Blackmagic Design導入事例:映画「シン・仮面ライダー」の場合

Blackmagic Designによると、庵野秀明監督のヒット作「シン・仮面ライダー」のグレーディングにDaVinci Resolve StudioおよびDaVinci Resolve Advanced Panelが使用されたという。同作品のグレーディングは、東宝スタジオ「DIファクトリー」の齋藤精二氏が担当した。

「シン・仮面ライダー」は1971年に放送が開始されたテレビシリーズ「仮面ライダー」の生誕50周年記念作品として製作され、2023年3月に公開後、歴代の仮面ライダー映画作品の最高興行収入を達成した。脚本と監督を仮面ライダーシリーズの大ファンでもある庵野秀明氏が手がけ、池松壮亮、浜辺美波、柄本祐らが主演を務めた。

同作のグレーディングは、東宝スタジオ内にあるポストプロダクション施設DIファクトリーにて行われた。DIファクトリーではシアター上映作品のための部屋と、テレビや配信サービスのドラマシリーズや長編作品などのモニターで視聴する作品用の部屋があり、どちらにもDaVinci Resolve StudioおよびDaVinci Resolveのグレーディング用コントロールパネル(DaVinci Resolve Advanced Panel/Micro Panel)が導入されている。

Blackmagic Design導入事例:映画「シン・仮面ライダー」の場合
©石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会

同作のDIプロデューサー/カラリストの齋藤精二氏は、次のようにコメントしている。

齋藤氏:DIファクトリーでは映像に関わる全てのプロセスに対応しています。編集やグレーディングという括りではなく、撮影スタジオにいる利点を生かして、テスト撮影素材をここで確認して、メイクや衣装の色についてアドバイスするなど、プリプロダクションから映像に関わっています。元々純粋なポストプロダクション出身でしたが、もっと撮影現場に近づきたかったので、現在の働き方は自分の理想に近いですね。

齋藤氏は「シン・ゴジラ」、「シン・ウルトラマン」そしてアニメ作品「シン・エヴァンゲリオン劇場版」を含む「シン」シリーズ全てにおいて庵野氏とタッグを組んでいる。

齋藤氏:庵野さんは造形に非常にこだわりが強いんです。例えば、ライダー1号と2号のヘルメットを持ち込んで、この色を正確に再現して欲しいと言われました。庵野さん自身が初代仮面ライダーの大ファンなので、そのノスタルジックな思いをグレーディングでも追求しました。当時の仮面ライダーは16mmフィルムで撮影されていて、まだフィルム感度も低い時代だったので、夜のシーンも真っ暗ですごく怖かったし、子どもが見る作品なのに血もバンバン出ていました。そういったオリジナル作品へのオマージュとして、ダークなルックを再現するようなアプローチをしました。

同作では、今までの「シン」シリーズと同様に様々な種類のカメラが使用されている。

齋藤氏:撮影は常にマルチカメラの状態で、もう、そこにあるカメラは全て使うくらいの感じです。iPhoneやアクションカムなどの小型カメラだからできる独特のアングルを追求するのも特徴です。クランクアップを迎えた後もどんどん追加撮影素材が来ますし、普通の映画の作り方ではないですね(笑)。

Blackmagic Design導入事例:映画「シン・仮面ライダー」の場合
©石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会

齋藤氏:今回DaVinci Resolveを使って良かったことは、カラースペース変換の機能を使って、異なる複数カメラをある程度のセンターラインまで持っていけたことですね。カラースペース変換によって、色々なカメラを使っていても、メインカメラのカラースペースに全部置き換えているんです。そのため用意するベースのLUTも1つですみました。「シン・ゴジラ」や「シン・ウルトラマン」の時は、これを力技で自分の目だけで色を合わせていたんです。

齋藤氏は、DaVinci Resolveが様々なコーデックにネイティブ対応している点についても高く評価している。

齋藤氏:僕がグレーディングツールで重要視していることは、最新のカメラRAWに対応しているかなんです。その中でもDaVinci Resolveは各種コーデックに対応するのが1番速い。ネイティブで読み込めないと、変換などの手間がかかるし、データ量も倍になります。最新のカメラの素材でも、すぐに読み込めることでグレーディングの効率化にも繋がります。

作品のクオリティを上げるには、撮影、編集、サウンドなど、あらゆるクリエイティブが連動してシナジー効果を生むことが重要だと考えています。グレーディングはあくまでもその中の1つです。

カラリストだから色だけ、ではなく、映画制作の様々な技術に関心を持って、撮影スタジオならではの作品全体のクオリティアップに貢献したい。DaVinci Resolveも元々はグレーディングツールだったものが編集やFusion、Fairlightの機能が追加され、どんどん進化しています。古くからのユーザーにとってはかなり驚きがありましたが、そう言った既存の枠組みを超えて、様々なツールを連携させてきたことでここまで世界中で使われるようになったんだと思います。ユーザーである我々も既存の枠組みを超えた進化を意識することでこれらを有効に活かすことができますし、AIの進化で人が不要になる技術も確実に増えていく中で、これからの時代にはマルチなスキルは必須だと感じています。

Blackmagic Design導入事例:映画「シン・仮面ライダー」の場合
©石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会