バーチャルプロダクションをサポートするカメラトラッキングシステム

ソニーは、カメラトラッキングシステム「OCELLUS」を2025年秋に発売する。希望小売価格はオープン価格。想定価格は税込560万円前後。

カメラトラッカーは、VFX制作に必要なカメラの位置、向き、レンズのフォーカス、絞りなどの情報を検出するデバイス。カメラトラッカーは、実写とCGの合成、LED背景を使用したバーチャルプロダクション、インカメラVFXなどで使用される。

また、グリーンバックを用いたCGと実写の合成においても、カメラトラッカーは使用される。ライブAR(拡張現実)では、撮影された映像にCGを重ね合わせる際に、カメラトラッカーが活用される。これらの用途において、カメラトラッカーは必要不可欠なデバイスである。

カメラトラッカーは、カメラの位置情報(パン、チルト、ロール)、レンズのフォーカス、アイリスなどの情報を取得する。これらの情報は、CGをレンダリングし、実写映像と合成するために使用される。カメラトラッカーによって取得された情報を基にCGをレンダリングすることで、実写映像とCGが違和感なく合成された映像が制作される。

右上(ハンドル)に搭載されているのがセンサー部。左がプロセシングボックス部。右がレンズエンコーダー

カメラトラッカーには、カメラの位置や向きを検出する方式がいくつか存在する。外部からカメラの方向を監視するアウトサイドイン方式、カメラ側に取り付けたセンサーで外部のマーカーを認識するインサイドアウト方式、そしてマーカーを使用せずに画像解析で位置情報を認識するインサイドアウト方式(マーカーレス)がある。これらの方式は、それぞれ特徴と課題を持つ。

アウトサイドイン方式は、システムが大規模になりやすく、導入コストが高くなる傾向がある。また、外部からの監視が必要なため、屋内での使用が主な用途となる。インサイドアウト方式(マーカー方式)は、マーカーの設置作業が必要となり、撮影空間が制限される。こちらも屋内での使用が主となる。インサイドアウト方式(マーカーレス)は、現在の製品群では、位置情報の精度と安定性が課題として残る。

Unreal Engine方式のカメラトラッカーは、マーカーを使用する必要があるため、自由な空間での撮影には適さない。マーカーの準備作業も必要となるため、手間がかかるという課題がある。また、現在のマーカーレス方式のカメラトラッカーは、位置情報の精度や安定性の面で課題が残る。これらの課題を踏まえ、ソニーは独自の画像処理技術を基に、新しいカメラトラッカー「OCELLUS」を開発したという。

多方向から位置情報を高精度に検出

新製品の名称は「OCELLUS(オセラス)」。OCELLUSという名称は、蝶や孔雀などの羽にある眼状紋(がんじょうもん)または昆虫が有する光を検出する単眼(たんがん)を意味する。OCELLUSは多数のセンサーを搭載し、それぞれのセンサーが独立して情報を取得することから、これらの言葉に由来して名付けられたという。

製品には、多数のセンサーが搭載されており、それぞれのセンサーが独立して位置情報を検出する。これらのセンサーは、あたかも眼状紋や単眼のように機能し、位置情報を高精度に検出する。

OCELLUSの特徴として、マーカーレスでの使用が可能であり、様々な空間でのトラッキングに対応する点が挙げられる。また、コンパクトで使いやすい設計となっている。

ソニー製イメージセンサを5面に配置

OCELLUSは、センサー部分、プロセッシングボックス、レンズエンコーダーの3つの主要な部品で構成される。

商品構成はセンサー部とプロセシングボックス、レンズエンコーダー

最も重要な部品は、センサー部分だ。センサー部分には、ソニー製のイメージセンサーが5面搭載されている。これらのセンサーは、様々な方向を向いており、それぞれの方向からの映像を捉える。センサーからの映像を解析することで、特徴点を抽出し、カメラの位置と向きを推定する。この仕組みにより、マーカーを使用せずにトラッキングが可能となる。

また、センサーが多面的に配置されているため、一部が遮られてもトラッキングを継続できる。さらに、IR LEDが搭載されており、暗所でも安定したトラッキングを可能とする。IR LEDは、センサーの横に配置されている。

暗所でのセンサー感度低下時にも、IR光による補助を行うことで安定した位置測定を可能とする工夫が施されている。

屋外でも使用可能。簡単設置、すぐ使用できる。また、IR LED搭載で暗所でのトラッキングをサポートする

リアルタイムとポストプロダクションで活用できるOCELLUSトラッキングデータ

OCELLUSで取得されたトラッキングデータの使用方法には、リアルタイムでの使用と記録して後から使用する2つの方法がある。リアルタイムでの使用としては、バーチャルプロダクションにおけるインカメラVFXなどで、LAN端子からfree-d形式でトラッキングデータを出力する。記録して後から使用する方法としては、プロセッシングボックス内のSDカードスロットにトラッキングデータをFBX形式で記録し、ポストプロダクションで使用する。OCELLUSは、これらの両方の使用方法に対応している。

OCELLUSには、SDI映像入力端子が搭載されており、ここからレンズデータを取得する機能がある。近年のカメラとレンズは通信機能を持ち、レンズのフォーカスやアイリス情報をカメラ側で認識している。これらの情報は、SDIを通じて外部に出力される。ソニー製のカメラと対応レンズの組み合わせであれば、OCELLUSのSDI入力端子にカメラからのSDI信号を入力することで、レンズのフォーカスやアイリス情報をOCELLUS側で取得できる。これにより、従来のレンズエンコーダーを使用せずにレンズデータを取得することが可能となる。「/i」端子やソニー製Eマウントなどの通信機能を持つレンズを使用している場合、OCELLUSのSDI入力端子に接続することで、レンズ情報を取得できる。

ただし、すべてのレンズが上記の機能に対応しているわけではなく、オールドレンズを使用する場合など、従来のレンズエンコーダーを用いてレンズデータを取得する必要がある場合がある。そのため、OCELLUSにはレンズエンコーダーも付属している。

ロック機構付きUSB Type-Cとフィッシャーコネクタ – OCELLUSの接続性

OCELLUSは、VENICEと同様に堅牢な設計であり、厳しい撮影環境でも使用できるよう、信頼性と耐久性を確保している。センサー部分とプロセッシングユニットは、USB Type-Cケーブルで接続される。この接続部分には、不用意にケーブルが抜けないようにロック機構が設けられている。電源入力には、信頼性の高いフィッシャーコネクターが採用されている。

OCELLUSは、熱設計にも配慮されており、冷却ファンを搭載することで、一定の環境下での安定動作を可能としている。製品設計においては、業界標準のフィッシャーコネクターやロック機構付きUSB端子を採用するなど、信頼性を高めるための工夫が施されている。

OCELLUSは、ソニー製品に限らず、様々なカメラでの使用を想定して設計されている。ただし、SDI入力端子を利用してレンズデータを取得する機能は、ソニー製の対応カメラとの組み合わせでのみ使用可能である。他社製のカメラを使用する場合は、付属のレンズエンコーダーを用いてレンズデータを取得する。

シネマカメラやシステムカメラ、他社製カメラにも対応

OCELLUSは、他社カメラのエンコーダーと組み合わせた使い方にも対応する。また、ソニー製のカメラは、VENICEなどのシネマカメラだけでなく、HDCシリーズのシステムカメラにも対応している。

VENICEなどのシネマカメラ
HDCシリーズのシステムカメラ

屋外のようなトラッキングが難しいシチュエーションでの活用に期待

OCELLUSは、バーチャルプロダクションにおけるインカメラVFX、グリーンスクリーン合成、AR(拡張現実)、ポストプロダクションなど、多岐にわたる映像制作シーンでの活用を想定している。これらのシーンでは、リアルタイムCG合成や撮影後のCG合成において、カメラトラッキング技術が利用される。

特に、従来のトラッキングが困難であった環境下での利用に期待される。OCELLUSは、マーカーレスでのトラッキングを実現しているため、屋外のような広大な空間での利用に適していると考えられる。