Blackmagic Designによると、中国の人気SFシリーズ「三体」のカラーグレーディングをMogo Film Labsの劉墨氏が手がけ、編集、グレーディング、VFX、オーディオポストプロダクション・ソフトウェアであるDaVinci Resolve Studioが使用されたという。
楊磊氏がディレクターを務め、張魯一、於和偉、陳瑾、王子文、李小冉が出演している同作は、劉慈欣氏による同名小説を基にした中国のSFシリーズで、ナノテクノロジーを研究する学者の汪淼と諜報官の史強が地球外文明「三体」の謎を解き明かしていく物語。
同作は、時間的には現在と1970年代、空間的には様々な場所を舞台としている。物語の展開に伴い、ムードや登場人物の性格も変化する。このような変化や違いは、リードカラリストの劉墨氏がイメージのカラーを調整することで表現された。
劉氏は、撮影初期からディレクターとアイデアを交換し、様々なルックを一緒に試したという。
劉氏は、次のようにコメントしている。
劉氏:ディレクターの楊磊は、撮影を始める前にどのような作品にしたいかについて、明確な構想を持っています。また、技術についても詳しく、撮影すべきショットが何か、カラーグレーディングで出来ることと、出来ないことを理解しています。
同作のルックは、ディレクターが自らグレーディングしたテストシーケンスの一部に基づいて作成された。このサンプルでは、それぞれの時代に対するディレクターのビジョンが反映されていた。同作のルックを作成する上でのガイドラインとしてカラリストには、現在のシーンでは現代的で冷たいスタイル、70年代のショットには懐かしさを感じさせるレトロな雰囲気、紅暗基地のシーンでは夢の中のようなルックを用いて欲しいとのディレクターの意向が伝えられた。
劉氏にとって、ディレクターのビジョンをカラーグレーディングで表現するのは大変だったという。
劉氏:同じフッテージでも、異なるテクニックを用いることで異なるエフェクトを作成できます。現代的な雰囲気、レトロな雰囲気、夢の中のような雰囲気を色を使って作り出すことが最も難しかったです。
劉氏:個人的には、現代のルックは「デジタル」な感覚があります。この「デジタル」というのは作り物のようだという意味ではなく、現在を象徴できる洗練したものでもあります。そういったことから、2007年のシーンのカラーグレーディングは撮影時に捉えたものをベースとして、カラーコレクションを行い、ディテールを微調整して、ショットの空気感を強調しました。
文化大革命のシーンのレトロな雰囲気を作成する上で、同氏はフィルムに撮影された古い映画のスタイルを採用した。
劉氏:色と記憶は互いに深く結びついていると思います。特定の時代にフィルムで撮影されたものは、感覚として人々の潜在意識に浸透しており、そのルックに似たイメージなどを見たときにその時代を思い起こさせます。それを踏まえ、本作におけるカラリストとしてのゴールは、潜在的にその時代を想起させる視覚的なスタイル、すなわちフィルムルックを作成することでした。
紅暗基地の夢の中にいるかのようなルックは、初期段階に楊氏が特別に設計した照明を基にしているという。撮影中、シーンのトーンを形成する上で色付きの照明がどのような効果をもたらすか両氏はテストを重ねた。最終的なカラーグレーディングでは、まず本来の色をわずかに調整し、その後に全体的な調整が行われた。
また、カラリストが登場人物をしっかり理解した上で、登場人物の個性を形作る手助けをしたこともチャレンジだったという。
劉氏:物語と各登場人物を深く理解する必要があります。美しいルックのイメージを作成することは簡単ですが、物語のムードを反映しなければ意味がありません。カラリストは、シーケンスを観て、自分なりに解釈してからグレーディングを開始します。グレーディングしたフッテージのチェック段階において、ルックがディレクターの当初の構想と正確に一致しない部分でアドバイスを受けたので、グレーディングを完成させるのに大変役立ちました。
中国で大変な人気を得たため、同氏は「三体」の全シーンにおいて多大な努力を費やし、特に以下のシーンのカラーグレーディングにこだわったという。
劉氏:申玉菲の家のシーンはとても重要です。主要な登場人物である彼女の家では重大な事件が起きるからです。環境、登場人物、カラーに多くの調整を施しました。例えば、環境を暗くして雰囲気を生み出し、登場人物の照明を調整して感情を表現し、彩度が非常に高くなっている箇所を調整して全体的なトーンを統一しました。
三体遊戯のシーンには、VFX部門がリニアガンマを含むEXRファイルをカラリストに送信し、DaVinci Resolve StudioでGamma 2.4に変換され、カラーグレーディングの開始点として使用された。
劉氏:三体遊戯のシーンは多数あり、それぞれルックが異なっています。雰囲気を作り出すものや、物語を伝える手助けをするものなどに分かれています。例えば、汪淼が最初にゲームを参加する時は混沌とした時代なので、その雰囲気を高める必要がありました。汪淼が初めて周文王に会うシーンでは、火星のようなオレンジと赤を基調としたトーンのルックを作成し、次にシャドウに深緑を追加して色のレイヤーを豊かにし、強いインパクトを与えるようにしました。また、1日の移り変わりを表現するために3つのトーンを使用しました。一つのショット内で色のグラデーションを作成する必要があるショットもありました。
「古筝作戦」のシーンはパナマ運河を舞台としているが、実際は中国で撮影された。
劉氏:このシーンがパナマで撮影されたように見せる必要がありました。パナマ運河は熱帯地方にあるので、直射日光を表現するためにコントラストを高めました。次にResolveのRGBミキサーを用いて、熱帯気候の緑豊かな植物と高い気温を表現する黄緑のルックを作成しました。VFXのショットでは、リアルなルックを得るために、多くのマットを使用して、ブラック、ホワイト、グレーのトーンをコントロールしました。
同氏はカラリストとして8年間の経歴を持ち、これまでに「無問西東(Forever Young)」、「心理罪之城市之光(The Liquidator)」、「合法伴侶(Special Couple)」、「30女の思うこと~上海女子物語~」、「九州縹緲録~宿命を継ぐ者~」、「龍嶺迷窟(Candle in the Tomb:The Lost Caverns)」などの人気の劇場映画とテレビシリーズを手がけてきた。
劉氏:この業界に入ってからずっとDaVinci Resolveを使用しています。DaVinci Resolveのユーザー数は多いので、アシスタントと連携して作業しやすいからです。DaVinci Resolveのカラーマネージメントは、カラーパイプラインの柔軟性を大いに改善しました。本作では、DaVinci ResolveのACESカラーマネージメントを使用しました。これは、ショット数が多い、長編のテレビシリーズで色の一貫性とバランスを保つ上で非常に役立っています。
同氏はDaVinci Resolve Studioに搭載されている他のツールも気に入っているという。
劉氏:カラースペース変換機能は、カラースペースの変換を極めて簡単に実行できます。カーブではコントラストとトーンを微細にコントロールできます。HDRでは、イメージに深みと豊かさを加えられます。
「三体」は、CCTV-8、テンセントビデオ、ミグビデオで2023年1月15日に放送が開始された。