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千葉県・幕張メッセのリアル会場とオンライン会場のハイブリット開催となった「CEATEC 2022」

千葉県・幕張メッセでハイテク関連の見本市「CEATEC 2022」が開催された。会場内には、メタバース関連を集約した「METAVERSE EXPO JAPAN 2022」も併催されており、最新技術が集まるイベントになっていた。

本稿では、メタバース関連ブースの取材から、現在のメタバースの動向をお届けしたい。

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会場内にはメタバース関連出展を集めた「METAVERSE EXPO JAPAN 2022」も併催された

メタバースに乗り遅れまいと問い合わせが急増

メタバースは、大雑把に言えばインターネット上の仮想空間で世界を構築して、新たなサービスやコミュニケーションの形などが提供されるサービスだ。

Webサイト上のオンラインショップにアクセスして、表示される写真を見ながら買い物をする、というオンラインショッピングの体験が、メタバースだと3D空間内に構築された店舗内に入り込んで、ディスプレイされた商品を見て、上下左右を自由に確認してから購入する、といったこともできるようになる。

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楽天モバイル内のブースにあったメタバース内のショップ。やや仮設のような外観ではある
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スマホでも、リアルとバーチャルの融合したショッピング体験を提供できる。これは凸版印刷のメタパ

VRやARを組み合わせることで、よりリアルに3D空間に没入できたり、現実世界に3D映像を表示してリアルとバーチャルを組み合わせたり、複数の技術の組み合わせで、より新しい体験を提供できる、というのが謳い文句ではある。

自分の目線と同じように風景だけが見える3D空間だけでなく、自分自身の分身となるキャラクター(アバター)が3D空間に入り込んで、実際にその空間に溶け込むということもできるが、果たしてどのようなサービスがメタバース普及の起爆剤になるか、どれだけ普及するのか、現時点で確実に予測することはできない。

実際、METAVERSE EXPO JAPAN 2022のブースで各社に話を聞いても、「とにかく企業側のニーズは大きい」という声は聞こえてくるが、あくまで「話題なので乗り遅れないように準備だけはしておきたい」という意識が強いようだ。

宇宙空間でライブ

個人的に一番気に入ったのは、バスキュールとJAXA(宇宙航空研究開発機構)が共同で開発した「THE ISS METAVERSE」。国際宇宙ステーション(ISS)を3Dデータとして表示し、メタバース空間(宇宙)に浮かべることで、3Dキャラクターが自由にISSやその周辺を飛び回れるというもの。

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ISSを体験できるエンターテインメント・学習コンテンツのTHE ISS METAVERSE
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VRゴーグルを装着して、宇宙空間のISSに入り込む

ISSは地上400kmを秒速8kmで飛行しているが、その現在位置や地球の昼夜の状況はメタバース上でも再現され、実際の宇宙飛行士が見ているリアルな空間を再現している。JAXAと協業しているため、宇宙空間やISSのリアルさが追及されていて、感動的ですらある。

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船外に出て美しい地球の映像も確認できる。実際のISSの現在位置とも同期されている点も面白い

宇宙やISSの体験だけでなく、「宇宙ライブ」というメタバースならではのコンテンツもあり、これはISS上にアーティストが現れ、ライブが行われるというもの。ISSの太陽電池パドルの上をステージとして生身のアーティストが歌い踊る、現実感のない映像だが、だからこそ面白く、ユーザー側はペンライトを振って参加もできる。

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宇宙ライブでは、実際のライブ映像を合成している形だろうが、宇宙空間のISSがステージとなり、ペンライトを振りながらライブに参加できる面白い体験ができる

インターネット上に一般公開はされていないメタバース空間だが、メタバースの可能性を体感できるコンテンツだと感じた。

自分自身にもアニメのキャラクターにもなれる

凸版印刷は、印刷会社としてこれまで商品パンフレットなどのサービスを企業側に提供してきたが、それをメタバースに発展させる仕組みを構築。VRソリューションとして企業側に提案している。

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リアリティを追求した凸版のメタバース

凸版のVRソリューションは印刷会社らしくリアルさを追求したものだ。例えば車の商品展示では、ディーラーのショールームのように車を自由な方向から眺めて、そのデザインや質感を確認しつつ、アバターと並べることで実際のサイズ感もよく分かる。車内、車外を行き来して確認できるので、平面のパンフレットなどよりも分かりやすいだろう。

同様に、住宅展示のような現実では大規模なスペースが必要な展示でも、メタバース内であれば自由度が高い。VRゴーグルを装着して住宅内を見て回れば、実際の住宅を見て回るようなリアリティが得られそうだ。

アバターというと、日本だとデフォルメ化されたアニメチックなものが多いが、凸版はどちらかというとビジネスシーンなども想定してリアルな方向性。メタバース内で会った人と、リアルで会ったときも変わらずに交流できるといった方向性だ。

実際の商品を購入する際も、それが「自分に似合うものか」を確認するためには、やはり自分を模したアバターの方が確実。これは良い悪いというよりも、メタバースに求める機能の違いというところだろう。

凸版ブースでは、写真1枚を撮るだけでリアルな自分のアバターが作れる「MetaClone」が面白い。撮影した顔データのみを使い、体のデータは汎用のものを利用することで簡単にアバターが作成できるソリューション。撮影できない顔の側面、背面はAI技術によって推測して作成するため、1枚の写真だけで自身のリアルなアバターが完成する。

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写真1枚からリアルな自分のアバターが作成できるMetaClone。体や動きはあらかじめ用意されたもの。まばたきもするなど、人間味を追及している

実際に会場でアバターを作成することも可能(10月末まで)だが、あくまでデモとして一時的にオンライン上にアバターを公開することができるだけだった。これが進化することで、自身のアバター作成が簡単に行えるようになると期待させる展示だった。

それに対して、同じ印刷業界から大日本印刷も出展。ブース内に同社が出資するPocket RDが展示を行っており、同様にアバター作成のソリューション「AVATARIUM」を紹介していた。

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大日本印刷のブースにあったAVATARIUM。大型のボディスキャナーで全身をスキャンしてアバター化する
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撮影後のカスタマイズも可能で、どちらかというとリアルではなく、「あのアニメのキャラクター」のようにデフォルメする

AVATARIUMは、複数のカメラを備えた撮影ブース内で全身をスキャンしてアバター化する。1枚だけでなく複数枚の写真を撮影するため、仕組みは大がかりだが、より精度は高い。基本的には移動式のブースを施設やイベントに貸し出している。

撮影後のデータは、vrmとfbxのフォーマットで出力されるので、それを例えばゲームに組み込んだり、対応するメタバース空間でそのまま利用したりといった使い方もできるそうだ。

こちらは、自分自身のアバターを高精度に作成できるが、それをそのままリアルなアバターとして使うのではなく、ゲームキャラクターにしたり、有名アニメ調に変換してアニメの世界に入り込んだりといった、エンターテインメント利用を想定しているという。

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ゲームのキャラクターとして使用すれば、自分がゲームの中に入り込んで遊ぶことができる

vrmやfbxは3Dモデルのファイルフォーマットだが、特にvrmは日本発の3Dアバターの標準規格として策定されているため、汎用性は高い。このvrmの3Dモデルを作成する別の手法としてPixivが展示していたのが、「VRoid Studio」だ。

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様々な調整をしながら比較的簡単に3Dキャラクターが作成できるVRoid Studio

3D初心者でも簡単に3Dキャラクターが作成できるツールで、しかも無料で利用可能。作成したツールを素材として販売することもできて、クリエーターから初級者まで利用できるようなツールとなっている。

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キャラクターやパーツなどの販売も可能

アニメ調のキャラクターを作成するツールで、日本的にも見えるが、海外からの利用者も多いとのことで、いわゆるジャパニメーションでの海外人気もうかがわせる。完成した3Dキャラクターは投稿・共有プラットフォームの「VRoid Hub」を経由して投稿でき、「VRoid SDK」を使えば、自作のアプリケーションをVRoid Hubと連携させることもできる。

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アクティブユーザーの9割が海外だということで、日本だけでなく海外での人気をうかがわせる

想定しているのはエンターテインメント方向の使われ方だが、今後のメタバースの拡大で利用の増加を見込む。ただ、現時点では無料のツールであり、どのように事業化を図るかが今後の課題だという。

ペルソナとしての自身のアバターを作成するのもいいし、メタバース上に配置するキャラクターを作成するのでもいいだろう。リアルなメタバースの世界観に自作の3Dキャラクターを自由に動かして映像として保存する、というのも新しい映像表現になりそうだ。

どのように使うかの模索が続く

メタバース空間の利用方法として、様々な検討がされている。Meta(旧Facebook)は「Horizon Workrooms」を実際に体験できるブースを展示。名前の通り、どちらかというとビジネス利用を想定したツールだ。

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MetaのHorizon Workrooms。横を振り向けば同じ会議の参加者(のアバター)がいるのが分かり、一緒に参加しているような感覚になれる

VRゴーグルを装着して自身がルームに入り、複数の人と一緒に共同作業が行える。空間上に複数のアバターが存在し、普通の会議のように話しかけたり、バーチャルなホワイトボードに情報を書き込んで共有したり、PCの画面をVR空間上に表示して作業したりと、仮想空間内に自由な仕事場を構築できる。

PCのディスプレイを使っても参加できるが、VRで利用した方が仕事や会議などへの没入感が出そうで、味気ないリモートワークもリアルと同様の感覚で同僚に話しかけたり、共同作業をしたりといったことができるようになりそうだ。

メタバースは、基本的にVRChatのようなプラットフォーム上に構築された複数のワールドを渡り歩き、それぞれのワールド内でコンテンツを楽しんだりサービスを利用する。

例えばすでにJR東日本との「バーチャル秋葉原駅」、アウディジャパンとの「Audi e-tron VR試乗体験ブース」など多くの実績を有しているHIKKYは、VRChat上でバーチャルのニューヨークと大阪を舞台にして、メタバース上に様々な企業が出展するイベントを開催。

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HIKKYのイベントでは、大阪の町並みを再現して、その中を歩き回ってリアルにはない店に入って買い物をするなど、リアルとバーチャルが組み合わさった世界観のワールドとなっている
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みずほ銀行の店内では、さすがに金融商品は扱っていないが、銀行に親しみを持ってもらおうというコンテンツを用意

この世界観では、みずほ銀行やBEAMS、東京マルイなど様々な店舗が出店して、買い物をしたりアトラクションに参加したり、モデルガンのゲームをしたりと様々なコンテンツを楽しめる。全世界で参加したのは100万人を超え、世界最大のお祭り、と同社ではアピールする。

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BEAMSの店舗内では、マネキンのように3Dアバターに試着させて商品をチョイスできる
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HIKKYに展示されていたSteam Deck。同じコンテンツをモバイル環境でも楽しめる

HIKKYではVRChat以外に、自社でもプラットフォームとして「VketCloud」を開発しており、プラットフォームにも力を入れる。

渋谷109などを再現したThe Sandboxは、ランドと呼ばれるワールド内の土地を企業などが使って自分のコンテンツを構築する形になる。様々な企業などが参加できるプラットフォームであり、位置づけとしてはVRChatと同じになる。ただ、こちらはPC向けアプリケーション上で動作するため、また少し立ち位置の違うプラットフォームではある。

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渋谷109を中心に渋谷の街を再現したThe Sandbox
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まだ一般公開されていないというが、例えばバーチャル渋谷109内にテナントを誘致して、そこでリアルとは異なるショッピング体験を提供する、といったことも可能

NTTドコモから分離して設立されたNTTコノキューも、メタバースプラットフォームの「XR World」を立ち上げるなど、この分野に力を入れている。バーチャル渋谷などを提供するKDDI、ソフトバンク、楽天モバイルといった携帯4社も注力している分野で、各社が事業化を模索している。

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ドコモから事業会社として分離したNTTコノキューのXR World。これはバーチャルとリアルを組み合わせたアイドルユニットAKB48 SURREALの特設ワールド。ライブ会場にアバターで集まって鑑賞するといったコンテンツを提供。ほかにもユーミン特設ワールドなど、エンターテインメント方面に注力している。

まずは、プラットフォーム側の競争が激化するメタバース市場。その上で、なにをして、どうすれば、どういったビジネスが展開できるのか、VRゴーグルの保有者も性能も限られる中で、メタバースはブラウザでもいいのか、ゴーグルを使った没入感が重要なのか、屋外でのARの可能性など、問題は山積のメタバース。

それでも、様々なプレイヤーが参加して発展すれば、技術革新とともに一気に普及する可能性はある。