シネマカメラ部門のノミネート発表
2024年は、近年稀に見るほど多くのシネマカメラが発表・発売された年である。特に、65mmフォーマット対応のシネマカメラ、「ALEXA 265」と「Blackmagic URSA Cine 17K」が発表され、大きな注目を集めた。Cookeが65mm対応の「Panchroシリーズ」を発表して続くなど、65mmフォーマットの映像制作に注目が集まった1年だった。さらに、富士フイルムは遂に待望の「FUJIFILM GFX ETERNA」を発表し、来年以降のシネマカメラ市場も混戦が予想される(「ALEXA 265」「Blackmagic URSA Cine 17K」「GFX ETERNA」は2025年発売予定のため、今年のPRONEWS AWARDの対象外となる)。
それら以外にも、2024年は各社が新たな選択肢となるシネマカメラを続々と登場した。今年のシネマカメラ部門では、以下の7製品がノミネートされている。
ソニー BURANO
発売日:2024年2月9日
希望小売価格:オープン 税込430万円前後
ソニーの「BURANO」は、「夢のカメラ登場」と言えるほど魅力的な製品である。ソニーの主力製品であるVENICE 2シリーズで採用されている35mmフルサイズ(35.9×24.0mm)8.6Kセンサーを搭載し、メジャーな映画やドラマの撮影でお馴染みのVENICEの技術をそのまま引き継いでいる。それでありあながら電子式可変NDフィルターと手ブレ補正を同時に搭載し、小型・軽量なボディを実現した点は大きな魅力である。
VENICEシリーズではエクステンションシステムを使用しなければジンバルやクレーン撮影が難しい面もあったが、BURANOはVENICE 2より33%軽量化され、手持ちや肩乗せでの撮影がしやすくなっている。ワンマンオペレーションでの使用もしやすくなっている点でも注目を浴びているところだ。
キヤノン EOS C400
発売日:2024年9月20日
希望小売価格:オープン 税込1,375,000円(キヤノン公式オンラインストアの価格)
EOS C400は、35mmフルサイズCMOSセンサーを搭載し、6K解像度とコンパクトな設計を特徴とするシネマカメラである。Vバッテリーやマイクを装着しても非常に小型で、手持ちやジンバルを使用した撮影に対応しやすく、少人数での撮影に最適な機能を備えている。
80、3200、12,800のトリプルベースISOの搭載は画期的で、薄暗い照明環境でも柔軟に対応可能である。さらに、Cinema RAW Lightの内部収録に対応し、NDフィルターは標準で3段階(2 stops刻みで6 stopsまで)、拡張設定で5段階(2 stops刻みで10 stopsまで)から選択できる仕様になっている。
Mini-XLRオーディオ入力を2基搭載しながら、価格は125万円と競争力がある。デュアルピクセルCMOS AF IIを搭載し、強力なオートフォーカス性能を誇るだけでなく、カメラ本体の手ブレ補正も優秀である。タリー連動・リターン入力に対応しており、ライブ撮影の現場にも対応可能。幅広い現場で活用できる点でも注目を浴びている。
Blackmagic PYXIS 6K
発売日:2024年11月
希望小売価格:
・Blackmagic PYXIS 6K:税込498,800円
・Blackmagic PYXIS 6K EF:税込498,800円
・Blackmagic PYXIS 6K PL:税込532,800円
Blackmagic PYXIS 6Kは、待望のボックス型シネマカメラだ。36mm×24mm(フルフレーム)センサーを搭載している。片手で掴めるほどコンパクトなボディが最大の魅力であり、13ストップのダイナミックレンジを備えている点も注目に値する。
C400やBURANOとは価格帯が異なるため直接比較は難しいが、BRAWに対応している点は大きな強みである。マウントはLマウント、EF、PLのいずれかを選択可能で、柔軟性が高い仕様となっている。内部NDフィルターは搭載していないものの、税込498,800円という個人所有が現実的な価格を実現しているのも特徴である。
さらに、BlackmagicはPYXIS 6K専用の外部モニター「Blackmagic PYXIS Monitor」も発売している。USB-C接続に対応し、タッチパネルでカメラを操作できるため、直感的で利便性の高い操作が可能である。
Blackmagic URSA Cine 12K LF
発売日:2024年11月
希望小売価格:
・Blackmagic URSA Cine 12K LF :税込2,498,000円
・Blackmagic URSA Cine 12K LF + EVF:税込2,748,000円
Blackmagic DesignのCEOであるグラント・ペティ氏が、「コストを気にせず、自分たちの夢のカメラを作りたい」という思いで実現したシネマカメラである。その言葉どおり、随所に究極のスペックが散りばめられている。最大の特徴は、Blackmagicが独自に設計したフルフレーム12Kセンサーの搭載である。RGBではなくRGBWを採用し、優れたダイナミックレンジを実現している。水平解像度は12,888ピクセル、垂直解像度は8,040ピクセルに達し、16ストップのダイナミックレンジを誇る。
特にURSA Cine 12Kの優れた点は、「12K」「8K」「4K」のいずれの解像度を選択しても、センサー全体を使用して撮影が可能であることだ。さらに、3:2の12Kでは最大80fpsのフレームレートを実現し、圧倒的な撮影性能を提供する。
これまでBlackmagicのシネマカメラは、低価格のPocket Cinema Cameraシリーズを中心に、個人クリエイターや小規模プロダクションから高い支持を得ていた一方で、映画制作の分野ではそれほどの存在感を示せていなかった。しかし、URSA Cineシリーズの登場により、その評価が大きく変わる可能性がありそうだ。
キヤノン EOS C80
発売日:2024年11月6日
希望小売価格:オープン 税込896,500円(キヤノン公式オンラインストアの価格)
キヤノンは、2024年6月に「EOS C400」を発表した直後の7月に「EOS R1」と「EOS R5 Mark II」を、さらに9月には「EOS C80」を発表した。今年は立て続けに映像制作市場に話題の新製品を投入し、業界を驚かせた。
「EOS C80」は、「EOS C400」の軽量版とも言えるモデルである。センサーには「EOS C400」と同じ6Kフルフレームの裏面照射型積層CMOSセンサーを搭載し、DIGIC DV7画像プロセッサにより高速かつ正確なデュアルピクセルCMOS AF IIテクノロジーを実現している。EOS C400と同じトリプルベースISOの搭載により、極めて暗い環境でも高画質な撮影が可能である。
本体サイズは「EOS C70」相当の小型軽量ボディながら、SDI対応などインターフェースが拡充されており、放熱ファンの搭載によりノンストップ記録にも対応している。「EOS C80」は、内蔵イーサネット、Wi-Fi、SDI出力、デジタル多機能シューなど、「EOS C70」にはなかったさまざまなインターフェースを備えている点も大きな特徴である。
RED V-RAPTOR [X] 8K VV /V-RAPTOR XL [X] 8K VV
発売日:2024年2月
希望小売価格:(国内公式代理店RAIDの価格)
・RED V-RAPTOR [X] 8K VV 税込5,876,200円
・RED V-RAPTOR XL [X] 8K VV(V-Lock) 税込8,786,800円
V-RAPTOR [X] 8K VVカメラの登場も、まさに歴史的瞬間であった。REDのシネマカメラのラインナップは、さまざまな制作スタイルに適合する「V-Raptor」と手のひらサイズのボディにグローバルシャッターを搭載した「Komodo」に分かれていていた。「V-RAPTOR [X] 8K VV」は、その両機種の長所を組み合わせた夢のシネマカメラだ。
解像度は8Kでビスタビジョン対応のグローバルシャッターセンサー搭載。8Kで最大120fpsに対応、拡張ハイライトモードをオンにすることで最大20段以上のダイナミックレンジを実現する。競合シネマカメラよりも一歩上を行くスペックを実現してきた感じだ。
ARRI ALEXA 35 Live
ARRIは、2022年に「ALEXA 35」を発売した。その「ALEXA 35」をライブプロダクション向けに対応させたモデルが「ALEXA 35 Live」である。このカメラは、コンサート、イベント、スポーツなどのライブ制作に特化しており、「ALEXA 35 Liveカメラ」「LPS-1ファイバーカメラアダプター」「FBS-1ファイバーベースステーション」で構成される。ライブ撮影において、シネマのようなルック、HDR、クリエイティブコントロールを可能にする画期的なシステムだ。
「ALEXA 35」と「ALEXA 35 Live」は異なる仕様のカメラだが、Multicamライセンスを購入することで「ALEXA 35 Live」にアップデートが可能。逆に、オプションのCineライセンスを購入すれば、「ALEXA 35 Live」を「ALEXA 35」に切り替えることも可能だ。
以上がカメラ部門のノミネート製品となる。
■PRONEWS AWARD 2024 シネマカメラ部門 ファイナリスト
- ソニー BURANO
- キヤノン EOS C400
- Blackmagic PYXIS 6K
- Blackmagic URSA Cine 12K
- キヤノン EOS C80
- RED V-RAPTOR [X] 8K VV /V-RAPTOR XL [X] 8K VV
- ARRI ALEXA 35 Live
はたして何が受賞するのか…?いよいよ発表!
PRONEWS AWARD 2024 シネマカメラ部門 ゴールド賞
ソニー BURANO
2023年9月の発表から2024年の発売にかけて、映画撮影や中規模プロダクションの現場で最も話題となったシネマカメラは、間違いなくソニーの「BURANO」だ。NDフィルター内蔵に加え、シネマカメラとして初めて手ブレ補正機能を搭載。この両機能を同時に備えた点は画期的である。さらに、シネマカメラでありながらソニーEマウントのオートフォーカスレンズにも対応。これらの革新を小型でバランスの取れたデザインにまとめ上げた点が評価され、ゴールド賞に選定された。
従来、VENICEやRED、ALEXAといったプロ用シネマカメラは、マニュアルフォーカスが主流であり、オートフォーカス機能は限定的か、全く搭載されていなかった。BURANOはEマウントを採用することで、ソニー製の単焦点レンズやズームレンズ、シグマのArtレンズとの組み合わせが可能となり、オートフォーカス機能を活用できる。この機能により、ドキュメンタリーやウェディング撮影といった被写体の動きが速いシーンでも、一人で効率的な撮影が行えるようになった。
また、VENICEで使用される高価なAXSメモリーカードに対し、BURANOはCFexpress Type Bメモリーカードのデュアルスロットを採用し、記録コストの削減とワークフローの効率化を実現。さらに、VENICEから継承した高画質なイメージセンサーやS-Log3などのカラーサイエンスを備えつつ、小型軽量なボディを実現した部分も、ゴールド賞受賞を後押しした点だ。
PRONEWS AWARD 2024 シネマカメラ部門 シルバー賞
RED V-RAPTOR [X] 8K VV /V-RAPTOR XL [X] 8K VV
業界初となるVista Visionグローバルシャッターセンサーを搭載した驚異的なスペックを実現したシネマカメラである。この仕様を持つカメラは他に類を見ない。ローリングシャッターの問題を完全に解決する唯一無二の存在として、今回はシルバー賞に選定した。
グローバルシャッターはこれまで、ダイナミックレンジの低下や低照度時の画質劣化といったトレードオフが避けられなかった。しかし、REDは標準モードにおいて高いダイナミックレンジを実現しており、「拡張ハイライトモード(Extended Highlights)」では静止被写体に限定されるものの、最大20段以上のダイナミックレンジをキャプチャ可能だ。この技術力の高さが際立つ。
初期のREDは、他メーカーを圧倒するシネマカメラでブランドを確立していたが、近年はその存在感が薄れつつあった。しかし、「V-RAPTOR 8K VV [X]」の登場は、久々にREDらしさを感じさせるモデルとなった。2024年にはブロードキャスト事業への参入や、ニコンによる子会社化といった大きな動きがあり、REDの変革を象徴する年となった。2025年にはさらなる飛躍が期待される。