図1:開発した技術を適用した場合のRAN構成例

株式会社KDDI総合研究所は、基地局ネットワーク(以下:RAN)を制御するRANコントローラの機能を拡張した新たなRANスライシング技術を開発し、アンテナサイトに設置する1つの無線装置(図1のRU)に、次世代移動通信システム(以下:5G)で想定される複数のサービスを収容する次世代技術を実証したことを発表した。

5Gが本格的に普及する時期には、超高速・大容量、超低遅延、超多接続という3つの特徴に対して、用途に応じたネットワークを構築して提供する必要があるとし、今回開発した技術を用いることで、3つの特徴を持ったそれぞれのサービスを一つの無線装置で提供できるため、時間がかかる新規無線設備の建設を待たずに新たなサービスを迅速に導入可能だとしている。

5Gでは、まず超高速・大容量通信のサービスが開始され、本格展開する2025年頃には、超低遅延や超多接続のサービスが普及すると考えられている。例えば、4K/8Kなどの映像を伝送する超高速通信に加えて、工場内における遠隔制御のため超低遅延サービスや、大規模なセンサ端末からの情報収集を行うIoTサービスが普及し、それぞれ用途に応じたネットワークが必要となる。汎用サーバ上で基地局ソフトウェアを動作させる「基地局の仮想化技術」を利用すると、サービスの多様な要求を満たす論理ネットワーク(以下:スライス)を効率的に構築可能となる。

KDDI総合研究所は、2018年5月に仮想化技術を用いて基地局の機能(Central Unit(CU)/Distributed Unit(DU))を柔軟に各サイトの汎用サーバ上に配置するRANスライシング技術を開発し実証した。この場合、サービス毎に無線装置を用意する必要があったため、今回は一つの無線装置で複数のサービスを収容するという新たなコンセプト(マルチCU/DU構成)に基づくRANスライシング技術を開発した。実証には、Radisys社の5G基地局のプロトタイプ装置を用いた。図1は開発した技術を適用した場合のRAN構成例。前回開発した技術を用いてサービスに適した基地局の機能を各サイトに最適に配置しつつ、今回開発した技術を用いることで、1つの無線装置で複数のサービスを実現できるという。

図2:開発したRANスライシング技術の活用イメージ

図2は、今回開発したRANスライシング技術の活用イメージ。新たに、超低遅延や超高速・大容量通信のサービスを展開する場合、従来技術ではそれぞれのサービスに適したスライスを提供するには、サービス毎に無線装置を用意する必要があるが、一方、開発技術では、1つの無線装置に複数のDUを接続できるため、新たな無線装置を追加することなく迅速にサービスを提供可能。さらに、イベント等の時限サービスの場合には、従来技術では他のサービスと基地局を共有することになり、輻輳時には、他の通信の影響を受けて通信品質が劣化する可能性があるのに対し、開発技術であれば、イベント開催期間だけ専用のスライスを構築することが可能であるため、臨時でも安定した通信を提供することが可能だとしている。

図3:5G基地局のプロトタイプ装置を用いた実証デモの構成

図3は、提案したコンセプトの実証例。端末側から配信する4Kのビデオ映像を、一つの無線装置から超低遅延スライスとインターネットに向けて同時に配信できることを確認した。大規模イベント会場で来場者向けにリアルタイム映像を配信しながら、同じ映像をインターネット経由でも配信するようなサービスが提供可能となる。