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人生の大きな節目となる結婚式のウェディングムービーは、その人生の節目を記録するものとして、ウェディングフォトと並び、人気を集めてきた。

技術の発達により、結婚式や披露宴の様子を撮影して披露宴の最後に流す「撮って出し」のエンディングムービーも、特別な撮影オプションという立ち位置ではなく浸透している。

その「撮って出し」を、クラウドワークフローを使ったらどうだろうか?コストや準備は見合うものだろうか?業界のスタンダードになる可能性はあるのだろうか?

今回、実際のウェディングの現場でブラックマジックデザインの提供するクラウドサービス、Blackmagic Cloudを試した株式会社HIGHLANDの酒井洋一氏にお話を伺った。

酒井洋一氏プロフィール

神田外語大学英米語学科を卒業後、ハリウッドに渡りLos Angeles City College映画学科卒業。3年の間現地でCM、PV、ショートフィルムなどの現場に参加し、フィルムでの映像制作を習得。帰国後2006年、ミュージックビデオプロダクションの最大手、(株)SEPに入社。安室 奈美恵、Mr.Children、Kinki Kids、KREVA、MONKEY MAJIKなど150本以上のアーティストの映像制作に携わる。
2009年、クリエイティブブランド「HIGHLAND」を設立。ウェディング撮影を中心に活動を開始。2010、12、14年と世界のトップ撮影チームであるSTILLMOTIONのワークショップに参加。彼らのストーリーテリングの真髄に触れ、近年ではアメリカ、ロシア、イタリアなど世界での挙式/前撮り撮影や、留学時代に習得したフィルムでの映像表現に再び力を入れるなど、常に新しい技術や想いを大切に、カップルそれぞれの「ストーリー」を表現していくスタイルに磨きをかける。

ーウェディングの「撮って出し」はかなり一般的なんでしょうか?

撮って出しのエンドロールは、かなり人気の高いプランなので一般的ですね。コロナ禍では、招待客も少人数のためエンドロールやらないパターンも出てきたんですけど、最近は人数をたくさん呼べるようになったので、多くのカップルがエンドロールを流します。さっき起こったことが、すぐに披露宴の最後で見ることができるっていう、その演出がカップルにもゲストの皆さんにも喜んでいただけています。

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披露宴の最後に上映されるエンドロールは結婚式の人気のプラン

ー「撮って出し」エンドロールの文化はどこからきたんでしょう?日本発祥ですか、それとも海外からですか?

どちらが先っていうのはわからないんですが、海外から来たのかもしれませんね。海外だと「SAME DAY EDIT」っていう呼び方で、同じ日に編集するプランがあって、海外でも大人気のプランです。いつから始まったのかわからないですけど、私が結婚式撮り始めた、2009–2010年あたりはエンドロールはすでにありました。結婚式においても多様性の時代ですが、撮って出しのエンドロールは流行り廃りに左右されずなくならないですね。

ー酒井さんがウェディング撮影を始めた当初から、撮って出しのサービスは提供していましたか?

最初は、あんまりやってなかったかもしれません。会場の意向やカップルがやりたいという需要に沿って、少しずつやり始めました。特に再入場まで撮るプランは、私たちとしてはコロナ禍に始まったプランです。

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ー再入場まで撮影するプランを最近まで提供していなかった理由はなぜですか?

再入場まで、つまり披露宴の最後の方まで撮るのは、長く撮れているという価値を考えると喜ばれるので、一般的にはそういうプランがずっとありました。ただ、弊社としては、できるだけ編集時間を確保し、ギリギリまでクオリティを上げるために試行錯誤をしたいという考え方なので、コロナ前は挙式終わりまで撮影をしてそれを編集して流すという感じでした。

ただ、コロナ禍で結婚式の件数も減る中で、カップルの(再入場までの撮影に対する)要望が高まっているのはわかっていたので、できるだけ編集場所を披露宴会場の近くにしてもらうなど、クオリティを落とさない工夫をしながらスタートしましたね。

撮って出しエンドロールで撮影するもの

  • お支度(メイクアップ、衣装準備など)
  • 写真撮影
  • 挙式リハーサル
  • 受付でのゲストの様子
  • ウェルカムスペースの様子
  • 挙式
  • 披露宴の様子
  • 披露宴再入場(衣装替え)

※挙式後に編集に入ってエンドロールを作成するパターンと披露宴の再入場まで撮影するパターンがある。

ー挙式まで撮影するパターンと再入場まで撮影するパターンでは体制が変わりますか?

挙式までの場合はひとりで撮って、ひとりで編集するっていう感じです。別の業者さんでは、挙式までのパターンでも二人体制で撮影するところもありますね。

再入場まで撮りたい、という(主に新婦の)要望の大きな要因としては、挙式や披露宴には参加せず2次会から呼んでいるゲストに対して、再入場したときの2着目のドレスまたは和装を見せたい、という需要なんですよね。ただ弊社がなかなか再入場までのエンドロール撮影に踏み切れなかった理由は、編集時間が短くなることが大きかったんです。それ以外にもSDカードの受け渡しをどうするかといったことも考えないといけない。メディアの受け渡しは小さなことですが、大事ですね。

エディターが一旦編集を止めて受け取りにきたり、カメラマンが、手が空いたときに渡しにいく、ということも編集が速かったり慣れていればできますが、エディターもカメラマンもできるだけ持ち場を離れたくはありません。メディアの受け渡しのためだけにスタッフを配置することもあるくらいです。

また、受け渡しに関しては自分たちのタイミングだけでなく、結婚式の進行、別のカップルの結婚式が先に入っていればそちらの進行も考慮しなければならない。動画撮影だけでなく、写真撮影のカメラマンの進行などもタイムマネージメントに関係してきますね。

ー撮影のカメラにBlackmagic Cinema Cameraを使われましたが、そちらについてはいかがでしたか?

ウェディング撮影の観点から考えますと非常に高解像、ハイダイナミックレンジ、そして何より特徴ある素敵なトーンを個人の結婚式という「プライベートな映像」へ落とし込めるカメラです。

特に新婦の白いドレスの太陽光やスポットライト下における描写は、これまで撮影者にとっては大きな課題であり、新婦の最も楽しみにしている部分です。今回は撮って出しのエンドロール事例でしたので上映用にプロキシを使用しましたが、後日BRAWデータで自由にいじることができることは大きなメリットと安心感があります。

カメラ本体としては大型モニターとおなじみとなったタッチパネルでの操作は非常に直感的にわかりやすく、誰でもすんなり撮影に臨めると思います。前モデルで搭載されていたEFマウントからLマウントに変更されたことで、豊富なレンズ群を使えること、またアダプターなどで既存のレンズ資産を活かしつつ、ビンテージレンズや最新のPLマウントレンズ使用など様々な可能性を秘めていることは喜ばしいです。

特に気に入っている点は、6K/3:2でのオープンゲート撮影です。センサーをフルに使い正方形に近い画角は近年のSNS等にも相性が良いですし、縦長映像にも親和性が高く積極的に使いたい機能です。これまで16:9の画角では両端のスペースに間延びを感じたり要らない物や情報が入り込みやすいというケースも場合によってはありましたが3:2の画角だと情報が容易に整理しやすいという一面があります。

私にとっては、少し懐かしさで魅力を感じるこの3:2の画角ですが、次世代の若手クリエイターにとっては新鮮さや、SNSにより親近感を感じているでしょうし、ぜひ使ってほしいです。また近年様々なメーカーから比較的手頃な価格で発表されている、アナモフィックレンズでの撮影も試してみたいです。クロップなし高解像で記録できる映像は、作品に大きなキャラクターを与えてくれるでしょう。

「シネマカメラ」という冠を携え、結婚式というプライベートな映像をも「作品」に仕上げることができる、仕上げたくなる、その確かな可能性と実力を持ったカメラだと感じています。

ー今回Blackmagic Cloudをウェディング撮影の現場で使っていただきました。まず、ウェディングの現場でクラウドを使うということについてどのように考えていましたか?

話を聞いた時は、ワクワクしましたね。クラウドワークフロー自体は他の映像業界、例えばテレビや広告などでは、すでに取り入れられているものかもしれませんが、ことウェディングになるとかなり革新的なことで、おそらくまだ誰もやっていないからこそトライしたいと感じました。

Blackmagic Cloud とBlackmagic Cinema Camera 6Kを使ったウェディング撮影

従来のワークフローはメディアの受け渡しが必須となる。そのためカメラマンまたはエディターが持ち場を離れる、または別のスタッフを配置して受け渡しを頼むことになる
Blackmagic Cloudを使用したワークフローでは、撮影したプロキシがどんどんクラウド上にアップロードされるため、メディアの受け渡しは必要ない。もちろんメディアでの収録もできるので、撮って出しはプロキシで行い、後日納品用には高解像度のBlackmagic RAWにメディアを差し替えることもできる

ー実際に使ってみて、準備段階でしなければならないことは増えましたか?

普段のカメラのセッティングに加えて、ポケットWi-FiをUSBでカメラに繋ぐといったことは、今までやったことがなかったですね。

今回は時間がなくて用意できなかったんですが、カメラのケージをつけて、そういった機材をマウントしやすくすることでさらに運用が楽になると思います。

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Blackmagic Cinema Camera 6KにポケットWi-Fiを接続

ー今回は、Blackmagic Cinema Camera 6Kで撮影していますが、Blackmagic Cloudをつかいつつ、収録メディアでの収録もしていますね。

回線トラブルなど、何か不具合があればメディアのやり取りができるようにバックアップとして収録していました。エディター側のパソコンは会場から有線LANと無線LANを貸してもらい、さらにポケットWi-Fiも用意して3回線どれでもつかえるように用意はしていました。

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今回の式場は有線LANもお借りできましたが、通常はできないことの方が多いと思います。編集する場所も控え室のような場所を提供していただける場合もありますが、式場によっては階段の下やクロークの薄暗いところなどで編集しないといけないこともあるので、無線LANは共有していただけるかもしれませんが、有線LANまではなかなか難しいと思います。無線LANも速度の保証はないので、ポケットWi-Fiは持ち込んだ方がいいと思います。

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編集側は有線LANのほか、無線LANとポケットWi-Fiを用意した

ー撮影側は、アップロードのトラブルなどありましたか?

大丈夫でしたね。BMCC6Kのバッテリー交換の際に一度電源を切るので、その際にUSBで繋がっているポケットWi-Fiも一旦カメラ電源が切れたと認識するのですが、バッテリー交換して電源を入れ直すと、基本的には自動的にアップロードを再開します。ただ、アップロードの速度がちょっと遅いなと感じたときは、リフレッシュさせる感じで、手動でアップロードを停止して、再開するといったことはしましたね。

ーアップロードの素材はプロキシですか?

Blackmagic RAW (以下:BRAW)素材をアップロードするのは時間がかかるので、プロキシをアップロードして素材として使いました。検証の際に、4Kや6Kからのプロキシであれば本番でも使えると判断しました。基本は4Kの12:1(圧縮率)BRAWで撮影しましたが、4K撮影だと少しクロップしてしまうので、ワイドで撮りたいときには6Kフルフレームで撮影しました。

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撮影された素材のプロキシが自動的にBlackmagic Cloudにアップロードされる。プロキシとオリジナル画像の両方をアップロードするオプションもあるが、撮って出しは時間との戦いのためプロキシで完パケさせた

プロキシ素材を使っていいのか、と気にする方もいるかもしれませんが当日のエンドロールに関しては最終的にDVDに焼いてSD画質になること、プロジェクターの性能によって見え方も変わることから、4Kや6KのBRAWからのプロキシは(画質的に)許容範囲内だと思っています。後日カップルに納品するものに関しては、プロキシで編集したものを、DaVinci Resolve上でオリジナルのBRAWに簡単に差し替えられるため、高画質でお渡しすることもできます。

ーそのほか、便利だと感じた機能はありましたか?

これは撮影したあとに知ったので、現場では使っていなかったのですが、チャット機能がついていたので、進行上でのやりとりに使えるなと思いました。エディターが何人かいて、一緒に同じプロジェクトを進めるような場合は、特に便利だと思いました。

チャット機能
ファイルの同期中

ーウェディングの現場で、クラウドワークフローを使うことに関して、どう感じられましたか。

これがスタンダードになればいいなと思いますね。いきなりは難しいかもしれないですけど、使う人がどんどん増えて、広まっていけばみんなハッピーになれるんじゃないかと思います。

結婚式においては、カメラマンもエディターもその現場に行かないと何も始まらないという、完全にマンパワーに頼らざるを得ない現場です。そういうことに対してクラウドという新しい技術が入ることで、そこに携わるカメラマンやエディターの働き方も変わってくるでしょう。人手不足が叫ばれている中で、現場に行かなくても、遠隔的に編集ができて完成データだけこっち(カメラマン)に投げ返してくれて、カメラマンが現場でDVDに焼いたり、USBドライブにコピーしたりして(式場側に)渡すようなワークフローが構築できます。

ーどんなタイプの業者さんにこのワークフローがハマると思いますか?

弊社のような小規模なところと大手の業者がいいかと思います。大手の場合は式場と契約しているので、とにかく件数が多いんです。いろんな現場にエディターを派遣しなければならないので、遠隔で編集ができれば1日で複数の現場を受け持つことが可能なのでメリットがあると思います。

だいぶ前ですが、業界最大手のひとつのウェディング業者さんの編集センターに見学に行ったことがあります。当時はまだminiDVなどで収録していたと思いますが、そこに収録テープが全て送られてきてどんどん編集していくという感じでした。今ならクラウドで同じことができます。

また、カメラに関しても、今回はBlackmagic Cinema Camera 6Kを使いましたが、ソニーやキヤノンのカメラを使っても、一旦素材をDaVinci Resolveにインポートすれば、あとはBlackmagic Cloudが自動的にクラウドにアップロードしてくれるので、今使っているカメラをそのまま運用しながら、エディターが現場に行かずに編集するワークフローを導入することができます。

スモールチームでの場合は、新しいことを取り入れるのが比較的やりやすいですし、少ないスタッフでも効率的に仕事を回すことができそうです。

ークラウドワークフローを検討している方にアドバイスはありますか?

一旦、ワークフローがしっかり理解できれば、(ウェディングでもどんなジャンルでも)どういう場面で使えるか、こう使いたい、といったことが考えられるようになるので、実際にカメラとBlackmagic Cloudを繋げて体感してもらうのが一番だと思います。

あとは周りの環境を気にする、というかクラウドをどこで使えるかというのも大事だと思います。4Gなのか5Gなのか、とか地域性も関係してくると思います。また、ウェディングでは全くの初めましてのチームでやる現場はあまりないと思います。今回もそうでしたけど、式場などとも協力関係の下で心地よくできる環境が揃えばうまく運用できますね。

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