右下、右上、左下、左上)の中から選択できるようになりました。

また、Ki Pro Ultra Plusは4チャンネルのHD収録が可能ですが、4系統全てが同じファイル命名ルールを担っていました。v4.0からは、それぞれ別々に任意のファイル名で保存することが可能になりました。これも日本のお客様からいただいたリクエストを反映した新機能です。

――これから必須になるであろう、放送局向けのIP製品に対する、御社の取り組みについても教えてください

SMPTE ST 2110が規格化され、放送局でも使用され始めていますが、すでにAJAもKONA IPやIo IPなど、IP対応製品を取り揃えています。また、IPからSDI、IPからHDMIに変換するコンバーターや、冗長化したネットワークスイッチのように一つの信号が途切れても瞬時に切り替わり放送を続けることができるコンバーターなど、続々とIP対応製品が登場しています。既存製品はSMPTE ST 2110の規格に対応していますが、今後はお客様のニーズに合わせながら、別のIP規格へのサポートも追加していく予定です。

――御社にはどのような12G-SDI製品がありますか?

まず、4系統の12G-SDIを備えたKONA 5は、4K60pを4本同時に出力することができます。それから12G-SDIルーターのKUMO 12G、3G-SDIと12G-SDIで相互運用できる製品も多く揃えています。8KとHDRのソリューションとして今年の目玉製品であるFS-HDRも、もちろん12G-SDIに対応しています。今後は既存の3Gコンバーターも、12G-SDIに対応させていきたいと考えています。また、openGear Xの規格が発表され、より消費電力が大きなものにも対応できるようになったので、AJAのopenGear対応製品でも12Gへの対応を進める予定です。

――AJAは今年で25周年ですが、AJAが25年の間に日本市場で尽力してきたことはありますか?

実は、AJA製品を初めて海外に出荷した国は日本でした。日本のお客様とAJA製品の相性はとても合っていると思います。高いレベルでの使用や、信頼性、サポートが求められているので、それに対応できる品質をこの25年間で提供し続けてきたという自信があります。

例えばKi Proで4チャンネル同時収録に対応したことや、4台のFS-HDRを使った8K出力への対応などは、日本からのリクエストを元に提供したソリューションです。これからも日本の需要をサポートし続けていきたいと考えています。

私自身も日本のお客様と直接お話をして、フィードバックもらうことを楽しみにしています。日本のユーザーは技術レベルが高く、何をどうしたいか目的がはっきりしているので、要望に対してチャレンジし続けたいですね。

――今後のAJAの展望をお聞かせください

お客様のワークフローを大きく変える製品を生み出していくというよりも、既存フローの延長上でサポートし続けられるような製品を提供していきたいと考えています。

4K60p、HDRというフレーズ

8Kというソリューションは確かにあるが、やはりもう少し先のテクノロジーのように思う。印象的なのはHDRだろう。HD HDRも4K HDRが今回は1番のトピックに感じた。そのための12G-SDI普及でもあるのかと感じる。4K60pも編集機側が軒並み対応を終わらせてきているところを見ると、納品フォーマットが4K60pになった放送局に対しての準備もできたというところだろうか。今後のAJA製品からも目が離せなさそうだ。