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2023年に配布を開始した撮影アプリ、Blackmagic Camera。iPhone用のアプリとして登場し、現在ではアンドロイドにも対応している。多機能ながら無償でだれでも使えるアプリとして、プロフェッショナルな映像制作でも活用されている。

Blackmagic Designは今回、Blackmagic CameraとiPhone 15 Pro Maxを使い、さらにバーチャル撮影も取り入れた縦型動画を撮影した株式会社Highlandの酒井洋一氏とその作品をDaVinci Resolveでグレーディングしたデジタルエッグのカラリスト大田徹也氏にお話を伺った。

バーチャル撮影のはじめの一歩

酒井氏:

バーチャル撮影自体はずっと興味はありましたが、やっぱりバジェットの問題があるのでなかなか機会に恵まれなかったんです。今回、ご縁があってスモールチームで最小のスタッフと照明もお手軽な感じでトライすることができました。カメラの動きと連動するような大掛かりなものではなくて、バーチャル撮影のはじめの一歩という感じですが体験できてよかったですね。

今回はパンダスタジオさんのご協力でPANDASTUDIO お台場のLEDスペースをお借りすることができましたので、事前にスタジオでLED背景の見え方や、距離感などを確認しました。

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バーチャル撮影の印象は?

大田氏:

近年ブルーバック合成を必要としないバーチャル撮影が増えているのですが、この撮影には投影する背景撮影の時点で基準となるカラーチャート撮影、被写体からの距離やレンズデータなどの管理、実際のバーチャル撮影時にはそれらデータを元に環境を再現してと綿密な準備の元に成り立っています。

そこまでしても照明の影響でバーチャル背景の黒浮きや、バーチャル背景とのわずかな色ズレが残ってしまうケースが多いので合わせ込みには苦労するケースがとても多いです。

酒井氏:

本格的なバーチャル撮影だと大田さんが言ったように、照明などで細かく調整しますが、今回はそこまではしていません。ただスタジオでは、撮影中にLEDの輝度を調整してもらいながら調整して、あとは大田さんにグレーディングで馴染ませてもらいました。そもそも今回は、LEDの前で撮影していることが全くわからないようにする、というよりは、ロケ撮影もしているので、演出上リアルとバーチャルを行ったり来たりして、そのちょっとした違和感を期待したところもありました。

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あえて違和感を演出

大田氏:

今回は監督の意図としてバーチャル撮影からリアル撮影がシームレスになり過ぎず、ちょっと違和感を残したい意図があったので馴染ませ過ぎないバランス調整を意識しました。バーチャル撮影のグレーディングでは常用しているMagic Maskツールを使用して、ほぼ全カットの背景と人物の切り分けを行なっています。

マスク作業に労しない分は、背景のホワイトバランスや、黒浮きの修正、投影モニター質感調整、トータルでのトーン調整などに時間を割けるので助かります。

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――バーチャル撮影の部分はグレーディング時に難しいと思うところはありましたか?

大田氏:

Blackmagic Cinema Camera 6KのBlackmagic RAWデータとBlackmagic Cameraアプリの素材を比較するとセンサーの大きさによる質感の違いはありましたが、トーン調整やfilm grainの追加などで全体を馴染ませています。

グレーディング作業を進める上で大きな違いを感じたのは「クオリファイア」メニューで、色別れや、マスク精度の高さが顕著に現れたので、繊細なコントロールを必要としました。しかし同時にそれ以外の部分では違和感も無くスマホ撮影でもここまでできるのかと驚きました。

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――酒井さんはウェディングの撮影を手掛けていて、今回の作品もウェディングがテーマの映像になっていますね。

酒井氏:

モデルさんは1人だけですが、結婚式の前撮りのイメージで撮りました。結婚式の前撮りは海や草原で撮ることが流行りですね。今回もそれに合わせてビーチにロケ撮影に行きました。

縦動画はBlackmagic CameraとiPhone 15 Pro Max 、そしてアクセサリーとしてMomentの望遠レンズ(Moment Tele 58mm)を使用しました。iPhoneの標準レンズが24mmとワイドなので、これをつけると50mmくらいの標準レンズとして撮ることができます。あとはジンバル(Insta 366 Flow 2 Pro)ですね。ジンバルは使わずに手持ちでそのまま撮ることもありました。

同じ日にバーチャル撮影用の背景の撮影もしていて、これはBlackmagic Cinema Camera 6Kで撮影しました。

――スタジオだけで前撮りをすることもあるのですか?

酒井氏:

やっぱり外で撮る方が多いですね。海外のウェディング映像をYouTubeで見たりして、素敵な映像が外で撮られているので、 カップルの方々も外で撮りたくなると思うんです。東京駅の周辺も人気ですね。丸の内のあのエリア一体が撮影許可を取らなくていいエリアというのもあると思います。

僕の場合は、「かっこいい」場所というよりもう少し人間臭さが感じられるものが好きなので、カップルのご実家に行って撮影することもあります。式の当日に出席できないおじいちゃんやおばあちゃんにドレス姿を見せにいくような、実家のシーンと外のシーンを組み合わせて構成するのが好きですね。

Blackmagic Cameraアプリでの撮影について

酒井氏:

Blackmagic Cameraはいじれることが多いので、iPhone標準のカメラアプリにはない、fpsや露出、感度、ホワイトバランス、シャッタースピード、といったところは全部コントロールできるから、すごく使いやすいですよね。手ブレ補正も「標準」と「シネマ」と「最大」の3種類があって、使い分けできる点も良かったです。

今回の撮影では、ジンバルを使わないで撮ることもあったんですが、Blackmagic Cameraの手ブレ補正は「シネマ」か「最大」にしておくと、カチッと止まらずに自然な感じで止まってくれるので、手持ち撮影の場合はその設定を使っていました。

また、最初から縦で撮るということに関しては、特にストレスはありませんでした。16:9で撮って後からクロップして縦型にする仕事もあるので、どっちつかずのような画角で撮ることもあるんですが、そのような撮影や編集の方が難しいと感じます。

――お仕事の中で、あえてスマホで撮影することはありますか?

酒井氏:

「8mm」というカメラアプリを使うことがあります。トーンをばっと変えたい時にそのアプリ使います。演出的に8mmのアプリが持ってるトーンを狙って使う、という使い方ですね。

ただ、Blackmagic Cameraアプリの場合は、エフェクトとして使うというよりは、サブカメラ的な使い方ができると思います。バックアップとしてカメラの上にアクションカム的なものをつけて、ワイドでずっと回しっぱなしにする業者さんもいらっしゃるので、そこにこれを使うこともできるなと思いました。Blackmagic Cloudに繋がるので、それも大きなメリットですね。

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Blackmagic Cameraアプリの撮影素材のグレーディングについて

大田氏:

今までスマホ撮影素材は、スマホならではの質感を演出する意図で使用したケースがほとんどだったので、Blackmagic Cameraアプリをメインカメラに据え置いたのは初めての経験でした。

個人的に初めてのApple logの素材でしたが、アプリで感度設定や、色温度設定を細かく設定出来るおかげで、ショット毎のバラツキもなく安定していたのでグレーディング作業では非常に助かりました。

アプリ撮影素材で一部気になったのは、青空のグラデーション部分や、微妙な諧調表現の部分にバンディングが発生していた点です。Resolve FXのdebandやBlurを使用して馴染ませたのですが、バンディングはカラーサンプリングやビット深度の影響が大きいのでスマホの性能限界だったと思われます。贅沢を言えばProres4444収録やRAW収録が可能だと嬉しいのですが、この辺りは今後のスマホの進化に期待します。

――スマホ撮影された素材の扱いについて、気をつけていることはありますか

大田氏:

今回はiPhoneでProRes収録でしたが、スマホ撮影の主流はHEVC(H265)のケースが多いんです。その場合、コーデックの性質上リタイムエフェクトや逆再生時に引っ掛かりが発生しやすいので、普段はProResの最適化メディアなどを作成して安定したプレイバック環境を構築して作業を行なっています。

また縦型動画に限らずターゲットとなる視聴環境を出来る限り再現してチェックを行う様にしています。縦型でもサイネージターゲットであればサイネージモニターを用意して、携帯などのモバイルがターゲットであれば、モバイル端末での視聴も行なっています。ターゲットとなるモニターの大きさによっても視覚から受ける印象は大きく変わって来るので欠かせません。

今回縦型のモバイルチェックに関して都度ファイルを書き出していては手間なので、DaVinci ResolveのRemote Monitor機能を使用して行なっています。縦型タイムラインのままリアルタイムに送出可能で非常に重宝しました。

※DaVinci Resolve Monitorアプリを使用してDaVinci Resolveのプレビュー画面をiPhoneやiPadに受信できる)

――実際にBlackmagic Cameraアプリやバーチャル撮影で映像作品を作ってみて、今後どんな使い方ができそうでしょうか?

酒井氏:

Blackmagic Cameraは前述したように、サブカメラとして使うことができると思います。コンパクトなので普通のカメラでは撮りにくいような狭い場所にも入っていけます。さらにBlackmagic CameraはBlackmagic Cloudと連携できるので、カメラマン以外の誰か、アシスタントやメイクさんだったり、結婚式当日のゲストの方々などが撮った映像がBlackmagic Cloudに集まってくるような使い方も面白いと思います。

結婚式では、ゲストの各テーブルに「写るんです」とか「チェキ」が置いてあることがあって、ゲストの方々が自由に撮ることができるようになっています。そんな感じでテーブルにスマホを置いておいて、ゲストが自由に撮影したものがどんどんBlackmagic Cloudに上がっていくとイベント的にも楽しいですし、ゲストの方が撮った映像が、エンドロールに今日もしかしたら入るかもしれません、みたいな演出もできます。

バーチャル撮影に関しては、天候に関係なく撮影ができる点が魅力ですね。バーチャル撮影自体がもっと一般的に広まってスタジオの利用料が下がってくるとウェディングの現場でも使える機会が増えてくるかもしれませんね。