2025年5月28日および29日の2日間、アーザス株式会社、株式会社ナックイメージテクノロジー、株式会社第3惑星が共催する「stYpe製品内覧会2025」がナックイメージテクノロジー 赤坂にて開催された。

これまでのstYpeに対する認識は、ほとんどの方が主にトラッカー製品であるRedSpyのメーカーというものに限定されていたのではないだろうか。しかしながら、本内覧会においては、トラッカー製品以外にも多岐にわたるソリューションが展示された。具体的には、トラッキングに付随するレンダリングソリューションや、トラッキング関連の基礎的なシステム一式が含まれており、来場者にとって新たな発見の機会となった。会場では、これらの多様な展示が来場者の関心を集めていた。

バーチャルプロダクションを支える光学式トラッキング「RedSpy」

まずは、もっともお馴染みのトラッカーといっても過言ではない光学式カメラトラッキングシステムRedSpyから紹介しよう。このシステムは赤外線を照射し、反射マーカーからの戻り値を用いてカメラの現在位置と向きを検出する。撮影レンズのフォーカス値は内部エンコーダーまたは外部エンコーダーを通じて読み取られ、外部に送信される。

RedSpyは屋内外問わず使用可能であり、スタジオカメラにRedSpyカメラをマウントする形式のため、ペデスタル、クレーン、三脚、ハンドヘルドなど様々な運用形態に対応する。映画制作とテレビ放送の両ワークフローに対応する点も特徴である。RedSpyは業界で広く採用されており、日本国内ではテレビ局での導入も多い。

RedSpyシステムの主要な構成要素は、RedSpyカメラ、RedSpyメインユニット、そして反射マーカーである。RedSpyカメラは高さ約10cmの小型カメラで、周囲に配置された赤外線LEDが天井や床に光を照射し、反射光を捉えることで位置を検出する。メインユニットはLinuxが動作するサーバークラスのPCで、RedSpyカメラからの信号を処理する。

反射マーカーは非常に小型で、0.5cmから0.75cm程度のサイズで済むため、他社製品と比較して設置コストを抑えられるという利点がある。

一般的な接続方法として、RedSpyメインユニットにRedSpyカメラをイーサネットケーブルで接続し、スタジオカメラにマウントする。モニターもメインユニットに接続され、トラッキングデータはイーサネット経由でレンダリングエンジンへ送信される。

RedSpyカメラと本体はPoE(Power over Ethernet)接続のLANケーブルで接続が可能で、RedSpyメインユニットをスタジオカメラから最大約50m離して設置できる。他社製品でUSB接続の場合に生じる設置場所の制限が、RedSpyでは緩和されているのはポイントだ。

イーサネット接続であるため、RedSpyはスタジオカメラののネットワークトランク(リンク)に直接接続が可能である。例えば、光ケーブル1本で映像、IPデータ、トラッキング情報をまとめて送信する運用も実現できる。これはナックが開発した光接続オプションによって可能となる。

また、RedSpyのメインユニットはサーバー規格であるため信頼性が高く、ラック運用が可能。さらに、冗長電源オプション(電源ユニットを二重化することで、片方に障害が発生してもシステムが停止しないようにする機能)も選択できるため、安定したシステム運用が期待できる。

マーカーが見えない状態でもトラッキングを継続するためのオプション「Watcher X」

本内覧会では、Watcher Xが国内で初めて公開された。これはRedSpyのオプションとして提供されており、RedSpyカメラに2つのカメラを追加するシステムである。Watcher Xは、RedSpyがマーカーを見失った場合でもトラッキングを継続できるため、マーカーベースとマーカーレスのハイブリッドトラッキングシステムとして機能する。

例えば、LEDスクリーンでの車内撮影など、カメラが天井のマーカーを視認できなくなる状況や、クレーン使用時にカメラが天井に接近しすぎたり、照明がマーカーを遮ったりしてマーカーが見えなくなる場合でも、Watcher Xはトラッキングの継続を可能にする。このオプションは比較的安価に提供されるため、既存のRedSpyユーザーにとっても導入しやすい選択肢となるだろう。

手頃な価格のカメラ追跡システム「BlueSpy」登場

こちらも国内で初めて公開されたBlueSpyは、stYpe社が提供するもう一つの光学式トラッキングシステムである。これはRedSpyの廉価版として位置づけられており、RedSpyに搭載されているサーバークラスのメインユニットは搭載されていない。その機能はソフトウェア化されており、現場のPCやレンダリングエンジンで処理されることを前提としている。

RedSpyに含まれる一部の機能はオプション化されており、ユーザーは必要に応じて購入またはサブスクリプション契約することで、低コストでの運用開始が可能となる。BlueSpyはRedSpyカメラとほぼ同等のBlueSpyカメラに「BlueSpy同期ユニット」が付属し、この同期ユニットに接続されたPCでBlueSpyサーバーソフトウェアを運用する形式である。これにより、RedSpyと同様の画面表示がPC上で可能となる。反射マーカーや光学性能はRedSpyとほぼ同等であるが、導入価格は若干抑えられている。しかし、放送局のようなフルスペックでの運用を想定した場合、最終的な費用はRedSpyと同程度になる可能性がある。

接続図においては、メインユニットの代わりに同期ユニットが使用され、BlueSpyサーバーソフトウェアがレンダリングエンジン側で動作する点がRedSpyとの主な違いである。その他の構成や機能に大きな変更はない。

カメラ、オブジェクト、タレントを同時にトラッキングする最先端システム「Follower」

Followerも国内で初めて公開された。これはモーションキャプチャーカメラに似た、映画やライブ放送向けのオブジェクト、タレント、カメラトラッキングシステムである。このシステムは、設置された複数のカメラ(ウィットネスカメラ)が視野角内にあるLEDビーコンを読み取り、オブジェクトやタレント(演者)の位置、あるいはカメラ自体の位置を特定する。

展示されているシステムでは、会場のグリーンバック周辺に設置された6本のオートポール上部にカメラが配置されている。LEDビーコンは、白い部分から異なる点滅パターンを発するLEDを内蔵しており、これにより複数のオブジェクトを個別に識別することが可能である。ウィットネスカメラはLEDビーコンを認識し、その位置を特定する。

また、Spyderモジュールをカメラ側に取り付けることで、Followerシステムをカメラトラッキングに利用できる。これはRedSpyの代替としても機能し、4台以上のカメラを使用するケースでは、RedSpyを4台購入するよりも安価になる場合がある。ただし、スタジオの広さによっては一概にそうとは言えない場合もある。

トラッキングしたいスタジオカメラに直接取り付けるコンパクトなSpyderモジュール

Followerのカメラからのケーブルの伸び方は、一部のカメラマンには好まれない可能性もある。しかし、海外のLEDを使用した映画やCM撮影現場では、このようなシステムが採用されている事例が見られる。今回の展示では、Spyderによるカメラトラッキングが実際にデモンストレーションされている。

FollowerにはSpyder以外にも様々なオブジェクト/タレントトラッキングオプションがある。

レシーバー: 4つの小型レシーバーをケーブル状に取り付けることで、オブジェクトの向きを正確に認識できる。例えば、サッカーボールのような球体内部にこれらを配置することで、転がるボールの動きを詳細に表現することが可能となる。

ミニビーコン: 非常に小型で、向きの情報は得られないものの、例えば首筋などに装着することで人物の位置を追跡するといった用途に適している。

リモート: このビーコンはボタン操作で周波数を変更できるため、空間上に仮想的な絵を描き、その色を変更したり、消しゴムのように消したりするなどのインタラクティブな演出が可能となる。

iPadトラッカー: iPadの背面に装着することで、iPadの向きや表裏を認識できる。

このようにFollowerは、様々なビーコンと組み合わせることで、アイデア次第で多様な演出を実現できる可能性を秘めている。

少ないカメラで高精度人物トラッキングを実現する「AI GLUE」

AI GLUEは、国内で初めて展示されたソリューションである。これはカメラやオブジェクトではなく、人物のトラッキングを目的に開発された。AIを用いて人体を認識し、その位置情報を出力する機能を持つ。

このシステムは2台のカメラで4m×4mの範囲をトラッキング可能。主な用途としては、CGオブジェクトと人物の前後関係を構築するために人物の位置を正確に把握する点が挙げられる。同様の機能はFollowerでも実現可能であるが、AI GLUEはより少ないカメラ台数でAIを活用するため、Followerよりも低コストで人物トラッキングが可能となる。

システムは、2台以上の専用トラッキングカメラ(外観は一般的なカメラとは異なる)とAI GLUEトラッキングワークステーションで構成され、トラッキングデータはここからレンダリングエンジンに出力される仕組みである。

高機能レンダリングソリューション「StypeLand」

StypeLandも国内で初めて公開された。これはstYpe社が提供するソフトウェア製品であり、Unreal Engineにプラグインとして追加する形式である。本ソフトウェアは放送・映画制作向けのツールセットを搭載しており、リフレクションキャッチャー、シャドウキャッチャー、被写界深度といった機能を備えている。簡単なセットアップでカメラのトラッキング情報に基づいたリアルタイム合成が可能となる。

StypeLandはモジュール式のソリューションであり、LED用やグリーンバック対応など、用途に応じたオプションを別途購入できる。StypeLandの基本ライセンスだけでもAR用途での利用が可能である。本展示では、グリーンバック合成に特化したオプションであるStypeLandのクロマキーソリューション「GreenKiller」がデモンストレーションされていた。

GreenKillerはクロマキー合成を行うためのStypeLandモジュールであり、非常に高性能なキーヤーを搭載している。その性能はZero Density社のRealityに匹敵すると評価されており、過去には受賞歴もある。このGreenKillerオプションは、髪の毛の反射テストや被写界深度といった高度な機能を備えている点が特徴である。

StypeLandはグリーンバック対応のみならず、「xR」(Extended Reality)やLEDウォール向けのモジュールも展開している。これらのモジュールは、充実したカラーキャリブレーション機能を備えている。例えば、床面LEDと壁面LEDの境界線をカラーキャリブレーションによって目立たなくしたり、LEDとセットエクステンションの自動カラーキャリブレーションによって境界線を見えなくしたりといった操作を比較的容易に行える。

StypeLandはマルチカメラトラッキングワークフローなどにも対応しており、国内での導入事例はまだ多くないものの、今後の展開が期待されるソフトウェアである。

統合型トラッキング&CG制御プラットフォーム「StypeCentral」

StypeCentralも国内で初めて公開された。これは複数のUnreal/StypeLandエンジレンダリングエンジン(XR用やGreenKiller用など)を一括して制御するためのソリューションである。これにより、プレイアウト(映像送出)やテロップの出し入れ、ARコンテンツの制御といった作業をWebブラウザから一元的に行える。

Stype社製品と他社ソリューションの比較について

stYpe社はトラッキング技術を主要事業としているが、以前から様々なソリューションを取り扱っていた。しかし、これまで国内で紹介する機会がなかった製品が一気に今回披露された感じだ。

最後にまとめとして、アーザス取り扱いのZeroDensityとStypeLand、そしてChimeraといった類似ソリューションとの差別化について、以下に説明する。

Zero Density Realityは、そのリアリティと安定性から、特に放送局での生放送運用に適している。例えばテレビ東京の事例のように、複数のカメラを安定して運用する必要がある場合や、特番など本番直前でのプロジェクト変更に対応する必要がある場合において、Zero Density Realityの優位性が顕著となる。1人のオペレーターが複数のカメラ(例えば5台のメインカメラと5台の予備機)を制御するような大規模な運用では、Zero Density Realityが対応できる唯一の選択肢となる場合がある。

一方、StypeLandはUnreal Engineに非常に近い特性を持つ。そのため、Unreal Engineの操作に精通したユーザーにとっては、StypeLandが有効な選択肢となり得る。ZeroDensity Realityと比較して導入コストが抑えられるため、Unreal Engineの知識がある場合は検討する価値がある。

Chimeraは、Unreal Engineの操作に不慣れで、かつ大規模な運用を必要としない場合に適している。比較的小規模な生放送や配信、1〜2台のカメラでの運用においては、Chimeraが小回りの利くソリューションとして機能する。

価格帯としては、Zero Density Reality、StypeLand、Chimeraの順で安価になる。ナック(NAC)はこれらに加えて、より安価なAxismetryも提供しており、幅広い価格帯のソリューションを網羅している状況である。