Blackmagic Designの発表によると、ZOZOマリンスタジアムで行われた3ピースバンドWANIMAの無観客ライブで、24台のBlackmagic Micro Studio Camera 4KやATEM Constellation 8Kなど、多くのBlackmagic Design製品が使用されたという。

約10万人が視聴したと言われる同ライブ配信のために、「soundiv.」と呼ばれる最新のライブプロダクションシステムが開発された。同システムはBlackmagic Designのカメラ、スイッチャー、ルーター、レコーダーが使われており、ライブ配信での新しい映像表現が可能となった。

アルバムの発売に合わせて、昨年11月から始まったWANIMAの「COMINATCHA!ツアー」は今年に入り、コロナ禍で多くの公演中止を余儀なくされた。大規模なコンサートの開催の目処が立たない中、WANIMAはツアーファイナルとして元々予定されていたZOZOマリンスタジアムで無観客のライブ配信を行った。またこの配信に伴い、全国286劇場および12会場のライブハウスを借り切ってライブビューイングも行われた。

今回のライブ配信の統括をした有限会社ワムハウスのプロデューサー中村和明氏は次のようにコメントしている。

WANIMAのマネジメントサイドには、今回ツアー半ばで公演中止を余儀なくされたWANIMAのメンバーたちにきちんとツアーファイナルを迎えさせてあげたいという思いがありました。さらにライブ配信をやるからにはよく見たことのある映像表現でなく、ライブコンサートでは表現できない、新しいことをしようと決めました。無観客だからこそ、好きな場所にカメラを設置して、プログラムを組んで手動ではできないようなスイッチングができる。テクノロジーとエンターテインメントのコラボレーションです。

中村氏による新しい映像表現のアイデアを実現するため、中村氏の元にロボットのモーション開発およびコンテンツ制作に定評のあるクリエイティブオルカ株式会社の末宗佳倫氏と、先端的なシステム開発の実績があるフューブライト・コミュニケーションズ株式会社の居山俊治氏が集まった。

今回のコンサートは無観客とはいえ、会場のZOZOマリンスタジアムに25,000本のサイリウムが設置され、撮影にはクレーンやドローンなども投入された大規模なものだった。メインステージのほかにセンターステージも用意され、そこにBlackmagic DesignのMicro Studio Camera 4K、ATEM Constellation 8Kスイッチャー、Smart Videohub 40×40ルーター、そしてVideo Assist 4Kが使われた最新システム「soundiv.」が導入された。

今回のコンサートのために開発された同システムでは、センターステージの周りを24台のMicro Studio Camera 4Kが取り囲む。これらのカメラ出力はATEM Constellation 8Kスイッチャーで高速でスイッチングすることで、あたかも1台のカメラ映像のように見せるのだ。さらにセンターステージ中央に配置された360°カメラの映像ともスイッチングされ、今までにないユニークなライブ映像演出が可能になったという。

同システムの開発に関わった居山氏は次のようにコメントしている。

Blackmagic Designを選んだ理由のひとつは、SDKがオープンなのでクリエイティブなことが自由にできる点です。このシステムはATEMスイッチャーの入力を高速で切り替えたり、360°カメラから出力の角度を変えたりすることに使っていて、曲ごとにどのタイミングでスイッチングするかも制御できます。また360°カメラの出力はDeckLink 8K Proで取り込んでゲームエンジンのUnreal Engineで画像処理してATEM Constellation 8Kに送っています。

SDKを使って演出をカスタマイズし、システムの運用ワークフローをデザインした末宗氏は次のようにコメントしている。

SDKも使っていますが、Blackmagicの製品だけで基本的な運用ができたので大変便利でした。例えば24台のカメラの設定を1台ずつ行うのは現実的ではありませんが、ATEM Camera Controlを使えばスイッチャー側で色調整やシャッタースピードなどを一括管理して制御できます。

ATEMスイッチャーからアンシラリーデータをSmart Videohubに送り、それを各カメラに送ることでATEM Camera Controlでの調整になった。またフォーカスに関しては、ATEMで任意のカメラを選択してVideo Assist 4Kのフォーカスアシスト機能を使って調整したという。

遠隔地に多数配置されたカメラの様々な調整を素早くスイッチャー側で行えたことは、状況が刻々と変化するライブの現場では必要不可欠な要素であったので、本当に助かりました。

また末宗氏は、Constellation 8Kの入出力やM/E数の多さも高く評価する。

24台のカメラのマルチビューが出せるスイッチャーはなかなかありません。メインのスイッチングの他に演出用に他のM/E列を使えるので、例えば今回は、時計回りに動くスイッチングと反時計回りに動くスイッチング、そしてスプリットと呼んでいる特殊スイッチングを別々のM/E列に設定しました。これらと360°カメラの映像をメインのM/E列でトランジションをつけて切り替えることで、異なるスイッチングをブレンドさせる新しい映像表現を作り上げました。プログラムでコントロールしたスイッチングも非常に安定していて、送出側のスイッチャーとの連携もうまくいきました。また、各M/E列や360°カメラそれぞれの映像の録画や送出側のスイッチャーへの送信、カメラ設定やキャリブレーション用途で多くの出力が要求されたのですが、フレキシブルに設定できる出力機能でそれらも全て問題なく対応することができました。

ワムハウスの中村氏は最後に以下のコメントをしている。

ライブの体感価値は映像に成り代わるものではありません。しかし映像だからこそ、新しいエンターテイメントとして普段のライブでは見られないものを提供することで、今後もライブに足を運べない方々にアプローチしていけると思います。