ソニーは、2023年10月7日から10月9日の3日間、実践型ワークショップ「CREATORS' CAMP」を初開催した。開場は福島市にあるコワーキングスペース「Fukushima-BASE」で、1日目はレクチャー、2日目は撮影と編集、3日目は上映会、審査、講評が行われた。PR映像が完成するまでのプロセスでどんな課題や発見が得られたのか、現地の3日間の様子をレポートしたい。
自治体PR映像作成を通してクライアントワークやチームワークを学ぶ
CREATORS' CAMPは、3日間集中のプログラムで地域のPR映像を制作するソニーが運営する実践型ワークショップだ。活躍中のクリエイターからレクチャーを受けながら技術を習得できるだけでなく、同じ技術を持つたくさんの仲間と出会える場であることも特徴としている。ソニーは同社ストアで半日程度のセミナーは定期的に開催しているが、3日間かけてのここまでがっつりとした映像系ワークショップは恐らく初めてではないだろうか。
PR映像は1分以上(推奨は1分~2分程度。長くても3分)で、福島市の魅力を知ってもらう内容を撮影、制作、納品する。その過程で、チームワークの大切さや撮影ロケーションの立案、交渉、締め切りの厳守を体験する。
少し裏話になるが、この本格的なプロを目指すクリエイター向けカリキュラムは大手映像制作会社のAOI Pro.との共同企画によって実現できたという。AOI Pro.は映像制作系オンラインコミュニティ「AOI Film Craft Lab.」を運営しており、すでにPR映像を合宿形式で作るプロジェクト「撮り旅」を行っている。そのカリキュラムがCREATORS' CAMPにも活かされているという。
さらに、福島市観光交流推進室と福島市ロケツーリズム推進会議の後援や講師陣としてUssiy氏、DIN氏、AKIYA氏、Ryo Ichikawa氏、Kai Yoshihara氏の計5名の参加も非常に大きな特徴としている。
それでは早速、当日のワークショップの様子を紹介していこう。
1日目:撮影に向けた企画構想
1日目は12時集合から撮影機材準備の18時25分までプログラムが組まれており、その後は懇親会だ。まずは東京駅からFukushima-BASEのある福島駅に新幹線「つばさ」で移動。約90分で到着できるので、関東から比較的移動しやすい場所だと思った。
会場の入り口には受付待ちの行列ができており、計27名の参加者が集まっていた。実施日は三連休で参加費は税込33,000円、初開催とあって先着30名の募集に対してどれぐらいの申し込みが集まるのかまったく想像できなかったが、そんな不安は無用。2週間で募集を締め切るほどの大盛況だった。
下は10代、上は60代までの幅広い年代の方々で、女性の参加者も3名集まっていた。コアな部分は20代から30代が多かったが、年齢は関係なく短い時間で和気藹々とした雰囲気が感じられた。
プログラムはソニーマーケティングの渡邊昭仁氏や福島市木幡浩市長の挨拶から始まり、1人1分の自己紹介が行われた。
参加者の出身地は関東が中心だが、遠くは岡山からもいた。受講理由は、やはり憧れの講師にレクチャーを受けたいという意見が多かった。映像の表現の幅を広げたい、ウエディングを撮っているけれども、自治体のPR映像を撮れるようになりたい、さらには、同じ志を持つ仲間を作りたいという人も多数いた。やはりスキルアップや仲間を作りたいという高いモチベーションの人たちが集まったという印象だった。
27名の参加者は2名から4名を1チームとして編成し、9チームに分かれて作業に取り組む。2チームごとに1人の講師がアドバイスを担当し、企画構成や影のシーンでプロの視点からレクチャーしてもらえる。
チームに分かれた後は、早速1日目のメインである撮影に向けた企画構想をスタート。最終日の納品に向けて、どのようなPR映像を制作するのか?コンテ制作・ロケハン・進行制作など下準備を行う。純粋な王道のPR映像であったり、ある一人が主人公となって福島市を回り、その中でいろいろな出会いを描いた動画など、チームによってさまざま。どんな切り口でもPRとして成り立ち、福島市の魅力が盛り込まれていればOKとしている。
各チームの様子を見てみると、意見も積極的に言い、集約も早い。絵コンテも具体的に進んでいた。撮りたいイメージがはっきりしていて、それをぶつけている感じだ。ほぼ各チーム、撮るものは決まっているようだった。
アイデアが固まったところで1日目は終了した。
2日目:福島市のロケ撮影と編集
8時50分にFukushima-BASE集合。9時30分~19時まで各チーム福島市のロケ撮影を行い、19時~23時まで、編集・グレーディング作業を行う。2日目は「チームG」に同行させてもらった。
2日目は機材確認からスタート。1チームに2台までのCinema Lineカメラ「FX30」やDJIやZHIYUNブランドのジンバル、マットボックス、VNDが使える。その機材の準備から始まった。
準備が終わったら、いよいよ福島市の観光スポットに向かう。目的地は、「飯坂温泉」「阿武隈川」「あづま果樹園/PEACHMAN CAFE」だが、恐らく、温泉、自然、果物の撮影を1本のストーリーラインに収めるのは難しいことが予想される。例えば、何も考えずに撮ってしまうと、ホームビデオになってしまいそうだ。
チームG講師担当のIchikawa氏は「ただ繋いだだけの編集だとあまり面白くありません。魅力的に福島市を発信するには、ストーリーが大事になるでしょう」とコメント。また、撮影で意識したいポイントとして、「普通に誰でも撮れる画ではなくて、ちょっと人と違う"こんな視点あったのか"というアングルを撮れるようにアドバイスをしたい」と答えた。
ロケ撮影は阿武隈川沿いの板倉神社の撮影からスタート。晴れた青空が見える気持ちの良い空気の中での撮影となった。
「川はどのような感じで撮るのがいいですか?」との問いかけに、講師のIchikawa氏は「川はちょっと広大すぎる。これは普通にフィックスで入れたほうがいいと思う。動きの中に少しでも静止する抑揚があってもいいかなと思うから。川は止めで使って、それ以外は動きがある画のような使い方をしてもいいかもしれない」とアドバイスした。
このほかにも、インサートに使えるカメラアングルや神社っぽさを強調できるお勧めカットなど多数のアドバイスを送っていた。
チームGは19時まで、様々なロケ地の撮影を慣行。トラブルなく順調に撮影は完了し、Fukushima-BASEに戻って必要なカットや編集点の整理から作業を開始。作業は23時まで続いた。
3日目:上映会、審査、講評
9時20分にFukushima-BASE集合。心なしかみんな眠そうだ。3日目は9時30分から12時30分まで編集・グレーディング作業を行い、上映、審査、講評の予定だが、上映当日もほぼすべてのチームは納品ぎりぎりまで編集に追われていた。
12時30分から全チームの作品が納品され、上映会がスタート。1チームごとに壇上に上がって簡単な紹介を行い、上映を行った(各チームのPR動画はこちらから観ることができる)。
上映後は審査で、講師4名+福島市担当者1名の計5名。担当講師は受け持ったチームの審査は行わない。映像美、企画構成、PR映像としての質、福島市の魅力の4つの採点項目をもとに一人5点で、25点ずつ。計100点満点で審査が行われた。
審査の結果、1位に選ばれたのはチームI。チームIの石川氏は「僕らのチームは分業化して、カメラマン、カメラマン、PM、ディレクターと役割を分担しました。僕はディレクターを担当したのですが、やはり全員若手のどうしようもない集団で、ディレクターの撮りたい構図を指定しても、カメラマンが言うことを聞いてないこともありました。大変でしたが、こんなふうに仕上がったっていうのは本当に嬉しいです」と振り返った。
第一回CREATORS' CAMP@福島県福島市 優勝チーム作品(チームI)
チームBとチームDの2チームが、同率で2位に選ばれた。
第一回CREATORS' CAMP@福島県福島市 同率2位チーム作品(チームB)
第一回CREATORS' CAMP@福島県福島市 同率2位チーム作品(チームD)
最後に、同行させていただいたチームGに総評を聞いた。
「自分たちが思ったような画が撮れない、描いたイメージにならない、想像していたクリエイティブは作れませんでした。企画構成の段階から練るべきだったと思いました。今回のCREATORS' CAMPは、そのいいきっかけになったと思います」
「とりあえず企画は現地に行ってから撮ろうという感じだったのですが、しっかりと準備しておくべきでした。チームGはメンバーが2人だけで、もう少しチームに人が多かったらやりやすかったなと思いました。しかしその分、チームワークの大事さを体験できてよかったです」
2人とも反省しつつも、充実した表情を見せていた。
撮影をはじめた頃は「何を撮っていいかわからない」「どうやってやればいいかわからない」などの悩みを抱える経験は誰でもあると思うが、CREATORS' CAMPは講師のアドバイスをでそんな体験から抜け出すきっかけが得られるかもしれない。初めて出会った人とチームを組んで、様々な思考をまとめて映像制作を実現するという経験も大きな学びになるのではないかと思った。
企画・構想を担当したソニー渡邊氏は、「メーカーとクリエイター、自治体が有機的につながる場を目指していきたい。そして、第2回、第3回と定期的に続けていきたい」と語った。CREATORS' CAMPの今後の展開に注目したい。