JSCとJSLが技術者向け技術交流展を初開催

日本映画撮影監督協会(JSC)と日本映画テレビ照明協会(JSL)は、技術交流展「GEAR EXPO TOKYO 2021」を2021年12月3日~4日の2日間にわたり開催した。

会場は東宝スタジオ11stで、対象は撮影監督、カメラマン、照明技師などの撮影クルー。参加者は登録制。新型コロナウイルス感染防止対策により参加人数を技術者中心の1日60名に限定し、2日間で合計120名に制限されていた。

東宝スタジオエントランスにはお馴染み「七人の侍」の壁画が描かれている

東宝スタジオの会場に実際の撮影現場を再現し、午前は最新のカメラやレンズ、照明機材を手にとって体験できる「GEAR MEETING」、午後はJSCとJSLによる技術者向けのワークショップ「MASTER CLASS」が行われた。ワークショップの参加者は各分野のプロフェッショナルであり、ライティングの技術に関しては照明技師は熟知している。そこで最初にライティングプランをひとつ示して、それを元に「私だったらこう対応する」という流れで、各自の意見交換が行われ、かなりの盛り上がりを見せていた。やはり現場で活躍する人々が中心に企画されたイベントでただの展示会に収まらない部分も新鮮で是非とも定例開催して欲しいと思えた。

GEAR EXPO TOKYO 2021レポート説明写真
ワークショップ会場の様子。海外映画のシーンを再現したステージでライティングを行い、それを会場の複数台のカメラでカメラマンの方たちが撮影する形で行われた
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こちらもワークショップの様子
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ワークショップに使われたMA Lighting社の調光卓「grandMA2」。これまでのライティングは有線コントロールだったが、会場のライティングはすべて無線でコントロール可能。光量も全部調整可能で、ライティング待ちが少ない点も特徴としていた

企画準備を担当したJSLの理事であり照明技師の宗賢次郎氏と、JSCとJSLに所属する撮影監督の伊藤俊介氏に同展のポイントを聞いた。

宗氏は同展開催に至った経緯ついて、「当初は日本映画撮影監督協会がイベントを企画していたところに、日本映画テレビ照明協会と共催で出来ないか?と私から提案をしました。これまで両協会による共催は一度もありませんでしたが、この話をきっかけに積極的に話が盛り上がりました」と当時の様子を振り返った。

同展の企画を担当した伊藤氏は、「Inter BEEでは現場の技術者の声がメーカーに届きづらく、日本から世界に発信できる場が必要と考えていました。また、GEAR EXPOが世界の技術者が来日した際にディスカッションできる場が必要と考えていました。来年以降、外国の技術者とコンタクトできる場にできたらと考えています」と思いを語った。

    
照明技師の宗賢次郎氏
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撮影監督の伊藤俊介氏
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各メーカーの製品説明ステージで質疑応答をする伊藤氏(左)

各メーカーの出展製品レポート

同展は、撮影に関わるメーカー出展製品も目玉になっていた。その様子を紹介しよう。

Angénieux:個性をカスタマイズできるプライムレンズ「Optimo Prime」

最初に目についたのはAngénieuxの「Optimo Prime」だ。Angénieuxはズームレンズがあまりにも有名だが、Optimo Primeはプライムレンズだ。

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Angénieuxのプライムレンズ「Optimo Prime」。ほとんどのレンズでT値は1.8を実現し、12本の焦点距離をラインナップする
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12本のプラチナセットのうち、135mmと200mmの2本を除く18mmから100mmのレンズが体験可能だった

Optimo Primeを振り返ると、2019年5月に製品発表、PRONEWSでは2019年6月のCINE GEARレポートでOptimo Primeの開発発表の様子を紹介した。その後、2020年8月に6本のシルバーセット、2021年6月には9本のゴールドセット、2021年7月に12本のプラチナセットとIOPアクセサリーを発売し、現在は全焦点距離の利用が可能となっている。

Optimo Primeの特徴は、レンズの構造がモジュラー形式の採用だ。絞りはユニットがカートリッジのように取り外し可能で、絞りの羽根の枚数を選択可能。標準は9枚の円形絞りだが、3枚の三角形や楕円から選べる。

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絞りは、標準の9枚羽根から3枚羽根、楕円形などに変更可能。写真は楕円形を搭載したもの

中央のIOPステージと呼ばれる部分はガラスを1枚変更可能で、エフェクトを入れたり、あえてコーティングしていないガラスを入れて反射を増やせる。また、各レンズの背面にはにもネジ付きフィルターステージがあり、合計3カ所の設定が可能。撮影監督の方の好みのテイストをレンズで実現できる。

これまでのレンズ効果のエフェクトはポスプロ任せだったが、撮影監督の意図が歪んでしまう場合もあった。Optimo Primeはレンズの光学で個性を実現することにより、撮影監督の意思をRAWで記録することが可能になりそうだ。

富士フイルム:クリアで自然なルックが特徴のPremistaシリーズ3本を展示

富士フイルムは、シネマズームレンズのPremistaシリーズを展示。Premistaシリーズはワイド、標準、望遠の3本構成で、ワイドズームのPremista19-45mmT2.9は2021年1月28日に発売済みだ。主要なレンタル会社で取り扱いもスタートしている。

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Premistaシリーズの特徴は、プライムレンズとの親和性のよさだ。Premistaはレンズはナチュラルで、色の傾向はいわば「偏りがない真ん中の色」を実現している。それゆえに他社製プライムレンズと組み合わせても、合わせやすいレンズと言われている。GEAR EXPO TOKYOは各社プライムレンズとの組み合わせが体験できるようになっていた。

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プライムレンズがメインの撮影現場に、ズームレンズを導入したいという場合にPremistaは有力な候補となり得えそうだ

ARRI:日本初上陸した24-75mm T2.8を含むSignatureズーム4本を展示

ARRIは、Signature Primesと同じ設計哲学を備えた16-32mm、24-75mm、45-135mm、65-300mmの4本のSignatureズームを展示。2021年春のARRI祭りの時は65-300mmと45-135mmの2本の展示だったが、今回はすべてを揃えて展示が行われていた。

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Signatureズーム65-300mm。これだけ望遠寄りのズームレンズでもT値は全域2.8を実現している
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ARRIのSignatureズームレンズを4本すべて展示。春のARRI祭ではSignatureズーム2本の展示だった

Signatureズームシリーズ共通の特徴は、4本すべてT2.8の最大口径であるところだ。シリーズ通して16mmから300mmまでの焦点距離帯をT2.8でカバーできる点は驚きだ。

24-75mm T2.8は日本初上陸したばかりだという。24-75mmはほとんどの撮影に対応するオールラウンダーレンズで、フロント径はSignatureプライムと同じ114mmとしている。

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日本初上陸したばかりの24-75mm T2.8

ツァイス:Supreme PrimeとSupreme Prime Radianceを展示

ツァイスは、Supreme Primeとコーティングが異なるSupreme Prime Radianceを展示。会場ではこの2種類を交互に撮り比べできる貴重な機会となっていた。

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業界標準的な存在になりつつあるSupreme Prime
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Supreme Primeをベースに新開発のT* blueコーティングを採用したSupreme Prime Radiance

Supreme Prime Radiancesは、美しいフレアとやわらかいコントラストを特徴としている。ただし、フレアはかなり光源を正体させて強い光を入れないと発生せず、若干の光がレンズの中で回った状態ではコントラストが若干低下する雰囲気になるという。

Supreme Primeは比較的はっきりくっきりしているのに対して、Radianceはコントラストが柔らかく、クラシカルで心地いいと言う意見もある。この2つの違いが、Supreme Primeブランドの注目点であろう。

なお、Supreme Prime Radianceは、2021年6月に新たに4本の焦点距離を発売。現在、18mm、21mm、25mm、29mm、35mm、40mm、50mm、65mm、85mm、100mm、135mmの11本をラインナップ中だ。

ブースでは受講者限定のSupreme Prime Radiance長袖Tシャツプレゼントも行われていた

Leitz Cine:シネマプライムレンズの新開発ライン「ELSIE」シリーズの75mmを展示

Leitz Cineブースの目玉はシネマプライムレンズの新開発ライン「ELSIE」の展示だ。25mmの展示はPRONEWSでも紹介したばかりだが、会場には75mmのプロトタイプも展示されていた。

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ELSIEの25mmと75mmを展示

ELSIEは13個のレンズセット。15mmから150mmでT値は2.1に統一し、新しいボケなど多数の特徴をもっている。LPLマウントを採用。2022年内で11本、15mmとテレ端の150mmを2023年に発売予定としている。

LEITZ ZOOMもLeitzの注目製品だ。今年から利用可能になったばかりのシネマズーム新製品で、25-75mmと55-125mmの2本セットで構成し、T値は両方とも全域で2.8を実現している。国内でも三和映材社などのレンタルハウスで取り扱いを開始している。

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LEITZ ZOOMの25~75mm
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一番左がLEITZ ZOOMの55-125mm

DJI:Ronin 4Dは無線伝送&無線制御も強力。遠隔コントロールをアピール

DJIの4軸シネマカメラ「Ronin 4D」は、手元で体験できるデモ機と、クレーン吊り+マスターホイールで遠隔操作用のデモ機2台を展示していた。

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手に取ることができるデモ機には、3チャンネルフォローフォーカスハンドユニットと組み合わせて体験可能になっていた。例えばカメラマンはマニュアルフォーカス設定で役者を追っかけて、フォーカスマンはフォローフォーカスハンドユニットを遠隔操作して露出やフォーカスを調整する使い方が可能。ハイブライトリモートモニターには、LiDARウェーブフォームを表示してフォーカスを送ることができるのは便利だ。

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画面右側に焦点調整補助ツールのLiDARウェーブフォームを表示。オペレーターは焦点位置を把握して、プルフォーカスを行うことが可能

また、Ronin 4Dの映像トランスミッターは1080P 60fpsの映像を遠隔モニターへ4kmまで伝送可能。先日のInter BEE会場では、ホールの端から端まで伝送が可能だったという。遅延もそれほど感じず、かなり便利に使えそうだ。

ソニー:発表されたばかりのVENICE 2 8Kモデルと6Kモデルを展示

ソニーは、2021年11月16日に発表したばかりのVENICE 2の8Kモデルと6Kモデルを展示。8Kモデルに関しては、新開発8.6Kフルフレームセンサーを搭載。8Kコンテンツ制作よりも、8Kセンサーを使ってオーバーサンプリングによる質の高い4K、2Kコンテンツ制作をサポートできるとアピールしていた。会場では12G-SDIで出力し、4Kモニターで確認できる形で可動していた。

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VENICE 2 8Kモデルはボディとセンサーともに一新。センサーの感度やノイズ感も6Kセンサーよりもよくなっているという
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VENICE 2 6Kモデルはセンサーは現行のVENICEと同一で、ボディを一新している
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こちらは従来のVENICE

VENICEは本体にSxSメモリースロットを搭載していたが、VENICE 2はAXSメモリースロットに変更している。8K60Pなどの高ビットレート映像を収録する際には、新製品のAXSメモリーカードAシリーズ「AXS-A1TS66」で対応可能としている。

また、VENICE 2はボディの全長を変更している。VENICE本体と比べると全長は長くなっているが、VENICEではX-OCNで撮る場合はポータブルメモリーレコーダーAXS-R7を搭載しなければならなかった。その組み合わせと比較すると、4cmほど短くなっている。

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VENICE 2は標準でAXSメモリースロットを搭載

AOTO:バーチャルプロダクション向けの1.5mmと2.3mmピクセルピッチのLEDディスプレイを展示

AOTO Electronicsは、1993年に設立されたLEDディスプレイメーカー。バーチャルプロダクション向けのLEDディスプレイを2機種展示していた。

1つは、バーチャルプロダクション向けのRSシリーズでピクセルピッチは1.5mm。1つのキャビネットサイズは600mm×337.5mmで、会場では横5枚縦6枚で構成。最終的にはサイズは3m×1.8mで、解像度は2Kで展示されていた。

1.5mmピッチと細かいと、近くで見てもきれいだ。導入事例としては、イギリスで撮影された映画「バットマン ビギンズ」で使われたり、マイクロソフトプロダクションスタジオアメリカ本社に導入されているという。

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もう1つはピクセルピッチ2.3mmのRM2.3 LEDで、会場では2.5m×2mのサイズで展示していた。こちらの導入事例はNetflixなどがあるという。

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